ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片77- 残され組
ああ この孤独感
独りでいようと 誰といようと 絶対に充たされぬ
残され組の孤独感
誰も助けちゃくれないし 誰も相手にしちゃくれぬ
ずっと近くにいようとも ずっと遠くにいようとも
同じ事さ
今さら遅いかもしれないけど、オレはまったくのひとりぼっちで、さらに淋しくやりきれない。
リュウマチに罹った孤独な青ナメクジみたいだ。
空がオレに向かって、ズドンと落ちてきて、オレを通過して、さらにさらに落っこって行っちまったよ。
空にさえ相手にもされずに、オレは全身全霊苦痛病の中で行き場を無くして泣いています。
子供の頃のオレの感性の断片を、時折、思い出す。
おじいちゃんやとうさんやかあさんやおばさんやおじさんや、今は、みんな死んじゃったけど。
10年前の、あの地震と津波で、みな死んだ。オレを残して、皆、去った。
オレを、おかしな色の地面の上に小さな箱詰めにして、とり残して行っちゃったんだ。
オレが世の中にとけ込んでいけないって事は地震の日よりずぅっと昔から分かっていたけど、放射能汚染民という汚名と言われなき差別と偏見の中でも、必死になって「世の中色」に擬態していたんだ。
でも、とうとう、もう前も後ろも分からなくなっちゃって、運動会の徒競走で逆に走り出した頃みたいに、やってる事が何が何だか分からなくなっちゃってさ!
色んな物や人にギリギリに鉛の中に押し込まれちゃったよ。まるでオレは隔離されて見捨てられた放射性物質みたいだ。誰も近づいてきやしない。
毎日が気怠く過ぎてゆく。
汚染された水に汚染された氷を浮かべて、飲んで、繰り返し。繰り返し。過去から津波がやってくる。
ひねくれて、ねじまがっちゃったオレの昔の心。心みたいな昔。うそつきの心。
木の小屋で、蝋燭の灯で、優しい神様みたいな死んでいった人々と一緒に暮らしたら、おそらく空は、ちゃんとオレの上にあってさ、うまく空気だって吸い込めて、ズブズブと沈まないように、軽快に歩いて行けるかもしれないのに。
誰だって、そんな事は無理だって、ちゃんと分かってるよね。
皆、きちんと色とりどりのエランヴィタールをもってるもの!オレも欲しいな。エラン・ヴィタール。
あの日、津波に流され無くしてしまったエラン・ヴィタール。生きるためのエゴ。
代わりにやってきたのは、色んな薬さ。中枢を殺す例のやつらが、ごっそりと待ち受けていやがった。
オレはきちんと今の状況を今こそ本当にきちんと分析するべきなのさ。
苦しんでいるオレを、そのまま置き去りにして、底無しに苦しませてくれる社会の中で生活し、そのためにさらに全てを失い、失った分だけもっと苦しみ続けている、このオレを。
人生は失い続けるものだけれども、得るものが失ったものより、もっと悲しく苦しいものだったら、どうする?
得たけれども、それは失った方が遥かに良かったものばかりだ。
他者ってぇのは本当に冷たいエゴイスティックなものなんだから、我慢しろって言うのかい?
どれも同じさ、とね。生きるって事はけっこう楽しいものなんだからって、被災者にいた時に来たカウンセラーだったか、誰かが言ってたけど。
それは、そういうタイプだから言えるのさ。緑色の光線だって、見える人と見えない人がいるし、何にもない真っ暗闇さえ見えない人だって、万に一人はいるよ。
誰だ?オレだ。青星雨族のオレだ。ノーウェアマンだ。
無の中で生産し、有の中に苦しみ悶える。みつばちたちの営みでも見てみろよ。オレは今、25才だよ。
弱い男だ。本当に弱い、滅多にいない弱い25才の人間だ。
夜の星々!夜の星々よ!オレを捕えろ!捕えて檻に入れろ!
ほら、夜の風景は曇っている。空は晴れているのに大気が放射能で曇っているよ。
街は深夜だというのに、まだうめいてる。
星々を消し去って、ガラゴロガラゴロと、機械の“つぶやき”で満たしている。
不眠症になっちまったオレは、熱病になっちまったオレは、行方不明になっちまったオレは、、、どこへ行くんだろう。
どこに行けば銀河ステーションに行けるんだろう。人生は行動だって、みんな言うよ。オレもね、本当はそう思うんだ。
で、さ。行動するんだよ、いつも。
行動して、行動して、気づいてみると、地面が揺れてて過去から津波がやってきて、壊れたロボットになっちゃったり、肺病になっちゃったり、クラッシュ症候群になっちゃったり、存在自体がノイローゼになっちゃって、今みたいなオトボケ泣き虫にになっちまって、あげく相当メッチャクッチャになっちまう。
行動しなけりゃいいって?そんなわけには、100%いかないように出来ているんだよ!人生ってヤツはさ!
叩いて、こねくり回して、振り回して、ちぎって投げて、踏みつけて、ぐちょぐちょにしてやっても、その大原則は変わりはしないんだよ!
一億年経っても、そうだ。オレが死んで、誰かが生きて、誰かが死んで、又、誰かが生きて、たくさんたくさん、それを繰り返して、何とかやっていこうなんて思いながら、最後には何も残さずに消えちまう。
もう、心なんていらないよ。感情なんて、ちちんぷいだ。身体だけは大切にって?放っておいてくれ。
オレは、あの地震と津波の後で、25才までには死ぬと思ってたのに、生き延びちまったよ。
おかげでオレの周りには、お互いを助け合う事が絶対に出来ない悲しい生き残り組ばかりになっちまった。
みんな、うまく笑えない。
オレの死に時って、今なんじゃないかな。外側にいる、お幸せで恵まれた他人たちは実に見事にエラン・ヴィタール満々で生命力に満ちていて好奇心がいっぱいで自分のペースに忠実だ。
オレの事なんか、まるで気にもしてないし、目の隅にさえ入らないみてぇだ。オレって透明人間なのかなあ。この世界の中で。
そう言えば地震の前から、そもそもオレは、子供子供としょっちゅうバカにされていらぁ。
その通り!オレは!雨族!残され組!
ずっと子供と老人の間を、行ったり来たりしてるのさ!
オレが!オレが欲しているのは、こうなんだ!
どこにもない国!どこにもいない人々!どこにもない時間!どこにもない習慣!どこにもない病気!どこにもない楽器!どこにもない文化!どこにも存在しない、もろもろの存在!
本当に生きるって事は、なかなかいいものなのか?
生きる事が、つらいってぇのは、そりゃ、きどり なのか?
さあ!エスペラントよ!其の国で!
たっぷりと化石の夢を見ろ!
断片77 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)