二条河原の楽書

京都サンガF.C.を中心にJリーグを楽な感じで綴るサッカー忘備録(予定)

極私的大木サッカーまとめ

2013-12-28 | 蹴球
3年間にわたり京都サンガF.C.の指揮を執った大木武監督が退任した。
結果はともかく、個人的にはとてもとても楽しませてもらった。
せっかくなので、3年間の雑感をまとめておきたいと思う。(だらだら長いのであしからず)


■大木サッカーとは?
「即断」「即決」。――大木サッカーをひと言で表すならば、拙者はこんなふうに表現してみたい。この3年間、メディア等で京都のサッカーを形容する時によく使われたのは「パスサッカー」、「狭い」「クローズ」などなど。しかしそんなレッテルを貼ってしまうと、大木サッカーの本質を見失ってしまうんじゃないか、と思うのである。

祖母井GMをして「今まで見たことないような」と言わしめた特殊性とは何だったのか。その根底には、システムに頼ろうとしない個々の「即断」の連続、縛りのない自主性に最大の特徴があった、と考える。


■選択肢の多いサッカー
例えば、10の選択肢がある状況と、選択肢が2つに絞られた状況。どちらが判断スピードを速めることができるだろうか?―それはもちろん2択の方。選択肢を絞って業務を扶くために、「役割分担」や「決め事」というものは存在する。会社組織でもそうだし、サッカーでもそう。システマチックになればなるほど個人の選択肢や裁量は少なくなって、その分、業務に専念しやすい。

ところが、大木サッカーは役割(ポジション)を分担するのではなく共有し、決め事も少なかった。「サッカーに同じ場面は1つとしてなく、刻一刻と状況は変わるのだから、個々で判断せよ」という考え方。仕事に担当者を付けずに、その時一番素早く対応できる人がやってしまおう、ということだ。サッカーでは「トータルフットボール」と呼ばれ、その源流はヨハン・クライフのいた頃のオランダ代表に遡る。そして一歩間違えば、個々の裁量任せのアドリブサッカーになる。


■大木サッカーの理論
大木式トータルフットボールは、守備から始まる。発動点はごくシンプルなので、その時点での「即断」は難しくはない。原理原則は、

“ボールの一番近くにいる者が、当たりにいく”

ということ。いわゆるボールへのアプローチ、ファーストコンタクト。その際、ポジションを崩しても構わない。2番目に近い人は、次を予測して「囲む」「奪う」または「受ける」ためのフォローに入る。空いたポジションは誰かが埋める。それを同時多発的に起こせば相手を常に先回りできるが、どこかが遅れるとズレが生じて守備に「穴」が空いてしまう。

そこでフォローの動きを有効にするため、守備の網は狭めてしまおう。奪ったボール持ち出すためにその網を伝ってポンポンとパスで繋いでいこう。――理論上はこれで「奪う→攻撃」がスムーズに連動してゆくことになる。実際上手くハマた時は、「次々に人が湧いてくる」(by岡山・影山雅永監督)状態を見せてくれた。
2012年5月20日第15節岡山戦後の影山監督コメント
「ただ、京都のボールポゼッションは素晴らしいですね。このリーグの中でも屈指、独特のポゼッションの仕方ですが、非常に流動的で、次々に人が湧いてくる、そして正確ということで、後手を踏んでしまう時間帯もあったかなと。」


■1年目の錯誤
GKまで含めた11人が各自で判断を下し、適切なフォローを重ねないと破綻してしまう大木サッカーは、それはそれは難しいチャレンジの連続だった。1年目・2011年はまさに試行錯誤。「このサッカーでは、どう動けばいいの?」という状態から始まって、トライアル&エラーで各自が大木哲学を消化することに丸1年を費した。大木サンガ史に刻むべき出来事としては安藤淳のDF化。司令塔タイプだった安藤淳を3バックの1角に入れて、「守→攻」を体現者たらしめたことだろう。安藤はその後サイドバックとして京都に欠かせない存在となるが、それはただ単に苦しい台所事情ゆえの副産物だったのかもしれない。

1年目終盤の快進撃は、アグレッシブな球際への寄せに対して迷いがなくなったことの賜物。攻撃面でも高校3年生久保裕也にはまだ迷いがなく、猪突猛進のドゥトラともども敵陣を突き崩すだけの迫力と破壊力があった。一方で守備面の連動は未成熟で、森下俊の走力頼りな部分も大きく、リスキーだった。3年間で一番攻撃力があったのは、この頃に違いない。


■2年目の障壁
2年目2012年を総括するならば「走りきる術を覚えた年」。体力的にどれだけ走れても、走るべき方向がわからなければ走れない訳で、どうにか各自が判断を下しながら走れるようになった。と同時に「即断」する難しさにも直面する。ぶち当たった壁は「固めてきた相手を崩せない」こと。相手が守備に人数を割けばパスコースが減るのは自明だが、そんな状況でも「即断」しなければならない。そこで何が起こったかといえば、拙速なルート選択。安易なルートにパスを回避させて、ボールは回るけれども前に進まないという状態に陥った。この悪癖は、終始大木サッカーにつきまとう。

攻撃の手詰まり感を打開すべく導き出された結論が0トップだ。確かにストライカーを置かないことで、攻めの選択肢は多彩になった。この布陣の中では中村充孝という異才が輝く。ところが充孝の存在感が増すごとに「とりあえず充孝に出しとこう」的な暗黙の判断基準が生まれ、攻撃のアイデアは充孝次第、充孝の調子がチームの出来を左右するような状態に。緩い相手には充孝を中心に攻撃のアイデア豊富だったが、時間とスペースを削ってくる相手には思考が硬直化してしまう――これもまた、大木監督が最後まで向き合うことになった壁となった。


■3年目の破綻
一方、守備での即断力は3年目である程度実を結んだといえる。密集しすぎて逆サイドに大穴を空けることも減り、ファーストコンタクト→フォロー&カバーという守り方は成熟した。開幕戦(vsガンバ3-3△)と第2節(△0-0vs東京V)は激しい守備がそのまま反転攻撃に繋がり、「これはモノが違うんじゃないか!?」と唸ったほど。ただし陣形を崩してまで奪い取る守備がそのまま攻撃力・得点力には結び付くことは少なく、リスクを抱える割にはリターンは少なかった。

前線はまたもシーズン開始から試行錯誤。ようやく21節栃木戦にして3トップ(実質1トップ)にたどり着き、翌第22節東京V戦(0-5○)では大木サッカーの金字塔といえるゲームを見せた。だがサッカーは相手がいるスポーツ。対策を講じられると好調は長続きせず、低迷→連敗の道をさまよい、30節の岡山戦(●2-4)の大敗を迎える。この試合で大木サッカーは一旦破綻したと、個人的には考えている。


■大木サッカーに足りなかったもの
8月、選手たちは「判断力」を失っていた。即断の連続どころか「どう動けばいいの?」という段階まで戻っていた。建て直す方法はは3つほど(補強・解任・改造)あったと思うが、荒療治は避け、倉貫一毅を処方箋として体内に浸透させてゆるやかに回復基調に戻してゆく。この過程で横谷繁が1トップ(実質0トップ)に収まったことは、大木監督が残した最後の軍学とでもいうべきか。敵陣で身体を張れるMF横谷が最前線でタメながら援軍を待ち、そこに後詰めを突っ込ませて引いた相手を崩す。横谷を「偽の1トップ」にしておくことで敵のマークを幻惑する。横谷を戦術的犠牲にしつつ運動量をセーブしながら、後半勝負。――悪い言い方をすれば騙し騙しで攻撃を成立させ、守りに比重を置きながら勝ち星を拾っていった。

拙者は天皇杯の鹿島戦(2-1●)の戦評に、こんなことを書いた。
「序盤に工藤浩平が絶好機を外したシーンなど、数少ないながら相手を追い詰めるシーンもあった。きっちり獲物を仕留められるか仕留められないかもJ1とJ2の個の力差かもしれない。そうした「差」は痛感しつつも、組織として互角以上に戦えたことはポジティブに捉えていい。」

大木監督は、最後の試合となったプレーオフ決勝・徳島戦後にこう述べている
「勝負を決める場面で、今日の試合もそうですが、力をつけさせてあげることはできませんでした。そのあたり、特効薬は無いと思いますので(略)」

やはり攻撃型大木サッカーは岡山戦で破綻していたと思う。一方でプレーオフ準決勝・長崎戦のような超現実的サッカーは大木サッカーの新境地だった。もしどこかの段階で2つの大木サッカーを上手く併用していく柔軟さがあれば、また違ったのかもしれない。そして最後の最後で、自らが最も自信のあるサッカーにこだわった指揮官の気持ちは痛いほどかわる。その信念の貫きっぷりこそが大木監督最大の魅力であったと思うし、最大の欠点でもあった。


■大木サッカーの遺産
大木サッカーはシステムに頼らなかった。とにかく人間の能力を信用し、その場での「即断」によってチームは動いた。攻撃的に戦おうが守備的に戦おうが、それぞれがその都度思考し、決して他人任せにすることなく、一人ひとりが小さな司令官として判断を下しながら走った。体力以上に脳を使うサッカーだったと思う。脳が疲れた時に、マークを外したり、プレゼントパスをしたり、人間らしいミスをした。そんな失敗も含めて財産だ。それぞれの思いがバッチリ噛み合った時の躍動感は「サッカーってこんなに面白いんだ!」と見る者を悦楽の境地に誘った。

昨今、「普通」という言葉が不思議な重みを持つ形容詞として歓迎されている。「普通においしい」「普通に好き」という響きに「very」と同様の価値を見いだす世代もいるという。個人的には普通とか平凡とかオーソドックスって言葉にまったく魅力は感じない。欠点があっても突出した個性があった方が面白いと思うのだ。

大木サッカーは「普通」ではなかった。極めて個性的だった。「京都のサッカーといえば?」と問われて答えが出せるようなスタイルが確立したことは大きな功績だ。その答えが「パスをつなぐ」でも「よく走る」でも「何となく特殊」でもいい。個性があるゆえにこうしていろいろ論評するに価するチームになった。新しい監督でどんなサッカーになるかはわからないが、勝てば何でもいい、ってサッカーにだけは戻ってほしくない。キャラの立っているサッカーを続けてほしい。

大木サッカーという魅惑に毒されてしまった一人として、そんなことを願う。



〈京右衛門的ベストゲームセレクション5〉

2011年 38節 vs岐阜
→好守が流動的に噛み合い、凄まじい攻撃力。いいお手本のような試合。

2011年 天皇杯準決勝 vs横浜M
→とにかく勢い。ミスまでも魅力的に映った。うまい酒が呑めそうな試合。

2012年 J2第37節 vs徳島
→肉を切らせて骨を断つ。攻撃バカが泣いて喜ぶ真骨頂のような試合。

2013年 第1節 vsG大阪
→勇猛プレスと果敢な攻撃が表裏一体に躍動。個人的ベスト1の試合。

2013年 第22節 vs東京V
→豊富な攻撃パターンと締めの確実さ。最も進化が感じられた試合。






2013 J1昇格プレーオフ決勝 京都vs徳島

2013-12-08 | 蹴球

京都サンガF.C.●0-2○徳島ヴォルティス
           39'千代反田充
           43'津田知宏


■30分
 序盤から高い位置からのプレス、速い寄せを仕掛けて完全にペースを握った京都。徳島の2トップさえ自陣に貼り付かせるほど圧力をかけ続けた優勢は30分を越え、38分まで続いた。完璧な出来だった、ように見えた。だがこの圧倒的に支配した30分で得点は奪えず。30分というのは、徳島が相手の出方を把握しきるのに要すると思われる時間だ。奪い取れないまでも、徳島にダメージを与えるほどの一撃を打ち込めなかった。36分のバヤリッツァのヘッドが決まっていれば、試合は別のものになっただろう。
 耐えた徳島の先制点は、CKから千代反田充の一撃。秋本倫孝が千代反田のの急ターンに付いて行けなかったのが直接の敗因だが、その直前CKになってしまった場面が気になった。エリア内に放り込まれたボールをバヤリッツァがクリアし、こぼれ球を福村貴幸が慌ててCKにしてしまった。福村がもう少し落ち着いていれば、そのまま前に繋げたかもしれない。少なくともサイドラインの方にクリアはできたはず。自分たちのペースだった中で小さな「慌て」が綻びになってしまったことが悔やまれる。

■ゲーム運びの明暗
 徳島は京都の攻勢を凌ぎ、セットプレーから奪って、さらにディフェンスラインの癖(マーカーがズレながら対応していく時の安藤の絞りの遅さ)を突いたカウンターから追加点。もうこれ以上ないような展開だったが、さらにダメを押すように巧みだったのは、後半頭からの試合運び。攻める必要がある京都の機先を制して逆に攻勢に出て京都を慌てさせた。
 逆にその段階で手を打てなかったのは京都の大きなミス。前半通りやれば「38分までの良さ」を発揮できると考えたのだろうが、対処療法に優れる相手は既に対策済みだった。それどころか徳島の威力偵察のような攻勢を浴びた数人の選手は腰の引けた弱々しいパスを出し、それを拾われカウンターという負のスパイラル。京都はなりふり構わず原一樹、三平和司を投入して放り込み戦法に打って出て、それなりに前線まではボールを運べたもののそこに入り込んでいくあと1枚の攻撃の駒が足りていなかった。1列下げた横谷繁の後詰めは鈍く、逆にミスパスばかりが目立ってしまった。

■得点力不足
 結局このゲームは、今シーズンのいい部分も悪い部分も集約されたような試合になった。前半38分までは鋭いプレスをかけて小気味よく繋ぎながら相手を圧倒する京都の良さが出て、一方で試合を通じて点が奪えないという「課題」も露呈。自動昇格を決めたガンバや神戸には、相手に固められても奪い切るFWがいて、京都にはいなかった。久保裕也というエースが抜けても補強せず、前線にチャンスメーカーを3人並べる0トップという結論に至り、どうにかこうにか競り勝ってはきた。けれども確固たる得点パターンはないまま。点を奪えないチームである限り、(隙を突かれて)守備が崩れ去った場合には打つ手がない。
 去年から始まったプレーオフを3つ戦って、得点はゼロ。このことをしっかり受け止めて、失敗から学んで再スタートしなければならない。


〈京右衛門的採点〉
 オ 5.5 …1失点目は反応遅れた。危ないフィードミスも。さほど守備機会はなかったのだが。。
安藤 5.5 …復帰戦でも球際の強さはあったが、1失点目はカバーの遅れを突かれた。
酒井 5.0 …序盤は津田をよく抑えたが、2点目は津田を離してしまった。フィードミスも多い。
バヤリッツァ 5.5 …前へ出すぎた“裏”を狙われた。惜しいシュートが決まっていれば…
福村 4.5 …随所で消極的な選択をする場面が目立ち、前にも出れず。相手を警戒しすぎ臆病だった。
秋本 5.0 …千代反田に外され転んで失点。後半、攻勢に出たいところを後ろに重心置きすぎた。
倉貫 5.0 …後半の追い上げたい局面だったが、ゲームをスローテンポに落ち着かせてしまった。
工藤 5.5 …積極ミドルや後半山瀬への逆襲パスなど機を見て攻撃を組み立てようとしたが…。
駒井 5.5 …前半は豊富な運動量で相手を翻弄。気合は良かったが、またも仕掛けては奪われた。
横谷 4.5 …よく身体は張ったが、怖さはなし。1列下がるとブレーキをかけるような存在になった。
山瀬 5.5 …フォローも薄く孤立気味。敵陣に入ってもこじ開けられず。シュートの切れ味戻らず。
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 原 5.5 …いいターゲットとなったが、トラップが足元に入りすぎたり細かいミスでチャンス潰す。
三平 5.5 …よく競り合ってチャンスの種は作れたが…。ナイスなボレーはDFがゴール内クリア。
宮吉 5.0 …見せ場はこぼれ球をダイレクトシュートくらい。不完全燃焼の10分間、いや1年間。
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大木監督 5.0 …今季のベストメンバーを並べて完敗。“狸”になりきれず。






昇格プレーオフ決勝プレビュー「徳島を、アワてさせろ!」

2013-12-05 | 蹴球
 時は12月8日(日)、千本釈迦堂の「だいこだき」のニュースが流れ、のっぴきならない歳末感が押し迫るその日、東京・国立競技場ではJ1昇格プレーオフ(以下PO)のファイナルが行われます。注目ポイントをサクッとまとめようと思ったら、えらい長くなりました。お暇な方はお付き合いください。

■まずは京都と徳島の比較

【得点力】
 京都■■■■■■■68得点(リーグ4位)
 徳島■■■■■■ 56得点(リーグ8位)

【守備力】
 京都■■■■■ 46失点(リーグ3位)
 徳島■■■■■■51失点(リーグ9位)

【今季の対戦】
 第06節 京都●1-2○徳島
 第31節 徳島△1-1△京都

【直近5試合】
 京都…△●●●△2得点6失点
 徳島…●○△○△5得点3失点

【経験値(J1昇格)】
 京都…酸いも甘いも噛み分ける
 徳島…2005年からJ2一筋

【経験値(監督)】
 京都…大木監督・昇格1回(甲府/入替戦勝利)
 徳島…小林監督・昇格2回(大分・山形/ともに自動昇格)

【マスコット】
 京都…パーサくん (マスコット総選挙36位・不死鳥・没個性)
 徳島…ヴォルタくん(マスコット総選挙27位・阿波狸・芸達者)

 以上7項目を分析したところ…徳島にこれといって特徴がないぞ。強いて挙げればヴォルタくんがアクティブなくらい。準決勝で当たった長崎はわかりやすく「守備が堅く、得点力が低い」という個性がありましたが、徳島は良くも悪くもノーマル。小林監督は実績充分ですが、2度の昇格は自動昇格。大一番ではどうでしょう? セレッソを率いた2005年には最終節の90分まで首位だったのに、ドリームクラッシャー今野(いわゆるDCK)に決められて涙を飲んだこともありましたね。


■もうちょっと詳しく比較

【シュート数(得点)】
 京都…446(68)決定率0.143
 徳島…392(56)決定率0.142

【被シュート数(失点)】
 京都321(46)被決定率0.143
 徳島…429(51)被決定率0.119

【フリーキック・コーナーキック】
 京都…FK690本・CK259本
 徳島…FK645本・CK163本

【時間帯別得点 ~15・~30・~45/~60・~75・~終了
 京都… 5・ 9・ 5 / 11・13・25
 徳島… 4・ 9・10 / 9・12・12

【時間帯別失点 ~15・~30・~45/~60・~75・~終了
 京都2・10・ 8 / 8・ 2・16
 徳島… 5・ 4・10 / 9・ 8・15

【先制点を取った場合】
 京都…16勝3分2敗
 徳島…18勝2分3敗

【前半終了時リードの場合】
 京都… 9勝1分1敗
 徳島…10勝0分2敗

 やはり徳島は数字上の特徴が掴みづらいチームです。コーナーキックが少ないくらいでしょうか。逆に京都にとてつもなく個性的な数値があることが際立ちます(赤文字箇所のあたり)。


■徳島どうよ?
http://www.j-league.or.jp/standings/graph_j2.html

 今季の徳島は、上のグラフの通り前半は下位に沈み、後半戦で連勝して一気に浮上してきました。印象としては好不調に波があり、FWが調子よければ点を決めてそつなく勝つチーム。好調であれば、津田とドウグラスはJ2でもかなりの強力な部類のFWですね。PO準決勝の戦い方をみると、布陣はボランチ2枚の4-4-2。基本的に守備は各自持ち場を離れずブロックを作る。攻撃は柴崎晃誠あたりからの縦一本裏狙いでFWを走らせる…。非常にオーソドックスです。積極的に主導権を握ろうとはせず、どちらかといえば受け身のサッカー。祖母井GM曰くの「腕押し相撲の待ち伏せ作戦」に近いかも。ゲームの流れを手中に入れてしまえば非常に落ち着きがあり、準決勝でも終盤千葉の攻勢にも慌てふためくことなく「そつなく」守り通した印象です。


■阿波の狸はどう出てくるか?
 おそらく徳島は、0.5点ビハインドがあろうとも積極的には出て来ないと思います。ちょうど第31節徳島-京都戦が試合展開のひとつの指標。この試合は序盤から攻勢に出た京都に対して徳島は守勢に回って様子を見て、隙を衝いてカウンターから裏を取った徳島が先制という流れでした。徳島の小林監督はこの「様子見」からペースを作るのが上手い。30分くらいまでで相手の出方を見極め、用意していたプランA~Dの内で一番適切なプランを実行する、という感じ。準決勝で京都がキャラとは違う戦い方をやってのけたため、小林監督ははやり今回も様子見で序盤はやり過ごすのではないか、と予想します。では京都はどう応戦するべきでしょうか?基本的には長崎戦同様にリスクを掛ける必要はないのですが、点を奪うチャンスは長崎戦よりは大きいのではないか…と。


■セットプレーを狙え!
 徳島-千葉の準決勝を見て最初に感じたのは「高さがないなぁ」ということ。千葉に7本コーナーキックがあって、5~6回は競り勝っていました(うち1得点)。徳島は単純にサイズの大きい選手が少なくて、GK松井謙弥も横からのボールへの反応が不安定。一方の京都は上の方で挙げたデータにもある通り、コーナーキック数が相当多いチーム。そして空中戦に滅法強い秋本とバヤリッツァがいて、横谷、染谷、三平も合わせるのが上手い。出場があれば内野と安藤もターゲットになれる。そして山瀬と福村というプレスキッカーがいる。エアバトルでの京都優位は動きません。流れの中からでも、GK松井と最終ラインの間に速いクロスを入れて行けばチャンスになると思います。(前回の対戦はGK長谷川でしたが…)。

※参考…準決勝のスタメンの身長


■理想のゲームは天皇杯
 あれやこれやと頭の中でシミュレートしてるうちに、ひとつ京都にとって理想的な試合が思い浮かびました。それが天皇杯3回戦鹿島戦。鹿島と徳島は、同タイプとまでは言いませんが、今は同じ4-4-2のフォーメーションで、守備は規律的で陣形を崩さず、ボランチから配球し、強力FWを走らせて勝負してくるチーム。京都は鹿島戦同様、まず強力FWへのケアを厳しくして、中盤の守りで積極的にアプローチすること。奪う守備により得意な「型」に持ち込めます。奪った後に敵陣に深入りしすぎるのは危険を伴いますが、徳島が「様子見」してるうちにガツンと仕掛けて徳島を慌てさせることが出来れば理想的です。徳島には大迫もダヴィもジュニーニョもいない訳で、鹿島から寸法を取れば、何も恐れることはありません。


■注目選手は駒井善成と倉貫一毅
 徳島は第38節でガンバの宇佐美に4点献上しています。となれば、“古都のメッシ”になりきれない“古都のメッシュ”こと駒井の出番。徳島は宇佐美ショック以降GKとCBを変えていますが、エリア内でのイレギュラーな仕掛けは、規律的に守るチームには嫌な一手。駒井の落ち着きのないドリブルが、相手をアワアワとさせる一番の武器になりうるのでは、と思うのです。
 そして徳島の攻撃を操る柴崎&濱田をパトロールするのは、工藤と倉貫の役目。特に倉貫の「ピッチ上の監督」としての振る舞いにも注目したいところ。構えてくる相手に対して「緩・急」のタクトを振る指揮者が工藤だとすれば、倉貫はプレスだったり繋ぎなりで一番いいタイミングを示せる現場監督。攻めすぎてもダメだし、守りすぎてもダメ。倉貫の動きでチームのバランスが決まる。もちろん、柴崎と濱田はしっかり見張る。古巣相手にキャリアの集大成のような渋~いパフォーマンスを期待したいところです。





2013 J1昇格プレーオフ準決勝 京都vs長崎

2013-12-01 | 蹴球

京都サンガF.C.△0-0△Vファーレン長崎

■虚々実々
 大事な一戦になればなるほど、戦う前に敵の特長を想定しつつ、どういう戦術で来るのかを考える。その逆に「自分たちは敵からどう見られているのか?どのように対策されるのか?」も併せて考える。そこで対戦相手同士の化かし合いのようなことが起こるのだが、まさか大木監督がここまで“狸”だとは思わなかった。
 Jリーグ公式の特設サイトでは大木監督、こんなことを言っている。「今までやってきた自分たちのサッカーに、ティッシュペーパー1枚分でもいいから成長を上乗せして、試合に臨みたいと思います」「勝負は勝たなければ意味がありません。その一言に尽きます」京都新聞では「大切なのは目の前のゲームを勝つこと。それだけだ」――こんなふうに正攻法を匂わせながら、蓋を開けてみれば超守備的サッカー。いやぁ、恐れ入った。徹底してリスクを避け、攻撃は横谷繁のキープと山瀬功治の個人技頼みの形で、人数もかけない。無闇矢鱈に相手の前にボールを晒さず、奪われてのカウンターを避ける。攻撃に関しては首尾一貫して「隙あらば…、あわよくば…」程度。大木監督もコーチを務めた南アフリカW杯岡田ジャパンの「守備偏重・攻撃は本田・松井・大久保の3人任せ」と同じリアリズムが流れていた。
 これがリーグ戦であれば、つまらないサッカーすぎてどんな罵声を浴びせても足りない内容だが、プレーオフは「あくまでも結果」であると位置づけて、こういう戦い方を貫いたのは天晴れ。交代のカードのメッセージもわかりやすくて、駒井善成と中山博貴の投入は、運動量の注ぎ足し。去年得た経験を糧にして、しっかり生かしていることを実感できる「面白くない、けど最高の90分」だった。
(ちなみに上で挙げた大木監督のコメント、よーく読み込むと裏があることを匂わすニュアンスも潜ませている。決してメディアに対して嘘を言ってた訳ではない…はず)。


■山瀬功治という凄み
 このゲーム、長崎が速いプレスから速攻を繰り出し、京都が耐えて守り切ったという印象が強いかもしれない。しかし決して京都は専守防衛だった訳ではない。ボールを奪えば横谷に預け、横谷は敵陣で積極果敢に踏ん張ることで「俺たち、引いて守ってないし!」と力強く主張し、山瀬は単独で斬り込んでは自分が危険な存在であることを見せつけた。特に山瀬の存在はそれこそ「南アの松井・大久保」を彷彿とさせた。
 京都は意図的に攻撃に人数をかけおらず、山瀬がいくら敵陣に入ろうが暴れようが、得点に結びつくとは思えなかったのだ。悪い言い方をすると相手に「山瀬をちらつかせた」。もちろん、山瀬自身は真剣に単騎で突破・打開を狙っていたのだろうが、全体からみれば敵を幻惑するための攻撃だった。実際、長崎は山瀬を警戒せざるをえなかった。何としても陣地を守りきりたい側がただ単に亀のように引っ込んで籠城してしまうのと、危なくない程度に夜討ち・朝駆け(ヒットアンドアウェイの奇襲)を繰り出して攪乱しながら籠城するのとでは、大きく意味が違う。たった1人で奇襲するそぶりをみせた山瀬は、やはりただ者ではない。
 もし最初から専守防衛に回っていたならば、気迫と走力でまさっていた長崎にゴールを割られていただろう。その実、後半にはコーナーキックの連続からピンチを迎え、オスンフンの神がかりセーブで凌ぎきったが、ああいう状態がもう少し早く訪れていたかもしれない。最後まで勇敢だった長崎の気迫に押し潰されず、攻撃的な守備を貫徹したこの“狸”な戦いぶり、徳島の“狸”小林伸二監督はどう分析するだろうか。


〈京右衛門的採点〉
 オ 8.0 …ハイボールには完勝し、終盤スーパーセーブ連発でゴールを割らせず。神。
酒井 6.0 …多少判断が遅れる部分もあったが、中に絞りながらタイトな守備を貫徹。
染谷 7.0 …バキとの補完関係で冴え渡るカバーリング。抜群の読みで再三長崎の攻めを止めた。
バヤリッツァ 6.0 …後ろは染谷に任せ、積極的に前で当たって奪い取る。やや気が抜けるシーンも。
福村 5.5 …粘り強く身体を張ったが、つまらないミスや緩慢なプレーで反撃の糸口を与える。
秋本 6.0 …最終ラインまで降りたりSBの穴を埋めたり大忙し。ミスもあったが、シュートもブロック。
倉貫 5.5 …チームが後ろ重心すぎてあまり持ち味出せず。ミスフィードも気になった。
工藤 5.5 …長崎のハイプレスの餌食になることも多く、苦戦。逃げ切りの場面では効いていた。
三平 6.0 …最終ラインまで戻る守備で貢献。攻撃にもピンポイントで絡む。終盤まで粘り強かった。
横谷 6.5 …相手を呼び込んでは潰されるキツい役目を全う。キープも、前への勝負も頼もしい。
山瀬 6.5 …リスクをかけずに単騎突破。シュートは不正確だったが、相手に怖いプレーを見せた。
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駒井 6.0 …矢のようなスピードの駆け上がりで1人カウンター。絶好機で転んだのはご愛敬。
中山 ――
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大木監督 7.0 …理想は理想で置いといて、大一番で見せたリアリズムに「必昇」への執念を見た。