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元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

「雨族」 断片80-すぐ終わる:kipple

2011-07-03 01:25:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片80-すぐ終わる


大丈夫だよ、すぐ終わるから。

雨が一降り、サッと過ぎった、そんな感じで、すぐに終わるから。

楽しい?永遠に続くみたい?苦しい?永遠に続くみたい?

“楽しい”も“苦しい”も薄っぺらい紙の裏表で、“楽しい”の裏側は“苦しい”だし、“苦しい”の裏側は“楽しい”だし

いちいちこだわる事はないよ。

永遠は一瞬の中にあり、一瞬に永遠を感じてるに過ぎないんだから

君が望もうが望むまいが全く無意味なんだよ。

どっちにしろ、すぐに終わるから。

人が、この世界に滞在している時間は本当にアッと言う間なんだ。

幼児だろうが若者だろうが中年だろうが老人だろうが108歳だろうが何の意味も無いし、すぐに終わる。

生まれる前に中絶されようが若くして病死しようが殺されようが自殺しようが大災害で足元で真っ黒な口を開けてる亀裂から底無しの闇に呑まれようと長生きして家族に見守られて大往生しようと、おんなじだよ。

すぐ終わるんだよ。すぐ。

人間の滞在時間なんて、本当に一瞬の通り雨みたいなもんなんだ。

不安になる事も安心する事も一重で、全く気にする事はない。

すぐに終わり何もかも跡形もなく消えるからね。

逆に言えば、どんなに善行をしようと、どんなに悪行をしようと、全然、構わないんだ。

君は最初から徹底的に自由なんだ。

どっちにしろ、何をしようとしまいと、すぐ終わるから。

それを知っていれば、君にとって怖いものなど、この世に一つだってありゃしないんだ。

どうせなら思いっきり何かして、私を一瞬の間でも楽しませてくれぬかね。

そんな絶対の事を言う私は何者なんだ?と君は問うか?

いいよ、教えてあげよう、君もすぐに終わって跡形もなく消える

ここで、私が気まぐれに君と交わした、この会話も、すぐに無に帰す

私は、

全宇宙征服者

いいかい?元々、こんな世界も宇宙も何もかも一切、無いんだよ。

全て、無なんだよ、だから、無に帰すとはそういう事で当たり前の事なんだよ

元々、何にもないんだけど、時折、ほんの時折、ほんの一瞬、揺らぎみたいのがあるんだよ、それが何だかは私にも分からないんだけどね。

一切は無だけど、その、ほんの一瞬の揺らぎが、 0 を 1 に変えるんだ

無が揺らいで、0 から 1つの宇宙が生じた瞬間に無限の世界が出現する

1つの宇宙が瞬間的に無数に枝分かれするんだよ

例えれば、たった一つの微粒子がちょっと違う運動をしただけで、違う宇宙が発生し、そうやって、一瞬にして、無数の宇宙が出現して、その無数の宇宙も一瞬のうちに全て収縮して消滅して、再び無に戻るから、元々、何にも無いに等しいんだよ

君は、瞬間的に生じた、その無数の中の一つの宇宙の片隅で本当に何の意味も無く、全くこれまた無に等しいような一瞬の通り雨みたいな瞬間が無数に極小にスライスされたような余りにも短い時間を過ごすのさ

だからね、すぐ終わるから。ね。だからね、すぐに終わるって私は言ってるんだ

え?私がどうやって全宇宙征服者になったかって?

全宇宙征服者とは、どういうものなのかって?

いいよ、教えてあげる、私は、ある宇宙の、ある時、ある場所で、ある事をしたんだ

もっとも、私のいた宇宙は一瞬の無数の宇宙の中でも早々と消滅してしまったんだけどね。

私がいた宇宙がいきなり収縮して消滅した、その瞬間にね、私は、そもそもの全宇宙の根元を掌握したんだよ。

無が揺らいで、  0 が 1 を生み出した最初の瞬間を押えたんだ。

 1 が生まれて、すぐに無数に枝分かれする、その直前の全宇宙の根幹と言える一瞬を絶妙なタイミングでグリップしたんだよ。

そうするとね、次の一瞬から枝分かれする無数の全ての宇宙の初めから終わりまでの全ての出来事がリアルに私の中に逆流してきてね

次の一瞬で無数に枝分かれした全ての宇宙が収縮して消滅するまでの瞬間に起きた全宇宙の無数の全情報が私の中に納まった

そうして、瞬間的に存在し消滅した全宇宙の根元で全情報を獲得する事によって、私は全宇宙征服者になったのさ

私は一瞬の中で全宇宙の情報を掌握し、その一瞬の中の 1 が無数に枝分かれする直前の瞬間の中で永久に停止し、全宇宙征服者として定着した

私は全宇宙の根元にいて、逆流してくる全宇宙の全てを知ってる。

君の悲しい記憶も苦しい記憶も楽しい記憶も、辛い思いも絶望的な感覚も、何をしたか何をされたか全部。

君だけじゃない、全宇宙の無数の人間に起きた全てを知ってる

だから絶対の事を言える

君は、すぐに終わる。君以外の人も、あっと言う間の通り雨。すぐに消えて無に帰すよ

え?もう一つ質問?いいよ

何、じゃ、君がこういう風に私と私の気まぐれで言葉を交わす事もすでに知っていたのか?って?

そうだよ、知ってるんだよ。全部。

実を言うとね、君が思いっきり何かするとしても、それも全部、知ってるんだ、その一瞬を私に楽しませてくれ、なんてのも実はインチキで全部、知ってるから楽しむ事なんてのも、無いんだよ

私はね、すぐに終わる君たちが羨ましい

全宇宙の根元で停止して全宇宙の全情報を獲得して全宇宙征服者になった私はね。

私はね。

地獄だ

永遠の地獄滞在者。 それが全宇宙征服者さ。

永久に続く豪雨の中で全てを知っている。

だから、絶対に言えるんだ。

君が雨族だとしても、いや、雨族なんだよ、いくら生まれ変わっても抜け出せないんだよ

それでもね。

君は、私より、ずっと幸福で、もう、それは比べものにならないほど絶対に幸福で


だって、君は、すぐ終わる。 のだから。




断片80     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片79-化石の夢-②:kipple

2011-04-02 00:21:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片79- 化石の夢-②

     出生よりちょっと前からのエスペラントの歴史


エスペラントは、そもそも産み落とされたその時から覇気のない、ボ~ッとした男だった。

母親の子宮から出てきたその時も気怠く低い小さな声でやる気なさそうに“オ~ギャ・・・オ~ギャ・・・”と少しだけ泣いて見せた。

エスペラントの母親は、自分が処女だと思い込んでいながら彼を出産してしまったので、父親は、どこの誰だかわからなかった。

エスペラントの母親は生まれてから18歳まで全寮制の規律の厳しい女学校で生活をしていた。

彼女の唯一の楽しみは、独りでいる事だった。

集会場の巨大なタペストリーの中に忍び込んで、静かに消え入りそうに目を閉じて、じっとしているのが好きだった。

学校を出ると彼女は初めて両親のもとで暮らす事になった。

彼女は、そこで初めて男を目にした。

父親だ。

母の父親は戦争で片目を失っていた。

そして、彼女が初めて会った時から死ぬまで、復員軍人年金で暮らした。

エスペラントの母親は、20才までの2年間を両親のもとで過ごした。

その頃の彼女の唯一の楽しみは、自分の顔を記録する事だった。

彼女は、毎日、朝と晩、2年間、自分の顔をビデオカメラで録画し続けた。

他人との接触は、両親によって固く禁じられていた。

エスペラントの母親は、それを内心喜んでいた。

20才になると彼女は、何かの職につく事になった。

当時は、たいていの人々が、そういうシステムで生活をしていた。

職は選ぶことができなかった。

エスペラントの母親は、鳥かごの製造工場に勤める事になった。

工場の中は真っ暗で、工員は全員、蛍光塗料の塗られた作業着を身に着け、蛍光塗料の塗られた工具で、ベルトコンベアーで次から次へと運ばれてくる蛍光塗料の塗られた鳥かごの部品をテキパキとくっつけ合わせていくのだ。

給料は父親の年金の3倍はもらえた。

エスペラントの母親は、そうして、朝の6時から夜の8時まで、毎日、休みなしで、22歳でエスペラントを産み落とすまで、そこで黙々と働き続けた。

エスペラントの母親は、いくら考えても、エスペラントが生まれてくるような出来事を思い起こす事ができなかった。

その頃、当時の政権は打倒され、権力者たちは全員、血を抜かれて、日干しにされて、自由社会が訪れた。

歴史の解釈が徹底的に自由社会に都合よく改ざんされ、エスペラントの母親の父親は復員軍人年金をもらえなくなり、彼女は職業を自らの意志で選択する自由を与えられ、鳥かご工場を解雇された。

エスペラント自身の人生は、このあたりからはじまる。

エスペラントの母親の父親は戦犯として捕えられ投獄され、獄中で身体が溶ける奇病に感染して死んでしまい、エスペラントの母親の母親は、それを知らされたショックで気が狂い、大衆浴場で溺れ死んだ。

そして、エスペラントの母親は、22歳の子持ちの孤独な失業者となってしまった。

エスペラントと母親は、復員軍人宿舎からも追い出されてしまい、しばらくダンボールで河岸に小さな囲いを作って、その中で暮らした。

そのうち、エスペラントの母親は、街娼となり、次々と男たちと交わった。

母子の生活は次第に良くなり、エスペラントも、すくすくと、ぼんやり育っていった。

その後、エスペラントの母親は、いくら男と交わっても妊娠する事はなかった。

エスペラントは、ずっと母親と2人で娼館の二階屋根裏で暮らしていった。

そこには古い風琴があって、エスペラントは黙ったまま、ごちゃごちゃと、その風を利用した楽器をいじりまわして過ごした。

3歳になると、エスペラントは保育園に入れられた。

母親は、ためた金をもとに土地の売買を始め、金が増えると娼館を去り、郊外の高層マンションの27万6千7百541階を買い占め、エスペラントと共に移り住んだ。

エスペラントは保育園では問題児扱いされ、毎日のように泣きながら母親のもとへ帰った。

エスペラントの容姿が、あまりにも虚弱なため、他の園児から虐待を受けるため、エスペラントは内向し、ぼんやりと空を見続けて誰とも口をきかない誰が見ても明らかな問題児となってしまった。

母親は、エスペラントの、その内向性を何とかしようと思った。

エスペラントが、4歳になった時、彼女は家庭教師を雇った。

どうしたらエスペラントが、他人とすんなり交流できるようになるだろうか。

家庭教師は頭をひねった結果、エスペラントに、どんな人にでも、ニッコリと笑って大きな声で挨拶をするように命じた。

おはよう! こんにちは! さようなら!

しかし、半年過ぎても、エスペラントは、その三つの言葉しか他人とは話さず、それを言う時にしか笑顔にならなかった。


おはよう!ニッコリ!

こんにちは!ニッコリ!

さようなら!ニッコリ!




サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、、、





断片79     終


主な登場人物名の由来・等。

トンボロ・・・・・・・・・・・・・陸地とそれに近い島をつなぐ砂洲
(エスペラントに色々と影響を与えて若死にしてしまう奴)

ファン・ド・シエークル・・・世紀末・仏語
(嫌な奴。めっぽう、女にモテる)

エスペラント・・・・・・・・・・「希望ある人」の意
(主人公)

アドニス・・・・・・・・・・・・・ギリシア女神アフロディテに愛された美貌の王子、猪事件で非業の死をとげ、その血糊からアネモネが咲いた。本来は農業神。
(エスペラントが29歳の時、真剣に恋する。ちなみに女)

ロゴス・・・・・・・・・・・・・・キリスト教で神の言。「理性。理法・・・・・」
(エスペラントの最も親しい友人。正体不明の謎の人物でもある)


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片78-化石の夢-①:kipple

2011-04-01 19:44:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片78- 化石の夢-①

どこにもない時間、どこにもない国、どこにもいない人々
   ↓
どうせ、はじまりも、おわりもない。だから、はじまりとおわりを切り取って作るんだ
   ↓
いつか、どこかで、いつでもなく、どこでもなく、化石は夢を見ていた
   ↓
化石の夢は、虹の粉の舞う夜明けのメリーゴーランドみたいに、ぐるぐる始まりも終わりもなく、回り続けていた
   ↓
誰でもない者が、パッと引っつかんで千切りとった化石の夢は、こんなものでした


充分、生きた。

そうエスペラントが思ったのは、30才を過ぎてから、28時間後だった。

細かい放射性物質の舞う、暑い夏の昼下がりだ。

空には輪郭が緑がかった赤い太陽が、ふらふらふらふら上下左右に位置を決めかねており、青や黄色に輝く星々も、少し動揺して、ゆれ動いていた。

エスペラントは断崖に建立された35万階建て住居の27万6千7百541階のバルコニーから海を見下ろしながら、そう思った。

そう思うには、やはり、それなりの理由というものがあった。

簡単に言えば、エスペラントには、もうやりたい事が何ひとつ無くなってしまったのだ。

エスペラントは、ぶつくさと、居間でうたた寝をしている友人のロゴスに向かって、誰に言うとでもなく、ジッと夕陽を見つめながら、つぶやいた。

「僕の30年間は、とても不完全なものだったさ。もっとも完全に不完全だったとは言えまいがね。

 とても不完全だったと感じる事は、とても苦しかったと感じる事に等しいよ。

 他の誰かさんの事は知らないが、少なくとも僕にとってはね。

 ああ、もう充分だと思える程、不完全にやりたい事は全てやりつくしてしまったよ。

 や~れやれ。

 もう何にも、やりたい事なんてないや 」


「何をやったんだって?俺には、エスペラント、お前が何かをやったなんてのを一度も見た覚えがないけどな」

と、籐の揺り椅子で、ゆらゆらマリファナを燻らしている、いかめし顔に膨れ上がったロゴスが突然言い放ったので、エスペラントは驚いた。

「やあ、ロゴス。聴こえたかい」

「ちゃんとね。さあ、君は何をやりつくしたってのか、聞かせてくれよ」

エスペラントは宙吊りになったバルコニーから降りてきて、ゴムの木でいっぱいの居間に入って行った。背中には、海の金色のかけらが映っていた。

彼は、ゴムの木の林をくぐり抜けて、ロゴスの近くの黒曜石のテーブルの上に座り込んだ。

そして、考え深げに、エスペラントは身体をまるめて頬杖をつき、両耳をひくひく動かした。

それを見て、ロゴスは

「ほう。しぶってるな。問題ありか?」

と細目にして聞いた。

「いや。話してやるさ。僕の30年間に訪れ、通り過ぎていった、どろんとした不完全な出来事の全てを。

 いいかい。

 僕は、やりたい事を全て不完全に通過しちゃったんだよ。

 そこんとこを、その膨らんだ頭でちゃんと認識しておいてから聞いてくれよ。

 そして、これから、僕は静かに余生をおくるんだからね 」

と言って、エスペラントは無限記号の腕組みをして、金だらいに両足を突っ込んだ。

かくして、エスペラントの、その不完全にやりたい事を全てやったという 30年間の、お話がはじまった。

まるで、オンボロの8ミリ映写機が映し出すように、雨降りで、ブレたり、音が消えたり、セルロイドが燃えはじめたり、して、とつとつと、いっきに、乱暴に、30年間は語られた。

語られた30年間は、やはり、ちぐはぐで、ど~しようもなく完成不能のジグゾーパズルみたいに描かれていった。



ズザザザザザザザザザザザー!




断片78     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片77-残され組:kipple

2011-03-31 23:35:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片77- 残され組


ああ この孤独感

独りでいようと 誰といようと 絶対に充たされぬ

残され組の孤独感

誰も助けちゃくれないし  誰も相手にしちゃくれぬ

ずっと近くにいようとも  ずっと遠くにいようとも

同じ事さ



今さら遅いかもしれないけど、オレはまったくのひとりぼっちで、さらに淋しくやりきれない。

リュウマチに罹った孤独な青ナメクジみたいだ。

空がオレに向かって、ズドンと落ちてきて、オレを通過して、さらにさらに落っこって行っちまったよ。

空にさえ相手にもされずに、オレは全身全霊苦痛病の中で行き場を無くして泣いています。

子供の頃のオレの感性の断片を、時折、思い出す。

おじいちゃんやとうさんやかあさんやおばさんやおじさんや、今は、みんな死んじゃったけど。

10年前の、あの地震と津波で、みな死んだ。オレを残して、皆、去った。

オレを、おかしな色の地面の上に小さな箱詰めにして、とり残して行っちゃったんだ。

オレが世の中にとけ込んでいけないって事は地震の日よりずぅっと昔から分かっていたけど、放射能汚染民という汚名と言われなき差別と偏見の中でも、必死になって「世の中色」に擬態していたんだ。

でも、とうとう、もう前も後ろも分からなくなっちゃって、運動会の徒競走で逆に走り出した頃みたいに、やってる事が何が何だか分からなくなっちゃってさ!

色んな物や人にギリギリに鉛の中に押し込まれちゃったよ。まるでオレは隔離されて見捨てられた放射性物質みたいだ。誰も近づいてきやしない。

毎日が気怠く過ぎてゆく。

汚染された水に汚染された氷を浮かべて、飲んで、繰り返し。繰り返し。過去から津波がやってくる。

ひねくれて、ねじまがっちゃったオレの昔の心。心みたいな昔。うそつきの心。

木の小屋で、蝋燭の灯で、優しい神様みたいな死んでいった人々と一緒に暮らしたら、おそらく空は、ちゃんとオレの上にあってさ、うまく空気だって吸い込めて、ズブズブと沈まないように、軽快に歩いて行けるかもしれないのに。

誰だって、そんな事は無理だって、ちゃんと分かってるよね。

皆、きちんと色とりどりのエランヴィタールをもってるもの!オレも欲しいな。エラン・ヴィタール。

あの日、津波に流され無くしてしまったエラン・ヴィタール。生きるためのエゴ。

代わりにやってきたのは、色んな薬さ。中枢を殺す例のやつらが、ごっそりと待ち受けていやがった。

オレはきちんと今の状況を今こそ本当にきちんと分析するべきなのさ。

苦しんでいるオレを、そのまま置き去りにして、底無しに苦しませてくれる社会の中で生活し、そのためにさらに全てを失い、失った分だけもっと苦しみ続けている、このオレを。

人生は失い続けるものだけれども、得るものが失ったものより、もっと悲しく苦しいものだったら、どうする?

得たけれども、それは失った方が遥かに良かったものばかりだ。

他者ってぇのは本当に冷たいエゴイスティックなものなんだから、我慢しろって言うのかい?

どれも同じさ、とね。生きるって事はけっこう楽しいものなんだからって、被災者にいた時に来たカウンセラーだったか、誰かが言ってたけど。

それは、そういうタイプだから言えるのさ。緑色の光線だって、見える人と見えない人がいるし、何にもない真っ暗闇さえ見えない人だって、万に一人はいるよ。

誰だ?オレだ。青星雨族のオレだ。ノーウェアマンだ。

無の中で生産し、有の中に苦しみ悶える。みつばちたちの営みでも見てみろよ。オレは今、25才だよ。

弱い男だ。本当に弱い、滅多にいない弱い25才の人間だ。

夜の星々!夜の星々よ!オレを捕えろ!捕えて檻に入れろ!

ほら、夜の風景は曇っている。空は晴れているのに大気が放射能で曇っているよ。

街は深夜だというのに、まだうめいてる。

星々を消し去って、ガラゴロガラゴロと、機械の“つぶやき”で満たしている。

不眠症になっちまったオレは、熱病になっちまったオレは、行方不明になっちまったオレは、、、どこへ行くんだろう。

どこに行けば銀河ステーションに行けるんだろう。人生は行動だって、みんな言うよ。オレもね、本当はそう思うんだ。

で、さ。行動するんだよ、いつも。

行動して、行動して、気づいてみると、地面が揺れてて過去から津波がやってきて、壊れたロボットになっちゃったり、肺病になっちゃったり、クラッシュ症候群になっちゃったり、存在自体がノイローゼになっちゃって、今みたいなオトボケ泣き虫にになっちまって、あげく相当メッチャクッチャになっちまう。

行動しなけりゃいいって?そんなわけには、100%いかないように出来ているんだよ!人生ってヤツはさ!

叩いて、こねくり回して、振り回して、ちぎって投げて、踏みつけて、ぐちょぐちょにしてやっても、その大原則は変わりはしないんだよ!

一億年経っても、そうだ。オレが死んで、誰かが生きて、誰かが死んで、又、誰かが生きて、たくさんたくさん、それを繰り返して、何とかやっていこうなんて思いながら、最後には何も残さずに消えちまう。

もう、心なんていらないよ。感情なんて、ちちんぷいだ。身体だけは大切にって?放っておいてくれ。

オレは、あの地震と津波の後で、25才までには死ぬと思ってたのに、生き延びちまったよ。

おかげでオレの周りには、お互いを助け合う事が絶対に出来ない悲しい生き残り組ばかりになっちまった。

みんな、うまく笑えない。

オレの死に時って、今なんじゃないかな。外側にいる、お幸せで恵まれた他人たちは実に見事にエラン・ヴィタール満々で生命力に満ちていて好奇心がいっぱいで自分のペースに忠実だ。

オレの事なんか、まるで気にもしてないし、目の隅にさえ入らないみてぇだ。オレって透明人間なのかなあ。この世界の中で。

そう言えば地震の前から、そもそもオレは、子供子供としょっちゅうバカにされていらぁ。

その通り!オレは!雨族!残され組!

ずっと子供と老人の間を、行ったり来たりしてるのさ!

オレが!オレが欲しているのは、こうなんだ!

どこにもない国!どこにもいない人々!どこにもない時間!どこにもない習慣!どこにもない病気!どこにもない楽器!どこにもない文化!どこにも存在しない、もろもろの存在!

本当に生きるって事は、なかなかいいものなのか?

生きる事が、つらいってぇのは、そりゃ、きどり なのか?


さあ!エスペラントよ!其の国で!
たっぷりと化石の夢を見ろ!





断片77     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片76-命:kipple

2011-03-29 23:58:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片76- 命


僕の人生が終わった。

僕は死んだ。

僕の人生はまるでドシャ降りの雨の中にたった一人で閉じ込めれらているようだった。

もがいてももがいても世の中には全く相手にされず、誰にも愛されず、誰も愛せず。

まるで、僕の人生は無の様だった。

まるで、世界に僕は存在していないかのようだった。

ドシャ降りの雨の中にいるから雨の外側にいる人たちには分からないんだ。

だから、誰にも見えないんだ。

ドシャ降りの雨は決して止む事は無く、突然、真っ黒い大きな水がやってきて、まるでボロ切れのように呑み込まれ、呆気なく僕の人生は終わった。

僕の存在なんか誰も覚えていやしないだろう。誰の記憶にも残らないだろうし、僅かな記録だって流されて無くなってしまったに違いない、きっと。

そして、僕はここに来た。これがあの世かと思い、僕はケラケラ笑ってしまった。

だって、ここも、ドシャ降りなんだもの。

しかも飛びっきりのドシャ降りの雨なもんで周りは何にも見えやしない。

やはり、ここはあの世だ。死後の世界だ。

だって、僕の身体には物理的感触が無いし、この思いっ切り降りかかるドシャ降りの雨だって、僕を素通りだ。

ここは物理世界ではないんだ。人生とは物理世界で過ごすことだ。

だから間違いなく僕は死んで、僕の人生は終わったんだ。

そして、あの世もドシャ降りの雨。ドシャ降りの雨そのものの世界。

ドシャ降りの雨以外、何もない。上も下も右も左も無い。

このドシャ降りの雨がどこからどこに向かって降り続けているのかも分からない。

とにかく何も分からない。とにかく方向不明で縦横無尽に降り続けるドシャ降りの雨だけで、また、ひとりぼっちだ。

時間の感覚も無いので、僕が死んでここに来てからどのくらい経ったのかも分からない。

ただただ、ひとりぼっちでドシャ降りの雨だけの世界でドシャ降りの雨が僕を通り過ぎていく。

どれくらいたったのか。幾千万年過ぎたのか、今、来たばかりなのか、さっぱりだ。

しかし、いつしか僕は誰かの存在を感じていた。

確かに誰かが。このドシャ降りの雨の中にいる。僕以外の誰かが。

ドシャ降りの雨に曇って何にも見えないが、ずっと僕の事を感じている誰かがいる。

それも、その誰かは、とても強く、僕を感じている。

僕には分かった。

そして、そこには君がいた。

「やあ、お帰り」

と、君は言った。

そう言われると、僕は何となく懐かしい気持ちになった。ここは?ずっと昔、来た事がある?

そして、僕はごく自然にこう言った。

「ただいま」

そして、君は答えた。

「また、ずっと君を見てたよ。今度も失敗だね」

僕は問うた。

「僕と君は何?何だっけ?よく思い出せないんだ。」

君はすぐに答えてくれた。

「僕は君の命。」

僕はちょっと驚いた。僕の命はここにあったのか。

僕は又、問うた。

「君は僕の命なの?ずっと、ここにいるの?この、僕の人生みたいな、ドシャ降りの雨の世界に」

君は激しい雨音の中から、ハッキリとした声で言った。

「当たり前だよ、僕は君の命なんだから。君は初めてここに来たと思ってる?それとも何となく覚えてる?」

僕は言った。

「何となく来た事があるような気がするけど覚えてないんだ。僕は以前にもここに来た事があるのか?」

君は、何だか嬉しそうに答えた。

「そうそう何度も何度も、ずぅ~っとね。君は生きては死んでは、ここに来てるんだ。でも、死んでここに来た時には、前の人生の記憶しかないんだ。だから、君は僕の事は知らない。生まれた時点で、前の人生の記憶もここの記憶も僕の事もリセットされるから」

僕は、とてもすんなり理解していた。そして、言った。

「僕は、又、生きるんだね?物理世界で産まれて生きるんだね?そして、君はここで僕を見てる」

君はドシャ降りの雨の向こうから元気よく言った。

「うん!その通り!」

僕の決心はもうついていた。当たり前のように、ついていた。

そして、言った。

「いつも、いつだって、君、僕の命は、僕を見ていてくれるんだね!」

君は言った。

「その通り!君は君の命である僕の世界のドシャ降りを止めるまで何度でも繰り返すんだ!」

僕は、もうやる気満々になっていた。そして、気合を入れた。

「うしっ!」

そして、最後に君は僕に言った。

“僕は君の命であり、君を繋ぐ楔だ。僕はいつだって、ここにいる。君の命は、ずっとここにいるんだ。だから君は安心して、思う存分、生きていいんだよ。”

そして、最後に僕は君に言った。

“もう一度、行ってくるよ。何度でも行ってくるさ。そして、いつか僕の人生が、ここに晴れをもたらすさ。”

そして僕は物理世界に再び生を受け、同時にそれまでの記憶を全て失った。



おぎゃー!オギャー!おぎゃー!オギャー!おぎゃぁぁ~~っ!





断片76     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片75-影をいけ!:kipple

2011-03-08 01:27:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片75-影をいけ!


無の存在!雨の中は快晴!継続的分断的睡眠!存在の無!

孤独!雨に青空的幻想と血を!

不快なる個として!自己の実態的存在感の欠落!

一日!一日!1分!1秒!一ヶ月!一年!一時間!一生!

欠落のドロ沼!希望!欲望!絶望!理性とスキゾとパラノイア!

つきまとう妄想!青と赤の混沌!肉体の変調!

とどのつまりは全人類、影をいく!

雨にまとわれ影をいく!自覚無し!

感覚の同期を最優先に望むな!人生をひとりぼっちで放浪せよ!

はじめから愛を欲するな!与えられる愛は偽者だ!

誰にも相手にされぬ心地良さは愛を欲せぬ者の特権!

死への逃亡と極点の愛はどちらも幻想!

不安と恐れと、社会的孤立感ゆえに雨族は存在し、非存在を欲す!

青空幻想に血を見ろ!輝く青い空にたれる真っ赤な血を思え!

刺激は雨族を苦しめ、言葉は刃のように突き刺さる!

たれこめる灰色の空いっぱいに真っ赤な血の雨が世界のてっぺんから、どくどくどくどく流れ落ち、真っ赤っかぁな、でっかいクレッションマークを描いてくれる!



就職を望むな!働くな!集うな!虚栄のリズムに踊るクソどもだ!
断固、雨族をまっとうしろ!

金は盗むために存在し!約束は破るために存在し!
試験はカンニングのために存在する!

ゆえに雨族は非現実的に存在し!
現実に反存在するホムンクルス崩れのスナフキンだ!

狂気!鬱!肌の汚れぇぇぇえええええ!

青白い月夜に最近出会わないのが悲しい!悲劇だ!笑え!

今、何が悲しいかって、女の足首をギュッと握れないのが、やりきれないんだ!

不毛!不毛!不毛!招かざる孤立!孤立!それが人間だ!誇れ!

点か全てか?!生も死も無意味だからこそ能動的自殺は美しい!

人が全てに嘘をついているのか?全てが人に嘘をついているのか?

きっと人も全ても、ウソに違いない!其の国へ行きたい!其の国へ!

最大の謎は己自身だ!
今日も昨日も明日も死後も、謎に始まり謎に終わる!

世界中のケータイを全てブチ割りたい!

世界中のパソコンを全てブチ壊したい!

破壊!破壊!破壊!

吹けよ!太陽風!発せよ!磁気嵐!

そして地球上の全ての電子機器が無効化され
             全人類はボーゼンと雨にうたれて泣けばいい


雨にうたれて、影をいけぇ!





断片75     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片74-ひまわりごはん:kipple

2011-03-07 01:46:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


いつか、どこかに、どこでもなく、いつでもなく、それは存在している。

それは通路だ。 其の国へと続く 通路だ。

それは扉だ。  其の国へと開く 扉だ。

スクリーンだ。 それはスクリーンなんだ。

そして、そのスクリーンはどしゃぶりの雨に濡れている。

               「雨族」
        断片74-
             ◎ひまわりごはん◎


ふざけてばかりいて、何もしないでいたら、皆、いなくなって、一人きりになりました。

まわりの景色も月影に滲んで、ズドン!と地面に落っこちて来そうなのでした。

しょうがないからボクは昔の記憶に色を付けて頭でぐるぐる回して寝転んでいたのです。

ずぅ~~~~~~っと、そうしていたんです。

月影の庭の花壇をぼんやり見つめて、又、目を閉じます。

過去の切れ切れに着色し、組みかえ遊びを繰り返します。

そんな事をずぅぅぅ~~っと何年かやってたら、ますます一人っきりで、なんだか産まれて以来、ボクは誰にも出会った事がないような気がしてきました。

どこもかしこもガランとして、中性子爆弾を逃れて、たった一人になっちゃったのです。

まだボクの他に人はいるのか確かめようと思いました。

だから、ボクは何年かぶりに外に出たのです。

わあ、まぶしい事、まぶしい事。ああ、昼間だ。

まぶしくてボクの目はすぐに閉じてしまうので、目蓋をクリップでとめて見回してみると、いるわ、いるわ、いるのです。

人がたくさん、いるのです。

あんまりたくさんの人を見て、感じて、ボクは、ゲロを吐いてしまいました。

涙が滲んで両手がふるえて、立ってらんなくなっちゃいました。

他の人間の人たちは、皆、何やらザワザワ動いて生きているのです。

水星人か木星人みたいです。

ボクは恐ろしくなって、バルコニーから這い上がって部屋に入ってシャッターをおろして真っ暗の中で目を瞑って、心臓をバコバコさせて唾を何度も飲み込みました。


でも、大丈夫です。

ひまわりごはんは、吐き出しましたから。






断片74     終


あ~ピッカピッカの良い天気だ、人々もニコニコ気持良さそうに、ゾロゾロと咲き乱れる向日葵みたいにお出ましだ!

オェー!反吐が出る!死にそうだ!雨族諸君に告ぐ!

ひまわりごはんを食べたなら、それがどんなに美味くとも、吐き出したまえ、今すぐに

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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片73-雨族の王様:kipple

2010-09-19 08:06:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片73- 雨族の王様


実は、君以外に誰もいないんだ

この世には君しかいないんだ あの世にも君しかいないんだ

君だけしか、いないんだ 君だけが、いるんだ

君の周りにいる人も、実は、いないんだ

君が見てる人も、実は、いないんだ

君が喋ってる人も、実は、いないんだ

君が触っている人も、実は、いないんだ

君が好きな人も、実は、いないんだ

君が嫌いな人も、実は、いないんだ

どうでも良くて、知らない人も、実は、いないんだ

実は、君以外に誰もいないんだ

この世で君は、ずっと、ひとりぼっち あの世でも君は、ずっと、ひとりぼっち

最初から、君以外、誰もいないんだ

君、一人で泣いてるんだ 君、一人で悲しんでるんだ

君、一人で苦しんでるんだ 君、一人で悩んでるんだ

君、一人で悔しがってるんだ 君、一人で怒ってるんだ

君、一人で怨んでるんだ 君、一人で憎んでるんだ

君、一人で笑ってるんだ 君、一人で喜んでるんだ

君、一人で恋してるんだ 君、一人でじたたら踏んでるんだ

君、一人で心配してるんだ 君、一人で憂いてるんだ

君、一人でがんばってるんだ 君、一人で競争してるんだ

実は、この世界にいるのは、君だけなんだ

寝ても、起きても、君、一人 痛みも、不条理も、君、一人

元気も、病気も、君、一人 生きるも、死ぬも、君、一人

船、去りて、船の影 人、去りて、人の影

実は、君以外に誰もいないんだ

実は、君以外に誰もいないんだ

実は、君以外に誰もいないんだ

君は、ずっと、ひとりぼっちで、雨にうたれてるんだ

だから、君は、雨族の王様






断片73     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片72-ぜんぶ無し:kipple

2010-08-25 23:55:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片72- ぜんぶ無し


この世はぜんぶ悲しくて 何にもかんもが、ズブ濡れで

雨ばかりが、降っている

夢も希望も絶望も 愛も平和も偽善も虚栄も 殺し合いも何もかも ぜ~んぶ一緒に雨の中

始まりから 終わりまで、世界はずっと雨の中

始まりがなくても 終わりが無くても、ずっと雨ばかりが降っている

今は雨に流されて すぐに昔になっちゃって どんどんどんどん流されて 今はどんどん昔になって

知ってた人も 知らない人も 好きな人も 嫌いな人も 仲よしだった人も 仲が悪かった人も

どうでもよかった人も 大切な人も 死ねばいいと思ってた人も

いつも、みんなズブ濡れで ビショビショで あんまり悲しいから笑ってる

どしゃぶりの雨の中で ニッコリ ニコニコ 満面で 笑ってる

楽しかったり 嬉しかったり 飛び上がって喜んだり

それも、ぜんぶ悲しいから 悲しい雨の中だから ホントはビショビショに泣いてる

雨はすべてに降り注ぎ、全てを流して 消してゆく

どんな人も 突然 豪雨や雷雨に見舞われて この世界から消えてゆく

つぎつぎ つぎつぎ 消えてゆく アッと言う間もなく 消えてゆく

そして 死体も 記憶も 雨に流され 忘れちゃう

とおさんも かあさんも あいつも あのこも 雨に流され 忘れちゃう

そのうち、じぶんも 雨に流され 忘れちゃう

雨は どんどん押し流し 全てが、どんどん昔になって

昔、生きてた人が 笑ったり泣いたり悔しがったり 色々してた事も 全部消し去っちゃう

雨は、この世のぜんぶを 無かった事にする

実は この世界には 昔も今も未来もなくて 雨だけが降っていて

全てを押し流しているだけで、みんな、その雨をちゃんと見ようとしないわけさ

だって この世は 生きてるだけで 何にもかんもが、悲しくて

どしゃぶりの雨が ずっと、降ってる事に気がつくなんて あんまり辛すぎるから

そうしてるうちに 今 生きてる人にも 必ず 豪雨や雷雨がやってきて

この先に生れてくる人も 必ず 豪雨や雷雨に見舞われて

いっさいがっさい流されて この世界から消えていく

人も記憶も記録も消えて、 雨に流され ぜんぶ 無し

結局

この世はぜんぶ悲しくて 何にもかんもが、無くなって、

悲しい という事さえ 無くなって、


雨ばかりが、降っている



ざぁざぁざあざあ ざぁざぁざあざあ ざぁざぁざあざあ

ピッシャーン!ゴロゴロ!

ずざざざざざざざぁぁ~~~






断片72     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片71-生まれ出ずる疑問:kipple

2010-02-14 22:45:00 | 雨族(不連続kipple小説)

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               「雨族」
        断片71- 生まれ出ずる疑問


“わたくし!生まれも育ちも葛飾柴又です!
 姓は車、名は寅次郎!人呼んでフー雨天の寅と発します!”


ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ・・・


“テキヤ殺すにゃ刃物はいらぬ、、、雨の三日も降ればいい・・・ってな、そうです!わたくしも雨族なんです!おいちゃーん!ただいま。”

“おうっ!寅か!お帰り”

“おぅっ!いいねぇ!その自然な出迎え!ほら、これ土産の辛子レンコン、老夫婦は健在でございますかあ~!いよ!まくら、さくら出してくれ!よっ!職工!タコ!けっ不景気な面しやがって、てめーの工場はいよいよ、潰れたかぁ!
 けっこう毛だらけ猫灰だらけお尻の回りは糞だらけ!ってなー!
 ま、いいや!なぁ~、おいちゃん!おいちぁ~~ん!聞いてくんねえか?俺はよ、ガキの頃から、ずぅ~っと疑問に思ってる事があるんだ!
 実のところよ、バイの途中でよ、その俺が鼻っ垂れのガキの時分から疑問に思ってる事を、ふっと思い出しちまってよ、するってぇと、その疑問がずぅ~っと俺の頭にとり付いちまってよ、くるくるくるくると夏の虫みてぇに回り続けるもんで、こんなケチな疑問、他人様に話すのも恥ずかしいってなもんで、旅の途中、ほんのちょっと寄っただけよぉ、うん、すぐ行くからね、ちょっとだけ聞いてくんねーかい、おいちゃん、、、”

“あ~いいよ。で、寅、なんだい?その疑問ってぇのは”

“うん、じゃ言わせてもらうよ。例えばだ、この団子、この団子に金払うってのは分かるよ、でも、そこのヒロシ、お前の読んでる本、そりゃ小説かい?面白いかい?でも、それ読んで腹が膨れるかい?
 な、俺の疑問ってぇのは、そこよ!例えばだ!ほら、裏の工場から何だか訳のわからねえ労働者諸君の歌が聞こえてくるけど、あれに金払うかい?歌聴いて腹が膨れるかい?雨がしのげるかい?分かる?例えばだ!そこ、みつおの描いた絵!それで腹が膨れるかい?五臓六腑に栄養がいきわたるかい?
 だからよ!歌とか本とか絵とか、そーいう屁みてぇなモンが何で金を取るかねぇ~?俺は、それがガキの頃から、どーしても納得がいかねぇんだよ!
 いいかい?そういう何の実際的に役に立たねぇもんは、こう、逆なんじゃねぇのかなぁ?何?逆?何だよ!頭ワリーなぁ、分かんないかなぁ、この疑問!
 だからね、音楽とか本とか絵とかってぇのは作った人、書いた人、描いた人、そーいう暇人がだね、謙虚に腰を低くして、「わたくしが一生懸命作りました、どうぞ、お金をあなたに払いますから、宜しかったら、聴いて下さい、読んで下さい、観て下さい」ってね、そーいうもんじゃありませんか!って俺は、ずぅ~っと疑問に思ってんだよ!
 だってだよ!糞の役にも立たねぇ戯言や耳障りな音やくだらねぇ絵にどうして、こちとらが金を払わにゃならねぇんだい!百歩ゆずって、その本や音楽や絵が面白かったりなかなか粋だったとしてもだよ、「え?わたくしの面白かったですか?有難うございます!大変、嬉しゅうございます!どーぞ、お金を受け取ってください」ってね、作った本人が人様に面白がられて一番嬉しいに決まってんだから、感謝の気持ちを込めて、読んでくれた人、聴いてくれた人、観てくれた人に有難うございます有難うございますって、土下座でもして、金を払うってぇのが筋ってぇもんじゃないのかねぇ~?
 こんなバイやってる俺が言うのも何だけどよ、それが本当の人間の商売ってぇもんじゃないのかねぇー!”

“なぁ寅・・・”

“なんだい!おいちゃん!”


“それを言っちゃぁ~、おしまいよぉ”



ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ・・・






断片71     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)