キックは、かたっぱしからサーチエンジンに「珍品屋」と入力し検索した。ごくマイナーなサーチエンジンのデータベースに一軒の検索結果が出てきた。そして、その該当リンクデータ「珍品屋」(コメント:チャットでこの世のものとも思えない楽しい会話が出来ます!)をクリックした。
画面には、巨大なクリッカブルマップで、古ぼけた懐かしい感じのするレトロ調で描かれた骨董店みたいなGIF画像が張り付けられたホームページが現れた。ようこそ「珍品屋」へと看板らしき絵に描かれた文字だけが、極彩色にピカピカ点滅を繰り返しながら激しく動いていた。キックは情報屋からの資料の中から6人が集っていたチャットのURLを探し、今、彼がアクセスしているチャットに間違いない事を確認した。ふと何故、最初から、このURLでアクセスせずにわざわざサーチエンジンの検索機能を使ったのだろうかと思った。彼は、自分は導かれてるんじゃないか?そんな気がした。
次にキックは画像の中に「チャットのお部屋・逆さま珍品チャット」と真っ赤な文字で書いてある箇所をクリックした。すると、すぐに画面は切り替わり、チャットのページが現れた。キックの額から妙に脂っこくて冷たい感触の汗が流れた。そして彼は、しばらくROMしていた。チャットに参加せずに中で交わされている会話をじっと見ていた。 キックの頬が唇が、ひくひくと痙攣した。手が震え始めた。皆、いるのだ。「カルト」に「音楽室」に「キル」に「明るい家族計画」に「ロミ」に、そして「赤いゴミ箱」まで・・・。そして皆、何の問題もないように楽しく和気あいあいと会話しているのだ。
キックは背筋をゾッとさせながらも、彼らの入力しているメールアドレスやIPアドレス・ドメインなどを調べた。そして今このチャットでリアルタイムに会話しているのは、ここ何ヶ月間、ちゃくちゃくと調査してきたレク夫妻の娘と、その恋人5人である事が間違いないという驚愕すべき事実を突き止めた。
会話から読みとれる内容や性格も、まるで調査結果と同じに見えた。しかしチャットの中では極端に違う、その性格も緩和され何だか皆、仲が良さそうだった。お互いにそれなりに許容しあっているようだった。しかし一人は失踪中で、一人は自殺し、一人は精神病院に入院中のはずだ。入院しているキーホーはパソコン等の機械類の操作などできる状態ではないはずだ。こんな妙な事があるわけが無かった。 そんなバカな事が、あってはいけないのだ! キックは思い切りタバコの煙を画面に吹きつけると、
「こいつが生きてるわけはない、生きてるわけない」
と、つぶやきながら、殆ど無意識に自分のハンドルネームを「ロミ」と入力して入室ボタンを押した。何だか頭が、ぼんやりしていた。自分が何をしようとしているのか、よく分からなかった。ただ確かめたい、それだけが、その言葉だけが頭の中でグルグル回っていた。
そして、キックは「珍品屋」のチャット部屋に入った。
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