端境期の甲イカ
鱸釣りが下火になると私はちょっとした端境期を迎える。境水道の反対側、美保
湾は甲イカとダンダラ(イシダイの子供で七つの縞模様がはっきりと見えるので七
縞とも呼ばれる)のシーズンになる。水道に屯していた大公望は一斉に美保湾に
移動してこちらの釣りに精を出し始める。
ゴンガラと言われる魚の形をした擬似を使うのだが後端には針がつけられており
魚と違えて来た甲イカがそこに掛かる。釣り方は簡単で、遠くまで投げてはゆ
っくりとリールを巻き続ければいい。ゴンガラは魚が泳いでいるように見せないと
イカは寄っては来ないからシャクリながらこの仕草を繰り返す。
甲イカが掛かるとジンワリと重くなり、まるでビニール袋か雑巾を掛けたような感じ
になるが引きはない。そうすると今までとは巻き方を変えなければならない、つま
り針には外れ防止の掛かりがないのでスムースによどみなく巻き取るのがコツで
ある。しゃくったりすると折角の獲物が直ぐに外れてしまう。足元まで来たら慎重
に吊り上げ一度、地面に降ろす。するとそこで墨を吐くがこの墨は衣服につくと
落ちにくく厄介なことになる。甲イカは身体の中に発泡スチロールのような軽い
サーフボード状の甲を持っており別名モンゴルイカとも呼ばれ大きいものは五十
センチ近くまで成長する。食べるには手頃な三十センチ以下のものが釣れ、刺
身よりも塩焼きか煮付けの方がおいしい。身体の割には、手は短くズングリムッ
クリしており、釣りたては背中の色が頻りに変わる。興奮しているのか相手を威
圧しているのか。
甲イカシーズンの陽は柔らかくポカポ力と気分もよく何と長閑な釣リだろう。しか
し釣れない時はこんな馬鹿々しい事はない。餌は木切れで作った擬似、甲イカ
以外には何も釣れないので楽しみは少ない。
美保湾の春の風物詩の一つである。
横泳ぎの名手、青手カニ
また、境水道に戻ってみる。夜になると青手蟹が捕れる。大きめの柄の長いタ
モを用意して岸壁の明かりの下で蟹を待つ。青手蟹は瑭泳ぎの名手で流れが
あろうがお構い無しでスイスイと達者な腕前を見せてくれる。タモの気配を察知
されると見事に方向転換、気持ちのいいスピードで逃げ箸にも棒にもかからな
い。予め進むと思われる所にタモをつけておき多少の角度と深さを調整する位
で構えていないと捕らえることはできない。側面からすくうことなどとてもできるこ
とではない。深さの目測を誤るのが一番の敗因である。
普通、蟹といえば、岩場で波に洗われながら岩の間をチョロチョロしているが青
手蟹は中々、手強い相手だ。今日の収穫は青手蟹、カラッと唐揚げにすれば
殻まで食べられる、塩茹でも身がビッシリとありオツなものだ。餌は要らないし体
力,時間だけが原価の安上がりな遊びだ。