『ラスト、コーション 色|戒』
監督:アン・リー
出演:トニー・レオン、タン・ウェイ、ワン・リーホン
映画の公開初日に駆けつけるなんてことは、これまでなかったような・・・
諸事情により(笑)、初日に駆けつけることになったこの作品。
場内、ぎゅうぎゅう、熱気むんむん。トニー狙いか、ワン・リーホン狙いの人が多いに違いないと思っていたら、とんでもない。年齢層も幅広く、男性の割合も多く、男性はタン・ウェイちゃん狙い??
何しろ、過激なエロ描写の話題が先行していましたが、見終わると、「トニーが、トニーが・・・」と、うわ言のように出てくるかもしれません(笑)。いや、笑うところではなくて、緊迫感あふれる内容でした。
上映時間158分。当日の様子で何がおかしいって、観客がスクリーンの中で起こっている一挙手一投足を見逃しまいと、息を潜め、静まり返って鑑賞していたことでした。158分間身じろぎもせず、座席でじーーーっと 固まってしまいました。家に帰ったら、背中がバリバリ。
ストーリーが手に汗 握る展開というわけでもないのに、なぜにそんなに緊迫感があったのかと振り返ると、やはり登場人物自身が常に世間のプレッシャーの中で生きていて、現実と現実逃避の間を行き来するうちに激情の行き着く先がどこなのか不安になってくるからでしょうか。そして、彼らが何か言わんとする目を追っていくと、なんだか心理ゲーム状態に追い込まれたような気がしました。
映画の内容はここでは控えますが、これを「純愛」とか、そういうものでくくることはできなくて、何を、誰を信じていいのかわからない混乱の時代に、ただ2人が交わっている時間だけが異様に純粋に映って見えました。
あれだけ警戒心の強いイー(トニー・レオン)、なぜチアチー(タン・ウェイ)に心を許したのか、それも本当に心を許したのかさえよく分かりません。そして、チアチーの本当の心も一体どこにあるのかも。ただ錘のようなものが胸にずんと落ちてくるような話です。
個人的には、アン・リー監督の『いつか晴れた日に(原題:Sense and Sensibility)』という作品が好きなのですが、原作はジェーン・オースティン。もちろん、『ラスト、コーション』とは、時代も、国も、人物も、何もかも設定は異なるのですが、そこで描かれているのは完璧に抑圧された愛なのです。『ラスト~』とは、ものの見事に対極にある男女像で・・・。
『ラスト~』の原作はアイリーン・チャンの短編小説『色、戒』だそうで、両作品とも原作に力があり、かつアン・リー監督の手にかかるとさらに深みが増すという点は共通しているようです。
『ラスト~』が、ヴェネチア国際映画祭にてグランプリの金獅子賞を受賞した際、ブーイングも起こったという話も、興味深いですが、何に対するブーイングだったのでしょうか。