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元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

音楽室5号 目次

2021-07-18 06:18:50 | 音楽室5号


目次

 

表紙  序章  第1章  第2章  第3章  第4章  第5章

第6章  第7章  第8章  第9章  第10章 第11章 第12.1章

第12.2章  第12.3章  第13章  第14章  第15章  第16章  第17章

第18章  第19章  第20章  第21章  第22章  第23章  第24章

第25章  第26章  第27章  第28章  第29章 ENDLESS






KIPPLE



音楽室5号 第29章

2021-07-16 06:32:20 | 音楽室5号

 


第29章

(リズムが容赦無く僕らを引っぱっていき音で区切られた昔も、なかなか取り戻す事に気づかずに風の時は過ぎていきます。

 だから人それぞれリズムがあって、ひきづるリズムでさえも、どこか懐かしくて胸震える思いを感じるのです。

 伸びる音。

 下がったり上ったりして、うねうねと続いてパーンと突然、終わりになってしまって、やたら寂寥とするこの人生。

 この人生。生命(いのち)、投げちゃおうか。おうか。

 瞬間の積み重ねなんて人がよく言う。

 人がよく言う事、つまんない。

 つまんないから、ぐらぐら退行性があるんじゃない。

 手紙を開く時の喜びのような生活は、いつ?。

 ねばねばの現状。フツフツの頭とカラカラの外見。背反こそ全て。)



 キーホーは部屋に帰りました。

 時が過ぎたり、やってきたりしました。

 

時

 

(いったい、どうして僕は、こんなに苦しいのだろう。

 こんなに辛いのだろう。

 こんなに淋しいのだろう。

 きっと生も死も、みんな意味なんて無いからだ。

 きっとそうだ。 そうに違いない。)


 又、いつか雨の降る午後に書簡が届くかもしれません。


 キーホーは鳥が飛んでくの、たまにみる。

 白くて大きな広い、でぇっかい、がらぁんとした、荒涼とした部屋に一人で木の椅子に凭れるキーホー。

 

特に何か、ありますか?


「別に」





KIPPLE


音楽室5号 第28章

2021-07-15 07:06:09 | 音楽室5号

 


第28章
(金は人間の心の再創造の宇宙だ)



 キーホーは黙って音楽室五号の板戸を開けて廊下に出て行きました。

 自動人形になった気分です。


 静かに板戸を閉めて振り向くとキーホーは蟻のように青ざめてしまいました。


 廊下の端から端まで窓を背に、ずらりと、人々が整列して、まるで汚いゾウキンでも見るように薄目を開けて冷ややかにキーホーを見つめているのです。


 皆、ちゃんとそろっていました。

 バイオ・プロレスラーみたいなサラリーマンに、切符切りに、りょう子さんに、ペロペロキャンディの少女に、小説家に、奇型的美男子に、透明な少女に、処女を失ったおばあさんに、カラス女の夜子に、行李を背負った税理士に、車掌さんに、蟹に喰われたもう一人のキーホーに、復元されないはずだった用務員のおじさんに、地球儀を肩に乗せた音楽教師に、男と女に、笑い仮面に、市長さんに、ギャッヴィに、旅人に、旅の娘に、バカの患者に、僕に、優しいネズミに、LOGOSに、あごらほぉびあの人たちに、ウルフに、美男美女に、ショパンを弾く天使の少女に、エキストラに・・・その他たくさん。



 キーホーは呆然と突っ立ったまま、彼らの視線の集中砲火を浴びていました。




ハート




 どのくらいたったでしょうか、外でウグイスが鳴いていました。

 校舎の裏で子供が変質者に殺されていました。


 遠くで汽笛が響きますと、キーホーの前の人々は、くっと顔の筋肉に力を込めて、一拍おくと一斉に、ふんっと口をすぼめて横を向きました。

 波がたったようでした。


 そうして知らんぷりをしたまま静止している人々の前を肩をがっくりと落として、とぼとぼとキーホーは帰路につきました。

 歩く足が、なんだかプカリプカリと浮きあがっていくようです。

cry!


 BYE BYE 役立たず。


 



KIPPLE


音楽室5号 第27章

2021-07-14 07:09:00 | 音楽室5号

 


第27章
(サブリミナル・プロジェクションとウルトラ・デメリット)



 キーホーはショックを受けました。

 少女はこう言ったのです。

「あなたのお役目は果たされませんでした。

 すでに遅かったのです。

 あなたが私のスカートをめくる0.00001秒前に前の世界は滅亡して、こっぱみじんに消え失せて無くなったのでした。

 そんで0.000001秒前に前の世界と全く同じ世界を再び神様がプログラムされたのです。

 ですから今の世界であなたが、いくらスカートめくりをして目玉にピアノ線を突き刺そうとも、それはもう前と全く同じで全く違う今の世界にとっては何の意味もありませんのよ。

 手遅れですわよ。

 ざーんねん・むねん。

 ケラケラ。」


 キーホーは全身に痺れを感じたまま、太陽が地球を一周する間中、泪を流していました。

 そして再び朝が来ると、少女がエチュードを弾き始めたので、質問をひとつしてみました。

「最後に、教えて下さい。

 いったい、どうして世界は滅亡してしまったのでしょう。」


 少女は中間部を激しく情熱を込めて叩きながら、手を放してキーホーに笑いかけました。

 ところがピアノは鍵盤自らが演奏を続けているのでした。

 それは、ガーシュインの使ったデュオ・アート製の自動ピアノだったのです。

 見えない手が鍵盤をたたいています。

 仕掛けは巻紙にあけた小さな穴なのです。


 少女はキーホーへのいたわりを込めて天使の笑顔で淡々としゃべります。

 

涙のキーホー

「あのね。

 ある日、美男美女が旅をしてるとお空のてっぺんから草原にUFOが落ちてきたの。

 UFOは砕け散って半分くらいしかなくなっていたのよ。

 中から宇宙人が、ふらふら這い出してきたんだけど、その人、記憶喪失になっていたの。

 美男美女はね、その宇宙人が狼に似ているのでウルフって呼んだのよ。

 ウルフはね、どこの誰で何をしに来たのか、さっぱり分からないんだけど知力は物凄かったのよ。

 美男美女はね、ウルフを家に連れて帰ると彼の天才を利用して反陽子爆弾を一万個作ってもらって地球を脅迫したの。

 戦争とお金を無くせってね。

 でも、その反陽子爆弾は米粒よりちっちゃかったんで誰も相手にしてくんなかったわ。

 ある日ね、美男美女はついうっかりと、一万個の爆弾で御飯を炊いてしまって大爆発が起きてしまったの。

 地球は、いっぺんで消し飛んだわ。

 それでウルフは地球のかけらに乗っかって一人だけ生き残ったの。

 だってウルフはM78星雲から来た宇宙人だもん。

 一人だけになったウルフはとっても孤独だったわ。

 顔にSOLITUDEって書いてあるくらいにね。

 ウルフは孤独のためにアル中になってしまってね、酔ったいきおいで頭をぶつけて思い出したのね。

 彼は人類を破滅から救うためにやってきたのでした。

 その後、ウルフは故郷からやってきた宇宙パトロールに宇宙犯罪人として追われています。

 はい。 おわり。

 じゃね。

 ごしゅうしょうさまでした。」


 チン!

 



KIPPLE


音楽室5号 第26章

2021-07-13 06:59:00 | 音楽室5号

 


26章
(か~ん、と死んだ青空。)



 やりました。

 室内は、がらんとして広くて白くて壁にぐるっと甲虫(かぶとむし)の様にヴァイオリンが取り巻いてて、中央に黒いグランドピアノが大口を開けて白い歯を見せているのでした。

 音楽室です。

 間違いありません。

 キーホーはソーダ水の泡が全身を駆け巡っているような気分で、もう、はちきれんばかりに安心して快地良さそうに涎を垂らして、うつら、うつらと室内を見渡していました。


 グランドピアノの前に白いブラウスとギャザーの黄色いスカートを付けた、天使の様なミルクの様な小鳥の様なレモンの様な可憐な少女が白い椅子にもたれて宇宙的アニマの集合体のような優しい微笑みを浮かべて、小さな可愛い指でショパンのノクターンを弾いていました。



 キーホーは、しばらくの間、うっとりとその甘美な調べを聞いてから、しずしずと少女に近づき、スカートを心を込めてプワッと逆さ傘みたいにめくり上げました。

スカートめくり


すると、少女は、

キャッ。」

 と言って一瞬、目を丸くしてキーホーを見ましたが、すぐに再びノクターンの続きを弾き始めました。


 次にキーホーは低音部のドとド♯のピアノ線を八重歯で噛み切って、

ブゥォォォオンと広い部屋にエコー。)

 両手で、しっかりと握りしめて自分の目玉に突き刺しました。

ピアノ刺し


 役目は終わりました。


   しんとしました。


 少女は演奏を中断されて、しゅんとしています。


 キーホーは少し可哀相な気がして、少女に向かって目玉からタラリと血を流しながらニッコリと笑いかけました。


 すると少女は、くいっと小さなあごを上げ、パッと破顔するとキーホーにこう言ったのです。


ざぁぁぁんねぇんでしたぁあ。」

 



KIPPLE


音楽室5号 第25章

2021-07-12 06:53:05 | 音楽室5号

 


第25章
(煙草の中に小さな祠があって、小さな神社ができて、ニトロソアミンのせいでドロドロに溶けちゃう・・・とけちゃうとけちゃう)



 さぁ、さぁ。

 とうとう着きました。

 もう音楽室は、ここ以外にゃありませんよ。

 だって、そうじゃありませんか。

 キーホーは、やっとここまで来たんですから。


 キーホーは、すっきりした猫の踊るような目をして五号室の前に存在しています。

 あたかも、入水自殺をする決意をして、二階建てのカフェバーでカンパリを飲み終えたかのように。



 ぐらりっ。かたむいた!。



 ここで物語はキーホーのうねうね路線を放り投げて、ソナタは午後に夕陽になってたれ下がるのです。

 そして、それは山を焦がす。


 キーホーの根源的な心象風景がホログラムとして無をベースにコペルニクス的転回を始め、再び劇が始まります。




   LOGOS。

 ごめんね。
そして、

それは、

 


  「あごらほぉびあの人たち」
 

 彼らは、あごらほぉびあの人達だ。

 扉を開らく時、外の光を受ける時、それが彼らにとっては阿鼻叫喚、肉食SM、モトイ、カニバル獣人狂乱極熱地獄への入り口。

 かといって外に出なければ狂気の迫害、非情の叱咤、小言、命令、軽蔑、嫌味、限り無い精神殺傷、出なければ狂う、出なければ泡吹いてぶっ倒れるか自分と出会ってゾッとするか死んでニッコリ笑うか。

 でも家で死ぬる場所は、あるか?

 ない。

 では、外へと。

 あごらほぉびあの彼らたち、外へ出た。

 生と死の中間の最も激しい苦痛。

 あれは、こんなものじゃないでしょうか?

 息が出来ない。

 顔が歪み、熱くて目がくらむ。

 人に会うのが恐ろしくてたえず、ぶるぶる震えている。

 苦しく苦しく、犬の様に息を吐く。

 小さな刃物で無数に切り刻まれる。

 内側からも外側からも。

 かくて耐えられず、あごらほぉびあの人達は、まだ彼らにとって子宮である家に帰ってしまうのです。

 そして、発狂して人を襲う日まで地獄の散歩を狂人と化する自分の影に追われ、おびえ繰り返すのです。

 そして、ある日、ドアを開らくと向こうで自分がニヤリと笑って挨拶してきます。

 さぁて、「僕は二人はいらないもん、二重身なんてやだ!。

      殺してやるウィルソン!。」
 




 
   場面、部屋。

       登場人物。 
 

        声。(LOGOS)。

        僕。

        優しいネズミ。
 



(声が舞い降りてきます。

 声とはヘブライ語のヤーウェの事で、「ある」という意味と解釈して下さい。

 さぁ、声は金色の陽光としてゆっくりと舞い降りてきました。)



声。

 「へい、BOY!。

  何故、一人で暗い部屋に閉じこもって泣いているんだ?。

  なんでそんなに眉をひそめて私を見るの?。

  まるで私が、あなたにとっての全ての敵みたいじゃないの。

  涙なんか流して。

  アラアラ扉を閉めちゃって。」


僕。

 「もう絶対ここを出ないぞ!。」


声。

 「あら、そう、いいわ。

  そこで死ぬといいわ。

  どーせ、そこだって外と同じ鉛色の世界よ。

  そのうち厭になるわ。」


(声は粒子の中に浸み拡散し分解し消え、部屋には僕が一人で机に俯いている。)


僕。

 「ああ神様、僕は最低だ。

  祈りだってすぐ飽きちゃう。怠惰が全てだ。

  どうしたらいいんです?。

  死ぬのは怖いです。

  でも外へ出て、いろんな人に会うのは死んでも厭です。

  じゃぁ、やっぱり死ぬわけですね。

  自分で自分、殺すのは怖いです。

  死ぬんなら病気になって死にたい。

  その方が自然じゃないですか。

  そうですよ。

  自分で手首切って死ぬより、ずっと自然ですよね。

  じゃぁ、どんな病気になったらいいのかな。

  飢えと寒さで死ぬってのがいいな。

  なんとか死ねそうじゃないか。

  他の人だって自殺だなんて思わないだろうな。

  姉さんや母さんが僕を放っといたからって事になるよ。

  ざまぁみろ。

  僕を、いつも縛りつけたからだぞ。

  いや、いつも放っといてくんなくて肝心な時に放っておくから悪いんだ。

  はら、又、体が痺れてきた。

  みんな、みんなが悪いんだ。」


(優しいネズミ現る。優しいネズミはBOYに言う。)



優しいネズミ。

 「あなた。

  生きる希望をいっぱいかかえて明るく、何にも挫けようとせず素直に精一杯、生きている女を知ってますか?。

  ほら、あのコギャルたちですよ。

  若くて陽気で誰に対しても変わる事無い笑顔、人生の喜びを信じて疑わぬあのコギャルたちですよ。」


僕。

 「うぇっ。吐きそうだぜ。何がコギャルだ。

  ノータリンで淫乱で自惚れが強くて打算高く生きる事が狡猾なだけのゲロみたいな動物!。

  虫ケラ以下じゃないかね。

  あぁ、知ってますよ。

  あの吐き気を催させる外見だけは美しい亡者どもだろ。

  奴らこそ気が狂って死ぬべきさ。

  恥を知れ。」


優しいネズミ。

 「ほう。

  輝くあの少女たちの姿を見て吐き気を感じますか。」


僕。

 「あれほど実は薄汚く卑劣で自己中心的な生き物は他にないんだ。」


優しいネズミ。

 「じゃあ、あなたが素直に素晴らしいと思える人ってどんな人なんですか?。」


僕。

 「無力で全ての人に対して許す事が出来、いつもじっと自然を感じているような人さ。

  その人は少し笑うだけで話はあまりしないんだ。

  ゆっくりと体を動かして死ぬまで、そうしてるのさ。

  全てに対して怒らず恨まず憎まず、唯、虚無であれば良いのだ。」
 



 

Oh,BOY。Oh,BOY,コップは、からからだぜ。
 

川の色はコンクリートの灰色さ。

夜の空を見なよ。

反響する花火のドーン。

煙が雲みたいに流れる。

花火はバーストするよ。


何が見えた? なんも、見えん。


まっくらだ。


でも見たんだよ。何を見た?。

光の中の影さ。

俺の影だよ。

ハッハハハ。

 




 特に何か、ありますか?。  「別に。」

 

 

プチッ。

プチ


 ぐらりと再び傾き、心象風景は情報として一点に集中され、再構築された物語に戻り、キーホーは今、音楽室五号の板戸に手をかけるところなのでした。


 朝のようです。

 足元に廊下の端から端まで白い靄が蛇のようにうねうねしています。

 窓下の校庭に生い茂った緑の雑草に朝露がパチンコ玉みたいにリフレクションして音楽室五号の板戸にキーホーの影絵を描いているのです。


   チン!


 キーホーは心をこめて板戸を引きました。




 注。
 ヤーウェとは幻覚剤の名称だったという説もある。
 初期ユダヤ教信者たちは麻薬によって神を体験した。
 モーゼの出エジプトは全て幻覚の中の出来事だったと推測される。

 



KIPPLE


音楽室5号 第24章

2021-07-11 06:54:45 | 音楽室5号

 


第24章
(ゾッとした。ビルが二つに見えた。赤が黒に見えた。女が靴に見えた。)



 今度は白い病室でした。

 白い大きな寝台にシーツをかむって髪を針の様に逆立てた男が大きな目玉をギョロギョロさせて横たわっています。

 キーホーは、やれやれと思いました。


 キーホーは奇妙なその患者を一瞥すると、すぐさま踵を軸にくるんと回わり、板戸を開いて出て行こうとしました。


 しかし背後から、まるで神様をたった今、刺し殺してしまったような悲痛な声が待ったをかけるじゃありませんか。

男
「先生!。先生!。話を聞いて下さい。

 どうして行ってしまうのですか?。僕をちゃんと治療しもせずに。

 む・むごいじゃありませんかぁぁぁ。」


 キーホーは再び、やれやれと思いました。

 もう音楽室は五号と決まったようなものです。

 その安堵感もありましてか、キーホーは壁に吊り下がっている白衣を被ると精神分析医の証明バッチを胸に張り付けて荘重そうな顔つきをして患者の横の回転椅子に腰掛けて、V字型に笑顔を作ってみせました。


「はい。聞きましょう。どうぞ。」


 キーホーは、キョトキョトしている針千本(ハリフグ)みたいな患者の両耳をダンボのように摘んで広げました。

 すると患者のおしゃべりスウィッチが症状告白モードでONに入ったようです。


 カチリ。・・・


 患者は舌を羽ばたかせながら話し始めました。


「僕、毛が多いんです。

 特にチンゲの多さったら人の三倍はあると思います。

 それで僕、困るんです。痛いんです。

 あの時、チンコと一緒に固くて縮れた沢山のチンゲが先っちょに絡まったまま付いてくるんです。

 チンコの先はカミソリでやられたみたいに切り傷だらけです。

 目玉を抉られ喉から手づかみで心臓を抜かれる痛さです。

 気絶した事もあります。

 そ、それで・・・・・・・・・・。」


 キーホーは想像すると身の毛がよだち、アーチ形に反り返って唇をすぼめました。


「それで?。」


「それで、あの僕、毎朝、よーく臍のあたりから肛門のまわりまで、みっちり一時間以上かけて剃るんです。

 つるつるに剃ります。

 僕は、そうしないと又、痛い目に遭うんです。

 だからどうしても、つるつるにしないと駄目なんです。

 一日でも放っておくと、短い針の様な毛が、今度は袋に何百本、いや何千本も突き刺さる事になります。

 だから、よぉく剃るんです。

 僕、とっても恥ずかしい。

 洗面所の三面鏡に向かって下半身をガバと開らき、唯ひたすらに剃ります。

 なんて惨めな事でしょう。

 せ・先生。わかります?。この惨めさが。

 そ・それで、まず十ヶ所はカミソリ敗けしてしまうんです。

 時には何か得体の知れぬ前人未踏の不気味な体験かと思います。

 そう、男のくせにメンスがあるんです。

 くっ。くっ・く。

 男のくせに。」


「えー。剃るのを始めたのは、いつ頃です?」


「中学に入った頃からです。」


「その時以前に、もう女性と性交渉をもっていたんですね。

 それで、陰毛が邪魔になり、剃るようになったと・・・・・。」


「い・いえ。先生。

 ダ・ダッチ・・ワイ・・・

 いえ、僕はまだ性交渉してないです。

 一度も。」


「えー。それでは、あの時、チンコの先に絡まると言った、あの時とはどんな時の事ですか?。」


「はっ。はっ。

 う・嘘でした。すみません。

 また嘘をついてしまいました。

 いかにも僕はS・SEXの時の様に話をしましたけど。

 事実はそうなんです。しくしく。

 僕も自分の心理がよくわかるんです。

 僕、四十になっても童貞なんです。

 そ・それで、それが劣等感で、ずっと二十歳頃から、すぐに嘘を言いました。

 いかにも、とっくに体験したかのように。

 で・でも直接、SEXしたかって友人に聞かれると震えちゃうんですよね。

 僕、身体は正直にできているんです。」


「それじゃ中学生の時から陰毛を剃り始めたというのも嘘なのですか?。」


「いいえ!。こ・これぁ本当です。

 本当でっす!いっつも、つるつるにしてました。」


「では、剃り始めた時の原因は何ですか?。

 もう嘘はいけませんよ。」


「分かるんです。今、わかりました。

 僕は十二才まで脱糞癖がありまして、いつも尻やチンコをウンチだらけにしていました。

 あの頃の僕にとって、それはとても恐ろしい事でした。

 一日に何十回もウンチが平べったく尻から下へ回って臍までベットリと付いてしまうもんですから。

 父や母は、その度に僕の事を(うんちょっ子。うんちょっ子。)ってからかい、(自分で拭け!)と殴る蹴る始末でした。

 十三才の頃、そんな癖も治りましたけど、何か尻やチンコのあたりが気になるんです。

 それで前にウンチをキレイ・キレイに拭ってたように僕はチンゲと尻毛をつるつるに剃らずにはいられません。

 きっと、そうだと思います。

 先生、そうなんです。

 僕はウンチを拭いたいから毛を剃るんです。

 でしょう?。」


「そうですか。そうとは言いきれません。

 他に何か、その頃とても恥ずかしいとか屈辱的な出来事は、ありませんでしたか?。」


「え・え・え・。う~ん、無いですねぇ。」


「それ以前は?。」


「その前っ!。そ・その前には・・・・・。

 実は僕、十才の時、宇宙人の女の人とお父さんがSEXしてるのを見てしまったんです。」


「そうですか。

 あなたの性的発達は、その時の衝撃的な光景に留まってしまったのでしょう。

 性の対象は歪められ代償を求め、欲動は彷徨います。

 都合の良い事に、あなたは脱糞症で肛門部や性器に日常的に大便が付着していた。

 それによって歪んだ性欲動の代理行為として肛門や性器周辺の便を取る事で充足させていたのです。」


「・・・じつを言うと、その頃、僕、その拭った便を必ず唇に塗って口をタコの様にすぼめて口に付いたウンチの臭いを嗅いで楽しんでいました。

 とても恥ずかしい事です。」


「そ・そうでしょう。リビドーの退行です。

 口愛期です。

 その癖は外的な制圧によって十三才の頃には周囲に対しても自分に対しても限界に来てしまったのです。

 ここで自我が働き、なんとか、周囲の力も手伝い、脱糞癖は治りました。

 しかし、そうすると今度は、また抑圧を受ける事になります。

 せっかく十才で歪んだ性欲動、固着したリビドーも、その代替行為を奪われてしまったのです。

 欲動ベクトルは自然に大便拭いから陰毛剃りへと向きを変えました。

 そして大便拭いの記憶と状況からの対自己印象は、とても強くリビドー発達を、これまた歪めたのでしょう。」


「じゃ、どうしたら、この恥ずかしい事、止められます?。

 止められないと又、自我と劣等感の闘争のため、又々、その対象行為を間違えて自分のチンコを街中で尻の穴に突っ込んでみたり高級レストランで人々の目前でウンチして、それを食べ始めたり、喫茶店でチンコの穴にストローを巧みに突っ込んで・・・僕、あれプロ級にうまいんだから!・・・小便をエメリューム光線みたいに飛ばして他の客にひっかけたり・・・。

 それを、も・もう、せずにはいられなくなります。

 あぁ、なんて重い苦悩なんだ。ラ・ラ。

 何で、あんな楽しい事しちゃぁいけないんだ。

 そうだ、後で死ぬ程、恥ずかしくなるからだ!。

 でも、止められない。

 チンゲ剃りを止めれば、止められるんですね。」


「いや、待て。

 チンゲ剃りを止めても駄目だろう。

 失礼、陰毛剃りを。

 無理して止めたら今度、代わりに君は、どんな事をするか、わからんぞ。

 まず陰毛剃りの原因となった無意識の中の歪みを消さねば全ての異常行為は治らない。」


「わかった!。

 僕は宇宙人と父の産んだお前を殺したいんだ!!!。」


 そうか、僕はハーフだったのかとキーホーは納得すると、ザラ味のカルテを患者の首から外して、サラサラと記入を済ますと、


「はい。終わりました。」


 と言って、すっくと立ち上がり、白衣を破き、そそくさと病室を後にしました。


 患者はしばらく、こせこせと蜘蛛の様に部屋中を這いずりまわっていましたが、キーホーの記入したカルテをひょいと見てしまいました。


(症例。1999年・坂本良介。病名『バカ』。)


 患者は顔を一万光年の速度でほころばせ、胸を足で撫で下ろし、にんまりと幸せそうに空を見上げて叫びました。


「そうか!。

 僕は、バカだったんだ。

 バカだったんだぁぁああ。」


 患者は狂喜して垂直に飛び上がり、天井に首まで突っ込んで手足をはためかせ、大声で言いました。


「ありがとぉう、先生。」



 キーホーは、

「どういたしまして。」

と言って、ゆっくりと板戸を閉めました。




注。
 エメリューム光線とはウルトラセブンの松果腺から発せられるエネルギー体の名称。
 ここでは人間の未知なる目、
 即ちDNA遺伝子の失われた記憶領域の開放、覚醒の意味を含ませている。
 デカルトは松果腺に魂が宿っていると言った。
 ブッダは覚醒により過去世を思い出し、その影響を受けたエンペドクレスも過去世を思い出した。

 第三の目。

 

少女2

 



KIPPLE


音楽室5号 第23章

2021-07-10 07:00:15 | 音楽室5号

 


第23章
(私は、あなたを綺麗にしたい)



 という事で、旅人は市長さんとギャッヴィに処刑場へ引きずり出されて例のカミソリ式絞死刑台に押し込まれ、あっさりと血と肉片に変身してしまいました。


 市長さんとギャッヴィは、ポンポンと両手をはらうと、ニッコリして、


「今日は、とても良い事をしたね。」


 と、頷き合っていました。


 その時、受け皿の上の旅人の生首から、しゅうしゅうと細かいクォーク(超素粒子)の様なものが立ちのぼり、次第に輪郭を整え、ついには例の淋しげな少女の絵になったのです。

 絵の中の旅の少女は、薄暗い納屋の奥で見ているキーホーに優しく微笑みかけてきました。

 キーホーは、すっくと立ち上がるとランプを倒して外の広場に飛び出して行きました。


「君は!君は透明な少女じゃないか!。」


 納屋に火の手が上がり、市長さんとギャッヴィが擦れちがいに駆けてゆきました。

 阿波踊りを踊りながら。

 

少女2


 少女は絵の中でキーホーに「おいでおいで」をしましたので、キーホーは絵の中に飛び込んでゆきました。

 すると、そこは出口だったのです。


 くいっと体が引っぱられるような感じがして、気がつくとキーホーは音楽室三号の板戸の前に後ろ向きで突っ立っているではありませんか。


 あたりには黄色い靄が立ち込めていました。

 どうやらシルクロードの砂が舞い降りているようです。

 廊下は、ふんわりとしてとても静かです。


 キーホーは踵を返すと、三号室の板戸を思いきり両足でキックしてから四号室に向かいました。


 今度こそはと思いをこめて、いささか疲れの出てきたキーホーは、そぉうっと四号室の板戸を開いたのでした。

 



KIPPLE


音楽室5号 第22章

2021-07-09 06:54:30 | 音楽室5号

 


第22章
(裏のパワーの外側の庭先で猫が死んでいた)



少女

『もう三十年も昔の話です。

 一人の少女が旅に出ました。

 夕陽の中、土の道を自分の足が踏む音に耳を澄ませて歩きました。

 海の彼方で太陽が焦げていました。

 草が動いていました。


 少女は以前に親しかった人々、親しくなかった人々、過去の生活の中で行ったり来たり蠢く人々を忘れようとしていました。

 しかし時々、涙がそうさせまいとする事もありました。

 出てきた時のままのブルージーンと白いシャツで小さな緑色のリュックをかついで、なるべく人気のないところを歩き、食べ物は小さな村や町のマーケットで得、殆ど野宿をして旅を続けました。

 お金は盗んだのが百万円ありました。

 ある夕暮れ、市道から遠く離れた畑の農具入れの小屋の中、くもの巣の下で少女は死にました。

 少女が歩いた道、眠った畑も、今はすっかり近代化が進み、車両通行の多いアスファルト道路になり、当時の面影はありません。

 もう三十年も昔の話です。

 私は少女の旅の途中、三回会い、短い話をしました。

 とても素直で天使のような女の子でした。


“土の表面に私の影が漂います。夕焼けがまた始まります。とてもステキ。”


 最後にこう言って少女は大きな樹の青い影の中へ緑色のリュックを元気よくかついで消えていきました。

 彼女の絵を一枚、私は持っています。

 彼女が旅で出会った絵描きの老人の作品で、彼女は私にそれをくれました。

 今でも大事にその絵はよく見える場所に飾ってあります。

 ごく平凡な絵です。

 陽差しの中、少女が、お花畑に立って何となく悲しそうに笑っています。

 私が死んだら、もう誰も少女の旅の事なんか憶えていないでしょう。

 もう三十年も前の事なのだから。

 絵だって私が死んでしまったら、売られるか、焼かれるか、無い事が全てです。

 私の家はその頃、東京の山の手の高級住宅地にありました。

 父も母も元気で金の奴もかなりあったようでした。

 私は大学生で人と話をしない青白い死人のような青年で、父の会社の人達や親類の人達の目は私の事をいつも情けなさそうに見るか、不満と怒りのようなものまでちらつかせていました。

 私は大学四年の時、親や親戚たちに貰って貯めておいた預金がかなりありましたので、それを資金に家出をしました。

 他人とは殆ど口を利きたくありませんでした。

 食料と水をたくさん買って、あまり人の来ない野原(そこからは海がよく見えました)にテントを張って長い間、住み着いておりました。

 毎日、私は昼下がりの長い影を引きずって断崖の下の誰も来ない綺麗な砂浜へ縄梯子で降りてゆき、読書をしました。

 少女は三度、そこへ私に会いにやってきたのです。

 少女とは誰とも話した事のないジュリアン・グリーンの小説について語り合いました。

 少女は実に真剣でした。

 少女の瞳は透んでいて、時にはピンク・ゴールドに輝いて見えました。

 もう過ぎ去って時の風に削られた私だけの遙かな思い出になった少女の事。

 今、思い出す昔の幻影。

 夏が始まりかけた頃、私は少女の死を知りました。

 蝉がうるさくて腹が立ちました。

 まるで少女の死は蝉たちが、うるさく鳴くからのような気がしました。』




 旅人の話は、それで終わりました。

 彼は大きな欠伸をして、そのままの姿勢で市長さんの後頭部をガツンと殴りつけまして、その拍子に市長さんの点の様な口から威厳のこもった判決が飛び出しました。

 


 


「無罪だ!。」

 





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