-九-
部屋の中は冷房装置のおかげで適度に冷され、冬眠人間のワタシの脳を活性化させ何重にも脳内で小説を上書きして楽しませてくれるのでございます。苦だからこそ、で、ございます。 ワタシが小説を書いて上書きをし続けなければ世界は生まれることは無いのです。全ての世界は冬眠人間のワタシが作り続けているのでございます。 ワタシが死ねば、全ての世界は消え失せるのでございます。全てはワタシの夢でございます。夢とは脳内で小説を上書きして楽しんで生涯を送ることでございます。ワタシが死ねば宇宙は終わるのです。 おや、花火が上がりましたね。美しい。ワタシは頬杖をついたまま隅田川上空に打ち上げられ、ど~んっと花開く巨大な色彩の戯れを見つめております。ずいぶん暗くなり、何時の間にか巨大な月が花火たちの背後に、のっそりと出現しております。 ぱぁ~ん!ぱぱぁぁ~~ん! どうした事でしょう。ワタシは涙を流しているのでございます。ああ、へんです。涙が止まらないのです。 どうしてでしょうか?窓の向こうの隅田川の花火大会がワタシのココロを震わせます。 でも、そんなはずは無いのです。鮮やかな光を振りまく花火たちの背後の巨大な吸い込まれそうな月がワタシのココロを震わせます。そんなはずは、無いのです。 「オイラは知ってんだ!お前は俺を馬鹿にして俺のいない間に片っ端から、そこらじゅうの男とヤリまくってんだろ!この淫乱!淫売!オイラが認められないのもお前のせいだ!この死神め!オイラを殺したのはお前だからな!ひとごろし!全部、お前が悪いんだ!死ね!お前こそ死ねぇぇぇええええええ!」 ワタシは泣き出して、アパートを飛び出して一晩中、街を彷徨いました。 ああ、あの時、ワタシが彼についていてあげれば。ワタシが、ワタシが、彼を殺したようなもので、ございます。今頃気づくなんて、余りにも悲し過ぎます。ワタシは本当に彼の事を愛していたのでございます。 ワタシが悪うございました。花火が綺麗です、月が綺麗です。この大きな窓から映し出される世界は、ずっと過去の世界です。 ワタシは死にたい。死んで彼のもとに行きお詫びをしたい。ごめんなさい。ワタシは逃げたのです。ワタシは死にたい。死にマス。 ワタシは、頬杖をついていた両手を自分の首に持ってゆきました。窓から美しい花火が、たくさんたくさん夜空に輝いてます。どぉ~ん!どぉ~ん!あの月に吸い込まれてしまおう。ワタシは、そう思いました。 ごめんね。ワタシも死にます。気が遠くなってまいりました。 ・・・誰?へんね。そ・そんな。だ・誰かがワタシを書いている。 いまわの際に、ワタシの頭の中に大声が響いた。 「俺!俺だよ!俺、俺!ぶっ殺す!ぶっ殺してやるぅぅうう!ああ!我慢ならねぇ!何だ、この社会は!糞豚どもめぇ!死ね!死ね!死ねぇぇっ!金満鬼畜腐れ外道どもめぇぇぇ!ぶっ殺してやるぅぅうぅ!皆殺しだぁぁああ!ざぁまぁみさらせぇぇえぇぇえぇぇぇぇえぇっ!」
KIPPLE |
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