渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

刀の目釘

2020年07月08日 | open
 

私が作った鉄目釘。
滑り止め笹模様の
彫り
入り。
なました鉄を旋盤でコンマ
ミリ単位の
精度で加工。
この後、防錆のため色あげ
した。

友人から刀の目釘について訊
かれた。
鉄と竹どちらが良か、と。
そりゃ竹に決まっている。
鉄が良いなら、歴史の中でず
っと日本刀
の目釘は鉄で作ら
れた筈だ。
 
しかし、鉄が全て悪いという
わけではな
い。
刀剣吟味の様(ためし)はすべ
て鉄目釘で
行なわれる。
これは刃味だけでなく、刀剣
の折損耐久
試験も兼ねるため
だ。
そのため、切り柄と呼ばれる
硬木の柄も
使う。
概して、やわな刀剣であると
緩衝素材で
ない硬い柄と
目釘を使うと折損し易い。
圧倒的に大多数の日本刀が柔
らかい押す
とへこむような朴
の木を柄材に使い、目
釘は竹
を使う。
これはある意味、絶対的では
ないが概略
としては正解なの
だ。
ただし、鉄目釘には鉄目釘の
意味もある。
存在したし、試斬では使われ
ていたのだ
から。
 
鉄目釘の最大の欠点は、抜け
易いという
ことだ。
私や日本刀探究舎鍛人(かぬち)
の場合は
抜けにくい加工を施
している。
また、私などは、ナカゴの釘
穴に噛み込
むような目釘の加
工をしてある。
軍刀などはネジ切りまでした
金属目釘が
存在した。鉄目釘
による折損例は聞かな
い。
ネジ切りや私のような噛みつ
き方式では
ないごくありきた
りの鉄目釘は、抜け易い
のが
最大の欠点だ。
ただし、緩衝地帯が無いので、
やわな刀身
だと折れ易くなる
ことは否定できない。
かといって、金属目釘全般が
良く無い物
ということは絶対
に無い。
 
モアベターを考察するに、一
般刀剣には
竹目釘が適してい
るだろう。
竹に刀身のナカゴ穴の内壁を
食い込ませ
て使う。竹目釘は
一度抜くとパァだ。消耗品。
 
私も、一般刀剣には竹目釘を
推奨して
いる。
私に鉄目釘製作依頼があった
際も、私
や旧鍛人会や刀道連
盟の一
部の剣士たちの鉄目
釘は、一般物市販鉄
目釘と
は異
るフルオーダーの特
製です
よ、小林康宏の斬鉄
剣専用です
よ、イレギュラ
ーです
よと念押ししたが、
それでも懇請される
ので、
やむなく心得ある私が職方
として
正式に受任して製作
した。
康宏のハードユーザーは鉄目
釘の持つ
意味を知悉した上で、
あえて特製鉄目釘
を小林康
宏刀限定で使用している。
通常の刀剣には竹目釘が適し
ているのは
わかり切っている
ことだ。
竹目釘を消耗品として位置付
け、何個も
予備を持つのは武
人の心構えとしても
当たり前
の事だし、歴史上そうされ
て来
た。
私は試斬、刀術ではある目的
があって鉄
目釘を自分の康宏
刀に使っているが、斬り
合い
討ち入りに出動するならば竹
目釘に
する。そういう場面は
現代では存在しない
ので、試
斬では康宏刀限定で鉄目釘を
使っ
ている。
総合的には、鉄目釘よりも竹
目釘のほう
が日本刀での剣戟
には適しているのは
歴史が
証明している。槍も脇差も
すべて
そうだ。ナイフや包丁
とは方向性が異なる
戦闘用具
の用法の思想性が日本刀には
するのである。
 
私が作る百年煤竹の目釘。


硬く粘りがある良材であること
は、目視
上からも看取できる。


目釘はすべて一刀一刀、自分
の刀に合わ
せて自分で作るも
のだ。
自分の武具を人任せなどとい
うそんな
武士も武人も袴に髷
の時代にはいなかっ
た。人任
せとかを言い出すと、武人や
武士
とは認められなかった。
血筋だけではない。武士は武
士たる質性が
厳しく要求され
た。下手を打てば即腹切り
だ。
それが武士だ。武士の表道具
の手入れ
は、武士は抜かりな
く自分で行なって来
た。
日本の人口の7%は武門の
生まれ、その武門の専
門職としての基本的
事項
をプロ
フェッショナル
して遵守し
てきたのである。
つまり、武のプロなのだ。
本職。
 
山野密林を走破する兵士で
自分のブーツ
の紐を自分で
結ばない奴などはいない。
武士や剣士の武具整備もそ
れと同じなの
である。
目釘は自分の刀に合わせて
自分で作れ。
これ、鉄則なり。
言い訳のきかない立ち位置
を堅持し、
己の武具、行為
の責任は全て己で取る
べし。
これ武人之心得第一条なり
しや。
目釘は自分で作ってくださ
いな。
剣士たらんとするな
らば。
袴履いて、刀振り回して、
カタチばかり武士や剣士・
武人の真似して
も、それ
てんでダメなのよ。
 
そりゃ、盟友同輩朋輩から
頼まれれば、
あたしゃ目釘
も作りますけどね。
「部長、このコピーのサイズ、
A4でいい
ですか」
「ええよ〜ん」
てなもんで。

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