171366 『中田安彦「世界を動かす人脈」(講談社現代新書)を読んで』~原田武夫氏の書評①
猛獣王S ( 30代 営業 ) 08/02/23 PM00
『 中田安彦「世界を動かす人脈」(講談社現代新書)を読んで(書評)』(原田武夫国際戦略情報研究所公式ブログ)
リンクより転載します。
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一言で言えば大変な力作である。
この本には「世界の政治・経済・金融に大きな影響を与えている、まさに世界を動かしている人々の最近の動向」(中田安彦「世界を動かす人脈」より引用。以下、中田・前掲書と記す)がぎっしりと詰まっている。人物索引を入れると総計277ページ。本来は米欧の有名人脈を追うことに終始する予定であったようだが、「07年夏の「サブプライム問題」の発生以後、SWFの出現などの新展開で、新しく中国など新興国と欧米財界人のネットワークを再調査し、それを加筆することを求められた」(中田・前掲書)のだという。米欧の人的ネットワーク、あるいはアジアにおける人的ネットワークをそれぞれ個別に論ずる研究は多い。その両方について最新動向を詳細に記した本書はそれだけで一読に値する労作だというべきだろう。
本書では「世界の政治・経済・金融に大きな影響を与えている、まさに世界を動かしている人々」(中田・前掲書)を「グローバル・エリート」(中田・前掲書)と言い換えている。それではこの「グローバル・エリート」はどのようにあぶり出されるのだろうか。そのための基準をめぐる試論として中田安彦氏はまず次の2つを検討する。
第一に「富と権力」(中田・前掲書)である。とりわけ富をめぐり「個人資産について知るのに最適なのは、アメリカの雑誌「フォーブズ」が毎年春に発表する「世界の億万長者」」(中田・前掲書)だ。しかし、中田安彦氏によればそこで掲げられているリストが「そのまま、世界を動かすという意味での「グローバル・エリート」リストと一致するかというと、決してそうではない」(中田・前掲書)なのだという。非常に「厄介」(中田・前掲書)な問題だ。
なぜそうなのかというと、この手のリストをつくるために行われた「調査は、あくまで資産規模を目安に行ったもので、リストの中には、相続財産だけで億万長者になった人々もいるから」(中田・前掲書)である。つまり「資産規模が即座に世界を動かすパワーに直結するわけではない」(中田・前掲書)のであって、こうしたリストは中田安彦氏のいう「グローバル・エリート」とイコールではないということになるのだという(中田・前掲書参照)。
第二に「ネットワーク力(人脈力)」(中田・前掲書)がある。「世界を動かす能力を持っている人というのは、同時に世界のキーパーソンと豊富な人脈を誇り、電話一本で他のキーパーソンと連絡を取ることができる人物」(中田・前掲書)なのであって、「世界を動かすには、カネを持っているだけでは十分ではなく、同時に強力な人脈を持っていなければならない」のである(中田・前掲書)。
この点について、中田安彦氏はさらに掘り下げて次のように記している:
「「世界を動かす」というときに必要な条件とは次のようなものだ。つまり、現在のグローバル資本主義経済の時代にあっては、多国籍資本の企業活動をリードすることができ、時には政治家や国家指導者とも連絡を取り合うことができ、意思決定を完全に牛耳ることはなくても影響を与えることができる人物、ということである。」(中田・前掲書)
もっともここまで読むと誰もが「それではいったい、どのようにしてネットワーク力(人脈力)を身につけることができるのか?僕・私たちにも可能なのだろうか?」と疑問に思うことであろう。この点について中田安彦氏は次のような答えを示している。
ネットワーク力を身につける第一の場、それは「クラブ」である。「クラブのメンバーは先祖代々、ファミリーとして受け継がれるものもあれば、ビジネス界の新しい成功者が仲間に引き入れられる場合もある」(中田・前掲書)。もっともここでいう「クラブ」とは日本でいうものとは大きく異なる。「超大金持ち、有力政治家、財界人、文化人たちがあつまって、政策やビジネスの話題を交わし合う、密室の会員制」のクラブが「クラブ」なのである(中田・前掲書)。
具体的には次のようなものがこの「クラブ」に該当する(以下は中田・前掲書による):
(1)フリーメーソンなどの会員制の交流組織
(2)「同窓会」(アルマナイ)
(3)大学間で形成された優秀学生でつくる「ファイ・ベータ・カッパ・ソサエティ」
(4)「多国籍企業の取締役会ネットワーク」
(5)「経営諮問委員会」「国際諮問委員会」
このように列挙した上で、中田安彦氏はいう。―――「要するに「クラブ」「同窓会」「取締役会ネットワーク」「国際諮問委員会」のような人脈ネットワークが織りなす網の目が、それに所属しているものと所属していないものの「情報格差」を生み出している。この種のネットワークで共有される情報こそ、本当の“インテリジェンス”(価値ある情報)と呼ばれるものなのである。これが権力の源泉となっている」(中田・前掲書)。きわめて同感だ。
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171367 『中田安彦「世界を動かす人脈」(講談社現代新書)を読んで』~原田武夫氏の書評②
猛獣王S ( 30代 営業 ) 08/02/23 PM00
171366の続きです。
『 中田安彦「世界を動かす人脈」(講談社現代新書)を読んで(書評)』(原田武夫国際戦略情報研究所公式ブログ)
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■ロスチャイルド、そしてロックフェラーたち・・・
さて、ここからが佳境である。
この本では続く8章にわたり、「グローバル・エリート」(中田・前掲書)のお歴々による血脈、策動、そしてその展開が語られていく。そこで中田安彦氏は「グローバル化によって「ワン・ワールド」になりつつあるこの地球が、実は限られた有力者たちの「スモール・ワールド・ネットワーク」によって動かされているということを解き明かす」(中田・前掲書)ことを目的としているのだという。したがって、本書は「いわば「世界最高の人脈術」を極めた人たちのカタログ」(中田・前掲書)なのである。
「それでは、具体的にいったいどんなグローバル・エリートたちが列挙されているのか?」―――詳しくはぜひ、この労作をご一読いただきたいのであるが、私が特に興味深いと思ったグローバル・エリートについてほんのいくつかだけピックアップしてみたい(注:以下は中田・前掲書における記述を参考にまとめたものである):
●エティエンヌ・ダヴィニオン子爵
ビルダーバーグ名誉議長をつとめるベルギー人。かつては欧州委員会副議長までつとめたことのある政治家兼ビジネスマンである。
10以上の欧州企業の取締役会に呼ばれており、トヨタの国際諮問委員会や富士通の重役もつとめたことがある。2005年まで「日欧ビジネスダイアローグ」の議長であった。
欧州意外では、アメリカ・カリフォルニア州にある「ギリアド・サイエンシズ」社のボード・メンバーである。ちなみに同社はインフルエンザで一躍有名になった治療薬「タミフル」を最初に開発した企業であり、抗HIV薬も製造している。この会社のボードには、かつてラムズフェルド元米国防長官などがいた。
●デヴィッド・ロックフェラー
現在、ロックフェラー家の当主をつとめる人物。チェイス・マンハッタン銀行で頭取でもあった。
欧州と日本を英米主導のグローバル経済に統合していくという国際主義的野心を持ち、その一環として三極委員会(TC)が設立された。デヴィッド・ロックフェラーは元来、ビルダーバーグに日本を参加させるつもりであったが、ヨーロッパ側から猛反発を受けたのだという。そこでデヴィッド・ロックフェラーと共にビルダーバーグに出席していたズビグニュー・ブレジンスキーが新しい国際組織をつくることに着手し、この三極委員会が設立されたのだという。
そのほか、有名なロスチャイルド家、あるいはアジアやアラブの名家についても詳細な説明がある。巻末に人名索引があるのも嬉しい。読み物としてだけではなく、ちょっとした研究の際に辞書としても用いることができるだろう(その意味で新書ではあるが、今後とも定期的に改定・増補していってもらいたいものである)。
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