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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『ふたごのユーとミー』

2024年07月18日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

タイの中学生、ユーとミーは一卵性双生児の姉妹
生まれた時からずっと一緒で、
隠し事はなく、なんでも分け合ってきた。
食べ放題のレストランや映画館で、
途中で入れ替わって、一人分の料金ですませたりする。
違いがあるとすれば、
ミーの頬に小さなほくろがあることくらいだ。

そんな二人だったが、
等分に分け合うことの出来ない事態が起こってしまう。
それは、同じ男の子を好きになってしまったのだ。

というわけで、思春期のふたごの姉妹の間に起こった
心のゆらぎを詩情豊かに描いたのが、この作品。

二人はバンコクにいたが、
家庭の事情で、母親の田舎に住むことになる。
そこで、追試の時に鉛筆を分けてくれたのがきっかけで
マークと知り合いになる。
デートは三人一緒。


でも、それがうざく感じる時が来る。
マークと二人きりで会いたいと。


初めて二人は「もう一人の自分」の存在を憎んでしまう。
「ふたごになんか生まれるんじゃなかった」
とまで口にしてしまう。

更に二人には別の問題もあった。
父母の離婚
別れた時、どちらがどちらに付いていくかを決断しなければならない。
父も母も好きなのに、
どうして二人が別々に住まなければならないのか。

その時、二人の絆をより深める事件が起こる・・・

私は女の子になったこともないし、
ふたごだったこともないので、
二人の気持ちは実感的には分かるはずがないが、
それでも、この思春期の乙女の気持ちが
ぐっと近く感じられるのは、
映画作りがうまくいっているからだ。

監督は、ワンウェーウ・ホンウィワットウェーウワン・ホンウィワットの二人。
彼女たち自身も一卵性双生児の姉妹だという。
そして、ふたごを演ずるティティヤー・ジラポーンシン
もうあちこちで明かされているから、
書いてもいいと思うが、
一人二役で両方を演じている。
知らない人は、ふたごの俳優が演じていると思うほど
たくみな編集だ。


もともとふたごの俳優に演じさせるつもりで探していたが、
うまく見つからず、
プロデューサーが友人の写真家のフェイスブックで彼女を見て、
この映画のオーディションに誘って抜擢、
結局、一人二役になった。
ティティヤー・ジラポーンシンの起用が、成功の要因だ。

映画を観ているうちに、
耳が出ているのがユー、
髪で耳が隠されているのがミー、
と区別されていると気づいたが、
そうでもない場面もところどころ有るので、混乱する。

ユーとミーの心を奪う少年マークを演じたアントニー・ブィサレーは、
ベルギーとタイの両親を持つハーフで、
将来有望。

時は1999年、
ノストラダムスの大予言や
2000年の切り替わりで
コンピューターが不具合を起こすと心配されていた時代。
タイの田舎の風景の中で、
思春期の男女の初恋を描くこの映画、
初々しい描写で、
終始、なつかしい感情が包む、
暖かい映画だった。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

 


映画『ホールドオーバーズ』

2024年07月10日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

原題の『Holdovers』とは、
「留任者、残留者」という意味。
原題だけでは通じないので、
「置いてけぼりのホリデイ」と副題をつけた。

1970年冬、ボストン近郊にある全寮制のバートン高校。
クリスマス休暇で、生徒と教師のほぼ大半が
家族と過ごすため帰郷する中、
事情で帰れなかった5人の生徒を監督する役割を
歴史教師・ハナムが割り当てられる。
このハナム、
生真面目で融通が利かず、皮肉屋で、
生徒からも教師仲間からも嫌われている。
なにしろ、多額の寄付をしている議員の息子に
落第点を付けて、親を激怒させてもどこ吹く風。
校長(実は、元教え子)が「せめて採点をC-にしてくれ」
という頼みにも応じないのだ。

居残り生活に対しても規律を求めるハナムに
生徒たちはうんざり。
はじめ居残った生徒は5人だったが、
一人の生徒の父親が金持ちで、
ヘリコプターで迎えに来て、
4人を雪山に連れて行ってしまう。
残されたのは、最近再婚した母親から
「新婚旅行をするから来てくれるな」と断られ、
雪山の件も親と連絡が取れずに
行けなかったアンガス・タリー。


こうして、寮の料理長メアリー・ラムと
ハナムとの3人だけが
学校に残ることになる。
誰からも認められずに孤独なハナム、
親から見捨てられたアンガス、
一人息子をベトナムで亡くした悲しみを抱えているメアリー、
それぞれの心根に触れつつ、
次第に3人の間に疑似家庭的な絆が作られていく。

「ボストンへ行きたい」とアンガスが言いだし、
はじめは反対していたハナムだったが、
メアリーに説得され
「社会科見学」としてボストン行きを承諾する。
そして、ボストンで、
ハナムはハーバード時代の旧友と偶然出会い、
過去の秘密を明らかにされてしまう。
アンガスがボストンに行きたかった理由も判明し、
それはハナムとアンガスの共通の秘密となる。
しかし、ボストンでの行為が後で問題になり、
責任を追究された時、ハナムは・・・

「サイドウェイ」(2004)と「ファミリー・ツリー」(2011)で、
二度のアカデミー賞脚色賞に輝く
アレクサンダー・ペイン監督の新作。
しかも、「サイドウェイ」で主演していた
名優ポール・ジアマッティとの再タッグ。
ゴールデングローブ賞で主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。


アカデミー賞では、作品賞・主演男優賞・助演女優賞・オリジナル脚本賞・編集賞の
5部門にノミネート
メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、
ひとり息子を失った女性の孤独を体現し、助演女優賞を受賞した。


受賞を逃したがハナムを演ずるポール・ジアマッティは受賞級の演技。
アンガスを演じたドミニク・セッサも初演技とは思えない演技を見せる。

もう50年も前の話。
全編に、古き良き時代のなつかしさが溢れる。
当時の全寮制の高校がどんなものであったか知って、興味は深い。
孤独を抱えた3人が
次第に心を通わせていく様がていねいに描かれ、
深い味わいが伝わる。
そして、最後の下りは、
激しく胸打たれる。
さすがは、アレクサンダー・ペインと思わせる作品。

最近、騒がしいものが多いアメリカ映画だが、
こういう作品が作られ、評価されているのは嬉しい

5段階評価の「4.5」

拡大上映中。

 


映画『PS-Ⅱ 大いなる船出』

2024年06月20日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

先月公開された「PS-Ⅰ 黄金の河」の続編
インドでは、前編は2022年、
後編は2023年に公開されたが、
日本では、5月6月と、1か月の間隔で、続けて公開

インドの伝説的な歴史小説
「ポンニ河の息子」(Ponniyin Selvan つまり、「PS」
を前後編で映画化。

10世紀、インド南部、タミル地方に実在した
チョーラ王朝の宮廷を舞台にした
愛憎と陰謀、国の存亡を懸けた戦いの物語。

前編のラストでは、弟のアルンモリ王子が海の藻屑と消え、
その訃報は、国全土に広まり、王国は悲しみに包まれた。
しかし、アルンモリは、何度も彼の窮地を救ってきた
謎の老婆に助けられ一命をとりとめていた。
そして、アルンモリと再会した長兄・アーディタと長女・クンダヴァイは、
密使の騎士デーヴァンにより、
王朝転覆の黒幕と計画の全貌を知る。


老王のもとに刺客が送られると共に、
アーディタは、計画を裏で操るナンディニの誘いに乗って、
その牙城に赴き、罠に自らかかり、
アルンモリにも刺客が放たれる。
王国に迫る最大の危機を三人の兄弟はどうやって乗り越えるか・・・

前編と違い、戦争シーンは最後だけで、
主に、愛憎渦巻く登場人物の数奇な運命を描く、
より重厚な人間ドラマが描かれる。
謎の老婆の正体、老王との過去だけでなく、
ナンディニの出生の秘密も明らかになる。
アーディタの苦悩はシェイクスピアのようであるし、
最後のくだりは、ギリシャ悲劇のよう。


登場人物の想いが伝わり、
胸が熱くなる人間ドラマだ。
俳優たちも難しい役どころを演じ切り、
インド映画陣の層の厚さに驚かされる。
しかし、相変わらず、顔の区別がつかないが。
また、映画における音楽の重要性も改めて知らしめてくれる。
(音楽はオスカー受賞者A・R・ラフマーン

監督・共同脚本・共同製作はインド映画の巨匠マニラトナム

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

私が観た市川妙典の映画館では、がら空きだった。
娯楽に徹した、こんなに面白い映画なのに。
しかし、10世紀といえば、
日本での平安時代に当たる。
さすがに関心がないか。

 


映画『ビューティフル・ゲーム』

2024年06月12日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

車上生活を送っていたヴィニーは、
子どもたちとサッカーに興じている姿を見かけた
コーチのマルに声をかけられて、
「ホームレス・ワールドカップ」に参加するため、
ロンドンからローマに向かう。

ホームレス・ワールドカップとは、
ホームレスによるサッカーの世界大会。
2003年から毎年開催され、
参加チームは全世界から70以上。

正規のサッカーグラウンドが
105m×68mに対し、
20分の1の22m×16mと、
フットサルより狭く、
バスケットボールのコートより、少し小さい。
コートはフェンスで囲まれ、ボールが場外に出ることはない。


選手はキーパーも含め1チーム各4人
試合時間は7分+7分。

選手資格は、16歳以上の男女で、
開催前年にどこかでホームレス生活をしていること。
主な収入の手段が路上での雑誌販売であること。
過去に行われたホームレス・ワールドカップへの出場経験がないこと。
つまり、連続出場は出来ない=選手は固定出来ない=職業化出来ない。
なのに、ブラジルとメキシコがやたらと強いのは何故?
(両国が3回ずつ優勝)

本作では、イギリスチームはもとより、
南アフリカ、アメリカ、イタリア、日本などのチームが描かれる。
クルド人問題や移民問題などが織り込まれ、
ダメチームが全員の努力で勝ち進む、
おなじみのストーリー。

最後の方でヴィニーの過去と
マルがヴィニーに声をかけた理由が明らかになる。
3位決定戦に参加できなかったヴィニーをどうするのかと思ったら、
ああいう形で締めくくるとは。
なるほど。

監督はテア・シャーロック
コーチ役はビル・ナイで、
ガッツポーズをする英国紳士・ビル・ナイの珍しい姿を見られる。

Netflix 3月29日から配信。

なお、同名のミュージカルがあり、
これは、「オペラ座の怪人」や「キャッツ」などで知られる作曲家、
アンドリュー・ロイド= ウェバーの作品。
1970年代のアイルランドを舞台に、
サッカーに青春をかける少年たちが、
カトリックとプロテスタントの熾烈な争いに巻き込まれていく姿を描く。


2000年から1年間、ロンドンで上演され、
日本でも昨年上演された。

ロイド= ウェバーが既に神通力を失ってからの作品なので、ヒットしなかった。


映画『グレート・スクープ』

2024年05月14日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

2019年、
イギリスのアンドリュー王子への
テレビのインタビューを巡る、
報道陣の動きを描く。

アンドリュー王子とは、
エリザベス女王の次男
つまり、チャールズ現国王の弟。
イギリス王室の成員・貴族・軍人で、
ヨーク公爵
その王子に、
アメリカの富豪ジェフリー・エプスタインとの交友関係に関する
スキャンダルが持ちあがる。

エプスタインは2006年に児童売春で有罪判決を受けて服役、
出所後、2019年に性的虐待の疑いで再逮捕。
後、拘置所内で自殺。
その際の裁判資料にアンドリュー王子や
クリントン元米大統領の名前が含まれていた上、
被害者の当時17歳の少女の1人が
アンドリュー王子と
複数回に渡り関係を持ったことを明かした。
世間の注目はアンドリュー王子に向けられた。

イギリスの放送局・BBCの
報道番組「ニュースナイト」のプロデューサーである
サム・マカリスターらは、


アンドリュー王子へのインタビューを
イギリス王室に打診する。
国民の疑問の高まりで、
番組への出演を決めたアンドリュー王子に、
司会のエミリー・メイトリス
事実を提示し
巧みに王子を追い詰めてるインタビューをする。


その放送に至るまでの舞台裏を、
無理だと思われていたことを成し遂げる勇気と信念を持ち、
決して諦めなかった女性たちの姿として、
余すことなく見せる。
王室広報官に対する緊迫した交渉、
王子を守ろうとする王室側と
真実を突き止めようとする報道側の攻防戦。
2019年11月14日
インタビュー当日の緊張感。
王室主導のインタビューには、
質問の内容も事前に王室がチェックしたものだけという
厳しい規制があったが、
それでもエミリーは公平を期した目線で
エプスタイン事件に切り込み、
アンドリュー王子の口から真実を引き出す。
収録後、王室からの介入はなかった。

インタビューは生放送ではなく、録画。
インタビュー場所はバッキンガム宮殿
終了後、アンドリュー王子自身は「上手くいった!」と思ったようだが、
インタビューは対象者の表情がものを言う。
原告女性と会った記憶はないと語ったが、
嘘をついているのが如実に伝わる。
映像の怖さだ。

なにしろ、当該少女と一緒に写っている写真↓があるのだ。

アンドリュー王子が少女の腰に手をまわしている。
「会ったことがない」という嘘は通じない。

インタビューはBBC史上最高視聴率を獲得し
多数の賞を受賞。
アンドリュー王子は放送後に、全ての公務から退き
王室メンバーとしての地位の全てを失った。
王族の敬称である「ロイヤルハイネス」(殿下)も使われなくなった。

その後、2022年に、少女とは和解
金額は明らかにされていないが、
1200万ポンド(18億7千万円)だと言われている。
ただ、和解文書では、性関係を持ったとは名言していない。

BBCといえば、
あのジャニーズ喜多川の性加害問題を取り上げたテレビ局。
長年、日本のメディアが沈黙を守っていた案件が
白日のもとにさらされ、
その後の展開はご存知のとおり。
真実を報道するという、
報道機関の使命の違いを如実に見せつけた。

映画の中で、
放送の後、プロデューサーは言う。
「これがニュースナイトの役割。
他の番組が取り上げない話に時間を割く。
国民にとって重要で語られるべき問題を。
権力者の責任を問い、
被害者の声をすくうのです」

サム・マカリスターがコーヒーショップで、
番組のことで声をかけられる。
「これ、観た?
撮影の現場にいたかったな」
すると、サムは誇らしげに言う。
「ええ、私はいたわ」

サム・マカリスターの自伝にもとづく。
登場人物は全員実名
俳優もよく似せている。
ジリアン・アンダーソン、ビリー・パイパー、
ルーファス・シーウェル、ロモーラ・ガライらが出演。
監督を手掛けるのはフィリップ・マーティン
脚本はピーター・モファットジェフ・ブッセティル。                  
みごたえるのある人間ドラマだった。

Netflix で4月5日から配信。