ピアノを弾く催しを数日後に控えているので
ここのところ、その備忘録が多くなっている。
ピアノを弾きながら何故か愛情と筋力って似てる(笑)と
考えていた。有ると疑わずに安心しているから
わざわざその事について考えたりしないけれど
いざ失えばその存在の偉大さや大切さがよくわかる。
人間は手術などで失血したりして体力を消耗した状態で
たった1日横たわっているだけで
立つ力を簡単に失ってしまう。
翌朝、直立すると体中の血液が下がり目が回って
簡単には立てない。歩行に慣れるのに1日かかる。
立っている事がこんなに大変な事なのかと感じる。
たとえば女性につきにくい腹筋。
腹筋が衰えるとふらつく。
腰が痛くなったりするし平衡感覚も鈍る。
バレエダンサーのように
まっすぐに美しく立つことを腹筋は手伝う。
ダンスも上手に踊れるし動きも機敏になる。
誰かや何らかの物事との間で
愛情や信頼が相互に行き来し
それが循環していると感じられる時は
無条件に心も身体も調子が良いものだ。
欧米の習慣であるハグっていいな、と思う。
子供が親に抱きしめられたり彼が彼女を、
彼女が彼を、友が友を抱きしめる事で
心身の不安は、少なからず解決するのだ。
そして上手く表現出来た演奏とはそんな風に
「愛情が循環している」状態を思わせる。
揺るがない何かに支えられているように。
演奏の感情表現は過剰過ぎてもいけないし
不足していてもいけないけど
感情表現的な起伏は演奏には不可欠だ。
演奏への疑いは緊張を呼ぶ。
しかし緊張なんて演奏には全く必要ないのだ。
必要なのはむしろ上手く弾けた演奏の
如実なイメージのほうだ。
今日はそんな事を切に感じた
発表会にむけての最終リハーサル録。
<23日:久々に教師A宅@桜上水>
彼女のピアノは数ヶ月前に以前の物と違う
NYスタインウェイのヴィンテージピアノに変わっていた。
前にちらっと触らせてもらって今回は2度目。
作曲家である現在レッスンを受けているB教師の前に
私はこのA教師に2年レッスンを受けていた。
本番の順番通りに3人ずつ部屋に入って練習をする。
今日一緒の2人の人と会うのは今回が初めて。
前回の催しの時には居なかった人たちだ。
現在A教師に習っている彼女達は今日弾くピアノに慣れている。
ちょっと触っておく?と言われ弾いてみる。
発表会のプログラムを手渡される。
私の順番は2部の10人中8番目。大トリは
「ガラスの仮面」の北島マヤを思わせる(笑)本番に
驚異的な実力を発揮する20代前半位の子。
彼女はリストを2曲弾くらしい。凄い…!
そして一部の最後にA教師のソロと連弾、
2部の最後にB教師のソロ演奏がある。
リハーサルの自分の演奏をMDに録音してもらった。
他の二人の曲を聴いてレベルの高さに絶句、、、
最初の人はドビュッシーの「アラベスクNO.1」
次の人はシューマンの謝肉祭OP90-2
大曲、しかも長い!私は3分40秒くらいだけど
彼女達の曲はいずれも5分だ。凄いなぁ、、、
自分の番になって、いざ曲を弾いて弾きながらビビる。
そしてリハーサルなのに緊張しまくる(苦笑)
このNYスタインウェイ、タッチも鳴り方も
B教師のピアノとも私のピアノとも全然違う、、、!
響きや鳴り方は部屋の広さも関係するけど
慣れないピアノをいきなり弾くとこうなってしまう
という典型的な例だった。私の今回の演奏は
割と繊細に仕上げてあって、その音の強弱を
初めて弾いたピアノで表現するのは極めて難しい事を実感する。
で、もう一回りしてみましょう、ということで2度目に弾く。
2度目はさすがに初回よりも随分表現が思い通りになった。
それでも手が空回りすることが多かった。
ただ本番のピアノはこれともまた違うのだ。
あまり微細に表現しすぎず
極端なピアニッシモは避けた方が良いかもしれない。
私が弾いているピアノとは表現力の幅がまるで違う事を感じた。
感情の起伏が繊細でいて激しいから扱いが難しい、、、!
その代わり上手く弾けた時の響きはすばらしい。
しかし会場のピアノがここまで弾き難くないことを願う・・・。
実は出来上がった演奏をA教師に今日
初めて聴いてもらったのだった。
「大人の演奏といった表現ですね」だそうで・・・
本番でこの雰囲気を
100%近く出せるといいのだけど!
<往年の巨匠ホロヴィッツの言葉>
『まず作曲家のすべてを学ぶことから始める。彼の全作品を弾いてみる。
アンサンブル用の曲もとにかく全部を弾く。レコードを聴くんじゃない。
自分で弾くのだ。私は初見の大家だからね。
全作品を弾くには、理由がある。曲の大小に関係なく、
そこにこめられた作曲家の気分は同じだ。
弾けば、その曲の持つ感情がわかる。その曲の本質が私に語りかけてくる。
つまり、持ち味がわかるのだ。ある作曲家は勇壮をこめ、
ある作曲家は詩的な思い入れをこめる。
自分で弾くのは、レコードには真実がないからだ。
それに、私はその作曲家のすべてを知ることにしている。
作曲家自身が書いた手紙を読む。時代柄、彼らはじつに
膨大な数の手紙を書いている。それを読めば、作曲家の性格、誠実さ、
好みがわかる。彼がほかにどんな音楽が好きで、
どんな音楽がきらいだったかもわかる。
手紙は本人の精神概念や音楽概念を知る手がかりだ。
その曲をはじめて弾くときは、ひたすら聴き、ひたすら考える。
そこになにかしら隠されたものがあるからだ。
音符を弾くだけでは、音楽ではない。その真になにがあり、
その曲にどんな感情があり、なにが潜められているか、
そこまで掘り下げなくてはだめなのだ。
だから、はじめて弾いた翌日、私はもう一
度その譜を読んでみる。そして、つぎの二日間はそのまま放っておく。
そして三日日にまた読んで、また二日放っておく。
五日がたち、六日がたつ。すると、いつしか自分が
その音楽に入りこんでいる。楽にすらすら弾けるのだ。
「弾いているときの私は、誰にも耳を貸さない。
私自身のレコードさえ聴かない。誰からも何からも影響されたくないのだ。
無意識に影響されるのさえいやだ。
選んだ曲には、いつも、初対面のような気持ちで接し、
受け止めていきたいのだ。弾いていて、
ひとつひとつの旋律がはっきり心に染みとおってくる曲、
そういう曲でなければ、私は弾けない。絶対に弾けない。
「思うに、演奏家にはある程度音楽家の本質がなくてはいけない。
質の良し悪しはともかく、これまでの偉大なピアニストたちは
決まって作曲もしている-一人残らずだ!
さらに、芸術にはもうひとつの面がある。
即興だよ。即興なら、私も二時間は弾ける。
私にとって、知性はつねにガイドだよ。決して演奏のゴールではない。
三位一体は必要でも、その中の一つだけが抜きん出ることはよろしくない。
知性は高すぎてもいけない。音楽家は学者ではないのだ。
感情過多もいけない。センチメンタルになってしまう。
テクニック一辺倒もだめだ。それでは機械と変わらなくなる。
ピアノを使って筋肉強化の体操をしているわけではないのだ。
(一部、略)
著者:ヘレン・エプスタイン 犬飼みずほ
『普段着の巨匠たち』より引用
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ここのところ、その備忘録が多くなっている。
ピアノを弾きながら何故か愛情と筋力って似てる(笑)と
考えていた。有ると疑わずに安心しているから
わざわざその事について考えたりしないけれど
いざ失えばその存在の偉大さや大切さがよくわかる。
人間は手術などで失血したりして体力を消耗した状態で
たった1日横たわっているだけで
立つ力を簡単に失ってしまう。
翌朝、直立すると体中の血液が下がり目が回って
簡単には立てない。歩行に慣れるのに1日かかる。
立っている事がこんなに大変な事なのかと感じる。
たとえば女性につきにくい腹筋。
腹筋が衰えるとふらつく。
腰が痛くなったりするし平衡感覚も鈍る。
バレエダンサーのように
まっすぐに美しく立つことを腹筋は手伝う。
ダンスも上手に踊れるし動きも機敏になる。
誰かや何らかの物事との間で
愛情や信頼が相互に行き来し
それが循環していると感じられる時は
無条件に心も身体も調子が良いものだ。
欧米の習慣であるハグっていいな、と思う。
子供が親に抱きしめられたり彼が彼女を、
彼女が彼を、友が友を抱きしめる事で
心身の不安は、少なからず解決するのだ。
そして上手く表現出来た演奏とはそんな風に
「愛情が循環している」状態を思わせる。
揺るがない何かに支えられているように。
演奏の感情表現は過剰過ぎてもいけないし
不足していてもいけないけど
感情表現的な起伏は演奏には不可欠だ。
演奏への疑いは緊張を呼ぶ。
しかし緊張なんて演奏には全く必要ないのだ。
必要なのはむしろ上手く弾けた演奏の
如実なイメージのほうだ。
今日はそんな事を切に感じた
発表会にむけての最終リハーサル録。
<23日:久々に教師A宅@桜上水>
彼女のピアノは数ヶ月前に以前の物と違う
NYスタインウェイのヴィンテージピアノに変わっていた。
前にちらっと触らせてもらって今回は2度目。
作曲家である現在レッスンを受けているB教師の前に
私はこのA教師に2年レッスンを受けていた。
本番の順番通りに3人ずつ部屋に入って練習をする。
今日一緒の2人の人と会うのは今回が初めて。
前回の催しの時には居なかった人たちだ。
現在A教師に習っている彼女達は今日弾くピアノに慣れている。
ちょっと触っておく?と言われ弾いてみる。
発表会のプログラムを手渡される。
私の順番は2部の10人中8番目。大トリは
「ガラスの仮面」の北島マヤを思わせる(笑)本番に
驚異的な実力を発揮する20代前半位の子。
彼女はリストを2曲弾くらしい。凄い…!
そして一部の最後にA教師のソロと連弾、
2部の最後にB教師のソロ演奏がある。
リハーサルの自分の演奏をMDに録音してもらった。
他の二人の曲を聴いてレベルの高さに絶句、、、
最初の人はドビュッシーの「アラベスクNO.1」
次の人はシューマンの謝肉祭OP90-2
大曲、しかも長い!私は3分40秒くらいだけど
彼女達の曲はいずれも5分だ。凄いなぁ、、、
自分の番になって、いざ曲を弾いて弾きながらビビる。
そしてリハーサルなのに緊張しまくる(苦笑)
このNYスタインウェイ、タッチも鳴り方も
B教師のピアノとも私のピアノとも全然違う、、、!
響きや鳴り方は部屋の広さも関係するけど
慣れないピアノをいきなり弾くとこうなってしまう
という典型的な例だった。私の今回の演奏は
割と繊細に仕上げてあって、その音の強弱を
初めて弾いたピアノで表現するのは極めて難しい事を実感する。
で、もう一回りしてみましょう、ということで2度目に弾く。
2度目はさすがに初回よりも随分表現が思い通りになった。
それでも手が空回りすることが多かった。
ただ本番のピアノはこれともまた違うのだ。
あまり微細に表現しすぎず
極端なピアニッシモは避けた方が良いかもしれない。
私が弾いているピアノとは表現力の幅がまるで違う事を感じた。
感情の起伏が繊細でいて激しいから扱いが難しい、、、!
その代わり上手く弾けた時の響きはすばらしい。
しかし会場のピアノがここまで弾き難くないことを願う・・・。
実は出来上がった演奏をA教師に今日
初めて聴いてもらったのだった。
「大人の演奏といった表現ですね」だそうで・・・
本番でこの雰囲気を
100%近く出せるといいのだけど!
<往年の巨匠ホロヴィッツの言葉>
『まず作曲家のすべてを学ぶことから始める。彼の全作品を弾いてみる。
アンサンブル用の曲もとにかく全部を弾く。レコードを聴くんじゃない。
自分で弾くのだ。私は初見の大家だからね。
全作品を弾くには、理由がある。曲の大小に関係なく、
そこにこめられた作曲家の気分は同じだ。
弾けば、その曲の持つ感情がわかる。その曲の本質が私に語りかけてくる。
つまり、持ち味がわかるのだ。ある作曲家は勇壮をこめ、
ある作曲家は詩的な思い入れをこめる。
自分で弾くのは、レコードには真実がないからだ。
それに、私はその作曲家のすべてを知ることにしている。
作曲家自身が書いた手紙を読む。時代柄、彼らはじつに
膨大な数の手紙を書いている。それを読めば、作曲家の性格、誠実さ、
好みがわかる。彼がほかにどんな音楽が好きで、
どんな音楽がきらいだったかもわかる。
手紙は本人の精神概念や音楽概念を知る手がかりだ。
その曲をはじめて弾くときは、ひたすら聴き、ひたすら考える。
そこになにかしら隠されたものがあるからだ。
音符を弾くだけでは、音楽ではない。その真になにがあり、
その曲にどんな感情があり、なにが潜められているか、
そこまで掘り下げなくてはだめなのだ。
だから、はじめて弾いた翌日、私はもう一
度その譜を読んでみる。そして、つぎの二日間はそのまま放っておく。
そして三日日にまた読んで、また二日放っておく。
五日がたち、六日がたつ。すると、いつしか自分が
その音楽に入りこんでいる。楽にすらすら弾けるのだ。
「弾いているときの私は、誰にも耳を貸さない。
私自身のレコードさえ聴かない。誰からも何からも影響されたくないのだ。
無意識に影響されるのさえいやだ。
選んだ曲には、いつも、初対面のような気持ちで接し、
受け止めていきたいのだ。弾いていて、
ひとつひとつの旋律がはっきり心に染みとおってくる曲、
そういう曲でなければ、私は弾けない。絶対に弾けない。
「思うに、演奏家にはある程度音楽家の本質がなくてはいけない。
質の良し悪しはともかく、これまでの偉大なピアニストたちは
決まって作曲もしている-一人残らずだ!
さらに、芸術にはもうひとつの面がある。
即興だよ。即興なら、私も二時間は弾ける。
私にとって、知性はつねにガイドだよ。決して演奏のゴールではない。
三位一体は必要でも、その中の一つだけが抜きん出ることはよろしくない。
知性は高すぎてもいけない。音楽家は学者ではないのだ。
感情過多もいけない。センチメンタルになってしまう。
テクニック一辺倒もだめだ。それでは機械と変わらなくなる。
ピアノを使って筋肉強化の体操をしているわけではないのだ。
(一部、略)
著者:ヘレン・エプスタイン 犬飼みずほ
『普段着の巨匠たち』より引用
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