[山繭の話]

「山繭(ヤママユ)」とは、天然の蚕が作った繭のことで、「天蚕(テンサン)」「野蚕(ヤサン)」とも呼ばれます。これが日本在来の「山繭蛾(ヤママユガ)」が作る繭なのです。
ヤママユガとはチョウ目・ヤママユガ科に分類される大型の蛾で、幼虫は緑色で毛のまだらに生えた芋虫です。ナラ、クヌギ、コナラ、クリ、カシなどの葉を食べ、成長すると葉と葉の間に繭を作って蛹になります。森を歩いて繭を探しても、なかなか見つけることはできません。それほど森に同化した色です。天敵である鳥から身を守るための保護色なのです。
山繭蛾は、夏に羽化して、繭から出ます。私たちの生活する「森の空想ミュージアム」の家の窓に、飛んでくることがあります。近くに産卵する木があるのだと思われます。
山繭蛾の前翅長は70~85mmと翅は厚く大きく、4枚の翅には、それぞれ1つずつ大きな黄茶色の目玉状の模様があるので見分けやすいです。色は、茶褐色、黄褐色など。日本・朝鮮半島・台湾などに分布しているそうです。繭からは良質の絹糸がとれます。一粒の繭から長さ約600~700m程度の絹糸が採取されます。この糸が「天蚕糸」です。
山繭の仲間に「桑子(クワコ)」という一まわり小さな黄色の野蚕がいます。これが、栽培される蚕の原種だろうと言われています。最近では福岡県朝倉での採集例があります。「神樹蚕(シンジュサン)」と呼ばれる小さめの野蚕もいます。これは近くの森に来た少年が発見。家で籠に入れて飼っていたところ、一か月後に羽化した蛾が出てきて、皆を感動させました。もう一種、大きな青い蛾がいます。これはオオミズアオといいやはり山繭の仲間ですが、その姿の美しさに似合わない大きな編目の茶色の繭になります。これが「楠蚕(クスサン)」です。まだナイロン糸のないころには、この虫から引き出した糸で釣り糸の「テグス」を作ったといいます。太めの茶色の糸なので織には不向きです。
養蚕に利用される一般の蚕「家蚕」とその祖先と考えられる「クワコ」の歴史は、中国大陸でははるか古代の石器時代にまで遡る可能性があるとみられています。「蚕」とは、桑の木につく野生の蚕「野蚕(やさん)」が飼い馴らされ、品種改良されて「家蚕(かさん)」すなわち「養蚕」の蚕となったもので、野蚕と家蚕の併用の時代は長く続いたものと考えられています。

