
「クイナ」と思われていた鳥の近距離での撮影に成功。
所要で出かけて帰ってきたら、自宅近くの土の道で餌を拾っている彼に出くわしたのだ。車が5メートルほどの距離に近づいても逃げない。そこで、車をスロースピードでバックして、林田君にカメラを持ってきてもらい、撮影に挑戦したところ、まだ立ち去らずにそこにいて、絶好の被写体となってくれたものだ。
のんびり屋というか、とろい奴というべきか。
これでは、昔飼っていたサブという猟犬や狐などに狙われたら、たちまち殺られてしまうだろう。


あとで、林田君が
「どうも、クイナとは違うようです」
と、丹念に検索を重ね、
「ミゾゴイ(溝五位)というサギの仲間で日本固有種、現在1000羽未満しか生息が確認されていない希少種のようです」
という結論を持ってきた。
なるほど、インターネットには画像や動画が掲載されており、参照するとほぼ「ミゾゴイ」と特定できる。

「里山のシンボル」とも言われているらしい。各地で保護活動も展開されている模様。
「そんな鳥が、この里山再生プロジェクトの森に定着してくれたというのはうれしいですね」
その言や良し。
このまま居ついてくれることを願わずにはいられないが、のんびり屋の彼を、この生態系が守ってくれるかどうか。この森には野犬も時々迷い込んでくるし、狐もいる。湿地もあり、針葉樹・落葉樹・常緑樹が混生する森もある。生息環境としては申し分ない所だと思われるので、無事に生き延びて繁殖してほしいものだ。
この鳥は、擬態の名手で、危急の場面に直面すると瞬時に硬直し、木や石に化けるという。
マンガ「釣りキチ三平」の名場面にヤマメ釣りの達人が「岩化け」という術を使う描写がある。すなわち、名人は、川岸の岩に同化するほど「気配」を消し、ヤマメの大物を狙うのである。釣りをこよなく愛した文人・井伏鱒二氏の師匠・佐藤垢石翁は「井伏くん、釣りの極意とは山川草木に同化することだよ」と言った。ミゾゴイの擬態はこれらに類すると思われるが、決定的に違うのは、釣りの擬態は攻撃的であり、ミゾゴイ君たちのそれは防御に徹していることである。里山の平和主義者を一度驚かして彼らの変身術を観察してみたいものだ。

以下に「トヨタ環境活動助成プログラム2009:絶滅危惧種ミゾゴイの保全活動」のインターネット記事を転載。
[ミゾゴイの生態]
ミゾゴイは、東アジアの低平地の森林にすむ水鳥の一種で、台湾、中国南部、フィリピンなどに生息し、4月のはじめに日本に渡ってくる夏鳥です。日本では、琉球諸島、九州、本州、伊豆諸島でみられます。
繁殖は日本でしか確認されていません。平地から低山帯の谷や沢沿いの針葉樹、落葉樹、常緑樹、竹林が混在するうっそうとした林で、薄暗く湿っぽい環境を好み、谷や沢沿いの急斜面に生えるケヤキなど落葉樹の枝に巣を作ります。
[直面する問題]
薄暗い林にすむミゾゴイは人目につきにくいため、その存在はあまり知られていませんが、以前は珍しい鳥ではありませんでした。しかし、1980年代以降、生息数が激減し、現在の生息数は世界で1,000羽以下と推定され、IUCNのレッドデータブックでは絶滅危惧種に分類されています。日本での繁殖数も里山の減少とともに急速に減っており、このままでは絶滅は免れません。
減少の原因は、繁殖地である日本と越冬地である東アジアの森林減少や良い採食場所であった農地の開発・放棄などによる生息環境の悪化にあると考えられますが、十分な調査が行われておらず個体数や分布、渡りなど、詳しい生態がわからないため効果的な保護策が講じられていないのが現状です。