空飛ぶ自由人・2

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小説『Timer』

2024年10月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

89歳と82歳の老夫婦の変わりばえのしない日常が描かれ、
82歳の元大学教授の男の哲学的な思索が延々と述べられる。
あれ、ハズレかな、と思っている中、
89歳の妻の寿命が
半年後の90歳の誕生日で終わる、
という記述に違和感が生まれる。

話が進んでいくと、
これが近未来のSFであることが判明して来る。
えっ、白石一文初のSF?

妻のカヤコの死の日が決まっているのは、
カヤコが「Timer」の装着者だからだ。
Timerとは、人体に装着した科学機器で、
それを装着した人間は89歳までの健康寿命が保証される。
夫のカズマサは装着していない。
既に全人口の3分の1が装着しており、
Timer装着者が増加することにより、
健康保険や介護などの社会保障費用は激減し、
その分が年金に振り向けられた。
中国、インド、アフリカの急激な人口増加も収束し、
化石燃料の大量消費による地球温暖化も解決した。

妻のカヤコは来年の5月18日、
90歳の誕生日で終わる、ということが
夫婦の間に影を落としており、
夫はその時には自分も死のうと考えている。

一方、Timerの時限装置を解除する
「外し屋」の存在が噂されるようになっていた。
90歳を越えて生きたいと願う者が出て来たからだ。
また、「死なせ屋」の存在も噂されている。
死の影の迫る装着者に安楽死を持ちかけるのだ。
いずれも詐欺行為として、警察の捜査の対象だ。
大量自殺を防止するため、
「チェンジングハウス」が設置されている。
余命が近づいた装着者はハウスに収容され、
遺体回収がスムーズにするためだ。

というのは、自殺して、遺体回収がされないまま、
遺体が爆発してしまう例が多発したからだ。
なぜ遺体が爆発するか。
それはTimerの根本にある
「新しい領域のエネルギー」が関与しているため。

その発見は、豚の爆発事件から始まる。
愛知県の養豚場で巨大な豚が生まれ、
集団脱走した河川敷で爆発した。
直径1キロのクレーターが生じ、
半径5キロの市街が被害を受け、
死者の数は3万人近くなった。
その後、アメリカのミネソタ州で同様の爆発が起こり、
州都ミネアポリスが壊滅し、
50万人の市民が一瞬にして爆死した。
更に、世界各地で豚の爆発事故が頻発し、
中国の四川省では、千数百万人が犠牲になった。

その原因の解明をしたのが
サカモトツキオ博士。
爆発は「新しい領域のエネルギー」という
次元と次元の間に畳みこまれた
無尽蔵のエネルギーによるもので、
豚が爆発したのは、
人類が有史以来続けて来た
豚に対する残虐行為が
ついに限界点(閾値)を超えた時、
豚の体内から「怒りと絶望の光」(電磁波)として発せられたのだという。

解明後、牛豚鶏等の食用は禁止された。
そして、「新しい領域のエネルギー」を活用することにより、
発電用動力源の9割以上を占めて
電力不足は解消され、
環境汚染や地球温暖化の問題も
ほぼ一掃された。

そして、新しい領域のエネルギーを活用した
Timerの出現で、
人間の健康寿命もコントロールされるようになったのだ。

なんともはやの、すごいSF設定
大人の恋愛小説を数多く執筆してきた
あの白石一文がSFを書くとは。

といっても、
白石の目は、死後の世界についての考察に向かう。
副題は「世界の秘密と光の見つけ方」だ。
死んだ後、「私」という存在はどこに行くのか。
死後の世界はあるのか。
また、Timerを解除できれば、
人間は不死になるのか。

サカモト博士と息子はその後、失踪
そして、娘や孫に不思議な言葉を残している。

カヤコの姪のメイの親友が、
名古屋の市中で、
Timerで亡くなったはずの
ダンスの恩師に出会ったという。
喫茶店で会ったその恩師は、
顔を合わせた途端、
脱兎のごとくコーヒー代も払わず遁走した。
カヤコはメイと共に名古屋の
喫茶店を訪ね、手がかりを得る。
それは恩師から託された品物だった。

そして、老夫婦は、
最初の爆発の研究所に潜り込み、
爆心地で、ある人物に遭遇する。

こういう斬新なアイデアの話に
理性的に納得するラストは無理なのだろう。
最後は、曖昧模糊とした哲学的内容で終わる。
物語に引っ張られて読み進んできた読者は
あっという間に放り出される。
困った

 



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