[映画紹介]
2012年、
500年以上にわたり行方不明だった
リチャード三世の遺骨が、
英国レスターの駐車場から発掘された。
という実話に基づく話。
リチャード三世(1452--1485といえば、
ヨーク朝最後のイングランド王(在位1483 -1485)。
イギリスで戦死した王は3人しかいないが、
リチャード三世は、その最後の王。
王位を獲るために甥二人を殺した簒奪者、
極悪非道の王として知られている。
というのは、
シェイクスピアが「リチャード三世」でそう描いているからで、
実像がそのとおりであったかは、定かではない。
歴史上の人物の印象が
高名な文学作品によって固定されてしまうのは、よくある話。
リチャード三世を、兄(エドワード四世)思いで
甥殺しなどしなかった正義感の強い人物として描く小説も数多くある。
しかし、シェイクスピアのリチャード三世は狡猾、残忍、豪胆な詭弁家、
その上せむしという肉体的特徴があり、
つまり、創作上の人物として魅力的であったため、
人々の中に印象深く残った。
シェイクスピア作品の中では
ハムレットと並んで演じ甲斐のある役とされている。
死の間際のリチャードの台詞
「馬を! 馬をよこせ! 代わりに我が王国をくれてやる! 」
はシェイクスピアの作品中最も有名なものの一つ。
長い間、リチャード三世の遺骨は、
川に流されたという伝説が流布されていたが、
2012年の再調査で、遺骨が発見された。
その発見に大きく貢献したのが、
フィリッパ・ラングレーという一人の女性だった。
以下、映画のストーリー。
エジンバラに住むフィリッパ・ラングレーは
職場で上司から理不尽な評価を受けて、心を痛めていた。
そんなある日、息子の付き添いで
シェイクスピアの「リチャード三世」を鑑賞した彼女は、
悪名高きリチャード三世も
自分と同じように不当に扱われてきたのではないかと疑問を抱き、
歴史研究にのめり込むようになる。
すると、記録に残るリチャードの像と
シェイクスピアの劇での像が全く食い違っており、
リチャード三世は勇敢で忠誠心にあふれ、
敬虔で正義感の強い人だと知り、
なぜリチャード三世の本当の話が伝えられていないのか奇妙に思う。
埋葬されたというレスターの現地を訪れたフィリッパは、
昔の教会の敷地の地図と照合して、
今は社会福祉事務所の駐車場となっている場所の発掘を始める。
地元の大学の協力を得て作業した際、
修道僧の遺骨と思われていた骨を調べることを提言し、
その結果、
頭蓋骨に傷のある30代男性の、
しかも、脊髄湾曲症の見られる遺体を発見しすることになる。
現存する近親者の遺骨のDNAとの照合の結果、
遺骨はリチャード三世のものと認定される。
しかし、その功績は協力した大学のものとされていって・・・
発掘の指揮を取ったのが、
アマチュア歴史家の一主婦であったという驚き。
働きながら二人の息子の母でもあった彼女は、
家族や同僚から理解されなくても、
専門家や研究家から軽んじられ、
懐疑的な目で見られても、
決して諦めることなく
自らの直感と信念に従い、
発掘の実りを上げる。
ただ、映画は物語的処理が施されている。
芝居を観た後、フィリッパは
リチャード三世の幻影を見るようになり、
すっかりリチャード三世と共鳴してしまう。
現地でもフィリッパは幻のリチャード三世と同道し、
遺骨が流されたという
ソー川にかかるバウ橋にも立ってみる。
そして、ある場所に来た時、
直感が与えられる。
それが、駐車場にペンキが書かれた「R」(リチャードの頭文字)。
実際はリザーブの「R」で、
お偉方の専用駐車スペースの意味なのだが、
フィリッパは、今、リチャードの遺骨の上に立っている、と感ずる。
著作には、このように書いている。
「そこで私は直感的な体験をした。
何かが足を伝って上がってくるような感じで、
だんだんと強烈さを増して、
気を失いそうになった。
なぜかリチャード三世のお墓の上を歩いているような感覚になり、
足元を見ると予約専用駐車スペースの舗装に
英語の“R”の文字が目に入ってきた」。
リチャード三世の時代は、日本では室町時代。
その王の遺骨の発見は大事件。
本能寺で死んだ信長の遺骨が発見された、
というような話だろう。
当初はプロジェクトに懐疑的で非協力的だったレスター大学の関係者らが、
遺骨が見つかった途端に大学主導の偉業のように吹聴し、
フィリッパの功績を蔑ろにする。
最後のクレジットで、
彼女が功績を認められ、
勲章を授与されたことが説明されるのだが、
そのあたりの描写は意外とすんなり。
功績が大学に横取りされたのを取り戻す話は、
映画的には面白くなりそうなのに、
ちょっと肩すかし。
2015年3月26日、
調査が終了した遺骨はレスター大聖堂に再埋葬された。
遺体はコーンウォール産の楢の木の棺に納められ、
霊柩馬車に牽かれ、
ヨーク家の象徴である白い薔薇を持つ市民たちが見守る中、
レスター市内を回り、
レスター大聖堂に「国王の礼をもって」改葬された。
その模様はテレビ中継された。
監督は過去にも英国王室にまつわる映画を手掛けてきた
名匠スティーヴン・フリアーズ。
フィリッパを「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)のサリー・ホーキンスが演ずる。
どこか頼りなげな小柄の女性だが、
実際は、↓のような体格の良い女性。
5段階評価の「4」。
TOHOシネマズシャンテで上映中。
NHKの朝の番組で紹介されたせいか、
高齢の女性観客が多かった。
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