元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

探偵キック 伍

2021-06-15 07:46:55 | 夢洪水(散文・詩・等)
探偵キック

 キックは、かたっぱしからサーチエンジンに「珍品屋」と入力し検索した。ごくマイナーなサーチエンジンのデータベースに一軒の検索結果が出てきた。そして、その該当リンクデータ「珍品屋」(コメント:チャットでこの世のものとも思えない楽しい会話が出来ます!)をクリックした。

 画面には、巨大なクリッカブルマップで、古ぼけた懐かしい感じのするレトロ調で描かれた骨董店みたいなGIF画像が張り付けられたホームページが現れた。ようこそ「珍品屋」へと看板らしき絵に描かれた文字だけが、極彩色にピカピカ点滅を繰り返しながら激しく動いていた。キックは情報屋からの資料の中から6人が集っていたチャットのURLを探し、今、彼がアクセスしているチャットに間違いない事を確認した。ふと何故、最初から、このURLでアクセスせずにわざわざサーチエンジンの検索機能を使ったのだろうかと思った。彼は、自分は導かれてるんじゃないか?そんな気がした。

 次にキックは画像の中に「チャットのお部屋・逆さま珍品チャット」と真っ赤な文字で書いてある箇所をクリックした。すると、すぐに画面は切り替わり、チャットのページが現れた。キックの額から妙に脂っこくて冷たい感触の汗が流れた。そして彼は、しばらくROMしていた。チャットに参加せずに中で交わされている会話をじっと見ていた。
 
 キックの頬が唇が、ひくひくと痙攣した。手が震え始めた。皆、いるのだ。「カルト」に「音楽室」に「キル」に「明るい家族計画」に「ロミ」に、そして「赤いゴミ箱」まで・・・。そして皆、何の問題もないように楽しく和気あいあいと会話しているのだ。

 キックは背筋をゾッとさせながらも、彼らの入力しているメールアドレスやIPアドレス・ドメインなどを調べた。そして今このチャットでリアルタイムに会話しているのは、ここ何ヶ月間、ちゃくちゃくと調査してきたレク夫妻の娘と、その恋人5人である事が間違いないという驚愕すべき事実を突き止めた。

 会話から読みとれる内容や性格も、まるで調査結果と同じに見えた。しかしチャットの中では極端に違う、その性格も緩和され何だか皆、仲が良さそうだった。お互いにそれなりに許容しあっているようだった。しかし一人は失踪中で、一人は自殺し、一人は精神病院に入院中のはずだ。入院しているキーホーはパソコン等の機械類の操作などできる状態ではないはずだ。こんな妙な事があるわけが無かった。
 
 そんなバカな事が、あってはいけないのだ!
 
 キックは思い切りタバコの煙を画面に吹きつけると、

「こいつが生きてるわけはない、生きてるわけない」

 と、つぶやきながら、殆ど無意識に自分のハンドルネームを「ロミ」と入力して入室ボタンを押した。何だか頭が、ぼんやりしていた。自分が何をしようとしているのか、よく分からなかった。ただ確かめたい、それだけが、その言葉だけが頭の中でグルグル回っていた。

 そして、キックは「珍品屋」のチャット部屋に入った。 


■お知らせ:ロミさんが入室されました。
カルト:こんにちゃぁ~>ロミ

音楽室:ちわぁ~っす!>ロミ

キル:こんにちわ、はじめまして!>ロミ
明るい家族計画:こんちわ、よろしく!>ロミ
ロミ:・・・同じだね・・・君は・・僕と・・・>ロミ
赤いゴミ箱:あら、こんにちわ。お初!>ロミ
ロミ:みんな何の話を、してるんだ?>ALL
カルト:不思議なメールの話だよ!>ロミ
音楽室:不思議なメールの話だよ!>ロミ
キル:不思議なメールの話だよ!>ロミ
明るい家族計画:不思議なメールの話だよ!>ロミ
ロミ:・・・同じだね・・・君は・・・僕と・・・>ロミ
赤いゴミ箱:不思議なメールの話だよ!>ロミ
ロミ:どんなメールなんだ?君たちは何ものなのだ?どういう事だ?>ALL
カルト:僕はね、キックさん。そのメールに彼女を添付して違う世界に送っちゃったんだよ~(^_-)>ロミ
音楽室:そのメールはね、自分でも他人でもいいから、どんな世界へでも飛ばしてくれるんですよ!キックさん(^_^)>ロミ
キル:キックさん。そのメールソフトの名前はね、W・スキンヘッドって言うんだ。(^O^)>ロミ
明るい家族生活:オレが飛ばしたんだよ、キックさん。そのメール・ソフトでオート添付プログラムを送ってな!(^^;>ロミ
ロミ:キック、僕は君なんだよ。探偵だよ。高校出てから、この興信所に勤めたじゃないか!僕は自分を添付して送ったよ!どう?ほら僕である君も違う世界へ、うまくいけば僕と同じこっちの世界へ来ないかい?自分で自分を添付して送っちゃえ!σ(^_^) >ロミ
赤いゴミ箱:キックぅ~!あたしは誰かに飛ばされちゃったわぁ(-_-;)♪>ロミ

 キックは身体中を、ぶるぶる震わせていた。胸の奥の方から得体の知れない恐怖感が、こみ上げてきて気持ちが悪くなってきた。マウスを握る手も汗だくになり、震えていた。ひたすら薄気味悪かった。いったい、このチャットは何なのだ?これは現実かのか?それとも私は正気を失いつつあるのか?

 ここにいる奴らは、本当に私がじかに出会い、身辺調査をしたあの人間達なのか?そんなバカな、何故、死人も参加しているんだ?私?オレ?僕?は、ロミ?ロミは私?どういう事なのだ?ロミ=青年Zは自殺しているじゃぁないか。

 キックはガタガタふるえる手で、もう一度文字を入力し発言ボタンを押した。顔面がひきつり、顎がガクガク鳴っていた。


ロミ:君は何を言ってるんだ!君は自殺したんだろ!誰か他の奴が悪質な悪戯をしてるのか!私が君とは、どういう意味だ!説明しろ!>ロミ
ロミ:バカだなぁ、キック。忘れてるのかい?僕は君自身なんだってば!青年Zはキックなんだよ。いいかい?君は今、ブラウザをもう一つ立ち上げて、一人二役をやっているんだぜ。もう一人のキックだよ。そして、もう一人のロミだよ。忘れたかい?電車に飛び込む寸前に、僕たちは、あの2人のスキンヘッドに飛ばされたじゃないか!いいかい?僕たちの自殺の目撃証言や警察の調書なんかは全部でっちあげなんだぜ。無数の肉片に飛び散った死骸なんてありゃしない。あの2人のスキンヘッドが集団暗示を仕掛けたんだ。全て妄想なんだよ。何もありゃしない。わかるだろう?いいかい?僕たちの目的を忘れちゃいけないよ。僕たちは、他の4人の極端にはっきりとした心身の持ち主たちとは違って、極端に分かれた強い人格と弱い人格を交互に出しながらバランスを取っている優秀な人間なんだぜ。いいかい?わかっただろう?彼女。何もない彼女。平坦でカラッポで、自己の存在を確認できない彼女。そう、君が探している女「レク夫妻の娘=赤いゴミ箱」の心を埋めてあげなきゃいけないんだよ。カラッポの入れ物、カラッポのゴミ箱の彼女の中を僕たちの超アンヴィバレンツな人格と身体で、たっぷり満たしてあげなきゃ!わかったろ!青年Z!キック!>ロミ  


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