ある地方自治体の「誤送金」が話題になっている。
山口県阿武町がその自治体だ。
新型コロナウイルス禍で実施した
住民税非課税世帯への10万円の臨時特別給付金の
463世帯分に相当する4630万円を
誤って1 世帯の銀行口座に振り込んでしまったのだ。
過ちに気付いた町の職員が、
その該当者男性(Tさん、24歳)に事情を話し、
それでは返金しましょうと、
銀行に向かう途中で、翻意し、
その日は返金せず、
後日、返還を拒否。
その後、どうやら法律を研究したらしい。
職員が繰り返し返還を求めていたが、
「多忙」を理由に先延ばしされ、
4月21日に再訪した際、
「別の口座に移した。もう元には戻せない。
逃げることはしない。罪は償う」
などと述べたという。
男性は、返還を求められた日から
カードで別の金融機関の口座に金の振り込みを始め、
およそ2週間で口座から金がほとんどなくなったという。
その後、男性は、
勤め先を辞め、
身をくらましてしまった。
男性は、2020年10月、
町の空き家バンク制度を利用して
県内の別の地域から移住し、
県内の店で働きながら一人暮らしをしていた。
住民税非課税世帯だから、
収入は低いと思われる。
阿武町は臨時町議会を開き、
振り込まれた金額と弁護士費用などを含めた
5116万円の支払いを求める訴えを起こす議案を
全会一致で可決した。
これを受けて町は、
「不当利得の返還」を求める内容で
山口地裁萩支部に提訴した。
送金の際、町役場の担当者は、必要なデータを銀行に渡したが、
これとは別に、1世帯に4630万円を振り込む誤った用紙が出力され、
それを銀行に持ち込んだことが今回の事態につながったという。
阿武町の会見で、
データを渡す方法について、驚きの事実が判明した。
阿武町役場と銀行はフロッピィディスクを使って、
支払い等を行っているという。
フロッピィディスク?
まだそんなものを使っているのか。
USBでもなく、ネットでのデータ送付でもなく、
手渡しのフロッピィディスク。
なぜいまだに使っているのかと聞くと、
「昔から継続しているため」だという。
山口県内の自治体に聞くと、
ほとんどが、データ伝送に移行し、
フロッピィディスクを使っているのは4市町だけだという。
いろいろ疑問がわく。
町の振り込み作業の時、
上司をはじめ、複数がチェックしているはずだが、
どうして誰も間違いに気付かなかったのか。
銀行も振り込みの内容を把握していたはずなのに、
なぜ誰もおかしいとは思わなかったのか。
事態が発覚した時、
どうして銀行口座を凍結する等の措置をしなかったのか。
銀行は預金者本人の同意がないと出来ないと言っているが、
事態の経緯は分かっていたはず。
銀行の責任において処置できなかったのか。
送金先の口座は銀行で把握できないはずはない。
役所は警察に相談して「捜査協力」の形を取って
金融機関の協力を仰ぐとか、
裁判所で手続きして口座開示の「命令」をだしてもらうなど、
出来ないものか?
そもそも、こういうケースは既にあるのに、
どうして、法的整備は出来ていなかったのか。
弁護士によると、
「誤って振り込まれた人がそのまま放置していれば、
その人に刑事上の責任は起きてこない。
現金自体は銀行が保管していることになるので、
銀行が保管している金を、
自分が預金口座の名義人だからといって、
引き出そうとしたり、
他の口座に振り込もうとしたりしたら、
窓口の銀行員をだましたことになるので
詐欺罪成立の可能性がある。
ATMの場合は機械なのでだましたわけではないが、
銀行が持っている金を取ることになるので、
窃盗罪といった刑事上の責任が生じる可能性がある。
本来自分の金でないので、町に返さないと行けない。
『不当利得返還義務』が民事上は責任として生じる」
という。
当然だ。
ところが、口座に振り込まれたものは、
誤送金であろうと、
預金者のものだという最高裁判例もあるという。
(おかしな判決だ)
他の銀行誤振込事件でも詐欺罪には問えず、
窃盗罪の適用で下級審と上級審で判断が別れた事もあるという。
詐欺罪なら刑は重いが、
窃盗罪では重い刑が課せられず、
(3~5年の実刑判決程度)
刑に服して、4600万円もの大金をゲット出来るなら
そうすると考えるかもしれない。
それが、「罪は償う」ということか?
民事で訴えられて、強制執行手続きをされても
口座に金が無く
本人の手元になければ、差し押さえも出来ない。
本人は、
「もう元には戻せない。
逃げることはしない。
罪は償う」
と言っているが、
金を使っていなければ、元に戻すのは可能。
逃げることをしないといいながら、逃げているし、
第一、「罪は償う」というのだから、
犯罪と認識しているのだろう。
仮に窃盗罪で服役し、罪を償ったとしても、
不当利得返還義務という民事上の責任は継続する。
時効まで待つつもりかもしれないが、
不当利益の返還請求がなされた時点で時効は成立しない。
先の弁護士は言う。
「一時的には得することになると思うのですが、
法律的な支払い義務はなくなるわけではありません。
この人が働いていて金銭を得ることがあれば、
お金を差し押えて強制的に取り立てることはできる可能性があります。
ですので、簡単に逃げ切れる話ではないと思います」
では、男性が破産宣告した場合はどうか。
弁護士は言う。
「免責されるかどうかが重要なんですね。
破産手続きの中で“免責決定”というのが出ると、
お金を返さなくてもよくなるんです。
ただ今回のような故意または重過失によって生じた債権なので、
破産しても免責されるのは難しいと思います」
もしお金が戻ってこなかった場合、
役場職員が代わりに支払うことも考えられるという。
しかし、職務上の失敗を
個人に課しては、士気に影響するだろう。
この金は、元をただせば、国民の血税だ。
この男性は、国民から金を奪ったことになる。
本人の名前は、今のところ開示されていないが、
裁判にでもなれば自ずと名前は出てくる。
そうすれば、社会的な制裁を受けることになる。
あと、誰も触れていないのだが、
所得税の問題もある。
この男性が4630万円を取得すれば、
その収入を申告する必要がある。
不労所得だから、
そのまま税金がかかり、
税率は45%。
4630万円×45%-控除分479万6千円で、
1603万9千円を納税しなければならない。
支払わなければ、追徴課税で、更に増える。
不当利得返還義務が強制されれば、
長い年月をかけて赤字だ。
その上、世間から逃れて逃亡生活をするはめになる。
住民票も移せない、
いろいろ考慮しても、結局は損だ。
この男性について
法律を研究して、
「頭がいい」と評価した人がいるが、
とんでもない。
頭がいいのではない。
悪知恵が働いただけだ。
本当に頭のいい人なら、
総合的に考慮すれば、
そんなことは損だと分かるはずだ。
大金に目がくらんで、
目先の得を取っても、
長い人生では損ばかりだ。
落語の「芝浜」は、
早朝魚河岸に仕入れに行った主人公が大金を拾う話だ。
主人公は舞い上がって、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎをするが、
その翌朝、酔いから覚めてみると、
女房は、そんな金は知らない、夢だろう、と言われる。
心を入れ換えた主人公は、
その後、身を削って商売に励み、
店を構えるようになる。
そこで、女房が、
実はあの金は、お上に届け、
持ち主が現れないので、
お下げ渡ししていただいた。
と打ち明ける。
今回の場合、
自分の口座に大金が振り込まれてきても、
それが正当な金でないことは明白だ。
間違えて送金されたものを
自分のものにするのは、いけないことだとは、
子供でも分かることだ。
それを法律の抜け穴を探して、
自分のものにする、
というのは、意地汚い行為だ。
誰にも誇ることの出来ない、
悪い行為だ。
その結果、身を隠し、
日陰の道を歩く者になる。
なんという損失だろう。
汗水流して働いたお金は何より尊い。
悪いことをしなければ、
良心のままに、堂々と胸を張って生きることができる。
今からでも遅くはない、
夢から醒めて、お金を返金することだ。
日本には「お天道様が見ている」という
いい言葉がある。
24歳というから、まだまだ先がある。
これから先の50年間をどう生きるかがかかっている。
そう、誰か教えてやってくれないか。
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