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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『アイミタガイ』

2024年11月07日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ウェディングプランナーとして働く梓は、
中学時代からの親友でカメラマンの叶海(かなみ)を
仕事先の海外での交通事故で失った。
しかし、梓は、生前の叶海と交わしていた
スマホのトーク画面に、
日常のことを書いたメッセージを送り続けていた。
遺品のスマホのトーク画面は、
叶海の母親の朋子が見ていたが、
返信することはなかった。

娘を失って傷心の朋子と優作のもとに、
とある児童養護施設から娘宛てのカードが送られて来る。
はじめ、いたずらかと思ったが、
連絡してみると、
その養護施設には叶海が訪れて写真を撮っており、
施設のトイレは、叶海の写真の個展会場になっているという。

一方、梓は、家庭環境により、
交際相手の澄人との結婚に踏み出せないでいた。
金婚式を担当することになった梓は、
叔母の紹介でピアノ演奏を頼みに行ったこみちの家で
中学時代の記憶を思い出す。
いじめにあっていた梓を救ってくれた叶海と
二人で聴いたピアノの音色は、
こみちの演奏ではなかったか。

やがて、澄人の求婚を受け入れるかどうかの瀬戸際で、
亡くなったはずの叶海からの返信が届く。
それは、前に進めなかった梓の背中を押すものだった。

という話が、
梓の立場、澄人の立場、叶海の両親の立場から
淡々と描かれる。
そしてあぶり出されて来るのは、
人と人の不思議な触れ合いの連鎖が大きな輪になる、
長編小説のような、
誰かが企んで、
歯車が重なるような、
人生の秘密・・・。

「アイミタガイ」=「相身互い」。                        同じ境遇にある者同士が、互いに同情し合い、助け合うこと。
また、そのような間柄の者。
題名のとおり、
誰かを想ってしたことが、巡り巡って見知らぬ誰かを救う。
あたたかな良作が誕生した。

特に、金婚式でこみちの演奏する
「ラブ・ミー・テンダー」に乗せて、
叶海の両親が養護施設のトイレの写真を見るシーンは
涙を誘う。
ラストで、今はいない叶海が
梓に向けてカメラのシャッターを切るかのような演出はなかなかいい。
叶海の父の言葉、
「悪い人が出てこない小説は、嘘くさくて嫌いだったけど
今はそういうのを信じように思います。」
は含蓄が深い。

描写の積み重ねが、意味を生む、
良い意味で、日本映画だと感ずる。
ただ、カメラワークは平凡で、
今一工夫が必要。
こちらは、悪い意味で日本映画だ。

梓を演ずるのは、黒木華
たずまいが結婚式場のプランナーらしい雰囲気を醸しだす。
亡くなった親友の叶海を藤間爽子(三代目藤間紫)、
交際相手の澄人を中村蒼がつとめる。
他に草笛光子、安藤玉恵、松本利夫、升毅、
西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュンらが脇を固める。

脚本の初稿を手がけたのは「台風家族」(2019)などの監督である市井昌秀
これを読んで監督に名乗りを上げたのが佐々部清
ところが2020年3月に佐々部監督が急逝。
コロナ禍で中断の後、引き継いだのが草野翔吾監督。
こうして、三人の監督によるバトンタッチ
本作が完成した。

エンドロールで流れる「夜明けのマイウェイ」は、
70年代に放映されたドラマの主題歌で、
作詞・作曲は荒木一郎。
歌うのは、なんと黒木華。
なかなかうまい。

幻冬舎の自費出版ブランドから2013年に刊行された
中條ていの連作短編集「アイミタガイ」が原作。


(原作を読もうとして、
 図書館で蔵書検索したら、
 存在しなかったのは、
 自費出版のためか。)

5段階評価の「4」

拡大上映中。

 


映画『2度目のはなればなれ』

2024年11月02日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

2014年、夏。
イギリスの片田舎の老人ホームで暮らす
バーナードとレネの老夫婦は、
互いに寄り添いながら人生最期の日々を過ごしていた。


バーナードはノルマンディー上陸作戦70周年
記念式典に参加することを望むが、
申し込みが遅れたために団体では参加できなくなってしまった。
長年連れ添ったレネは、
戦時中に1度目の、そして今回は2度目の“はなればなれ”を決意し、
「あなたは、行くべきよ」と力強く背中を押す。


そこで、バーナードは、老人ホームに秘密で一人でフランスに旅立つ。
やがて、行方不明になったことが発覚し、
89歳の退役軍人がDデイ記念行事のために
老人ホ-ムを抜け出したとして、
マスコミが「大脱走」(The Great Escaper =原題)と
報道する騒ぎとなる。(実話)

一方、単身ドーバー海峡を渡ったバーナードは、
記念行事から離れ、
亡くなった戦友に託された、“最後の任務”を完遂するために、
ある場所に向かう・・・。

思い出の地に向かうバーナードの心の中に去来する
上陸作戦の時の苛酷な記憶が胸を揺さぶる。
それと、戦時中知り合ったレネとの若い頃の思い出。
70年の歳月を隔てて、
戦争と恋愛という、
バーナードの二つの人生体験が蘇る。
バーナードは式典位参加の6か月後に逝去、
レネも後を追うように数日後に亡くなった。

バーナードを演ずるのは、マイケル・ケイン

レネを演ずるのは、グレンダ・ジャクソン

若い頃のマイケル・ケイン↓。

若い頃のグレンダ・ジャクソン↓。

マイケル・ケインは、
「ハンナとその姉妹」(1986)「サイダーハウス・ルール」(1999)で
アカデミー賞助演男優賞を受賞。
グレンダ・ジャクソンは、
「恋する女たち」(1969)と「ウィークエンド・ラブ」(1973)で
アカデミー主演女優賞を受賞
共にオスカーを2度受賞した名優の
「愛と哀しみのエリザベス」(1975)以来50年ぶりの共演。
グレンダ・ジャクソンはこの映画に出演した後、
昨年6月15日に87歳で逝去
マイケル・ケインも本作で引退を表明している。
名優の最後の姿を観る作品だが、
表情、たたずまいで人生が語られ、
名優とはこういうものかと心に深く刻まれる。

退役軍人との出会いや、敵であったドイツ兵との和解、
老人ホームに勤める年の離れたスタッフとの交流なども描かれ、
愛という絆の深さを心に刻む、
自然に涙が浮かぶ良作である。

監督はオリバー・パーカー

5段階評価の「4」

TOHOシネマズシャンテで上映中。

 


映画『トラブル・バスター』

2024年10月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

大型家電量販店で働くコニー。
離婚した彼は、娘のジュリアと
隔週で会えることを楽しみにしている。


ある日、大型テレビを設置するために訪れた家が
殺人事件の現場となり、
そこに居合わせたコニーは、
殺人容疑で誤認逮捕されてしまう。
無能な弁護士だったため、
有罪判決を受け、無実の罪を着せられ、
刑務所に収監されたコニーは、
自ら真犯人を追い、
証拠を集めて無実を証明することを決心し、
刑務所から脱獄を決行。
殺された被害者が口にした、携帯電話を探すが、
うまくいかず、
他の犯罪者の脱獄の片棒を担ぐことになってしまう。
しかし、予期せぬトラブルに次々と見舞われ・・・。

という、典型的な巻き込まれ事件。
真犯人は意外なことから判明し、
後半は犯人との対決になるが、
犯罪ミステリーというよりは、
コメディの味付けが強い。
冤罪を晴らすストーリーだが、
重苦しい雰囲気は全くなく、
むしろ軽快なテンポで進む。
次々と襲って来る難題を解決して、
コニーが無実を証明するまでの過程は、
スリリングでありつつも、
コミカルな要素が随所にちりばめられている。

1988年公開のスウェーデン映画のリメイクだが、
ストーリーは現代風にアレンジされている。
家電マニアであるコニーの専門知識を生かして
犯人を追い詰めるところなど、現代風だ。
テンポも良く、展開も見事。
途中から相棒になる女警官との関係もイイ。

監督は、スウェーデン出身のジョン・ホルムバーグ
主人公・コニーを演ずるのは、フィリップ・バーグ


映画全体に、なんとも言えないユーモアが漂うのは、
この人の功績だ。

Netflix で10月3日から配信。

 


映画『花嫁はどこへ?』

2024年10月17日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

結婚式をあげ、婿・ディーパクの故郷に向かう花嫁・プール。


インドにも大安吉日のような結婚日和があり、
乗った満員列車には、花嫁が数人いた。


インドの風習で、花嫁は夫と家族以外には顔を見せない、
ということで、ベールで顔を隠していた。
何度か乗客の入れ替えがあったり、
トイレに立ったりしているうちに、
席がごちゃごちゃになっししまう。


気づいた時には、下車駅で、
ディーパクはあわてて花嫁の手を引いて、列車を降りる。
バスに乗り、ディパークの実家に帰って、
花嫁のベールを取ると、現れたのは、別人だった。

一方、取り残されたプールの方は、
眠ってしまい、降りたのは、見知らぬ町
何事も夫任せだったプールは、
彼の家の住所も電話番号も知らない。
「夫に捨てられた」と噂されるから地元にも帰れない。
そんなプールを助けてくれたのは、
物乞いの男と少年、それに、ホームで食べ物を売るおばさん。
プールはおばさんの店で働きながら、
救助の来るのを待つ。

ディーパクの方も困り果てていた。
間違って連れて来た女性・ジャヤは、
夫と自分の名前を偽って告げ、
出身や町も、どうやら嘘らしい。
その上、家に居座ってしまう。
はて・・・

という花嫁取り違え事件の顛末。

箱入り娘だったプールは、
初めて働き、給料を得る喜びを知る。
ジャヤは人々と交わり、
本当にしたいことを実現する。
予期せぬ旅を通して、
新しい価値観と可能性を手にし、
人生を切り開く二人の女性の物語でもある。

途中、ジャヤが犯罪者の疑いをかけられたり、
夫が訪ねて来ての一悶着があるが、
最後は、警部補の粋な計らいで決着し、
プールとディーパクは再会する。

ダンスシーンばかりがインド映画じゃないとばかりに、
じっくりと描かれる人間ドラマが楽しい。
踊りはないが、歌で物語が進行するのは、
やはりインド映画。

舞台が都会ではなく、
徹頭徹尾、農村での出来事。
美しい風景の中で、
登場するのは、善人ばかり。
(一人だけ悪人が出て来るが) 
それでも、結婚事情、持参金
男女差別、女性の人権、高度教育への門戸、
鉄道事情、警察の腐敗など
インドの様々な問題点も織り込まれる。
涙と笑いの中に、そうしたスパイスも利いている。

プロデューサーはインドの大スター、アーミル・カーン


脚本コンペで本作の原案を発掘したアーミル・カーンは、
脚本をふくらました上で、
監督に元妻・キラン・ラオを起用。
最初、警部補の役を演ずるつもりだったが、
自分が演ずると、
この人物が何かするぞ、と観客が予想してしまうので、
代わりに知名度が低いラヴィ・キシャンを起用。
配役に高名な俳優を起用するリスクを回避した、
賢い選択だ。

トロント国際映画祭でスタンディングオベーションを巻き起こし、 
映画評価サイト「Rotten Tomatoes 」では
批評家100%、観客95%の支持という驚異の高評価を得た。

花嫁二人、夫のディーパグはじめ、
登場人物が全て魅力的。
インドの人々の善良さが描かれ、
爽やかなエンディングで、
観客をみな幸福な笑顔にする、
まさに映画。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

 


映画『人生って、素晴らしい』

2024年10月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

腎臓病を患い、週3回透析を受ける。
そんな人生にうんざりしている
旅行会社勤務のリン・ミン。
ある日、リン・ミンは、
「亡くなったらドナーになってくれる人と結婚したい」
という趣旨の動画を、アップロードしてしまう。
すぐに削除したものの、
その僅かな隙間で見たという青年がコンタクトしてきた。
会って説明しようと考えたミンは、
指定された料理店に行くが、
そこに現れたのは挙動不審な男、
風変りで超天然なリュ・トという青年だった。
ミンは、今は考えが変わったと告げるものの、
リン・ミンが行く先々に必ず現れるばかりか、
リン・ミンの面倒を見るために
彼女の家に住み込んでしまう。
予測不能な行動でペースを狂わせてくるリュ・トに
嫌悪を感じていたリン・ミンだったが、
リュ・トの純粋さ、素直さに次第にひかれ、
心を通わせていく。
しかし、リュ・トがリン・ミンに付きまとうのには、
ある理由があった・・・。

ともに不治の病を抱えている2人の男女を描く
中国製ラブロマンス

物語の舞台は、中国・湖南省の長沙市近辺。
リン・ミンの透析治療の大変さが描かれる。
週3回病院に行き、透析を受ける。
3時間の間、じっとしていなければならない。
もう4年もそんな生活を続けている。
腕には無数の注射針の跡、
厳しい食事制限、水分摂取制限と戦い、
少し油断するだけで命取りになる。
ドナーの出現が唯一の希望だが、
移植手術が遺族の反対で直前で流れてしまい、
もう一人の被移植者の青年
(腎臓は二つあるので、
 一人で二人に移植できる)
が泣き叫ぶ姿も描かれる。

実はリュ・トは、悪性脳腫瘍という不治の病を患っており、
リン・ミンの病状を知ったリュ・トが、死後、
ドナーになろうと考えていたのだ。
悪性脳腫瘍再発の恐怖と闘いつつ、
再発しても手術を受けない、
腎臓はリン・ミンにあげると主張する。
それを説得して手術を受けさせようとするリン・ミン。
ドナーとしてのリュ・トと
愛する対象者としてのリュ・トとの相克。
腎臓患者のリン・ミンを励ますリュ・トと、
リュ・トに手術を受けさせようとするリン・ミン。
励ます方と、励まされる方が途中で入れ替わる

リュ・トは初めの方、風変りで奇矯な人物として描かれ、
リン・ミンの嫌悪を観客は共有するが、
次第にリュ・トの思いやりと暖かい心に触れ、
魅力的に見えて来る、作劇上の見事さ
次第にお互いに心を開き、
思いが通う経過が
大変ていねいに自然に描かれる。
リン・ミンの両親や
リュ・トの母親の存在も泣かせる。

監督は、ハン・イエン
リン・ミン役はリー・ゲンジー
リュ・ト役はポン・ユーチャン
二人の演技が素晴らしい。


4月5日に劇場で短期間上映された作品が
早くもNetflixに登場。

原案は、朱金平が雑誌「婚姻与家庭」に投稿した記事
「最功利的婚姻交易,最情的永恒定」(2015年)。

原題は「我們一起搖太陽」で
「一緒に太陽を揺らしましょう」
太陽は東から上り西に沈むが、
時々サボって曇天・雨天になる。
だから太陽を揺すって起こそう、
という、篇中出て来る挿話から取ったたもので、
日本で付けた邦題ほどベタではない。
サブタイトルの「Viva La Vida」は「生きる」という意味。