元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

「雨族」 断片71-生まれ出ずる疑問:kipple

2010-02-14 22:45:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
        断片71- 生まれ出ずる疑問


“わたくし!生まれも育ちも葛飾柴又です!
 姓は車、名は寅次郎!人呼んでフー雨天の寅と発します!”


ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ・・・


“テキヤ殺すにゃ刃物はいらぬ、、、雨の三日も降ればいい・・・ってな、そうです!わたくしも雨族なんです!おいちゃーん!ただいま。”

“おうっ!寅か!お帰り”

“おぅっ!いいねぇ!その自然な出迎え!ほら、これ土産の辛子レンコン、老夫婦は健在でございますかあ~!いよ!まくら、さくら出してくれ!よっ!職工!タコ!けっ不景気な面しやがって、てめーの工場はいよいよ、潰れたかぁ!
 けっこう毛だらけ猫灰だらけお尻の回りは糞だらけ!ってなー!
 ま、いいや!なぁ~、おいちゃん!おいちぁ~~ん!聞いてくんねえか?俺はよ、ガキの頃から、ずぅ~っと疑問に思ってる事があるんだ!
 実のところよ、バイの途中でよ、その俺が鼻っ垂れのガキの時分から疑問に思ってる事を、ふっと思い出しちまってよ、するってぇと、その疑問がずぅ~っと俺の頭にとり付いちまってよ、くるくるくるくると夏の虫みてぇに回り続けるもんで、こんなケチな疑問、他人様に話すのも恥ずかしいってなもんで、旅の途中、ほんのちょっと寄っただけよぉ、うん、すぐ行くからね、ちょっとだけ聞いてくんねーかい、おいちゃん、、、”

“あ~いいよ。で、寅、なんだい?その疑問ってぇのは”

“うん、じゃ言わせてもらうよ。例えばだ、この団子、この団子に金払うってのは分かるよ、でも、そこのヒロシ、お前の読んでる本、そりゃ小説かい?面白いかい?でも、それ読んで腹が膨れるかい?
 な、俺の疑問ってぇのは、そこよ!例えばだ!ほら、裏の工場から何だか訳のわからねえ労働者諸君の歌が聞こえてくるけど、あれに金払うかい?歌聴いて腹が膨れるかい?雨がしのげるかい?分かる?例えばだ!そこ、みつおの描いた絵!それで腹が膨れるかい?五臓六腑に栄養がいきわたるかい?
 だからよ!歌とか本とか絵とか、そーいう屁みてぇなモンが何で金を取るかねぇ~?俺は、それがガキの頃から、どーしても納得がいかねぇんだよ!
 いいかい?そういう何の実際的に役に立たねぇもんは、こう、逆なんじゃねぇのかなぁ?何?逆?何だよ!頭ワリーなぁ、分かんないかなぁ、この疑問!
 だからね、音楽とか本とか絵とかってぇのは作った人、書いた人、描いた人、そーいう暇人がだね、謙虚に腰を低くして、「わたくしが一生懸命作りました、どうぞ、お金をあなたに払いますから、宜しかったら、聴いて下さい、読んで下さい、観て下さい」ってね、そーいうもんじゃありませんか!って俺は、ずぅ~っと疑問に思ってんだよ!
 だってだよ!糞の役にも立たねぇ戯言や耳障りな音やくだらねぇ絵にどうして、こちとらが金を払わにゃならねぇんだい!百歩ゆずって、その本や音楽や絵が面白かったりなかなか粋だったとしてもだよ、「え?わたくしの面白かったですか?有難うございます!大変、嬉しゅうございます!どーぞ、お金を受け取ってください」ってね、作った本人が人様に面白がられて一番嬉しいに決まってんだから、感謝の気持ちを込めて、読んでくれた人、聴いてくれた人、観てくれた人に有難うございます有難うございますって、土下座でもして、金を払うってぇのが筋ってぇもんじゃないのかねぇ~?
 こんなバイやってる俺が言うのも何だけどよ、それが本当の人間の商売ってぇもんじゃないのかねぇー!”

“なぁ寅・・・”

“なんだい!おいちゃん!”


“それを言っちゃぁ~、おしまいよぉ”



ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ、ザンザコ・・・






断片71     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片70-ぷーたろー:13年後~⑫:kipple

2010-02-13 17:33:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片70- ぷーたろー
             13年後~⑫


 部屋に戻ると、ターボーが、又、コカインを吸った。

 クロエとマユミとチカが、3人とも真っ黒の丸いサングラスをかけて部屋に入ってきて花火をしようよ、と言った。

 僕とユウちゃんとコージも真っ黒の丸いサングラスをかけた。

 ターボーは、ハイになって、ぴょんぴょん飛び跳ねて、「やろうやろうぜぇええ!」と叫んだ。

 そういう事で僕らはゾロゾロと夜の浜辺に防災用の懐中電灯をかっぱらって繰り出していった。


 サングラスのおかげで非常に視界が悪く、歩くのがとても不自由だったが、この集団は何故か真っ黒のサングラスを外さなかった。

 何か意味があるのだろうか、特にない。皆で真っ黒の丸いサングラスをかけている事が、ささやかな連帯感と不気味さの恍惚を生み出すのだ。

 唯1人サングラスをかけていないターボーが元気一杯に僕らを誘導し、砂浜の適当な場所に僕らを導いた。サングラスの隙間から、遠くの売店の方でも花火をやっているのがチラリと見えた。

 僕らは黙ってサングラスを上にあげ、それぞれ違った花火にいっせいに火をつけた。

 ターボーは36連発につけて、ぐるぐる回り始めた。

 クロエは線香花火に火をつけ、丸くなって、じっとしている。

 ユウちゃんはナイアガラに火をつけ、振り回している。

 コージはロケット花火を片手に持ったまま点火し、キーンという音と共に火の粉を浴び、そのまま爆発させてしまった。

 そして、
「手が、いてぇよ、腕が裂けた、腕が裂けた」
 と情けなくうずくまった。僕が懐中電灯で照らしてみると腕から血が滲み出していた。

「バカね」
 と、せこく、線香花火を続けるクロエが笑いながら言った。

 マユミとチカと僕は、ごく普通の棒花火をやっていた。3人で、くるくる回して、ケラケラ、キャッキャと行進した。

 皆、やりたい放題、片っ端から火をつけて振り回した。黄、赤、緑、青の光が膨れ上がった。

 花火は健全な放火だ。放火とは快楽と悲しみが同居している。何でもそうだ。娯楽には必ず悲しみが付いてまわる。そして悲しみの中には必ず裏腹な喜びが潜んでいるものなのだ。

 ユウちゃんが膨れ上がった色とりどりの火花の中で笑っている。

 コージが“痛ぇ痛ぇ”と砂浜を転げながら笑っている。

 ターボーが36連発をカウントしながら笑っている。

 マユミが僕の前で、キャッキャと飛びはね、笑っている。

 チカが僕の腰に抱きつきながらクルクル回って笑っている。

 クロエが線香花火を地味に小さく回しながら最近見た事もないような明るい顔で笑っている。

 僕も棒花火をチカとマユミに浴びせながら笑っている。

 みんな、無邪気に笑っている。子供みたいに笑っている。


 僕は笑いながら涙を流している自分に気が付き、ふと、十年以上前に妹が言った言葉を思い出した。妹は何て言ったっけ?

“お兄ちゃんはね、年をとって南の島に行って月の欠片探しをしているの”

 確か、そんな事だったと思い、空を見上げた。

 夜空の天辺に驚くほど綺麗な月が浮いていた。まん丸の満月で夜空のど真ん中の天辺で大きく真っ黄色に光り輝いていた。

 ああ、そうか、さっき、サングラスを外した時、まるで昼間みたいに明るかったのは、この満月の発する強烈な光のせいか。

 何だか真夏の輝く午後の風景の海と空を黒く染めて、影をいっぱい増やしただけみたいな、そんな不思議な感じで、全てが先鋭的でクッキリしている。

 そう思って見ていたら月は、ぷぅ~~っと、僕の視界いっぱいに膨らんで、いきなり爆発した。


 無音だった。


 瞬く間に、粉々に飛び散った無数の月の欠けらがムクムクと夜空を覆い尽くしていった。

 無数の細かい月の欠けらは仄かに輝きを残したまま広がり、夜空全体が粘土でできた足の裏みたいになって、ぼぉっと肌色に光った。

 僕は唖然としながら、ちょこっと横目でみんなを見た。みんな気づかずに無邪気に笑ってる。

 ゲラゲラ、キャッキャとあまりに楽しそうなもんだから、僕はそぉっとしておこうと思った。

 すぐに目を夜空に戻すと、あっと言う間も無く、空全体が猛スピードで落ちてきた。

 地上の全ては灰塵に帰し、一瞬にして人類は滅亡した。























1999年7か月、

空から恐怖の大王が来るだろう、

アンゴルモアの真に偉大な雨族を蘇らせ、

マルスの前後に首尾よく支配するために。



 うひひ、あたったよ、当たったよ、あの予言ってば!やっぱり人類滅亡だったんだなぁ♪

 最期、消え失せてゆく自分を感じながら、僕の心は喜びに輝やいた。


 何だか、最高に嬉しかった・・・






断片70     終


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「雨族」 断片69-ぷーたろー:13年後~⑪:kipple

2010-02-12 13:48:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片69- ぷーたろー
             13年後~⑪


 更衣室でシャワーを浴びて、ジーパンとTシャツ姿になって部屋に戻ると、ユウちゃんがメガネをかけてタバコを吸っていて、その横で、まだ、ぐーすか眠っているターボーを指さした。

「コージと女どもは花火と菓子を買いに行ったよ。ターボーは、このとおり死んでるよ。復活したら恐ろしいよ」
 とユウちゃん。

「夕食を喰いに行く時に、起こせばいいさ」

 と僕は言い、時計を見ると6時だった。

 しばらく沈黙が訪れた。僕もタバコを吸い、寝転がって天井を見つめた。黒い気味の悪いしみが、ところどころに広がっていた。

 空虚。何だかとても空虚な気分に充たされた。

 僕は何だか、このまま2度と動けなくなってしまうような気がした。そこで、思いきって、ターボーを蹴っ飛ばしてみた。

「ぐおう」

 という叫びが上がった。そして、ゆっくりとターボーは上半身を起こして、片方ずつ足を上げた。

「ここは、どこだ?」
 とターボーは言った。

 僕とコージはニヤニヤ笑っていた。ターボーは頭を何度か、ぶるっぶるっっと振り、両手を閉じて開いて、タバコをくわえた。

「海か?皆、もう泳ぎ終わったのか。くそ、俺は酔って寝ちまったんだ。お前ら、何で起こさなかったんだ。俺は泳ぎたかったんだ」
 とターボーは目つきを険しくする。

「さあ?なんとなく、そぉっとしておいたんだ」
 とユウちゃんが言い、

「ここは海だ。明日も泳げるよ」
 と僕が言った。

 ここは、どこだ?か、と僕は思った。僕は本当はどこにいるんだろう?本当は、どこにいるべきだったんだろう。ただただ過ぎて擦り切れてゆく人生の時間と空間の中で、僕は、どの位置にいるんだろう。

 僕は子供だった。少年だった。青年だった。そして中年になって老人になってゆく。どこだ。全然違う場所にいる事だって、できたはずだ。

 どうして、ここにいるんだろう。30才くらいから、僕はよくこうした疑問にかられる。そして何の解答もなく、どこへいくのか分からない。

 ここは、どこだ?わからない。

 そうして、いつか、ふっと死んでゆくんだろう。

 3人で、ぼぉ~っとタバコを吸っていると、コージたちが大量の花火と菓子類を買って戻って来た。

 女たちが入ると途端に賑やかになった。どの菓子がユニークだとか、どの花火が過激そうだとか、ホテルの「マツモトタダシ」という名札をつけた受け付けがマヌケだとか、わいわいやってる。

 ユウちゃんもターボーも参加して、ゲラゲラ笑っている。僕は何だか頭の芯が、もわぁ~っとしてきたので、いま一つ話に乗れず、うつろな目をして皆の顔を順番に見ていた。

 でも何だか楽しかった。

 こめかみから何か、もやついたものがスルスルと、抜けていくような気がした。

 7時頃、皆で夕食を食べに行った。

 皆で料理の批評をしながら食べた。まずいけど、こんなもんっしょ、という結論に至った。

 僕は生来、どんな食べ物をもあまり旨いと思った事がない。特にまずいと思った事もない。

 食事。それは、唯、腹を満たし栄養を摂取するだけのものとしか思えない。旨いも、まずいも無い。どうでもいい。ただ食べればいい。

 こういう面でも僕は一般的ではないのだろうか?他人は本当のところ、腹の底でどう思っているのだろう?分からない。でも、どうでもいい事だ。

 僕は僕のどっかの根っこの部分で食事が嫌いだ。

 生物の命を大量に奪って摂取する。死骸を切り刻んでこねくり回して飾りつけ味を付けて喰う事を楽しむ。そんな事をする暇があったら、ぼんやりと空でも見てた方がよっぽどマシだと思う。


 世の中から食事というものが無くなってしまえば、どんなに良いだろう。

 僕は、よく、そう思う。






断片69     終


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「雨族」 断片68-ぷーたろー:13年後~⑩:kipple

2010-02-11 14:39:00 | 雨族(不連続kipple小説)

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               「雨族」
     断片68- ぷーたろー
             13年後~⑩


 結局、ユウちゃんはホテルにメガネを取りに戻り、その間に我々は、マユミとコージを砂に埋めた。

 彼らの上に砂を山盛りにし、マヤ文明の文字のようなものを、僕は刻んだ。

 クロエとチカは、あちこちから流木を拾ってきて、そこに突き刺した。

 砂製の奇妙な古代遺跡が誕生した。

 自力で砂から抜けられなくなったマユミとコージを残して、僕とクロエとチカは再び海に泳ぎに行った。

 「出してくれー出してくれー」
 と、砂に埋もれた2人がハミングしていたが、放っておいた。

 僕たちは今度は大波に気をつけながら沖へと沖へと、どんどん泳いで行った。

 さっきの夢がフラッシュバックしてきた。僕は頭を振ってさっきの夢の残滓を追い払い、ぐんぐん遠くへと泳ぎ続けていった。

 クロエとチカが、ずっと後ろの波間に見え隠れしている。遠くで監視員が僕に注意をしているようだ。

 僕は泳ぐのを止め、仰向けに海に浮んだ。  ぷかりぷかり。

 いつか見た夢のデジャヴ。

 僕は手足を、じっと波にまかせて揺れている。光。海原。空。薄い雲。

 僕は水で、できている。水でできている僕が、水でできてる惑星に浮いて、夕暮れの天空に目をこらしている。

 誰も、ここまで来ない。海と風の音だけがする。

 僕は、このまま、ぐっと体を固くして沈んでゆく事もできる。水死体になって水の中で一人、漂う。

 僕は何ができるのか?これから僕は何をするのか?いったい僕と言う存在は、どんな老人へと変化してしまうのだろうか?クロエは、これからも僕と暮らすのだろうか?チカに僕は好意を抱き続けるのだろうか?ターボーは、ドラッグをやめないのだろうか?ユウちゃんとコージは、いつまでブラブラしているのだろうか?僕は本気で笑えるだろうか?僕は悲しいんだろうか?苦しいんだろうか?楽しみとは何だろう?一般的とは正しいと言えるのだろうか?何故、基準が作られるのだろうか?働く事は正しい事だと誰が決めたんだろう?

 働かず、一般的でないという理由で、社会は、ありとあらゆる面で人を孤立させ、生を奪ってゆく。

 いつの日か、僕にも幸福が訪れるだろうか?僕の幸福って何だ?

 いつの間にか僕は、波に押されて、砂浜の見えるところまで来ていた。僕は体を反転して、ゆっくりと浜に向かって泳いだ。泳ぎながら皆の姿を探したが、誰も見あたらなかった。

 砂浜に上がって、マユミとコージを埋めた場所に行ってみると、ボコッと穴が2つ並んでいた。ビーチマットのところへ行くと、もう、そこには砂しかなかった。

 僕はずいぶん長い間、ぷかぷか浮いていたようだ。そういえば、あたりが、だいぶ暗くなり、ひと気も失せている。

 僕は1人、とぼとぼと夕暮れの砂浜をホテル目指して歩いた。

 皆、どこかへ行っちゃった。


 僕を残してホテルに戻ったんだろう。






断片68     終


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「雨族」 断片67-ぷーたろー:13年後~⑨:kipple

2010-02-10 16:43:00 | 雨族(不連続kipple小説)

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               「雨族」
     断片67- ぷーたろー
             13年後~⑨


 7月下旬の平日は予想以上に混雑していた。

 高速に入った時には、ターボーは、すでにビールを片手にラリっていた。

 ターボーが僕に 「マリファナもあるぜぃ」 と言った。 コージとチカが吸っていた。

 マユミとクロエは淋しげに窓から入る風に髪をなびかせていた。

 僕も、ビールを少し飲んだ。

 運転手のユウちゃんは、ぶつぶつ文句を言っていた。

 午後3時頃、そのホテルについた。ホテル中島という、くだらない名前だった。まあ、ホテルと言うより国民宿舎という感じだった。

 すぐにチェックインし、我々は二部屋に別れた。男組と女組。和室。

 部屋に入るなり、ターボーは、すっぱだかになり寝そべってしまった。僕らが水着に着替えていると、スースーと寝息が聞こえてきた。タービーは勃起したまま寝てしまった。

 コージがケラケラ笑った。ターボーを置いて、女たちの部屋に行くと、まだ準備ができないというので、僕らは更衣室のロッカーにジーパンとTシャツを入れて海辺に出た。

 手頃な場所を確保し、ビーチマットをひいて寝そべった。浜には意外と人がいなくて、しん としていた。

 僕たちはタバコを吸いながら、しばらく、ぼんやりと海や空やポツンポツンと点在する砂浜の人々を眺めていた。

 上空で、ぶ厚く固まった光が、パラパラと細かく降りそそいでいた。

 ユウちゃんが、ビールを買って来て、皆で寝そべって飲んでいるうちに少し眠ってしまった。


 又、夢を見た。


 僕は海の上に立っていた。水死体の上に乗って。水死体は、6体あって、それが、いかだのように組まれていた。水死体の顔は白く溶けて、男女の区別もつかなかった。

 そこで、僕は何故か泣いているのだ。延々と泣き続けて空を見上げている。

 そのうちに光り輝くピカピカの青空が、じわじわと降りて来た。僕の涙は、青空が手の届くところに来た頃にはカチンカチンに凍っていた。

 そして、僕は青空を食べはじめた。片っ端から食べはじめた。青空に、どんどん僕によって喰いちぎられた穴が広がってゆき、その向こうに何かが見えた。

 それは、巨大な、冷静な目だった。それは、僕の事を、じっと見ていた。


 そこで夢が終わり、あたりを見回すと、クロエもマユミも来て、ビールを飲んでいた。

「眠ってたわね。ぐぶぐぶと、うめいてたわよ。夢見たんでしょ、こわいやつ」
 とチカが言った。

「そう、チカが僕の静脈から血を吸いとろうとしてる夢だよ」

 と僕は言って、立ち上がり大きく伸びをすると、海に向かって歩いて行った。

 足を海水につけた瞬間、地の底へのめり込んでゆくような感覚と、心にシャワーを浴びせたような清涼感が同時にやってきた。

 僕はくらくらした。

 しばらく、そうして波遊びをしていると、隣にクロエとユウちゃんがやってきて、同じ事をはじめた。

「人生は続く。夏は去らない。永久に」
 とユウちゃんが言った。

「人生は続くわ。でも夏は終わったのよ。皆、甘いわ」
 とクロエが言った。

「永遠は瞬間の中にある。それを信じよ」
 と僕が言った。

 そして、3人で駆け出し、ドップンと海に飛び込んだ。すかさず、3人は大きな波に呑み込まれ、ひっくり返って塩水の中でもがいた。

 そして、ユウちゃんが、コンタクトレンズをなくした。

「何も見えない。どうしよう」


「バカ」
 とクロエが言った。






断片67     終


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「雨族」 断片66-ぷーたろー:13年後~⑧:kipple

2010-02-09 14:26:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片66- ぷーたろー
             13年後~⑧


 海へ行く日まで、同じような日々が続いた。

 ユウちゃんたちとも遊ばなかった。パイクの死のせいか、何となく外へ出て友人とぶらつく気分になれなかった。

 クロエは仕事で忙しそうだったが、「何とかして一緒に行くよ」と言った。

 僕は毎日、空ばかり見てる。僕は昼も夜も空を見るのが、とても好きだ。

 クロエはTVを見るのが好きだ。おそらく何らかの形で社会と関わっていないと不安なのだろう。

 僕は逆だ。何とか社会から隔絶していたい。

 僕らは日曜日に水着を買いに行き、次の日に備えた。クロエはマンションに帰ると、さっそく試着して、僕にその姿を見せた。僕は何だか、ずいぶん久し振りにクロエに女を感じた。不思議な感じだった。

 クロエは女なのだ。ちゃんと女の水着を着るのだ。クロエは下着以外は全て男ものを着ていて化粧もしない。

 僕は不思議な喜びを感じた。陽気な気分になり、クロエを抱きしめた。

 次の日、午前11時に僕とクロエはユウちゃんの家に着いた。ユウちゃんはライトバンの内部を車庫の中で片づけていた。

 車庫の隅から大きな影が立ち上がった。影は、フフフと笑いながら僕らに姿を現わした。とんがり帽をかむったターボーだった。

「コカを少し持ってきたぜ。夜、皆でやって、ハイになろうぜ」

 と白い粉の入った小さいビニール袋を、ジーンズのポケットからチラリと出した。

「チカとマユミも来てるよ。さっき、お菓子を買いに行った」
 とユウちゃん。

 ユウちゃんは、ライトバンから出てきて、「準備OK」と言うと、家の中に入り、ビールやジュースをいっぱい詰め込んだアイスボックスを持ってきて車につめこみ、「完ペキに準備OK、あとはコージが来ればいい」と言った。

 そして、車を4人で囲みながら10分くらい、ぼんやりしていた。

 ターボーはポケットの外側からコカインを大事そうに撫ぜていた。

 マユミとチカが、大きな袋をかかえて戻ってくると、それを追うようにコージもやってきた。

 7人、全員集合。我々は、ライトバンに乗り込み、運転手のユウちゃんがゆっくりと車庫から車を出した。

「出発進行!」
 とマユミが言い、その通り、我々を乗せたライトバンは出発した。

 僕が助手席に座って地図を広げて、ユウちゃんのナビゲーターとなった。


 空はピカピカに晴れていた。






断片66     終


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「雨族」 断片65-ぷーたろー:13年後~⑦:kipple

2010-02-08 15:17:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片65- ぷーたろー
             13年後~⑦


 毎日は続く。どこへ向かって?何故?

 そんな事は知ったこっちゃない。僕には、どうする事もできない。勝手にしやがれ気狂いピエロだ。

 何が悪い?クロエは、よく「あなたは自分の事しか考えてない」と言うが、僕は自分の事すら殆んど考えていない。

 僕はおそらく欲望が少ない。好奇心も消え去った。興味のある事なんてどこにもない。おそらく生きる意志も欠如している。

 なら、どうする?答えは、やはり勝手にしやがれなんだ。僕は誰にも迷惑をかけていないし、犯罪を行おうなんて思ってもみない。

 ユウちゃんの言う通り、迷子の坊やに違いない。人畜無害の無為の人。本当に僕は何を欲しているのだろう。何を欲してきたのだろう。

 33才にもなった男が今さら過去を振り返ってもしょうがない事だが、大学を出た当時は確かに何かを欲していた。たぶん、ある種の充実した生き方を欲していたんだと思う。

 僕は大学時代の仲間が、次々と就職先を決めてゆくうちに、ひとつひとつ、僕には、どういう職業が向いているのか、1つの職について百くらいの、それに関連した適性設問を作って自分をテストしてみた。

 巨大な自分という謎。結果は全てNOだった。僕は職につくという適性が、まったく、完全にない事になった。何度やっても同じだった。

 非協調的、反社会的、非社交的、反抗的、体力無し、やる気なし、神経質、根暗、病弱、自己中心的、etc。

 僕は正直者だ。それで僕は、それを証明するため、あらゆる職種の就職試験を真剣に受けた。50社くらい受けたと思う。そして、自作のテスト結果は実証された。

 全て、僕は第一次試験で落とされた。そこらあたりで、僕の精神は違質のものへと変容していったようだ。

 社会に、ことごとく拒否された者が、どうして、わざわざ社会に媚びへつらって受け入られようとしなければならないのか?幸い僕には両親の残した財産があったし、特に、これといってやりたい事もなかった。

 僕は、そこで社会からアウトした状態で充実した生き方をするには、どうしたら良いか、考えた。考え続けた。結論は孤独を受容する事である。

 僕は1人で旅に出たり映画を観たりして何年か暮していった。しかし心は充実した孤独を受容できなくなっっていった。

 僕は25才くらいで情緒不安定に落ち入り、ウツ状態から抜け出すのが、容易ではなくなった。そして、僕は様々な神経系の薬物の常用者となり、仲間を欲した。

 探せばいるものである。

 僕はユウちゃんを通して同年代くらいの同様な暮らしをしている奴らと知り合った。当初、仲間は20人近くいた。今では8人程度である。

 ほとんどの者が、25才から30才くらいの間に定職を持った。あるいは精神に異常をきたした。あるいは自殺した。

 僕と、あと数名は、まだ、ぶらつき続け、生きている。まだ少し元気もある。あとは勝手にしやがれだ。

 困るのは恋をした時だけだ。僕にとって恋はあっても、その後に実るものが何もないのだ。だから、恋をしても本当に愛してはいけない。

 近いうちに必ず別れが訪れるからだ。とても苦しむ事になる。25才くらいで情緒不安定になったのは、そのせいもある。殆んどの女は、一般的な家庭を求めているのだ。


 クロエも結局は、そうだと僕は思っている。






断片65     終


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「雨族」 断片64-ぷーたろー:13年後~⑥:kipple

2010-02-07 14:40:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片64- ぷーたろー
             13年後~⑥


 僕は金色の波間に、たぷんたぷんと揺られていた。

 青いボートの形をしたソファーの上にいた。

 たぷんたぷん。

 僕は、うつ伏せになって金色の波をいつまでも見つめていた。

 しばらくすると赤い糸が波にゆられながら僕に近づいてきた。

 僕は、そっと赤い糸をすくい上げた。

 真っ赤で堅い糸だ。

 糸の先には何があるのだろう。

 僕は赤い糸を延々と、たぐり寄せた。

 何百メートルも糸は続く。

 しばらくして糸の先方に何かの手ごたえを感じた。

 僕は引く手を早め、金色の波間を注視した。

 すると女の生首が現われた。

 ぶかりぶかりと糸にからまり、波にもまれていた。

 空は快晴だった。

 僕は女の生首を引き上げて、よく観察した。

 つるんとして、ピカピカ光っている。

 それは、クロエの生首だった。

 生首は泣いていた。

 血の涙を流していた。


 僕は、はっと、飛び起きた。

 午前7時だった。胸がドキドキする。最近、毎日、おかしな夢を見る。今のは特に気分が悪い。

 僕は顔を念入りに洗い、ヒゲを剃り、ジーンズをはき、スケルトンマークのTシャツを着た。

 クロエは、まだ寝ている。今日は平日だから彼女も、もうすぐ起きるだろう。

 仕事に行くのだ。彼女は印刷関係の仕事をしている。フリーだから休みも、かなり自由になるし、収入もいい。

 僕は窓の近くで寝そべって、しばらく空を見てからクロエの朝食を作った。

 クロエは9時に起きてくると僕の作った朝食を食べ「じゃね」と言って仕事に行った。

 僕は食器を洗い、又、窓の近くで寝そべって空を眺め続けた。

 あっという間に昼になり、僕は昼食を作って食べ、デパスを2錠飲み、食器を洗い、タバコを続けて4本吸って、部屋の中を何も考えずにうろうろし続けた。

 TVをつけたが見る気がしない。本を出したが読む気がしない。

 僕は抗鬱剤を2錠飲んで夕食の材料の買出しに出かけた。

 夏の夕暮れ。涼しい風が吹く。商店街の人々の活気。僕は眩暈がしてきた。すばやく買い物を終えてマンションに帰り、少し寝そべっていた。

 目を閉じ、目を開ける。目を閉じ、目を開ける。そこにあるのは現実。

 次第に日が暮れてきて、あたりは薄い青に染まっていった。僕は起きて、コーラを飲み、タバコを吸い続けた。

 何も起らない。誰からの電話もない。

 午後8時頃になってから僕は夕食を作り始めた。クロエは、だいたい9時過ぎに帰ってくる。そして、その通りに彼女は帰って来た。

 2人で夕食を食べ終わると、クロエはTVを見始める。僕はTVが嫌いなので、TVを見てるクロエを眺める。

 そうして、12時頃に我々は寝る。

 僕の毎日は、殆んど、このペースだ。


 平和と言えば平和。地獄と言えば地獄。






断片64     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片63-ぷーたろー:13年後~⑤:kipple

2010-02-06 15:43:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片63- ぷーたろー
             13年後~⑤


 6時過ぎにサンプラザに行くとダフ屋が大勢出ていたので、僕らは彼らから券を買った。

 コージとターボーはユウちゃんに金を借りていた。

 彼らが、いままでユウちゃんから何十万円の借金をしているのか、本人たちでさえ、もう分からないだろう。

 場内は満席で、座りこみもたくさんいた。

 「たま」のライブは、さりげなく始まり、まるで室内楽のコンサートのように静かに行なわれた。

 そして、あっさりと終わったが、彼らの歌は僕の心を奇妙に震わせた。

 久し振りだった。僕は何故だか少し涙ぐんでいた。何だか自分の気持ちを代弁してくれてるような気がした。

 僕だって、しょっちゅう心寒くて裏庭をほじくり返したくなるし、悲しい迷子になって誰も知らない玄関の腐った軒下で泣いていたい。

 コンサートが終わって皆で雨の気配を感じながら夜道を帰る時、僕は、とても動揺していた。

 皆も何だか無口になっていた。

 僕らの上には真っ黄色の月が、どす黒い雲の合い間に淋しそうに浮かんでいた。

 パイクは、もういない。又、誰かが消えて行くだろう。

 パッと終わるのだ。

 マンションに帰ると、クロエが寝そべってTVを見ていた。

 僕は何だか、とても疲れていたので「おやすみ」と言うなり、食事もせずに寝てしまった。

 クロエは小さく「おやすみ」と言った。


 僕は何となく、クロエに今日、何してきたの、と聞いて欲しかった。






断片63     終


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「雨族」 断片62-ぷーたろー:13年後~④:kipple

2010-02-05 13:33:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片62- ぷーたろー
             13年後~④


 僕らは中野サンプラザに向かって、ぶらぶら歩いて行った。その頃には皆、「たま」のコンサートに行く気になっていた。

 開場まで、まだ時間が余っていたので、僕らは「クラシック」という奇妙な喫茶店に入った。

 店内は暗く、汚く、こってりと古臭い油の臭いが充ちていて、不気味な絵が、ところどころに飾ってあって竹の針で、古いレコード盤を回している。

 マーラーの9番が流れていた。

 僕たちは細い木の階段をギシギシと上がっていき、2階の6人席に腰かけた。

 はじめは、それぞれの最近の出来事を話していたが、しだいに話題はパイクの事に集中していった。

「パイクはミュージシャンか画家になりたかったんだって」
 とマユミが言う。

「でもミュージシャンの方は、いくらやっても何の楽器も弾けるようになれないし、音痴だし、楽器とか、8トラックのオープンリールとか、ミキサーとか機材をそろえたものの、何もできなくて呆然としているうちに、その夢に挫折してしまったんだって。でね、画家の方は、というと、やはりキャンバスや絵の具やいろいろ、そろえたものの、やはり何を描いていいかわからずに呆然としているうちに挫折してしまったんだって。そういうのって才能がないんじゃないの?夢だけで、って私が言うと、パイク、凄く怒るのよ。傷つける傷つける、お前の言葉はヤイ刃のようだ、ってね。そうやってるうちに、こうして死んじゃったのね。かわいそう」

「迷い子になった坊やたち」
 とユウちゃんが言った。

「ああ星空がみてぇ、きれいな星空に月に海」
 とターボーが言う。

「でもパイクは、そんな何にもならない夢でもあっただけいいよ。俺なんか何もねーや。何かになりたいなんて、あんまり考えた事ないよ。だらだら遊んでんの一番楽しいし。どーせそのうちパイクみたいに死体になるんだし」
 とユウちゃん。

「俺はパイクの、あの勝利の笑顔を評価するぜ。でも死に顔の中じゃ、アッカンベーが最高だ」
 とターボーは言う。

「ねえ、ターボー、きれいな星空みたいんなら皆で海に行こうよ。来週行こうよ」
 とチカが言う。

 僕は暗がりの中で、再び端正なチカの横顔を見ている。そして僕は果たして何になりたかったのかな、と考えている。

 僕はチカのスッとした直線的な目鼻立ちが気に入っている。見ていると透明な気分になる。

 コージが入れ過ぎた砂糖をコーヒーからすくい取っていると、ユウちゃんがチカの話に乗ってきた。

「よし、ホテルの予約なら俺にまかせろよ。どこだ、どこの海に行こうか」

 ユウちゃんの父親は実業界の大物で、たいていの事には手を回せる。

「大洗海水浴場」
 と、ボソッとコージが言った。

 それで話は殆んど決まってしまった。

「海よ!」
 とマユミが右眉を上げて僕に笑いかけた。

 僕も左眉を上げて、
「夏は海よぉ!」
 と答えた。

 それから僕らは約1時間、その薄闇の中で、いいかげんな旅行計画をねった。

 来週の月曜日、ユウちゃんのライトバンで行こう。


 そういう事になった。






断片62     終


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