京都サンガF.C.○2-1●アビスパ福岡
56'原一樹
64'原一樹
69'坂田大輔
■広いサッカーと狭いサッカー
山瀬功治と駒井善成をサイドに出す布陣に変えてから、ピッチを広く使うようになったと評判の大木サンガ。ワイドに開くボールと縦に長いロングボールを織り交ぜることで、ハマれば縦横無尽にボールが動き、相手をもれなく守勢に回らせる。一方で、今までやっていた“狭い”サッカーにも、狭いなりの利点はあったはずだ。このゲームの前半はむしろ「ああ、あのクローズの距離感だったらなぁ」と思うことが多かった。
プシュニク福岡は、相変わらずのタイトなプレスで今日もまた球際では激しく寄せてきた。ところが京都は奪われたとしても工藤浩平や秋本倫孝あたりが即座にボールを引っかけて奪い返せた。そこまではいい。奪えたはずのボールを自分たちのものにできないまま、再び相手の足元に行ってしまうのは、選手間の距離感が広いことと無関係ではないだろう。去年までなら、奪った瞬間に近くに味方がいるので2、3度ショートパスを繋いで一気に攻撃へのスイッチを切り替えられたが、今はそうはいかない。また選手間の距離が遠いことは、よりパスの強さと精度が求められる訳で、パスを上手く繋ぎきれない部分も散見した。
両チームともボールを落ち着かせられずガチャガチャとした展開になりかけたが、それでも京都には「攻撃のスイッチ」を持っていた選手がいた。横谷繁だ。
■大人のサッカー
横谷はボールを受けてから前を向ける。マークが付いていてもそれができるのだが、この試合の横谷は相手がいない場所にスルスルっと入って受ける嗅覚に優れていた。横谷に入ればゴーサイン。このことはプシュニクも気づいていただろう。それでも横谷に自由を与えたことが、この試合の肝だった。横谷がタメて、原一樹が飛び出す。原は三平和司とは違って基点になるタイプではなく、最後に決めるプレイヤー。横谷はその本質を見抜いていた。
ただし、福岡側の問題の方が大きかったかもしれない。後半になってからどうもチーム全体が冷静さを欠き、焦りからのミスパスが目立っていたのだ。これはピッチ脇でやたらと審判団の判定にエキサイトしていたプシュニク監督の仕草そのものだ。指揮官の振る舞い同様に子供っぽい感情的なプレーに走った福岡と対照的に、京都は選手交代によってどんどんと大人のチームに変身していく。特に76分以降の布陣(下記)は実に大人度が高かった。
山瀬
中山 工藤 駒井
田森 秋本
福岡も1点を返してからは冷静さを取り戻していたにもかかわらず、慌てず騒がず黙々と押し続けた試合運びには久々に唸った。特に87分あたり、中山博貴が前線からプレスをかけるや、猛然と背後から工藤が二の矢を放つように奪いにかかった場面。最もキツい時間帯にこの姿勢を見せることが味方を鼓舞し、相手の士気を幾ばくか挫いたのではなかろうか。
比較的経験の浅い中村祐哉が入って流れが変わらないかと少し心配したものの、それも杞憂だった。彼もまたその時間帯でどのプレーが相手にとって一番嫌な選択なのかを理解していた。派手さはないが、〆に美味い茶漬けでもいただいたような、そんなゲームだった。
〈京右衛門的採点〉
オ 6.5 …前半終了前に相手との1対1の大ピンチを足でストップ。1~2点は防いだ。
安藤 6.0 …タックルに次ぐタックルでDFらしい働き。パス精度はやや悪かった。
酒井 6.5 …相手のスルーをカットし、裏抜けも止めてしまうカバー力の高さを見せた。
バヤリッツァ 5.5 …前への強さは◎だが、ウオッチャーになる場面、気が抜ける場面も。
福村 6.5 …相手へタイトに寄せ、奪ってからの攻撃参加も厭わず。よい出来。
秋本 7.0 …ボールを拾いまくって主導権を引き込んだ立役者。効果的な攻撃参加も多かった。
工藤 7.0 …絶妙のバランス感覚で守備網を張り、忍者のように背後から飛び出した。
横谷 6.5 …ボールを受けて守→攻に変化させる働き。単純なミスも多いのは残念。
駒井 6.5 …サイドに張ってドリブル勝負。中に絞って守備と躍動。あとは結果だけ。
山瀬 6.5 …時間の経過とともに相手の隙を衝くプレーをみせる。原の使い方も慣れたか?
原 6.5 …徹底して裏狙い、相手のギャップ狙い。ブレずにキッチリ2点を仕上げた。
---------
中山 6.5 …猟犬のように球際に激しく追い回し、傾きかけた相手への流れを寸断。
田森 6.5 …とにかくカバーが速く、冷静沈着な守備。福村とのポジションチェンジもスムーズ。
中村 6.0 …短い時間でも、仕掛け&キープで持ち味を発揮。攻撃的な逃げ切りを完遂。
---------
大木監督 6.5 …狙い通りの原1トップに、大人なゲーム運びでの逃げきり。今までにない采配。