報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

ドル支配の起源

2006年04月10日 13時33分23秒 | ■ドル・ユーロ・円
第二次大戦中、アメリカ政府はあることでひどく頭を痛めていた。
ゼロ戦やヒトラーの秘密兵器よりもこちらの方が大きな問題だった。

「完全雇用」だ。
戦後のアメリカでどのようにして「完全雇用」を確保するかについて、戦争中からアメリカの政府首脳は悩んでいた。

戦争が終われば、アメリカの生産規模は縮小せざるを得ない。そうなれば多量の失業者が出る。そこへ戦場から兵士も帰還してくる。アメリカ中に失業者があふれることになる。

たとえ戦争に勝っても、多量の失業者を出せば、アメリカ国内は社会不安におちいり、社会は左傾化に向う。アメリカ政府は、それをひどく恐れた。戦後も、生産規模や農業生産を縮小せず完全雇用を確保しなければならないと考えた。

つまり、戦後の世界を、アメリカの余剰生産物の市場としなければならなかったのだ。

戦前、ドル経済圏とポンド経済圏はしのぎを削っていた。戦争が終結し、イギリスが復興すれば、必然的にポンド経済圏は復活してしまう。このポンド経済圏を丸ごと奪う必要があった。アメリカはその方法を考えなければならなかった。

アメリカの結論は、戦後の貿易通貨をドルに限定すること、そして英ポンドから競争力を奪うことだった。

そのために考え出されたのが、IMF(国際通貨基金)と世界銀行の設立だった。(1944年ブレトンウッズで協議、1947年正式発足)

アメリカはIMFを使って、ドルを戦後の貿易通貨と決めた(ドル金本位制)。そして世界の通貨の為替レートを高めに固定し、他国の通貨の競争力をあらかじめ奪ってしまった(通貨の固定相場制)。

アメリカは、IMFによるドル金本位制と通貨の固定相場制を世界に承諾させるエサとして、世界銀行による経済援助を用意した。単純に言ってしまえば、たったこれだけのことで、アメリカはポンド経済圏を奪ってしまった。そして最終的にドルは世界を支配することになる。

「完全雇用」を国民に提供しなければならないというアメリカ政府の強迫観念が、今日のドル支配の構造の起源だ。1930年代のアメリカは大恐慌の影響で失業率が25%に達していた。しかし、第二次世界大戦が雇用状況を一気に改善した。アメリカ政府が、戦後もその雇用を維持したいと考えたのはごく自然なことかもしれない。

かたや戦争で廃墟と化したヨーロッパ諸国は、「完全雇用」どころの話しではなかった。アメリカの差し出したエサに見事に食らいついてしまった。ヨーロッパがほんの少し慎重であれば、戦後史は少し違ったものになっていただろう。