ホテルの窓から外を眺めていたらクルーズらしい船が明々とした照明を輝かしながら、周囲に灯りの少ない川をゆっ
くりと流れるように進んでいた。その速さは今、船出をしたようなスピードだから近くに船着き場があるのかもしれない
と思わせた。予約していたクルーズの予定時刻にガイドが迎えに来て、船着き場に向かう道すがら、明日は添乗員と
して中国に向かうので朝が早いと言っていた。案内された船着き場はホテルから徒歩で5分くらいの場所にあり推察
した通りだった。ガイドは手続きを済ませると、船が帰ってきたらホテルまで送り届けるため再びここにに来ると言った
が、明朝は早いと言っていたし、ホテルへは私たちだけで帰ることは出来るから来なくてもいいと言うと、嬉しそうにお
礼を言い、そうすると言い残し去った。
船内の席に着き辺りを見回すと日本人客は殆ど見られず、欧米人の中にポツンという感じだ。飲み物以外はバイキン
グ形式だから、各自が好きなものを取り歩きテーブルで外を眺めながら、ゆっくりと食事を楽しむ。私の友はビールで、
そいつを飲みながらかき集めてきた料理を食べるのだが、こうした席になると食事というより、ビールのつまみのように
なり所謂、割り勘負けの様相だ。ビールを飲みながら食事を摂ることは私のスタイルではないからだ。
観光客相手だから料理の中身も万国形式、こうしたものの大半は私の口には合わないから、食べるものは限られてく
る。日本食として寿司もどきはあるが食べても不味い、ハム、サラダ、何かの煮込み料理などいつも見慣れたものが並
んでいる。やっと食べられそうな焼きそば風のものと、肉系の料理を少々だから私の料金分を妻が取らないと負けにな
る。海外でも、国内でも外食の場合必ず食前酒はビールになるから直ぐに空腹感から解放され、食事は食事でなくな
り宴席と化す。それは船上においてディナー・クルーズと洒落た名前になっても同様のこと。
メコン川のクルーズといっても特別な風景を見る事はなく、ユラユラしながら食事をするだけなのに何故か魅かれてしま
う。タイに行った際もチャオプラヤ川のクルーズ、イスタンブールでも同様、陸地から離れることに説明できない憧れか
魅力を感じているようだ。