
朝一番に、佐藤優飛くん(小1)父子が来た。
虫籠に、羽化した蛾が一羽、入っていた。
それは、3週間ほど前にユウヒ君が、「友愛の森/里山再生ARTプロジェクト」の森で見つけたものだ。彼は、その前にも「山繭」(天蚕という天然の繭)を見つけている。観察力にすぐれた「眼」を持つ昆虫数寄の少年だ。
ところがその繭は、小さくて茶色っぽくて、やや扁平だったので、山繭の仲間だが、別の種類だろうということで、保存するか、森に戻すか、判断に迷うところだった。それを手に取って、軽く振ってみると、からからとかすかな音がして、微妙な重量がある。
「これは蛹が生きている可能性がある。飼ってみるかい?」
とユウヒ君に渡し、皆、そのことは忘れていたのだった。
それが、この朝、羽化した。で、お父さんと一緒に持ってきたというわけだ。

それを見た皆から、
「おおっ!!」
と歓声が上がった。誰もあの薄茶色の繭からこんな大きな生き物が羽化して出てくるなどとは思っていなかったのだ。

虫籠から出して地面に置くと、彼女は小さく小さく羽根を震わせはじめた。
「飛ぶ練習を始めたっ!!」
またしても歓声が上がる。
次の瞬間、一つ大きく羽ばたいて、ふわりと飛び立ち、たちまち微風をとらえて森の方角へと飛んで行った。
「よかったー」
とユウヒ君が安心の表情を浮かべた。

検索してみると、当初予想されたウスタビガ(薄手火蛾)ではなく、神樹蚕(シンジュサン)だと分かった。紫褐色の羽根と背中の三日月形の文様、両の羽根の肩から尾部へかけて走る特徴的なデザインなどから、それが確認できる。
☆
神樹蚕について、「日本大百科全書(ニッポニカ)」の解説を以下に参照。
昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤママユガ科に属するガ。はねの開張120ミリメートル内外。前翅頂部は突出し、内側を白線で縁どった黒紋がある。前後翅とも、はねの中央に新月形の白紋があって、その下は黄褐色紋で縁どられている。この紋の外側を白帯が走り、その内側は黒色、外側は紫赤色。日本全土のほか、周辺の大陸および台湾からインドにかけて広く分布する。温暖地では1年に2回、5~6月と8~9月に出現、寒冷地では1年に1回、夏に出現する。夜行性でよく灯火に飛来する。幼虫は体長50ミリメートル内外。体は太く、白粉で覆われた淡い青緑色、短い肉質突起を多数生じ、その先端は青色、気門とその下の肉質突起は黒色で縁どられている。シンジュ、ニガキ、キハダ、クヌギ、エゴノキ、クスノキなど多くの樹木の葉を食べる。蛹化(ようか)するときは、葉を縦に巻いて堅固な繭をつくる。蛹(さなぎ)で越冬する。中国産や日本産の種は、ヨーロッパやアメリカに移入され、よく飼育されている。ことにアメリカでは、中国原産のものが野生化して全国的に広がってしまった。インドのアッサム地方では、本種の飼養品種であるエリサンあるいはヒマサンという系統が繭から絹糸をとる目的で飼われ、日本や台湾にも移入され、飼育されている。野生種より小形で、幼虫はトウゴマやキッシルの葉を食べる。