神奈川県の湘南地区に住んで
いた頃、テレビの中でしか見
たことなかった「押し売り」が
本当に何度も家に来た。
へー、これが押し売りか、と
思った。
1964-65年の頃だが、今でも
覚えてる。
セリフは「奥さーん、歯ブラシ
買ってよー」
「奥さーん、ゴム(紐)買って
よー」
だった。
昭和30年代。高度成長時代。
押し売りは多かった。
それと、小学校の生徒目当ての
無許可露天商もとても多く、通
学路でシャボン玉やコマもの、
ヒヨコなどを売っていた。
下校時を狙う。
フーテンの寅さんみたいなのね。
可哀想にヒヨコは緑やピンクに
塗られて何匹もピヨピヨいって
る。
でも、結構売れていて、子どもが
お小遣いで買って帰ってしまう。
結果・・・。
殺すには忍びなかったのだろう。
団地のビルで飼われて成鶏とな
った元ヒヨコたちは、団地のベラ
ンダのあちこちから朝になると
コケコッコーと大声で鳴き叫ぶ
光景が団地中に広がった。
「押し売り」を知らない子は今
は多いのでは。
大抵はムショ帰りで、それを
ちらつかせながら脅し売りする
行商人の事だ。
ただ、私はどうしても行商をする
おじさんたちを根っからの悪人と
は思えなかった。
そして、私の母も追い払ったりは
せず、「あら、そうお。ならこれ
頂くわ」と結構買っていた。値切
り倒して。
「ったく、奥さんには、かなわね
ぇなあ」と言いながら、行商のお
じさんは照れ笑いのような笑顔で
「まいどぉ」と言って出て行く。
なんだか、それでいいのではない
かと子ども心に思った。