歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

鋳物工場について思うこと

2008-05-30 23:55:13 | ものづくり・素形材
 今では製造業に関する調査の仕事に専ら従事している私ですが、社会人になるまではほとんど工場というものには縁がなく、製造業に関する認識も大変貧困なものでした。そんな私が、今では仕事で遠出するとなると(海外出張も)たいてい目的は鋳物や鍛造、金型といった素形材の工場訪問なのですから、人生わからないものです。
 
 私が社会人になってから初めて訪れた工場は、川口の鋳物工場でした。思えばこの時の鋳物との出会いが、その後の私のキャリアを決定づけたように思います。小学校の時の社会科見学の時に一応は工場というものを見た経験があり、あんなのと同じようなものかな、と何の予備知識も持たず勝手に想像していた私は、生まれて初めて鋳物の製造現場に足を踏み入れしばし絶句しました。「こんな3K産業が未だに日本に残っているとは」、というのが当時の私の感想でした。

 しかし、何度か同じような鋳物工場を見て回るうちに、「これは面白くてやりがいのある仕事なのではないか」と考えるようになりました。ロボットのように同じような動作を毎日毎日繰り返す、自動車などの部品の組立作業とは異なり、個人の創造性や工夫というものが製品の善し悪しに反映することが多い点が鋳物の魅力です。このため、入社してから最初の夏を乗り切った者はたいていその後も職場に定着し続けるといいます(初年度の夏に暑さにめげて脱落する者が少なくない、というのも事実のようなのですが)。また、そもそも火と砂を扱うところが、「火遊び」と「砂遊び」という男の子の本能的な嗜好をくすぐり、面白いと感じさせるのかな、と思ったりもします。

 以来、鋳物工場を見続けてもう10年以上になり、海外も含め訪れた鋳物工場はおそらく50社を超えます。いくら見ても見飽きませんし、そのたびにいろいろな発見があります。しかしながら、工場内の環境改善も進んできているとはいえ、やはり依然として3Kの要素が伴うことは否定できず、若い人材の確保に悩む鋳物工場が多いのが現実です。
 日本の高品質な鋳物は、日本の製造業の基盤です。日本から鋳物工場がなくなってしまうような事態にならないことを願わずにはいられません。