月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

さんぶん詩  ある家主   

2009-11-02 22:49:21 | 


あちらの乗り心地良い手のひらに転びこんでいたら、どのような眼の色をしていたか。残念ながら見えないようにできている。あのお方も、意地の悪いことをする。とはいえ、どちらに転んでも、さして変わりのないこと、やっていたのだろうさ。

この男、盗っ人。ランランと眼を光らせるのである。愚か者のひとつ覚えのように。覗き見厳禁の立札掲げて、妖術使いなどにも変身する。珍奇なことでもない。好き者がいるのである。腹に一物もって透かし見したがるのが。その方面に過剰に熱心なのが。棒切れを真珠に見立てたり、犬の死骸を美味なフルーツのごとく受け入れる奇特な者が。解りにくいことに、血が求めさせるのだとか。その言う魅惑含みの風景の中から、欲掻き立てるもの掠め取ってきて、ゆったりと腰据え、壁面に映しだしたりなどするのである。

ひとりいる隣人、不死のひと。となりの男の正体など知らないし興味もない。空気ほどにも見ていない。こちらは、世界がツンツルテンにできていると信じている。街などというのも、幻影。プラタナスもクルマもレズビアンバーも、言葉からしてありはしない。些かなりとも頭もたげるもの見えたりなどすれば、微かな指の動きひとつをもって、やんわり圧し去ってしまう。真っ平でなければならないのである。かなた、不変の地平線が彼の眼に映る。そのいかにも強情そうな面構え。とはいえ、当人は透明人のつもり。
白い壁を隔てて彼ら、となり合わせ。

                   *

家主がいて、盗っ人と不死のひと。共に白い壁乗り越えにかかるときまって、哀れにも異様なうめき声あげ、引き攣りを起こすのである。

                                1986

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