“菜の花畑” には、昔むかしに受けたトラウマ(精神的外傷)がある。
小学校の一年生か二年生のときだった。 わたしは、 「なのはなばたけ」 を正しいアクセントで発音できなかったのだ。
菜の花(なのはな) は、最初の「な」にアクセントがある。
花畑(はなばたけ) は、「なば」にアクセントがある。
ところが、菜の花畑(なのはなばたけ) は普通、「のはなば」にアクセントがある。
それをわたしは、「なのはなばたけ」 と、「な」と「たけ」にアクセントをおいて言ってしまったのだと思う。 (この辺はよく憶えていない)
トラウマというのは、それを担任の先生に何回か言い直しさせられたことである。 クラス全員の前で・・・。
K先生という、まだ若い女性の先生だった(と思う)。 わたしの発音がおかしいと感じた先生は、正しい発音をみずから声に出して例示し、
「さあ、余白クン、もういちど言ってみなさい」
といった。
わたしはそのアクセントの違いを理解できた。 しかし、実際に声に出してみると、理解した通りにはならなかった。
先生は単に教育熱心なだけだったのだと思う。 あきらめず、 「もういちど」 とわたしに繰り返させた。 わたしは、またできなかった。
それを三回ほど繰り返したあと、 (どうしてできないんだろう) とでも言うように先生は首をかしげ、わたしへの指導をあきらめた。
そのときの自分に対するもどかしさと焦り、皆の前で言わされる恥ずかしさ、さらには屈辱感のようなものを、わたしは半世紀の余を経た今も忘れることができないでいる。
♪ 菜の花畑に 入り日うすれ
見わたす山の端 霞ふかし
童謡「おぼろ月夜」 の一節である。
ここでは 「♪ なのは~な ばたけえに」 の「なの」と「たけ」にアクセントがある。 わたしは当時、この曲の音感にひきづられていたのかもしれない。 いや、そうだったことにしておこう。
2009.4.1