田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

吉井のまち歩きー昔からの建物で商い

2021年05月22日 | 日々の出来事

 1月ほど前のこと。天気の良い日にお隣の吉井町を散策しました。ここは年に数回は訪れています。酒蔵を改装した観光案内所に車を置いて歩き始めます。写真は案内所がある路地の突き当り。白壁土蔵の街並みがあるのは矢印の方向です。昨年行った時の写真も交えながら紹介します。

 手元に40年前に作られた1枚の街図があります。町の古老達からの聞きとりで作成した住宅地図のようなもので、大正時代半ばの吉井町の町筋の家々が描かれています。その地図を見ながら歩いていると、街の変遷がよくわかります。

 ここは白壁通りと呼ばれています。突き当りは街図には弥吉本家・蝋屋と記されています。筑後地方では久留米藩が櫨の植栽を奨励していて、蝋は藩の殖産興業の産物でした。その左は林肥料店。創業は明治元年で、いまは米も生産販売しています。築150年以上たっている建物内には現役で走っているオート三輪車があります。昨年来たときに見当たらなかったので尋ねたら、修理に出しているということでした。

 昨年、用事があって小学生の孫娘と車で吉井町に来ました。助手席の孫娘は風景を眺めて、江戸時代の町に来たようだと言います。テレビか何かでこのような街並みを見たのでしょう。実際は、明治初期の大火などにより、漆喰づくりの街並みが形成されました。

 醤油屋です。大正時代から変わりません。店の奥には醸造場があります。2階の壁には醤油樽を抱えた恵比寿さんの鏝絵。

 訪問したのは4月の下旬ですが、五月の雰囲気です。この頃は乾燥した日が続いていました。吉井町の白壁商家の特徴は、2階の開口部は鉄で覆い、1階は頑丈な木の扉があることです。この通りの商家は軒裏まで漆喰で塗りこめています。

 国道筋へ出ました。この通りは国道210号。吉井町は近郷の農産物の集散地である在郷町であり、また城下町の久留米から天領日田へ通じる豊後街道の宿場町でもありました。

 理髪店。大正時代の街図にも出ています。

 町の書店。

 着物の店。洋服も下がっています。屋号に因む鈴の鏝絵があります。

 右の店は資生堂の化粧品店。街図では小間物屋。取扱商品が少し変わりました。左手の建物は街図では茶舗となっています。いまは営業していないようです。

 むかしの面影を訪ねながらの街歩きは楽しいものです。

 当時、時計はハイカラだったのでしょう、小さな通りに何軒もの時計屋がありました。

 自転車店。

 古い建物をリノベーションした新業態もあります。軒行灯ならぬ軒電灯。

 吉井町は古い街並みが残っていますが、近年は櫛の歯が抜けるように、空き地が出来たり木の扉を閉ざした仕舞屋が目立ってきました。でも、昔からの建物で業態を変えながらも、いまも普通に商いをしている店が多くあります。

 国道筋の商業地を離れて案内所に戻ることにしました。商業の栄えた町はそこかしこに、いまも昔の面影が残っています。ここは吉井から朝倉郡に抜ける古い町筋の家。

 この電灯は点くのでしょうか。

 住宅街の大黒様と向こうは恵比須様。川に流れ込んでいる水路の上に祀られています。燭台も置かれていますが、民地にあるので入るのを遠慮しました。このあたりでは筑後川から引かれた川筋に何基もの水車が設置されて製粉業などが盛んになりました。新興住宅街にはない、古い町の記憶がこうした風景に刻み込まれています。

 製麺所。もちろん現役で事業しています。大正時代の街図にも出てきます。

 この建物には小さな本屋。一般の書店とは違い、店主の好みで選書した本が並んでいます。書棚は旅、人生、愛などのテーマごとに本が並んでいます。今はこうした自己主張をする本屋が各地にあります。私もつい誘われて何冊か買いました。近くには行列ができる麻婆豆腐屋とパン屋。孫娘を連れて行った先も観光案内所に入居している、若夫婦のどら焼き店です。いずれも昔からの店ではなく新しい店です。古い建物で商売する店と、若い人が創業しSNSで人気が出て人が集まってくる店と。藩政時代から金融資本が活発だった吉井町は、旧と新が同居する面白い町です。

 本屋の前にある寿司屋の横壁。「ジモトシュラン」とは地元テレビ局の番組ネタです。取材に来たのでしょう。

 大正時代の街図を見ていると興趣が尽きません。古老の記憶を頼りに記された地図には、水車、酒場(酒造業)、錻力屋、、車力屋などと並んで、証券取引所、銀行、穀物仲買人、筑後軌道本社といった名前が連なっており、街歩きを楽しいものにしてくれます。

 私も古老の域に達しようとしていますが、誰も昔話を聞こうとはしません。

 

 

 

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
タイムスリップ (青葉太郎)
2021-05-22 09:19:19
おはようございます。
吉井町、素敵な街並みですね。
タイムスリップをさせていただきました。
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散歩 (tyako)
2021-05-22 09:45:40
おはようございます。
素敵な町ですね。
ゆっくり歩いて見たい町です。
散歩好きにはたまらない雰囲気がありますので、写真を見ながら歩いているようでした。
返信する
青葉太郎様 (九州より)
2021-05-22 12:15:40
こんにちは。
吉井町は藩政時代の富の蓄積がいまも町を形作っています。
新と旧の混じった面白い町です。
私が青葉様だったら、一句ひねりたいところです。
返信する
tyako様 (九州より)
2021-05-22 12:22:00
こんにちは。
白壁の街並みだけでなく、
商業地から離れた所にも栄えていた昔の町の記憶が残っています。
小さな町なので時々、歩きに来ます。
返信する
江戸時代 (お母ちゃんの徒然)
2021-05-26 09:30:00
九州よりさんへ

孫ちゃんが「江戸時代に来たようだ」って

賢いお嬢ちゃんですね

雰囲気を味わったおじいちゃんとの「小さな旅」だったことでしょう
返信する
お母ちゃんの徒然様 (九州より)
2021-05-26 13:09:21
テレビで見たのか、学校で習ったのか
古臭い町のように見えたのでしょう。
孫が興味を持つならば一緒に歩いても良いのですが。
昨年、孫家族と日田の豆田に行きましたが、
街の風景よりも、いろいろなお店に関心があったようです。
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