空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

『八月の御所グラウンド』

2024年02月07日 23時00分00秒 | わが町浦安

[書籍紹介]

駅伝と草野球の二つのスポーツを通して
京都を背景にした若者の姿を描く2作を収録。

短編『十二月の都大路上下(カケ)ル』

女子全国高校駅伝で、
病気の先輩に代わるピンチランナーとして走るサカトゥー(坂東)。
しかし、彼女は絶望的に方向音痴だった。
京都南大路を走る時、
応援観客の向こう側を走る一団を目撃する。
それは・・・

中篇『八月の御所グラウンド』

朽木はつい最近、彼女にふられてしまい、
大学四回生の夏休み、
一緒に行くはずだった
彼女の実家のある高知での
四万十川下りが果たせず、
灼熱の夏の京都に取り残されてしまう。

そんな時、留年生の多聞から、
「たまひで杯」と呼ばれる草野球に参加させられる。
聞けば、「たまひで」という祇園の芸妓に
惚れ込んだ老人たち6人
(なにしろ、たまひでを含め、みんな老人。
 交流は40年も続いている)が
それぞれ率いる草野球のチームの対抗戦。
多聞のチームは師事する大学教授のチームで、
卒論を手伝う交換条件に、
「たまひで杯」での優勝をもちかけられたのだという。
朽木は多聞に借金があるため、断れず、
早朝、京都御所の中にあるグラウンドで野球をすることになる。

ところがいろいろな理由で選手の欠場があり、
9 人揃わずに不戦敗の危機に。
ところが不思議と臨時のメンバーが入り、
試合が成立してしまう。
何度目かの危機の時、
自転車に乗ってやって来た
「えーちゃん」という若い男と、
山下、遠藤という見知らぬメンバーに助けられる。
順調に勝ち進むが、ある時、ピッチャーの爪が割れてしまい、
代わりに投手となった「えーちゃん」が・・・

作者の万城目学(まきめ・まなぶ)は、
ちょっと風変りな作風で、
「鴨川ホルモー」(2006)、「鹿男あをによし」(2007)
「プリンセス・トヨトミ」(2009)、「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」(2010)
「偉大なる、しゅららぼん」(2011)、「とっぴんぱらりの風太郎」(2013)
など、題名を見るだけで
ユーモア小説家だと分かる。
そのほとんどが軽い。
本作も、妙な名前の草野球大会でのゲームで、
メンバー不足がいつの間にか解消しているなど、
軽く、かつユーモラス。
これが直木賞? と思っていると、
ある時点で、とてつもなく大きなテーマが
内包されていたことが判明する。
しかも、切ない内容で、
分かれば分かるほど泣ける。
「えーちゃん」の正体を最初に知るのが
中国人留学生「烈女」のシャオさん、というのも意味ありげ。

そのシャオさん、
野球のない中国で育ったため、
次のような質問をする。

「細い棒でボールを打つ。
それから走る。
四角い盤の上で、止まる。
なぜ、打った人は、もっと走らないのですか?
なぜ、打った人は、
次の打つ人が登場したとき、
投げる人が一球投げるたびに、
四角い盤から少し動いて、
また戻るのですか?
次の打つ人が大きく打ったとき、
四角い盤の上に立つ人たちが、
みんな走ります。
そのまま走り続けるときがあります。
でも、元の盤まで戻ってくることもある。
それはなぜですか?」

五山の送り火というお盆の行事を最後に
翌日の試合を描かず、
余韻を持って終わる。
そのセンスの良さ。
万城目学作品に共通する
卓抜な設定が、
お盆の京都の神秘的な雰囲気で見事にはまる。
知っている人ならすぐに分かる
映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989)を彷彿させる。

「みんな野球がやりたかったんだ」
「みんな・・・、生きたかっただろうなあ」
「なあ、朽木、俺たち、ちゃんと生きてるか?」                  
その言葉が胸に染みる。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿