【或る着物生活者の一生】
昨日は午前中から暖かく、群青色裏地の漆黒着物で着流し。
昼頃になるとまるで初夏の様で、汗ばみ暑いくらいでござった。
初夏の様な其の陽光の中、ワシは着流しで、まるで「ベニスに死す」のダーク・ボガードの様に彷徨った。洋装で死ぬのは嫌だがあんな具合にそろそろ…
【或る着物生活者の一生】
本日も朝から暖かく長襦袢はやめてステテコと半襦袢に真紅の裏地の漆黒長着で午前九時半頃、素足に下駄で出掛けた。
こういう陽気になると家にいる時は寝ても起きてもひたすら半襦袢とステテコ状態になっちまう。
んで、あちこち顔出して昼頃ハンバーガー喰ってから駅へ。
【或る着物生活者の一生】
午後一時頃かな?アトレの本屋の前で品の良い御婦人がワシの目の前に立ち何とも言えぬ表情でワシを見つめ行く手を塞ぐので、
「何すか?」と言うと、
「すみません。あなたに謝らなければなりません」と言う。
んで、どういう事かと言うとずっとワシの後を付けてたそうで
【或る着物生活者の一生】
何かワシの着姿に惚れ惚れして後を付けずにゃいられなかったそうで。それですいません、との事。
帯の結び方が素晴らしいとか、男の人でこんなに美麗で完璧な着姿は生まれて初めて観たとか、褒め言葉の嵐。
何やら着付けを教えておるとかで生徒の手本にするとか。
【或る着物生活者の一生】
結局アトレの本屋の前で一時間位、立ち話。少々疲れた。
ま、着物で暮らしてる人なら当たり前の事だが、しょっちゅう声をかけられる。毎日、必ず何らかの形で声をかけられると言っても過言ではない。
でも、後を付けられたのはちょっと久し振りか。西洋服派には分かるまい
【或る着物生活者の一生】
声をかけてくるのはだいたい女性。殆どが中高年の方だが妙齢の女性もたまにいる。今日声をかけてきた女性は実にきちんとした和服姿で桜色の羽織が季節感を出しておりとても可愛らしかった。
あと、最近は外国人がよく声をかけてくる。だいたい白人。目を見開き喜んだり色々
【或る着物生活者の一生】
白人以外では中華系の女の子達が去年あたりからやたら多い。チャイナか台湾か分からぬがだいたい三人位でタブレット持ってうろうろしてる。ま旅行者や。チャイナの旅行者は非常識とか言うがワシに声をかけてくる女の子達は実に礼儀正しい。まずお辞儀して「スミマセン」だ。
【或る着物生活者の一生】
最初の挨拶は日本語だが、後は言葉が分からぬ。が、チャイナ系の女の子達はたいてい、それどこで売ってるんですか?ってな事を聞いてくる。その位は何となく分かるので、まあ馴染の店に案内し去る。其の後彼女らはだいたい履き物屋やらで写真撮って土産に何か買ってる。
【或る着物生活者の一生】
ワシは冬はずっと夏日と元旦以外は殆ど、着物の上にとんびで過ごす。黒のとんびに黒のソフト帽。すると声をかけてくる女性とは殆ど、とんびの話になる。「金田一耕助が着てましたよね」とか「懐かしいです。昔はね皆着てました」とか「死んだ夫が着てました」とか様々
【或る着物生活者の一生】
着物に、とんびに黒帽子に下駄履きだと、よくバンカラの話になる。ワシとしては、あいや別にどうでもいいんだが「あ!葛の葉ライドウだ!」とか「あ!大正ロマン!チゴイネルワイゼン!」とか言って欲しかったり欲しくなかったり・・・あいや。
そろそろ押し絵の中に入るか
【或る着物生活者の一生】
そう言えば圧倒的に声をかけてくるのは女性だが(ま女性に声かけられた方が楽しいに決まっとるが)、ごく稀に若い野郎に声をかけられる事がある。
女性の場合は全てと言っていい程褒め言葉だが男は「きちがい」だの「恰好つけてんじゃねぇコノヤロー」の類。何でしょねぇ?
【或る着物生活者の一生】
結局、日本という国が連続性を何とか保っていられるのは間違いなく女達のおかげだな。
何か最近小ブームなのかどう見ても二十歳前後位の女の子が着物姿で普通に歩いてるのをたまに見かける様になった。
そこで、うむむ、と考えてしまう。
【或る着物生活者の一生】
何をウムムと考えてしまうかと言うと、
着物生活者のワシが女性に声をかけられるのは楽しく嬉しく何の問題も無いのだが、ワシが綺麗なウットリする着物姿の女性(特に若い)に「いや~お美しい惚れ惚れしてつい尾行しちまいやした」何て声かけたらお縄になりそだ。難しいな