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探偵キック 肆

2021-06-14 08:09:14 | 夢洪水(散文・詩・等)
探偵キック

 キックは、すっかり目が覚めて、すっきりとした頭で、もう一度、5人から得たレク夫妻の娘に関する情報を整理してみた。全員に共通しているのは、インターネット上の「珍品屋」というホームページに置かれたチャットルームで知り合っているという事。自殺した青年Z以外の最後のメールには皆“飛ばす、送信する、添付する”等の(ネットワーカーたちの間のスラングだろうか?)言葉が書かれていた。悪意を感じるものもあった。
 
 キックは立ち上がり、窓を開け、昼下がりのいつもの都市の風景を見て外の風を浴び、近くを通りかかったアルバイトの女の子にコーヒーを入れて貰い、再び机に覆い被さる様に座って考え込んだ。

 コーヒーが胃にしみ込み、頭の芯が何となく鮮明になった気がしてきた。そうしてコーヒーを、ちびちび飲んでいるうちに何となく、何故彼女が失踪したのか、その理由が、ぼんやりと分かってきた様な気分になった。
 
 自殺した一人を除いて、彼女の恋人達は、両極端なんだ。はっきり言って簡単に強者と弱者に大別できてしまう。

 知的で頭脳明晰で強靱な身体を持ち合わせたカルチュアとミックは強者。あきらかにぼんやりした感じで頭の回転の鈍そうな、病的で虚弱そうな、惨いイジメにあった過去を持つキーホーとキップルは弱者。

 彼女は、この両極端な人間達を自ら選ぶ様に、チャットやEメールで内面の強弱も確認してから、交際していた。彼女はチャット以外の現実の中で知り合った人間とは、どうしても友人にも恋人にもなれない様だった。彼女こそ極端に外見から入ることのできない、現実の他人の輪郭を恐れる事からのヴァーチャルなものへの希求と、アナログな多人数との濃厚で過激なSEXによるコミュニケーションを同時に希求する極端に矛盾する人格の持ち主だったのではないだろうか。
 
 アンヴィバレンツ。
 
 キックはコーヒーを半分くらい飲み終えると、ここ何週間か吸っていなかったタバコに火をつけた。少し頭が、くらっとした。キックは考えた。

 問題は自殺した青年Zだった。彼の人間像は、あまりにもバラバラだった。他の4人は身辺からの情報でも本人自身からの情報でも、強・弱と両極端にはっきり分けられるのだが、青年Zの場合は周囲のイメージがバラバラで、すでに本人から情報を得るのは不可能だった。

 周囲の聞き込みから得た彼に対する見方は、見事に分裂していた。明るい・暗い。凄く健康的・凄く不健康。外向的・内向的。まるで青年Zは極度にアンヴィバレンツな2重人格者のような存在としか思えなかった。
 
 アンヴィバレンツ。両極端な4人と、一人で両極端な人格を持った青年Z。そしてアンヴィバレンツを好むレク夫妻の娘。彼女自身は男好きはするものの、どうみても何の特徴もない存在感の薄い人格。さらに自分自身のその人格に悩んでいたふしがある。自分自身が空洞みたいな人格だから、そこに極端に強弱の偏った人間たちと交際する事によって自分を埋めてちょうどいいバランスを作ろうと考えていたのかも知れない。

 この6人が彼女の失踪時から半年程前にインターネット上の「珍品屋」というホームページに置かれたチャットルームで知り合った。キックは、ここに彼女の失踪の謎を解く鍵があるのではないかと思った。 
 
 
 キックは交換メールとチャットの過去ログから割り出した6人のハンドルネームをメモ用紙に並べて書き出してみた。

 

 
カルチュア  のハンドルネームは 「カルト」

キーホー   のハンドルネームは 「音楽室」

キップル    のハンドルネームは 「キル」

ミック     のハンドルネームは 「明るい家族計画」

青年Z    のハンドルネームは 「ロミ」

レク夫妻の娘のハンドルネームは 「赤いゴミ箱」
 


 そしてキックは、このハンドルネームの中に何かが、何かが、隠されているような気がした。パズル?暗号?言葉遊び?何かの意味があるような気がした。彼は腕組みをして暫く考え込んでいた。そして、決心した。手掛かりは全て、そのチャットにある。行ってみよう。そこに何があるのか、この目で確かめよう、そう思った。

 キックは、ぐいっと一気に残りのコーヒーを飲み干すと、目の前のパソコンに向かってタバコの煙を吹きつけながら、マウスを握りディスプレイの中のブラウザのアイコンをダブルクイックして立ち上げ、インターネットにログインした。



kipple



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