二条河原の楽書

京都サンガF.C.を中心にJリーグを楽な感じで綴るサッカー忘備録(予定)

ドット ツカレタ…

2015-06-05 | 蹴球


奥川 雅也選手 FCレッドブル・ザルツブルクへ完全移籍のお知らせ
 ユースから上がって1年目の奥川雅也の移籍が発表された。この移籍が「再燃」して報じられたのが今週月曜(6月1日)。そこから4日後のことなのでまさに電光石火!急転直下!で決まったように見えるけれども、そこはまぁ、水面下で大人の話が続いていたということで…。

■世界から値段がつくほどの才能
「再燃報道」があった時点で、この移籍について何か自分の考えを書こうとして、まず久保裕也の事例を改めて調べ直してみた。文章を書き進めるうち、どうも気が進まなくなった。結局は祖母井元GMの「真実は言えないことがある」「裕也のことは、100%のことは言えない。彼には将来がある」という含みのある発言からいろいろ察するほかない。
 ともあれ、奥川はオーストリアに移籍することになった。奥川ははとても才能のある選手だ。何が凄いって、まだプロレベルで何の実績もないのに世界市場から値段が付くほど才能に将来性があると見込まれているのだ。だから、その才能をぜひとも広い天地で羽ばたかせてほしいと思う。拙者は、若いうちに海外挑戦することは基本的には賛成の立場。短い人生、飛び立てるチャンスがあれば飛び立てばいいと思う。
 ただし、奥川はまだプロのスピードや圧力の中でその豊かな才能やセンスを発揮できていない。国内での実績もほとんどないこの段階で海外挑戦して、ストレートに成功した例もまだ知らない(若くしてアトレティコ・マドリー下部組織に属して、紆余曲折を経て現在独特な解説者として特異な境地を切り拓いている方なら知っている)。才能に「心技体」が追いつかないうちは苦しいと思う。けれど決断したからには挑み続けてほしい。退路を断ってサッカーに没頭してほしい。ただし、その「値段がつくほどの才能」を利用しようとする大人もたくさん出てくると思うので、そこだけには気をつけてほしい。


■問われるクラブの姿勢
 こうして奥川移籍が発表されたことで、ひとつ透けて見えてきたことがある。それは、移籍することがわかっていた奥川を“あえて”トップチームで使っていたことの理由…あるいは、このクラブの姿勢だ。
 前述の通り奥川はまだプロレベルで才能を出しきれる段階にない。同じポジションで使える山瀬功治や佐々木勇人は間違いなく奥川よりも戦力として計算できるし、ここ最近J-22に招集されている石田雅俊だって現時点の奥川よりはプロレベルに近いはず。奥川を「未来のエース」と考えているから経験を積ませている…ってことならば積極起用はもちろん理解できるし、喜ばしいこと。だが、将来存在しない選手、それも戦力として必要不可欠な存在でもない選手を起用していたことは、まったく論理的ではない。でも例えば、奥川のマーケットバリューを上げるために起用を望む者がいて、その意に沿ったという仮説に従えば、それは極めて論理的になる。選手を高く売ることだって、経営的観点からみればある意味「正義」なのだ。
 久保裕也の時は、(公表はされていないが)ヤングボーイズに移籍して京都へのレンタル選手となった2012年7月以降、大木武監督は久保をチーム作りの中心から外した。当然のことだ。久保を主軸にしてもチームとして将来の糧にはならない。同じように、奥川を起用していたことは半年後、1年後のチームに何のプラスにもならない。有望な若手を出場させてファンを喜ばせるため?…もしもそういう温情理由だとすれば、それが一番得るものが少ない。むしろマーケットバリューを上げるためと言う方が「経営面」からみれば、すがすがしい。
 理由はどうであれ今回の移籍によって、選手起用などチーム戦術に関わる部分に大人の事情が介在することが透けてみえてきた。思うに、人の好い和田監督も、フロント経験の少ない野口強化部長も、さぞかし扱いやすくて都合のいい存在なのだろう。今年京都サンガF.C.というクラブがかつてないほどに低迷している原因もまた、純粋にチーム強化の青写真を描けていないクラブの姿勢にあるのではなかろうか。
 未来ある有為な若者たちにとってトップチームが自らの才能を発揮したいと思える場所になってほしい。憧れのサッカーがそこにあってほしい。少なくとも、今現在このクラブの将来は明るく見通せない。残念なことだ。少し考えるだけで、どっと疲れてくる。