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北九州市生活保護問題全国調査団が、
11月に提出した公開質問状に対して
北九州市当局が12月21日付で出した不当な「回答」に
反論する見解を発表しました。
16日の朝日新聞が報じています。
以下に市当局の「回答」に対する全国調査団の見解を掲載します。
憲法・生活保護法・行政手続法を踏みにじる北九州市の保護行政に
対する全面的な反論となっています。ぜひお読みください。
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2007年2月13日
北九州市長 末吉興一 様
北九州市保健福祉局長 南本久精 様
北九州市生活保護問題全国調査団
団長 井上英夫(金沢大学法学部)
2006年12月21日付回答に対する見解
貴職らにおかれては、北九州市の福祉充実のため、
日頃からご努力のこととお喜び申し上げます。
この度、当調査団が提出した2006年11月17日付の質問状に対し、
2006年12月21日付で回答を頂きましたが、
回答内容に法令の理解不足などの問題点や、
根本的な事実関係の誤りなどがありますので、
それらの点について当調査団の見解をお伝えします。
記
1 面接相談について
面接相談において、生活保護制度や保護の受給要件について
正確かつ懇切丁寧な説明を行い、相談者の生活状況等を詳しく聴取することは
当然のことです。問題は、当調査団の調査結果や各種報道等によって、
貴市において本当に生活保護法に則った適正な面接相談が
行われているのかどうか、
疑念を抱かざるを得ない状況が生じていることにあります。
生活保護法第2条は、保護を請求する権利(保護請求権)を
無差別平等に保障しており、また、行政手続法第7条では、
「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは
遅滞なく当該申請の審査を開始しなければなら」ない
と定められています。
したがって、保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請は、
絶対的な権利として保障されています。すなわち、保護申請があれば、
福祉事務所は無条件に受理してすみやかに保護の要否についての審査を開始する
というのが生活保護法の根本原則であります。申請自体を窓口で規制することは
明確な違法行為であり、絶対に許されることではありません。この点について、
貴市の回答では、面接相談を行った上で「生活保護の申請が必要と思われる方には
申請を助言しており、また、生活保護の受給要件を欠くと思われるような場合で
あっても申請の意思のある方からは申請を受け付けています」
とされているところですが、
これでは、明らかに保護の受給要件を満たしている方以外は、
相談終了時点で本人から 明確な申請意思の表明が無ければ
申請を受けつけないという誤解を招きかねません。
そもそも、申請が必要かどうかは、相談者本人が判断することであり、
福祉事務所の側が選別することは許されません。
本来、保護の受給要件を満たしている可能性のある方に対しては、
本人からの申し出を待つことなく、保護の実施機関である福祉事務所の側から
積極的に申請を働きかけるべきものです。この点については、ご承知のとおり、
現行の生活保護法の施行に当たって厚生省(当時)が発出した
「生活保護法の施行に関する件」(昭和25年5月20日発社第46号厚生事務次官通達)
に おいて、「生活に困窮する国民に対して保護の請求権を認めたことに対応して、
保護は申請に基いて開始することの建前を明らかにしたのであるが、
これに決して保護の実施機関を受動的、消極的な立場に置くものではないから、
保護の実施に関与する者は、常にその区域内に居住する者の生活状態に
細心の注意を払い、急迫の事情のあると否とにかかわらず、保護の漏れることの
ないようこれが取扱については特に遺憾のないよう配慮すること」とされており、
また、法施行当時に厚生省社会局保護課長を務めた小山進次郎氏による逐条解説
である『生活保護法の解釈と運用』においても、「申請保護の原則は、
保護の実施機関をいささかでも受動的消極的な立場に
置くものではない(新法基本通知第三の一、)。
換言すれば、この原則が採られる事になったからといって要保護者の発見に対する
実施機関の責任がいささかでも軽減されたと考えてはならないのである。
従って、保護の実施機関としてはこの制度の趣旨を国民に周知徹底させ、
この法律に定める保護の要件を満たす者が進んで保護の申請をしてくるよう
配慮すべきは勿論(以下略)」と記述されているところです。従って、
本人が明確に申請意思を示さなければ福祉事務所は何もしなくてよい
などということは 生活保護法の精神に反するものです。
申請すれば保護が開始されることが見込まれる方 はもちろんのこと、
保護の受給要件を満たしている可能性のある方に対しては、
本人が明確な申請意思の表明をしていなくても、面接相談終了後に
福祉事務所の側から必ず申請意思の確認を行うべきものです。
貴市の回答では、「面接相談を行わずに機械的に相談を受け付けた
結果として却下しなければならないことになれば、
明らかに生活保護の適用にならない方にも、
預貯金調査などのプライバシーに関わる諸調査が行われる」とされていますが、
相談者が実際に保護の受給要件を満たしているかどうかは、多くの場合申請後の
資産調査等を経なければ分かりません。また、貴市の面接相談において本当に
「来訪者の相談に応じ、生活保護制度についての仕組みについての説明や、
迅速に他の福祉施策等の紹介をするなどの懇切丁寧な応対」が
行われているならば、活用できる他の福祉施策や
その利用方法も相談の段階で紹介されているはずであり、
「本来利用できる他の福祉施策等の活用が遅れるなど、
御本人にとってかえって不利益になる」事態は生じないはずです。
最後のセーフティネットである生活保護制度の運用上もっとも大切なことは、
不透明な事前審査を排除し、行政行為の透明性を確保するという
行政手続に求められる 原則を徹底することです。
そのためには、窓口段階での恣意的な判断で相談者が
選別される危険性を回避することが決定的に重要です。
現に、当調査団の支援により生活保護が開始された20名の方のうち、
少なくとも12名の方は、以前も福祉事務所に相談に訪れて
保護申請の意思表示をしたにもかかわらず、
申請させてもらえなかったとのことであります。会計検査院の調査でも、
北九州市の生活保護の申請率(相談件数に対する申請件数の割合)は15.8%と、
全国の都道府県と政令指定都市の中で最低となっており、
全国平均の30.6%と比べても、 極めて低い数字になっています
(昨年10月26日の毎日新聞朝刊)。
また、昨年12月26日に発表された、昨年5月に起こった
門司区の市営団地での餓死事件 についての厚生労働省の調査結果では、
「本事例については、ライフラインが止められた
ままであったこと等から、長男の扶養の可能性の如何に拘わらず、
男性の生活歴、現在の資力の有無等、詳しい話を聴く必要があったことは、
結果論であるが否定できない」として、面接相談での資産状況等の把握が
不十分であったことを指摘した上で、「福祉事務所関係各課の連携等の
対応次第では、本事例のような結果にならなかった
可能性があることも否定できない」と結論づけているところです。
さらに、2006年3月に貴市の保健福祉局総務部監査指導課が発行した
『生活保護の現況と課題 指導監査から見た生活保護(平成16年度)』の
「ケース検討票記入上の留意事項」では、「面接相談の状況」の「申請受理」の
検討項目について、「ケース診断会議にかける等必要な措置がない」
「能力不活用、資産活用、不正受給再申請等の受給要件について
疑義があるにもかかわらず、内容が十分検討されず申請書が受理されている」
場合は指摘を行うとされています(P92)。
福祉事務所に対してこのような指導監査が 行われているということは、
「生活保護の受給要件を欠くと思われるような場合であっても、
申請の意思のある方からは申請を受け付けています」という貴市の回答と
矛盾するばかりか、極めて重大な法令違反であると言わざるを得ません。
「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは
遅滞なく当該申請の審査を開始しなければなら」ない
という行政手続法第7条の「申請がその事務所に到達したとき」とは、
申請行為が物理的に了知しうる状態になればよく、
行政庁の側がその申請を「受理」することを要しません。
その意味では、行政手続法は「受理」という概念をそもそも否定しています。
そして、生活保護の申請は要式行為ではないことから、
申請の意思表示が行われれば申請行為は成立します。
したがって、申請者が福祉事務所に対して申請意思を表示すれば、
その時点で福祉事務所は原則14日以内に
保護を開始するか却下するかの決定を行う義務を負うことになります
(つまり、「保護申請を受理しない」ということは法令上ありえない)。
にもかかわらず、面接相談段階で申請者を選別し、不当な事前審査によって
申請を受け付けないように指導するなどということは、
生活保護法および行政手続法で絶対的に保障されている
市民の保護請求権(申請権)を組織をあげて侵害しているもの
と評価せざるを得ず、直ちに中止することを求めるものです。
これらのことから、北九州市では、生活保護の受給用件を満たしている方が
面接相談窓口の違法な対応によって追い返されることが
常態化しているのではないかという疑念を抱かざるを得ない状況にあります。
市民に深く根付いている「北九州市の福祉事務所は申請したくてもさせてくれない」
という懸念を払拭し、また門司区の餓死事件のような悲劇を
二度と繰り返さないために、生活保護法・行政手続法に則った
適正な面接相談業務を行うことを求めるものです。
2 面接相談における第三者の同席について
貴市の回答では、面接相談は原則として「相談者と面接員」により行うことが
適当であると考える理由として、個人情報の保護および
適正かつ円滑な業務の執行を確保するため という理由を挙げられています。
このうち、個人情報の保護については、地方公務員法第34条および
北九州市個人情報保護条例第11条並びに第12条等により守秘義務を課せられている
公務員である面接員が、相談者の個人情報が含まれている
相談内容を外部に漏らしては ならないという意味であり、
一般市民である相談者に守秘義務はありません。
したがって、相談者本人の希望によって面接相談に第三者が同席することは、
個人情報保護についてはまったく問題を生じません。
「適正かつ円滑な業務の執行」については、面接相談は第三者の同席があろうと
なかろうと同様の対応が行われるべきであることは当然であり、
第三者が同席することで「適正かつ円滑な業務の執行」が
何ゆえに困難になるのか、理解に苦しむところです。
また、貴市の回答では、「同席の申し出があれば、
本市の原則を説明し、相談者の意向を詳しく確認しながら、
同席の必要性を判断」するとされていますが、これでは
福祉事務所職員に同席の可否を決定する権限がある
かのような誤解を与えかねません。この点については、
貴市の大嶋明・保健福祉局地域福祉部保護課長は、
昨年11月30日に放送されたFBS福岡放送「めんたいワイド」において、
「本人が弁護士が必要ということであれば、それ以上福祉事務所の側が拒んだり、
弁護士が入るなら話を聞かないということはない」と述べられているところです。
また、新聞報道でも、大嶋保護課長は「窓口への弁護士の同席は、
相談者の要望があれば拒むことはない」(昨年10月26日の毎日新聞朝刊)、
「相談・申請者の希望なり依頼があれば、同席を認めるのが市の姿勢」
(昨年11月3日の西日本新聞朝刊)と述べたと報じられています。
また、昨年11月3日の毎日新聞朝刊では「市保護課によると、受給希望者は
最初に各区保護課窓口で市担当者と面談する。この際、相談者本人が望めば、
第三者の立ち会いを認めることになっている」と報じられています。
福祉事務所職員の判断によって同席を拒むことが可能であるとしたら、
上記の保護課長の発言や、「本人が希望する場合に
福祉事務所が同席を拒否する法的理由はない」という
厚生労働省社会・援護局保護課の見解と矛盾するものです。
相談者本人が希望する場合に面接相談への第三者の同席を拒む法令上の根拠は
何ひとつ存在せず、ましてや、同席を求めるなら相談を受けない
などという対応は、生活保護法および行政手続法で保障された
市民の保護請求権(申請権)を侵害するものであり、
許されるものではないことは言うまでもありません。
法的根拠のない第三者同席拒否を二度と行わないように改めて求めます。
3 昨年10月24日の小倉北福祉事務所および八幡西福祉事務所の対応について
この日の小倉北福祉事務所の対応について、貴市の回答では、
「事前の連絡もなくテレビカメラの撮影が行われ、
通常では考えられない状況の中で、 一方的な同席面接の要求が続き、
直ちに本来の対応を行うことができませんでした」と
されていますが、その場に報道陣がいようといまいと、
福祉事務所職員は法令に則って 適正な対応をしなければならない
ことはいうまでもありません。
また、当調査団の弁護士は、小倉北福祉事務所に同席の是非を検討する
十分な時間を与えており、榎田寛・保護第二課長を
はじめとする福祉事務所職員から
「事前の連絡もなくテレビカメラの撮影が行われ、
通常では考えられない状況の中で、 一方的な同席面接の要求が続」いた
などという主張は一切なされませんでした。
当調査団は、申請者本人の要請に基づき、丁寧かつ真摯に同席を求めた
にもかかわらず、榎田課長は一方的に同席を拒否し続けました。
当調査団の弁護士が厚生労働省保護課へ電話し、
代理人の同席拒否に理由がないとの厚労省の見解を確認し、再検討を求めた
にもかかわらず、榎田課長は「市の方針として認めない」との対応を変えず、
さらに当調査団が議員や民生委員が同席した前例を指摘すると、
「議員と民生委員はいいが弁護士は認めない」などと
まったく法的根拠の無い説明に終始しました。
また、同日午後2時頃には、当調査団の一員が、別の申請者の要請にもとづいて
申請に同席すべく面接室に入ったところ、
上原面接員および榎田課長他数名が「施設管理権上認められない」
「(同席者がいると)面接相談員がリラックスできない」
などとまったく理由にならない不当な主張を繰り返して
当調査団メンバーの同席を拒否し、
それでも申請者が同席を求めると、上原面接員および榎田課長他
すべての職員が面接室を退席し、面接相談業務をボイコットするという
異常な行動に及びました。
このような対応は、申請者への配慮を欠いたばかりか、
申請者の権利を侵害する違法かつ極めて不当な行為であります。
にもかかわらず、真摯に対応した当調査団に責任を転嫁するかのような
貴市の回答は事実を歪曲したものであり、強く抗議するとともに、
今後二度とこのような違法な対応を行わないよう求めるものです。
八幡西福祉事務所の対応については、「本市の原則に基づいたものであり、
貴調査団においても保護課のこの原則についての説明に納得されたものと
理解しています」と回答されていますが、当日の同福祉事務所の対応は、
「相談者の意向を詳しく確認」するどころか、
申請者の要請に基づいて同席を求めた当調査団の弁護士に対し、
「とにかく北九州では同席できないことになっている」と
頭から同席を拒絶し、まったく論理的な説明はなされませんでした。
「このままでは手続きが進みませんので」と頑強に同席を拒まれたため、
当調査団としてはやむを得ず同席を断念したものであり、
八幡西福祉事務所の説明に「納得」したものではありません。
このような八幡西福祉事務所の対応が市の原則に基づいたものであるとするなら、
貴市の面接相談の原則とは、相談者本人の意向を確認することすらせずに
第三者の同席を頭から拒絶し、同席を求めるなら相談を受け付けないという
違法なものということになります。
この日の対応について、大嶋保護課長は、「窓口の説明が十分でなかった。
各区窓口に認識不足があり、対応がばらついたのは本庁の責任だ」
(昨年11月3日の毎日新聞朝刊)、「結果的に不適切な対応だった」
(昨年11月3日の西日本新聞朝刊)、「同席できなかったのは不適切だった」
「申請者本人が希望すれば同席を認めるように福祉事務所に周知をはかった」
(昨年11月3日の朝日新聞朝刊)と述べたと報じられています。
貴市の回答はこの保護課長の発言と矛盾するものです。
小倉北福祉事務所および八幡西福祉事務所の違法・不当な対応に強く抗議する
とともに、保護課長見解の徹底を図るためにも、早急に両福祉事務所に対して
是正の指導を行うことを求めます。
以上
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