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女装子愛好クラブ

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昭和43年『風俗奇譚』の女装小説『蒼い岩漿』②

2024年02月08日 | 女装小説
伸一さんは職と家を確保できて大喜びですが.....


社長の厚遇

大場は、五十をやや過ぎたくらいの、温厚な感じの神士だった。ゴルフ焼けのした顔に、第一線に働く実業家のおもかげがあった。
家出同然のようにして百合江のもとを離れてきた伸一は、友人の家に預けておいた、簡単な着替えの入ったスーツケースを取りに戻り、約束の時間より早目に会社に行った。 就職先が決まるまでの不安感はすっかり消え、伸一は爽快な気分だった。何よりも社長の大場の親切が身にしみてうれしかった。
待つ間もなく大場が現われた。
「やあ、早かったね。部屋のほうは私が案内しよう。さっそく今夜から働いてもらうよ。君が運転して行ってくれたまえ」
社長がみずから案内してくれるということに伸一はとまどいを感じたが、大場はそんな 伸一に関係なく先に立って歩き出した。
見送りに出た社員の前を、伸一の運転する黒塗りのセドリック・カスタムが軽いエンジンの音を残して走り去った。

夕暮れの第三京浜国道を走り、車は横浜市内に入った。明かりの入ったマリン・タワーを右に見ながら山下公園を過ぎると、大きく、右、左と二度ハンドルを切り、外人墓地に続 く急な上り坂の中腹に、そのマンションはあった。
地下の駐車場に車を止めると、あらかじめ 連絡してあったのか、管理人が飛び出して来て、リヤーのドアを開けた。
おうような態度で車から降りた大場に、管理人は深く頭を下げながら言った。
「お待ちしておりました。お言いつけの品物 は全部取りそろえておきました。さ、どうぞ……」
部屋まで案内しようとする管理人を、
「いや、部屋はわかっている、どうもと苦労さま」
と大場は制しながら、上着の内ポケットからワニ皮の財布を取り出して、何枚かの紙幣を手渡した。それが彼に対する口止め料だったことが、伸一には後からわかった。

自動式のエレベーターを五階で降りて、角から三つ目のドアを開けると、室内は奇麗に整頓されていた。
リビング・ルームには豪華な応接セットやカラー・テレビが配置され、ダイニング・ルームには冷蔵車まで置かれ、中にはビールや冷凍食品が入っており、すぐに生活できる状態になっていた。
この豪華な部屋が、ほんとうに自分の自由にできる部屋なのか信じられない気持ちで、 伸一はながめ回していた。
ソファーに深く腰を沈めた大場が、伸一を手招きした。大場の正面にやや緊張した面持ちですわった伸一に、大場は優しい笑顔を向けながら口を開いた。
「君。そう堅くならずに楽にしにまえ」
「はい」
そう言われても伸一は、なかなか気になれなかった。

「どうだい。この部屋、気にいってくれたかね」
大場はポケットからタバコを出して、伸一にも勧めながら口にはさんだ。すばやく自分のライターで火をつけながら、伸一の声は上がっていた。
「それはもう社長。私にはもったいないぐらいで…………」
「そうかい、気に入ってくれて私もうれしいよ」
紫煙が静かに部屋の中を横にはった。
「ところで君。社長と秘書は常に一心同体で なければいけない。公私ともに生活をいっしょにしなければならない。私も時々この部屋に泊めてもらうよ」
「それはもう。ぜひお願いします」

大場はさも満足した様子で、
「よし。話は決まった。冷蔵庫にビールが入っているはずだ。君の就職を祝って乾杯といこう」
「はい」
伸一はこまめに立ちるまい、冷蔵庫から ビールとカン詰めを取り出して来た。
乾いたのどに、ビールのほろ苦さが快かった。
数時間ほど前に会ったばかりの大場が、なぜこれほどまでに自分に親切にしてくれるのか不思議だったが、大場の抱擁力のある優し いまなざしが、彼のそんな気持ちを取り除いてしまった。 続く



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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (菜那)
2024-02-13 04:10:36
コーイチローさん凄い力作ですねぇ!
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Unknown (koichro)
2024-02-17 00:24:52
すごい小説です!!
返信する

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