九品人の落書帖

写真をまじえ、身の回りで見聞きしたことを、つれづれなるままに!

とどのつまりは食!

2018年10月03日 | 日記
 Eテレ『ヨーコさんの言葉』から引く。
               □

 友だちの恋人は、
 友だちでない人を結婚することになった。
 彼女は夜中に訪ねて来て、
 タオルケットにくるまって泣き、
 私は友だちの恋人に腹を立てて、
 そんなことになるような…、

 しかし、どうにもならないことなのだ。
 泣きながら、
 彼女は「おなかすいた。何かない」と言った。
               □
 次の朝。
 「あんなのばっか男じゃない。
 世界の半分は男だ。
 街へ出て気分を変えよう」と、
 彼女を励ました。

 バスの中で、
 彼女はぼろぼろ涙を流し、
 「もう一度合ってみる」と鼻をかんだ。
 しばらくすると「やっぱりやめる」と。
               □
 「おなかすいた。焼き肉が食べたい」と彼女は言った。

 焼き肉屋でも彼女は紙のエプロンをべったり顔におしあてて、
 しゃくりあげていた。
 そして、二人分の肉を、
 ほとんど一人で食べ、
 もう二人分追加した。
 食べ残した私のご飯も食べ、
 追加した肉を、あっと言う間に平らげた。


 焼き肉屋を出て、
 すぐ「ケーキが食べたい」と彼女は言った。
 それは腹を満たす食べ方ではなかった。

 何か不気味な力に支配され、
 彼女のものではない、
 胃袋でもないものの中に、
 シャベルで何かを一心不乱にほうり込んで行く作業だった。
 壮烈な荒れ狂った食欲が、
 彼女の悲しみの深さだった。
               □

 ハンブルグの空港で、
 時間待ちをしているとき、
 隣に座っている人と話をした。
 その人は初老の日本人で、
 食べ物の話をした。
 魚の話になり、
 私は子供の頃に食べたサンマめしの話をした。

 「丸ごとサンマをお釜に入れて、
 にんにくの葉っぱをざくざく切って、
 しょう油味で炊くのです。
 炊き上がって頭を持ち上げると骨がきれいにとれます。
 はらわたも一緒にまぜて食べます」
   
 「それは旨そうだなあ。
 私はサバの味噌煮が好きでね。」

 「小ぶりのサバをつつ切りにして、
 大根と一緒にごとごと。
 少し甘いほうが好きでね」
               □

 日本へ帰ったら、
 私はサバの味噌煮を作ろうと思った。
 何年たっても、ときどき、
 私は、サバの味噌煮が食べたくなる。

 すると「サンマめしは、旨そうだなあ」と言った、その人と向かい合う。
 顔も思い出せないその人と、
 私は心うれしい時を持つ。

      
 
 
  
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