元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

探偵キック 陸

2021-06-16 07:30:40 | 夢洪水(散文・詩・等)
探偵キック

 キックの自我は、すでに崩壊を始めていた。ふと、自分のふるえる両手が、2人のロミの発言を交互に入力し、いつの間にか、 青年Z=ロミ と、キック=ロミ の両方を自分一人で演じているのに気づいた。

 気が遠くなって行くようだった。いったい私は、いつから、もう一人の私を作り出していたんだろうか?レク夫妻の娘の失踪時の半年程前に、このチャットに出入りして彼女と知り合ったのは、私自身だったのだろうか?

 私は彼女とメール交換をしていた?いや、私は沖縄に住んでいた事もないし、年だってもう40を過ぎている。私は、いつの間にか、架空の私自身の情報を私自身の頭で、この手で・・・若い極端な強弱を併せ持つ人格を、現実存在として作り上げていたのか?・・・・・・・・・・・ 
 
 と、キックが思考の迷宮の中を、ぼんやりと漂っている時、急に背後で大きな声がした。さらに、かなり強い力で“パシッ”と背中を叩かれた。

 キックが、ぼんやりと虚ろな顔で後ろを振り向くと、快活で大柄で世話焼きの部長が、いつものように元気良く笑いながら立っていた。

いよぅ!どうした、キック!相変わらず熱心だな!ねっしん!ねっしん!はっはっはぁ~!いいねぇ~、頼りにしてるよ!ほら、例の中途採用の新入社員を連れてきたぞ!この2人だ!今日から君の部下という訳だ!よろしくたのんまっせぇ~!ファイトだ、キック!じゃ!あとは任せたぜ!有能なお前さんの事だ!安心して任せられるってもんだ!今日のところは、うまく2人に仕事の内容を教えてやってくれ!3人でうまくやってくれよな!そうそう、そういえば、さっきレク夫妻から娘の捜索を中止して欲しいって連絡があったよ!もう、あの娘はあきらめました、そうだ!世の中冷たいねぇ~!でも、今までの調査料はバッチリいただいたよ! 請求料金にかなりお手当を上乗せして払ってくれたよ!おいしい仕事だったな!それじゃぁな!よろしく!ぐわっはっはっはぁ~!

 と、部長は豪快に笑い、どんよりとした半開きの目で虚空を見つめているキックの肩をパンッと叩いて、去っていった。・・・中止・・・捜索は中止・・・・?

 部長が去ったあと、そこにはニヤニヤと薄笑いを浮かべた2人のスキンヘッド男が、じっとキックを見つめたまま突っ立っていた。これが新しい私の部下?・・・キックは何もかも分からなくなっていた。ぼんやりと、その中途採用で今日から彼の部下になったスキンヘッドの2人の男を見ていた。口からは、よだれが垂れていた。

 キックは、このスキンヘッドの2人の男を、以前どこかで見たことがあるような気がしたが、もう虚脱状態で、すっかり腑抜けてしまい、何もする気も考える気もしなかった。
 
「ひひひひひぃ、いひひ、ほら、ほら、俺たちゃやって来たぜ。そう簡単には死なせやしねぇって言ったろう?お前の地獄は永久に続くんだぜ!!」

 スキンヘッド2人組はニヤニヤしながら、かすれたイヤ~な声をそろえて一緒に言った。

「おろろろろぉ?ははぁ、もうバカになっちまってんのか?しょうがねぇなぁ!!それじゃぁ、俺達がお前を、ちゃ~んと動かして、ちゃ~んと元気にしてやるからなぁ!!ほら、これだよ、これ!!使いな!!」

 スキンヘッド2人組は、顔面を不規則に歪めて、嫌らしく笑いながら再び一緒に声を出すと、ラベルに「W・スキンヘッド」と書かれたCD-ROMをキックの手に握らせた。そして彼らは完全に自我崩壊を起こして植物人間同様になってしまっているキックの手を、2人で“ぎゅっ”と強くつかんで、CD-ROMをドライブの中に突っ込んだ。

 すぐにインストーラーが自動的に立ち上がり、全画面はピンク色に変わり、「セットアップしますか?」という文字が現れた。スキンヘッド2人組は、力の抜けきったキックの右手を操って、次々と「OK」をクリックしてゆき、「W・スキンヘッド」のセットアップを終えた。そして再起動をかけてから、再び、キックの手を介して「W・スキンヘッド」の螺旋状のアイコンをダブルクリックした。

「ほら!出たろ!これだぜ!例のメールソフトはよう!ひひひぃ、誰も持っていやしねぇ!俺たちだけが持ってんだ!!!ほら!ほらっ!こうして、グィッとマウスを動かしてなっ!こうしてカーソールを画面から自分の身体の方に持っていって、自分をクリック!!そして、そ~のまま、このメールソフトの送信メール作成で開いたメールのところに、ゆ~くっり、ゆ~くっりっ、ドラッグして持ってって、貼り付けちゃうんだよぉおおおおおお。ほら!!!

 2人のスキンヘッドは、足を蛇の様にくねらせて踊りながら、ゲラゲラ笑って、声をそろえて喚きながら、キックを完璧に思い通りに操作していた。

 マウスを握ったキックの手を、2人で器用に動かし、カーソールを画面の外まで持ってきて、キックの体をクリックし、そのまま、スゥーッとドラッグして画面の中のメールに貼り付けてしまった。
 
 社内は何故だか薄ボンヤリと現実感を失い、さっきまでザワザワ大勢いた社員達の姿も、すでに何処にもなかった。ただスキンヘッド2人組の下品な大声が、巨大な鐘の中で反響するように響いていた。風景が殆ど形を留めなくなり、ピンク色に包まれていった。

「あとは、俺たちが、な、ちゃぁ~んと、送信してやるぜ!!ゲヒヒヒヒヒヒ!!」

 2人のスキンヘッドの男は、弾けた様に飛び跳ね、激しく頭をシャッフルしながらゲラゲラ笑い、2人で一緒にマウスを握り、右手の人差し指でキックが“染み”のように貼り付いているメールの送信ボタンを押した
 
 キックの意識は完全にフェイドアウトした。送信・完了
 
 スキンヘッド2人組が振り返ると、社内は、いつも通りにザワザワと大勢の人間達が動いていた。特に、いつもと変わったところは無かった。ただ、キックの存在を知る人間は誰もいなかった。もともとキックなんて人間はいなかったのだ。部長が大声で誰かの名前を呼んでいた。誰かの捜索依頼が来たらしい。
 
 

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珍品屋で真っ赤な大きいゴミ箱を買った。

 珍品屋の店員はピンク色のスカートをはいていた。

 珍品屋の店員はピンク色のストッキングをはいていた。

 珍品屋の店員はピンク色のスニーカーをはいていた。

 珍品屋の店員はピンク色のノースリーブを着ていた。

 珍品屋の店員はピンク色に髪を染めていた。

 珍品屋の店員はピンク色のピアスをしていた。

 珍品屋の店員はピンク色の口紅を塗っていた。

 珍品屋の店員はピンク色のコンタクトをつけていた。

 珍品屋の店員はピンク色のマニキュアをしていた。

 珍品屋の店員はピンク色のニーソックスをはいていた。

 珍品屋の店員は透き通るような肌をした美しい女性だった。
 
 ロミ君は、圧倒された。
 
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      H「これ」



あこがれのピンク色の女


kipple