くまえもんのネタ帳2

放置してたのをこちらに引っ越ししてみました。

消息

2006-02-17 19:21:39 | ノンジャンル


 生命は
      吉野 弘

 生命は
 自分自身だけでは完結できないように
 つくられているらしい
 花も
 めしべとおしべが揃っているだけでは
 不充分で
 虫や風が訪れて
 めしべとおしべを仲立ちする


 生命は
 その中に欠如を抱き
 それを他者から満たしてもらうのだ
 世界は多分
 他者の総和
 しかし
 互いに
 欠如を満たすなどとは
 知りもせず
 知らされもせず
 ばらまかれている者同士
 無関心でいられる間柄
 ときに
 うとましく思うことさえも許されている間柄
 そのように
 世界がゆるやかに構成されているのは
 なぜ?


 花が咲いている
 すぐ近くまで
 虻の姿をした他者が
 光をまとって飛んできている


 私も あるとき
 誰かのための虻だったろう
 あなたも あるとき
 私のための風だったかもしれない



ふとしたことで、だいぶ昔に別れてしまった人の消息が知れた。




僕もかたくなだったし、彼も邪悪だったし。
僕は貧乏だし、彼は金持ちだし。
そしておそらく、僕も彼も子供だったのだ。
僕たちは言葉少なだった。
手探りで、互いを捜していたのだ。
自分たちの飛び出しているところとくぼんでいるところを探り合いながら、二人がぴったりと重なるパズルのピースになろうとしていた。
どうすれば、二人が隙間無く、一つの存在になれるのか?

そして、その答えは見つけられないまま、しばらくして僕たちは別れた。
そして、しばらくの間は友達で居たのだけれど、彼には新しい恋人が出来、そして相変わらずの彼の毒とその新しい恋人の毒気に辟易しながらおもしろがりながら、少しずつ遠ざかってしまった。

彼を邪険に扱った人たちに対する彼の絶妙な意地悪のやり口は、端から見ていてもなんだか容赦がないというか、猫が小動物をいたぶっているような無心ささえあって、こんな子とはとっても付き合いきれないと思わせるものがあった。
自分をきちんと受け止めてくれる人がいないことを悲しく思うあまり、棘のある言葉をぶつけてしまっていたんだと、今はそう思う。
しかしまぁ、あのじゃじゃ馬を乗りこなす男が、ホントにいつか現れるのかどうか......。
彼は、寂しかっただけなのだ。

別れてからも何年かの間、「愛が欲しい」なんて、電話がかかってきたりしたっけ。

いつだったか、久しぶりに電話をしてみたら、番号が変わっていた。
それ以来、もう何年も連絡を取っていない。
それでも、「愛が欲しい」と言い続けていた彼の消息は気になっていたのだ。
「愛が欲しい」と言うくせに、僕が差し出した精一杯の優しさをことごとく取り落としてしまう、そんな彼のことを。

僕はいったい、どうしてあげれば良かったんだろうか?

つい昨日も、何となく彼のことを思い出して、幸せにしてるんだろうかなんて思ったのだった。
幸せになってるんだったらいいなぁ、どうしてるんだか知りたいなぁ、なんてね。


前にも書いたけれど、願い事ってのは、かなってしまうものなのだ。
だから、願い事をするときは慎重にしなければいけない。
で、さっそく今日、偶然にも彼の消息を知ってしまったのだった。
この頃、なぜだかすぐかなうので、ちょっと困っている。
そんな状況の変化に、僕自身馴れることが出来ないで居る。

たまたまとある有名な一般向けのWebページを眺めていたら、彼の名前があった。
カタカナ書きだったけれど、すぐに彼とわかる特徴のある名前。
リンクを辿ってみる。
そして、そこにはやっぱり彼の写真があった。
以前より甘え上手になったような、そんな表情。
元気そうで何より。

彼の書いている記事は、なかなか人気があるらしい。
軽やかな言葉と華やかな香り、世界中を飛び回り美味しい物を食べ歩いている。
どうやら、幸せなようだ。

こんなに魅力的なおしゃべりをする人だったっけ?
読み進めながら、ふとそう思った。
僕は、彼の中の素敵なものを発見できないまま別れてしまったんだなぁと、そう思った。
そして、それはそれで良かったんだなぁともね。
彼をこんなに幸せにしている人ってどんな人なんだろう?

今は、彼の言葉が、僕を潤してくれる。
彼のサイトは、僕のお気に入りになった。