休職していた頃、保育園の子どもを預かる時間が短縮された。
制度上仕方のないことで、むしろ預かってもらえるだけありがたかった。
迎えの時間のおよそ40分前、真名板高山古墳(埼玉県行田市)へ立ち寄ったことがある。
用事があるわけでもなく、古墳が見たかったわけでもない。
ただ、何とはなしに足を運んだ。
古墳は何も変わらないように見えた。
麓に建つ板碑や薬師堂も、最後に見たときと同じのまま。
変わったのは自分の方で、心身が故障していたせいもあり、
古墳に登る気力も起きなかった。
古墳には何本もの樹木が立っている。
西日で長い影が落ちていた。
その影に車を止め、少しの間本を読んだ。
静かだった。
境内には誰もおらず、樹木の中から鳥が鳴いていた。
一日が終わろうとする静かな時間。
いつ職場復帰できるのかわからず、夕方はいつも不安に襲われた。
が、古墳に身を置いている間は、不思議と気持ちが落ち着いた。
真名板高山古墳は、約3m地中に埋没しているという。
自分も不安や心配事も埋没してくれればいいのにと思った。
一年の間、真名板高山古墳へ行くことが何度かある。
いずれも気まぐれに足を運ぶことが多い。
ゆえに、そのときの心情もそれぞれで、
古墳は何も変わらないように見えても、その表情は微妙に異なっているかもしれない。
古墳は静かだ。
シンシンと降り注ぐ時の砂に埋まっていくのを感じる。
埋もれていく静けさと寂しさが、時に心地いいのかもしれない。
ずっと昔からの時の流れと、時代ごとに現れては消えていく人生、そしてその延長線上にある遠い未来。
時間が地層のように感じられた。
積み重なっていく時間の中で、自分の存在のちっぽけさを感じた。
職場復帰したのは春だった。
小さなことで悩み、些細なことにこだわりすぎていたのかもしれない。
以来、娘の迎え前に古墳へ足を運ぶことはなくなった。
ただ一度だけ、小学校の授業参観前に真名板高山古墳へ行ったことがある。
窓を開け、本を読んだ。
その日は風が強く、樹木から落ちてくる実がいくつも車に入り込んだ。
古墳からの贈り物のような気がした。
車外へ出すことなく、そのまま受け入れた。
そして、出発時間が近付くと、静かに古墳をあとにした。
制度上仕方のないことで、むしろ預かってもらえるだけありがたかった。
迎えの時間のおよそ40分前、真名板高山古墳(埼玉県行田市)へ立ち寄ったことがある。
用事があるわけでもなく、古墳が見たかったわけでもない。
ただ、何とはなしに足を運んだ。
古墳は何も変わらないように見えた。
麓に建つ板碑や薬師堂も、最後に見たときと同じのまま。
変わったのは自分の方で、心身が故障していたせいもあり、
古墳に登る気力も起きなかった。
古墳には何本もの樹木が立っている。
西日で長い影が落ちていた。
その影に車を止め、少しの間本を読んだ。
静かだった。
境内には誰もおらず、樹木の中から鳥が鳴いていた。
一日が終わろうとする静かな時間。
いつ職場復帰できるのかわからず、夕方はいつも不安に襲われた。
が、古墳に身を置いている間は、不思議と気持ちが落ち着いた。
真名板高山古墳は、約3m地中に埋没しているという。
自分も不安や心配事も埋没してくれればいいのにと思った。
一年の間、真名板高山古墳へ行くことが何度かある。
いずれも気まぐれに足を運ぶことが多い。
ゆえに、そのときの心情もそれぞれで、
古墳は何も変わらないように見えても、その表情は微妙に異なっているかもしれない。
古墳は静かだ。
シンシンと降り注ぐ時の砂に埋まっていくのを感じる。
埋もれていく静けさと寂しさが、時に心地いいのかもしれない。
ずっと昔からの時の流れと、時代ごとに現れては消えていく人生、そしてその延長線上にある遠い未来。
時間が地層のように感じられた。
積み重なっていく時間の中で、自分の存在のちっぽけさを感じた。
職場復帰したのは春だった。
小さなことで悩み、些細なことにこだわりすぎていたのかもしれない。
以来、娘の迎え前に古墳へ足を運ぶことはなくなった。
ただ一度だけ、小学校の授業参観前に真名板高山古墳へ行ったことがある。
窓を開け、本を読んだ。
その日は風が強く、樹木から落ちてくる実がいくつも車に入り込んだ。
古墳からの贈り物のような気がした。
車外へ出すことなく、そのまま受け入れた。
そして、出発時間が近付くと、静かに古墳をあとにした。
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