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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『ディア・ブラザー』

2025年04月02日 23時00分00秒 | 映画関係

[旧作を観る]

ちょっと驚くような実話の話。

ベティと兄のケニーは絆の強い兄妹だった。
1983年、ケニーに殺人の容疑がかかった。
普段から素行が悪かったため、
警察から目を付けられ、
犯人に仕立てられたのだ。
不利な証言もあり、
有能な弁護士を雇う金もなく、
有罪判決を受け、
終身刑で刑務所に収監されたケニーを
救おうと奔走するベティ。
しかし、高額な弁護士費用が払えない。
そこで、ベティは一大決心をする。
自分が弁護士になって兄を弁護するというのだ。

ベティは高校も出ていないので、
高校卒業資格を得て、学士号を取り、
弁護士の資格を取得しなければならない。
学校に行き始めたため、
家庭は崩壊し、
子供たちは夫のところに住み、
たまにしか会うことが出来なくなってしまった。

事件から16年かけてベティは司法試験に合格した。
弁護士資格があれば、
証拠の再検査が申請できる。
その頃には、
DNA鑑定の技術が向上して、
「イノセンス・プロジェクト」(冤罪を晴らす活動)が
沢山の冤罪を解決していた。

証拠品の中には、
犯人の血液があり、
その血液型がケニーと同じだったから、
ケニーは有罪とされたのだ。

しかし、証拠品は10年で破棄されるルールだという。
ベティは必死に頼み込み、
ついに、保管されていた証拠品を見つけ、
DNA鑑定の結果、
犯人の血液はケニーのDNAと一致しなかった。

しかし、共犯の疑いがあるとして、
無罪の判決は出ない。
そこで、当時ケニーに不利な証言をした証人を訪ね・・・

結局、ケニーの無罪は
18年かけて証明された。
マサチュセツ州には死刑制度がないため、
終身刑だったが、
死刑制度のある州なら、
とうに処刑されていた。

日本と同じ冤罪事件の
袴田事件で弟の無実を信じて
闘った姉の話を彷彿させる。

8年後の2009年、
ベティは、警察や逮捕した元警官から
巨額の賠償金を勝ち取った
しかし、ケリーは出所から半年後、
交通事故で死亡
皮肉な結果だ。

1989年以降、DNA鑑定で無罪を勝ち取った案件は
254件あるという。
多すぎないか。

それにしても、
血液型の一致と
2つの証言だけで
有罪とする陪審員制度はどんなものか。
ケニーを殺人犯と決めつけ、
不正までして逮捕した
女警官は時効で罪を逃れたという。

原題のConvictionは、「信念」の意。

ベティ役はヒラリー・スワンク
こういう役をやらすとヒラリー・スワンクは本領を発揮する。


ケリー役はサム・ロックウェル
親友の学友役にミニー・ドライバー
監督はトニー・ゴールドウィン
脚本はパメラ・グレイ

2010年製作の映画。
日本では劇場未公開
ビデオのみ発売。

                                   


映画『エミリア・ペレス』

2025年03月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

フランス発祥のスペイン語映画でありながら、
ゴールデングローブ賞では最多4部門を受賞、
アカデミー賞でも作品賞、監督賞を含む
最多12部門で13ノミネートを果たした映画が
ようやく日本公開。
相当風変りの作品のようで、
覚悟して出かけた。

優秀な弁護士でありながら、
無能なボスにこき使われて、
不遇の日々を送っていた弁護士のリタ。
そのリタが、顔に袋をかぶせられて拉致され、
袋を取ると、一人の男が待っていた。
その男は、メキシコ全土を恐怖に陥れていた
麻薬カルテルの頭、マニタスだった。
そして、マニタスの要望は、
女性になりたい、という驚くべきもの。
莫大な報酬を提示されて、
リタは性別適合手術をする優秀な医者を斡旋する。
潤沢な資金で手術は成功し、
マニクスの死亡が偽装され、
マニクスは新たに女性として生きていくことになる。

4年後、ロンドンのレストランで、
リタは女性となったマニタスに再会する。
マニタスはエミリア・ペレスと名乗った。


秘密を握っている自分を殺すのではないかと
恐れたリタだったが、
エミリアの新たな要望は、
残して来た子供たちと暮らしたい、
その手続きをしてくれというものだった。
リタの手配でメキシコに戻ったエミリアは、
マニタスの従姉妹と偽って、
元妻と子ども二人を呼び寄せ、
一緒に暮らすことになる。

麻薬王だった頃に犯した罪に心を痛めるエミリアは、
犯罪に巻き込まれ、行方不明になった人々の家族を救うために
NPOを興し、リタと共に慈善活動を始める。


昔の家族と一緒に暮らし、
尊敬を集めるようになったエミリアは幸福だったが、
元妻が再婚して子どもを連れて家を出ると言いだしたことから、
破綻が始まり・・・

偉丈夫のマニタスがなぜ女性になりたくなったのかは不明だが、
男性から女性に転換し、
外見は女性でも、
内面は男性という
存在自体がドラマチックだ。
そして、過去の罪滅ぼしをしようとするのも矛盾。
実は、私はこういう話は好物だ。
秘密を抱えた人間は魅力的だからだ。
息子から「パパの匂いがする」などと言われて、
喜んでいいのか、苦しんでいいのか
戸惑うシーンなど、胸に迫る。

一体、この話、どこに着地するのか、
と先が見えない展開に
画面に吸いつけられる。

ストーリーが斬新なだけでなく、
この映画、ミュージカルの形式を取る。
しかも、歌や踊りに移る手法がユニーク
登場人物の内面の吐露として、
変幻自在な変化をする。
ああ、ミュージカルでこんなやり方もあったか
と驚きと共に納得。
特に、エミリアが団体の代表としてスピーチをする時、
リタが「結局、根本は何も変わっていない」と
偽善者たちへの心の叫びを
歌と踊りで爆発させる「El Mal」のシーンは秀逸。

エミリアを演ずるカルラ・ソフィア・ガスコンは、
トランスジェンダー女性であることを公表し、
性別適合手術を受けた人。


この人のための役と言えるかもしれない。
しかも、男性の時と女性の時の両方を演ずる。
ああいう立派なガタイの女性が実在する外国人だから
成り立つ。

リタを演ずるゾーイ・サルダナは、


「アバター」 (2009) より
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014) の方が印象深いが、


順当にアカデミー賞助演女優賞を受賞。


妻を演ずるセレーナ・ゴメスらと共に、
カンヌ国際映画祭で
4人まとめて、アンサンブルで女優賞を受賞。

監督のジャック・オーディアールは、
カンヌ国際映画祭パルムドール〈最高賞〉を受賞した
「ディーパンの闘い」(2016)の監督と知れば、納得する。


絵作りのセンスは抜群。

特殊なテーマをクライム、コメディ、ミュージカルなど
様々なジャンルを交えて描いた、奥の深い作品だ。

ところで、アカデミー賞に12部門13ノミネートされていながら
結果は2賞(助演女優賞、歌曲賞)だけの受賞になったのは、
ノミネート発表の直後、
これからら会員が投票にかかる、という、
最悪のタイミングでの、
ガスコンのSNS上での不適切発言が原因らしい。
イスラム批判に始まって、
ブラック・ライヴズ・マター批判、
フェミニズム批判、ワクチン陰謀論、
スペイン政府首相批判、アカデミー賞批判(!)まで多岐にわたり、
この結果、「エミリア・ペレス」は賞獲りレースから脱落した、
と言われている。

ただ、フランス映画界最高の栄誉であるセザール賞では、
「エミリア・ペレス」が最多の7冠を獲得している。

5 段階評価の「4」

拡大上映中。

 


映画『教皇選挙』

2025年03月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ローマ教皇の選出選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。
信者数12億人を擁する
世界最大の組織の長だから、
影響力は大きく、世界が注目する。

カトリック教会のトップにして
バチカン市国の国家元首であるローマ教皇が、
心臓発作のため急死してしまう。
教皇が不在の状態を「使徒座空位時」という。
悲しみに暮れる暇もなく、
首席枢機卿を務める
トマス・ローレンス枢機卿は枢機卿団を招集し、
次のローマ教皇を選出する
教皇選挙(コンクラーベ)を執行することとなった。

100人以上の枢機卿がシスティーナ礼拝堂に集まり、

入口が封鎖された密閉空間で
投票が行われるが、
定足数の3分の2の得票数を獲得した人物が現れるまで、
投票が繰り返される。
立候補制ではなく、
100人以上いる枢機卿の中から
1名の名前を記入して、
投票するのだから、
よほどの強力な人物がいない限り、
なかなか決まらない。

この映画は、
その様子をじっと凝視する。

教会といっても、
信仰で団結しているわけではなく、
有力候補者として
リベラル派最先鋒の人物、
穏健保守派の人物、
保守派にして伝統主義者の人物
初のアフリカ系教皇の座を狙う人物、
など、多種多様。

しかも、枢機卿の中には、
教皇の死亡直前に解任されたらしい人物や、
教皇が秘密裡に任命した枢機卿が
開始直前に到着したりする。

途中、最有力とされていたアフリカ系の枢機卿が
30年前の性的スキャンダルで失脚したり、
それを画策した人物がいたり、
水面下では陰謀差別
スキャンダルがうごめく。
ローレンス自身が信仰に関する悩みを抱えている。

ローレンス枢機卿を演ずるのはレイフ・ファインズ


ジョン・リスゴーをはじめ、
ベテラン俳優たちが枢機卿を演ずる。

全体的に株式会社や団体の長選びのような様相で、
宗教的匂いは感じられない。
まあ、人間が作る組織だから、
人間臭い暗闘はあると思うが、
一方で、彼らは宗教的指導者でもあるわけで、
その要素が抜け落ちているのは、
少々偏った描き方だ。

そして、法皇が選出された後、
衝撃の事実が明らかにされる。
これにはちょっと驚いた。
法皇庁は重大な秘密を抱えることになったわけで、
もし真実が露見したら、
それこそ教会を揺るがす騒動になるだろう。
まあ、原作はミステリー小説ですからね。

先のアカデミー賞において作品賞を含む8部門にノミネートされ、
脚色賞を受賞した。
ローバート・ハリスの同名小説を映画化。

5段階評価の「4」

拡大上映中。

以下、映画では説明されていない、
コンクラーベに関するトリビアを。

教皇の逝去にはカメルレンゴといわれる枢機卿が立ち会う。
カメルレンゴ(Camerlengo)とは、
ローマ教皇庁の役職で、
教皇の秘書長。
枢機卿の中からローマ教皇によって指名される。
使徒座空位期間、教皇代理となる。
カメルレンゴは教皇の死の確認を済ますと、
元漁師であった聖ペテロにちなんで「漁夫の指輪」と呼ばれる
教皇指輪を教皇の指から外し、
枢機卿団の前でそれを破壊する。
「漁夫の指輪」には教皇が文書に押す印章が付いており、
これが教皇の死後に他者の手で不正に使用されることを防ぐためである。

教会法には教皇の生前辞任が認められているが、
実際には教皇が生前に辞任する事態は
ほとんど起こっていない。
しかし、2013年、ベネディクト16世が生前辞任し、
これにより719年ぶりに教皇の生前辞任を要件とする
コンクラーベが開催された。

教皇葬儀は死後4日から6日の間におこなわれる。
その後、教皇庁全体が9日間の喪に服する。
筆頭枢機卿は全世界の枢機卿を招集し、
次の法皇を選出する選挙を行う。
教皇選挙は通常、教皇の死後15日以降におこなわれる。
全枢機卿がそろわない場合、
選挙の実施を最高で20日まで伸ばすことが出来る。

枢機卿(すうききょう、すうきけいと二つ読み方があったが、
    今では、「すうききょう」に統一されている)は、
カトリック教会における教皇の最高顧問という位置付け。
重要な案件について
教皇を直接に補佐する「枢機卿団」を構成する。
従って、教皇の逝去で
次の教皇を選ぶ職務は枢機卿団に委ねられる。
つまり、教皇選出選挙の選挙権と被選挙権は、
枢機卿だけが持っている。
枢機卿は、原則として司教の叙階を受けた聖職者の中から
教皇が自由に任命し、任期は設けられていない。
男性信徒であれば誰でも枢機卿に選ばれる資格がある
ことになってはいるが、
実際にはほとんどが大司教または司教から選ばれている。
女性には史上、教皇になる資格が与えられたことはない。
今まで、日本国籍保持者の枢機卿は7名いる。

枢機卿は緋色の聖職者服を身にまとう。
緋色は、信仰のためならいつでも進んで命を捧げるという
枢機卿の決意を表す色。
キリストの血を象徴する色、という説もある。

枢機卿は、13世紀初頭にはわずか7人しかなかったが、
その後、増員し、
現在では、
教皇選挙の有資格者は80歳未満の枢機卿に限り、
その人数は120人までという制限が設定されている。
映画の中では107人分の資料を作っている。

教皇の選出には、名前の発声など3つの方法があったが、
今では、投票による決定のみとされている。

投票は、
バチカン宮殿内のシスティーナ礼拝堂でおこなわれる。
1978年10月のコンクラーベまでは、
投票を行う枢機卿たちはシスティーナ礼拝堂内に閉じ込められ、
新教皇が選出されるまでは礼拝堂から出ることを禁じられていたが、
2005年からは変更され、
枢機卿団はシスティーナ礼拝堂に缶詰にされることはなく、
バチカンに新築されたサン・マルタ館という
5階建ての聖職者用宿舎で生活しながら、
システィーナ礼拝堂に投票に赴くようになった。
しかし、外部との接触を厳重に禁じられ、
新聞社やテレビ局などのマスコミと連絡を取ることの禁止はもちろん、
携帯電話は預けられ(取り上げられ)、
聖マルタ館の電話やインターネット回線が切断され、
聖マルタ館とシスティーナ礼拝堂には、
携帯電話使用や盗聴を防止するためのジャミングが流されるなど
電子的にも厳戒態勢がしかれている。

選挙当日の朝、
枢機卿団はサン・ピエトロ大聖堂に集まってミサをささげる。
午後、枢機卿たちはバチカン宮殿内のパウロ礼拝堂に集合して、
そこから聖霊の助けを願う歌である「ヴェニ・クレアトール」を歌って
システィーナ礼拝堂へと移動する。
現代ではこの行列はテレビ中継される。
礼拝堂に到着すると、
首席枢機卿の先導のもとに宣誓文がとなえられる。
宣誓の内容は、もし自分が選出された場合
聖座の自由を守ること、選挙の秘密を守ること、
投票において外部の圧力を受けないことである。
続いて枢機卿は一人ずつ福音書に手を置き、宣誓を行う。

宣誓が終わると、
教皇庁儀典長の「全員退去」の宣言とともに、
儀典長と講話を行う聖職者を除き、
枢機卿団以外は礼拝堂から退出する。
退出を見届けた儀典長は
入り口に進んで内側から鍵をかける。
テレビ中継はここで終わる。

続いて講話者が、残った枢機卿団に向かって
現代の教会が抱える問題と
新教皇に求められる資質についての講話をおこなう。
講話が終わると儀典長と講話者は退室し、
枢機卿たちだけが残る。

投票は所定の用紙に無記名で行われ、
手書きで推薦者を記入し、容器に入れる。
第1日目の午後、最初の投票が行われる。
この第1回の投票で決まらなかった場合、
2日目以降からは毎日午前2回、午後2回の計4回の投票が行われる。
3日目になっても決まらない場合は、
1日投票のない日が挟み、
祈りと助祭枢機卿の最年長者による講話がおこなわれる。
次に7回の投票がおこなわれて決まらない場合、
再び無投票の日が入り、
今度は司祭枢機卿の最年長者が講話をおこなう。
続く7回の投票によっても決まらない場合も、
同じようなプロセスが繰り返され、
今度は司教枢機卿の年長者が講話をおこなう。
更に7度の投票によっても決まらない場合は、
最後の投票で最多得票を得た
上位2名の候補者による決選投票に移行する。

時には、何日も何日も時間がかかることがあり、
「コンクラーベ」は日本語で「根競べ」と言われている。

それぞれの投票後には、
1枚ずつ名前が読み上げられ、
票の集計、数の検査の後、
投票用紙は串刺しにされ、焼却が行われる。
つまり、投票結果は神のみが知るものとなる。
用紙焼却は午前午後それぞれ2回目の投票後に行われ、
新教皇がまだ決まらない場合には、礼拝堂の煙突から黒い煙を出し、
新教皇が決まった場合には、白い煙を出して外部への合図とする。
過去には未決の場合湿らせたわらを混入し燃やして
黒い煙を出すようにしていたが、
黒とも白ともつかない灰色の煙が出て
情報が混乱したことがあったため、
明確に色付けする目的で、
黒煙の場合は過塩素酸カリウム・アントラセン・硫黄の化合物を、
白煙の場合は塩素酸カリウムや乳糖、松脂の混合物を
投票用紙に混ぜて燃やすようになり、
さらに2005年の教皇選挙からは、
新教皇が決まった場合、
白い煙が出た直後にサン・ピエトロ大聖堂の鐘を鳴らして
正式な合図とすることになった。

1179年までは投票者の過半数をとれば教皇に選出されていたが、
その後、投票の3分の2以上の得票を得ることが条件とされた。
教皇選挙では自分の名前を書くことは認められないが、
無記名投票のため、事実上はあり得る。
しかし、自分自身への投票を防ぐ巧みなシステムが作り上げられた。
つまり、必要な得票数を3分の2+1票と定めたのだ。

これらのシステムは、カトリック教会の歴史の中で
何世紀もかけて、
他国の干渉を防止し秘密を保持するため練り上げられてきたものである。       
投票によって、一人の枢機卿が必要な票数を獲得すると、
礼拝堂内に枢機卿団秘書と教皇庁儀典長が呼び入れられる。
首席枢機卿は候補者に対し、教皇位を受諾するかどうか尋ねる。
教皇に選出された者は、
就任時に自身の教皇名を自ら決める慣習になっている。

新教皇はあらかじめ用意されていた
3つのサイズ(誰が選出されるか分からないので、複数サイズを準備)の
白衣の中から自分の体に合うものを選んで身にまとう。
そこで枢機卿団が待機している礼拝堂に戻り、
カメルレンゴから、新しい「漁夫の指輪」を受け取り、
祭壇近くにすえられた椅子について
枢機卿団一人一人からの敬意の表明を受ける。

次に助祭枢機卿の最年長者が
サン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろすバルコニーに出て、
ラテン語で新教皇の決定を発表する。
そして新教皇がバルコニーにあらわれて、
「ウルビ・エト・オルビ」(Urbi et Orbi、「ローマと世界へ」の意)ではじまる
在位最初の祝福を与える。
かつて教皇は教皇冠を受けていたが、
ヨハネ・パウロ1世によってこの戴冠式は廃止されている。

コンクラーベを扱った映画は
「天使と悪魔」「ローマ法王になる日まで」
「2人のローマ教皇」など
多数ある。
今回のように、教皇選挙だけに絞った映画は初めて。

ローマを訪問した観光客は、
コンクラーベの開催期にぶつかると、
せっかくヴァチカン美術館を訪問しても、
システィーナ礼拝堂には入れず、
ミケランジェロの描く
「最後の審判」

も天井画も


見ることが出来ない。
という不運。

 


映画『TATAMI』

2025年03月14日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権
イラン代表のレイラ・ホセイニは順調に勝ち進み、
金メダル確実と思われていたが、
監督のマルヤム・ガンバリを通して、
イラン政府から棄権することを命じられる。
そのまま勝ち進むと、
敵対国イスラエルとの対戦が必至となっているからだ。
故郷に連絡すると、国に残した家族に危険が及んでいるようだ。
怪我を装って政府に服従するか、
自由と尊厳のために戦い続けるか、
レイラとガンバリは、人生最大の決断を迫られる・・・。

実話がベース。
2019年、日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件。
その時は男性選手だったが、
映画では女性選手に置き換えられている。

描写は、選手権会場が大部分で、
本国で応援する親戚たちの映像が挟まる。
トーナメントで勝ち進むレイラと
棄権を勧める監督。
強権を発動する当局と反旗を翻す選手。
監督は板挟みになる。
金メダルを祖国に持ち帰ろうとするレイラの希望を
政治的配慮が打ち砕く。
国家に背いたら、国に居場所がなくなる。
会場には、大使館員が潜入してきて、
圧力をかける。
大会運営側の国際柔道連盟も状況を察知し、
イラン政府の脅迫に対抗しようとする。
絶対絶命のシチュエーョンのスリリングな展開。
白黒、スタンダードの映像が
逆にリアル感を際立たせる。
レイラが柔道を始めるきっかけにもなった先輩が、
監督として参加しているガンバリだというのも微妙に影響しいている。

映画が作られた背景も目を引く。
イスラエル出身監督とイラン出身監督による合作なのだ。
「SKIN短編」(2018)でアカデミー賞短編実写映画賞を受賞した
イスラエル出身のガイ・ナッティヴと、
「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022)で
国際映画祭女優賞を受賞したザーラ・アミール
イスラエルとイランをルーツに持つ2人が映画で協力した。
ザーラは、監督のガンバリ役を演じている。

撮影は全て秘匿状態で行われ、
映画に参加したイラン出身者は全員亡命
当然ながら、イランでは、上映不可のまま。

スポーツと政治、個人と権力の関係、
人間の意思と尊厳を巡って、深い。
第80回ベネチア国際映画祭のブライアン賞を受賞し、
第36回東京国際映画祭のコンペティション部門で
審査委員特別賞最優秀女優賞(ザーラ・アミール)の2部門を受賞。

レイラ・ホセイニ役を演ずるのは、
アリエンヌ・マンディ


最後の試合では、
頭を覆っているヒジャブを外す。
象徴的な出来事である。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

 


映画『アノーラ』

2025年03月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ご存知、先のアカデミー賞
作品賞・監督賞・主演女優賞・オリジナル脚本賞・編集賞
主要5部門で受賞した「2024年度ベスト1の映画」。
カンヌ国際映画祭でもパルムドールを獲得。

ニューヨークでストリップダンサーをしている
“アニー”ことアノーラは、
客で来店した、同じロシア系の若者、イヴァンに気に入られる。
住いを訪ねてみると、
ものすごい豪邸。
実はロシアの財閥の御曹司だったのだ。
彼がロシアに帰るまでの7日間、
1万5千ドルで“契約彼女”になったアニーは、
パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごすが、
休暇の締めくくりに行ったラスベガスの教会で
衝動的に結婚してしまう。


しかし、息子が“娼婦”と結婚したと噂を聞いたロシアの両親
結婚を無しにすべく、男たちを送り込んできた。
酔って所在不明のイヴァンを探し回る最中、
イヴァンの両親がロシアから到着。
結婚無効の手続きは、
結婚した現地、ラスベガスでしか出来ないため、
一堂、チャーター機でラスベガスに乗り込むが・・・

前半、アノーラとバカ息子・イヴァンのご乱行は、
金まみれ、セックスまみれで、
観ていて苦痛だった。
しかし、後半、ロシア人たちが乗り込んで来ると、
俄然面白くなる
屈強な男たちに対抗して闘うアノーラが
けなげで、可愛く見えるからだ。
若い薄幸な女性が、
自らの幸せを勝ち取ろうと
全力で奮闘する等身大の生き様は共感できる。
ラストはほろ苦く、余韻がある。
周囲のロシア人たちや
アノーラのストリッパー仲間も
よく描かれている。

とにかく、後半は面白くて、時間を忘れる。
波乱万丈ノンストップの勢いで、
その勢いのまま、
アカデミー賞では5冠を獲得。
最近のアカデミー賞は、
「パラサイト」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」など、
勢いに乗ったものが勝ち、の傾向がある。
作品賞に必要な「品格」など、もはや誰も問題にしないらしい。
だから、これらの映画を作品賞に選んだ反省は
後からやって来るだろう。

アノーラを演ずるのは、映画の実績はそれほどない、
新人扱いのマイキー・マディソン


一生に一度巡って来るか分からない大役を見事に演じ切り、
アカデミー賞主演女優賞を勝ち取った。

監督のショーン・ベイカーは、一人で
オリジナル脚本賞・編集賞を含む4冠の離れ業。
つまり、この映画、
ショーン・ベイカーの才覚で成り立っている。
あの名作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017)の監督だから、
まぐれではないと分かる。

5段階評価の「4」

拡大上映中。