第5章 一日中、歩き続けたキーホーは自律神経に疲労感をプレゼントされました。 交感神経に副交感神経が爆撃を受けている模様でした。 さて、そこで、キーホーは黒いバスを待つ事にしました。 キーホーは、とろんとしました。 すると、 キーホーは 小さな停留所で 隣のベンチで船虫の様に丸まった、 カエルに似た、おばあさんに話しかけられたのです。
「僕はDO ̄TEIでね。」 「え?何でっしゃろ。あたしゃ英語は、わかりましょぇん。ひぃぃ。」 沈黙が続きました。その一掴みの時間が、あの夕暮れの淡い、もの悲しい、奇妙な、ひとときであった事を、記しておきましょう。 ヒュ───────────────ゥ。 (汚れなき?七十五才と、汚れなき?十九才の出会いだぁ。 す・て・きじゃないか。 でも、どうして僕は、このようなワンダフル~なゾーンの中にいても、寂しくて寂しくて仕方がないのかなぁ? きっと僕にも世界にも、なぁんにも意味が、ないからじゃないのかなぁ。 あぁ。 でも、今の僕と、おばぁさん、ステキだなぁ。 感動的だなぁ。爆裂ロマンチックだなぁ。 夕陽が雰囲気(むぅど)を盛り立てるなぁ。)
しだいに、寄り添ってゆくのであったぁ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チン! 》
彼女の肌を、その下の血潮を、魂のうごめきを、感じているのです。 彼女の方も、キーホーに感じているらしいのです。 それに、この信じがたいリリカルな風景。 まるで夏のオレンジ・ジュースの、ひと雫の内部(なか)に入っているみたいです。
頬を赤くし、モジモジして。 「あのぅ。僕は今、とても、あぁ、なんて言うのか、その。胸が、張り裂けそうで・・・・・」 「まあ。・・・あ・あたしも、なんだか息苦しゅうてなぁ。
ついにキーホーは、おばあさんをベンチに押し倒して抱きしめて、
キーホ・・・・・は、二人は・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・結合してしまったのです。♂♀
※注。あとの方のチャン!に、アクセントを置く事。
キーホーは、冷蔵庫のようでした。 老婆は、萎れて隅でクシャッと縮こまってやがります。 そのうち、老婆は、冷たい風にコトンとベンチから吹き落とされて、枯れ草玉みたいにコロコロと、遥かな山の方に飛んで行ってしまいました。 (ああ、まただ。僕は淋しくてたまらない。 そうだ、またスカートめくりを忘れていた。 僕は、どうして、こんなに辛いのだろう。)
汚れてしまった?七十五才と十九才は別れました。 運命の冷たい風が引き裂いたのです。 キーホーは、もう、おばあさんの事など、すっかり忘れてしまって、唯、黒バスの硬質の冷たさに恐怖しているのでした。
(何かが僕から遠いところへ去ってしまった。 なんて寂しいんだ。 いったい僕は何のために動いたり考えたり感じたりしているんだろう。 答えが、ずっと、ずっと遠くにある様な気がする。 だから、こんなに悲しいんだ。きっと、そうだ。) |
第4章
目から火花が飛びます。 細かいガラスの破片が、頭ん中でシャッフルされているみたいで、もうキーホーには、何が起ころうとしているのかなんて考える事は一体全体、さっぱり、けっぱり、不可能なのでした。
そこからは、数百本の高い煙突が悲しいくらいに、揃いも揃って、薄汚れて全く同じ形をして林立しているのが見えました。
オバケエントツって言葉を、キーホーは理解しかねますね!ね。
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第3章 白い大粒の砂に左足を奪われたキーホーは右足を忘れていました。 でも砂はキーホーの力には、かなわなかったので左足は余裕シャクシャクと大粒の砂を蹴散らしてやったのです。
空には何も無かったのです。 空は全体をボォゥッと青白く光らせ、アルコール液内の死人の肌の様に魅惑的でした。 その時、キーホーは右足を思い出し、歩ける事を知りました。 しかし、淋しさは、ぬぐいきれません。 相変わらず。
キーホーは、どうしてか恥ずかしくて顔を桜色に染め、伏せ目がちに近付いて行きました。 透明な少女は、膝をついて白く大きな、がらぁんとした画用紙に指で絵を描いていました。 キーホーは勇気を出して、その美しい透明な少女の近くへ行き、こう言いました。 「明日は明日の風が吹く?」 少女は黙っています。 たぶんヴィヴィアン・リーに気持ちが伝わらないからでしょう。 スカーレット・オハラはタラの広野にテレポーティションしたんですよ。 だって、消しゴムが口を消すより井戸に落ちたシルクハットなんだから。※ ※注。この部分に意味は無い。私、作者は、もう、これ以上、意味のない事をつらつら書かない事を、ここで宣言します。よろしくね。 それでは、もう一度、キーホーが少女に話しかけるトコロから。
「何の絵?」 すると 「あなた、私が見えますの?」
そのようでした。 キーホーにも誰にも少女の姿は見えないのでした。 でも画用紙は見えました。 そこには美しい少女の絵が描かれておりました。 その絵の中の少女は透明な少女に色が付いたんだという事は、キーホーには、ちゃぁーんと、わかっていましたさ。 (そうだよ。僕も少女も誰もかも、こんな事、十年も前から、わかっていた様な気がするよ。 ほら、わかるだろう。 僕は、十年前に祖父の書斎で燈っていた、小さなランプの灯りが、軒下の防火用水桶の水面に、ゆらゆら揺れているのを、さめざめと降り続ける雨の中で、偶然に見つけた様な気持ちなんだ。 胸の奥で何かが遠のいて、遠のいて、キューッと侘びしくなる)
瞬く間に黒い燃え滓と化した少女の絵は、かろうじて、まだ、その原形を保っており、キーホーに向かって何かを伝えようと蠢いている様でありました。
小さな声が聞こえました。 “押し入れ事件がありましてね。ついに指を、噛み砕いて血でボードに「鳥」って書いてしまいましたよ” 風は海に消え、灰も飛沫に混じりました。 透明な少女は誰にも見えないのですから、いないも同じです。
音楽室へ。
でも、透明だもん、しょうがないやって、少し自分をごまかしました。
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第2章 カタカタと、コカコーラの空き缶が小さく呻いていました。
ピカピカ輝きながら銀色電車は冷たいプラットフォームに滑り込んできました。 電車と大気の巻き起こした突風が夏の終わりの鋭角的な陽光の中に、カラカラと空き缶を転がしました。 キーホーは改札の影の領域を抜け出してオレンジ色の夕暮れに体を割り込ませてゆきました。
一帯は、たちまち肉の渦となって人間切符切りは滑稽な自動人形と化してしまいました。(自動改札故障の為、人間が切符を切っていたぁ!) 人々は滝の様に階段とエスカレータを落下していきます。 キーホーは銀色電車に電動ノコギリを振り回して乗り込み、軽やかに座席を確保しました。 キーホーは窓から構内の様子を淋しそうに眺めています。
バイオ・プロレスラーみたいなサラリーマンが勢いよく人々の頭上を飛び跳ねています。 それを仕事場を放棄した人間切符切りが真っ赤(マッカ)になって怒鳴り散らして空中を旋回しているのです。
「メリークリスマス」
キーホーの隣には、なんとコケティッシュな、りょう子さんが秘かに微笑んでいるではありませんか! 「あらら。まぁ。」 りょう子さんはキーホーの動揺を見抜いて意地悪く目を光らせました。 「何を恥じてるの? りょう子さんの言葉には明らかに侮蔑と好意がゴチャマゼに含まれていました。 感受性の鋭いキーホーは、しっかりと言葉の意味を捕まえました。 こう言い返したのです。 「ざけんじゃねぇやい!」
通り過ぎる高架線下の商店街では、けばけばしいネオンライトと濃くなった夕陽が複雑に絡み合って、あたりに靄の様にたちこめているのが窓から窺えました。 りょう子さんの可愛い唇が蠢きました。 「純粋乞食!」
キーホーは激昂しました。 「な・なんて表現をするんだ。 キーホーは、りょう子さんの前で両手両足を鳥の様にバタバタさせました。 顔は小刻みに震えています。 「あら、そんなに興奮しちゃって。 「それで僕が病気であるって事が少しは救われるんだよ!」 キーホーは息を切らしながら、ふと、手のひらから水をこぼした様に言いました。 すると、りょう子さんが、 「何から?」 と薄笑いを浮かべましたのでキーホーは、 「うわぁ---------!」 と叫ぶと狭い窓から夕闇の空に羽ばたき、気付いてみると内臓の様なギッシリとした街を空中から、それも百メートル程の高さから見下ろして(俯瞰)いる自分に気づきながら、落下していきました。
キーホーは着地しました。 ひと息ついて、ぐるりを見渡すと一斉に街路の水銀灯が淡い光達を拡散させ始めました。 キーホーは左を向きました。 彼の瞳に誰もいない薄暗い路地が映りました。 路地の中では小さな、つむじ風が枯れ草をころがしていました。 ふいにキーホーの頭の中で“カーン”という鋭く透明感のある音が飛び散りました。 すると、たちまちキーホーは自分の役割を思い出したのです。 (ああ嫌だ、嫌だ、何故、僕は役割を果たさなきゃならないんだろう。 キーホーは体中が、がらんどう化した気分になり思いきり唇を噛み締めました。 ごった返したオレンジゼリーの風景が凄まじい速さでキーホーだけを残して落下してゆく様な気分でした。 「おにいちゃん、はい。これあげる」 リボンを結んだ白い麻のスカートの女の子が天使の顔をしてキーホーにペロペロキャンディを差し出していたのです。 キーホーは救いを感じました。 キーホーのがらんどうの中からサイダーの気泡みたいに強烈な清涼感となって無限の海岸が湧き出し、少年の頃、修学旅行の深夜、布団の中で生まれて初めて胸に宿した、あのメランコリックな永遠への感傷までが吹き出してきたのでした。
「僕はね、僕はね」 キーホーは渾身の力をこめて少女の鳩尾(みぞおち)を天高く蹴り上げました。 そして、高層ビルの彼方の夕陽に向かって猛スピードで消えてゆく天使の顔をした少女に向かって、ペロペロキャンディーをBye・Byeと振りながら言いました。 「僕はね。とても淋しかったんだよぉぉぉおお。
(ああ。僕はダメだなぁ。 と、しみじみと考え込んでしまうのでした。
朝が来ると、 キーホーは砂浜を歩いていました。 |
第1章 (第3の涙は今日も、お話に来てくれなかった。※だ・ら・しちゃうもん。※注。堕落の事。) 雨の降る午後、キーホーのもとに小さな書簡が届きました。 キーホーは鳥が飛んでくの、たまに見る。 白くて大きな広い、でぇっかぁい、がらぁんとした、荒涼とした部屋に一人で木の椅子に凭れるキーホー。
でも何という病気か、分かりません。 症状が、どんな病気に対しても、あんまりフィットしないのです。 アゴラフォビアの様であり梅毒の様であり自閉症の様であり仮面鬱病の様であり生きていない様であり、でも全部に当てはまり、全部に当てはまらない症状が一杯あるのです。 他人が大嫌いで大好きだし、外出もしたいけど籠もっていたいし、考えたいけどボォッとしていたいし。
『やあ。何かあるかね?
キーホーは無限記号の様に腕組みをして、ゆっくりと視界にブラインドを降ろして、つぶやきました。
(そして、かったるそうに) 「「「「「「「「あぁあ」
いや、音楽室へ行き目玉にピアノ線を刺してから、スカートめくりをする方が、よいのかもしれないな。 とにかく両方やればよいだろう。 キーホーは、そう言いきかせると視界のブラインドを引き上げ、ゴムの様に腕を弾かせました。
時は、いつも、ただ過ぎるのです。 キーホーは、おごそかに立ち上がり、旅に出ました。 キーホーが通り過ぎた後、木製の回転式二枚重ねのドアが、カタン・コトンと二十日鼠の閉ループの輪の様に回り続けていました。 それは、まるで悲しいサインペンのデュエットみたいでした。 |
序章 ※(クルベムゲイル・サーガ) 「断片17」 『音楽室 5号』
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