行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

【日中独創メディア】史上最悪の評判だった春節の中国版紅白合戦「春晩」

2016-02-09 15:55:14 | 日記
中国では毎年、春節の大みそかに歌や舞踏、寸劇を見せる国営中央テレビ(CCTV)の「春節聯歓晩会」(春晩)が放映される。日本で言えば紅白歌合戦だが、官製の色合いが強いので、より時々の世相が反映される。胡錦濤時代は相対的に政治色が薄かったが、習近平政権では政治宣伝色が年々強まっている。今年は、昨年の軍事パレードを再現するような軍服姿の演目もあり、「共産党がなければ新中国もない」などの革命歌(紅歌)が多数飛び出した。

共産党による革命の原点を回顧し、「中国の夢」に向けて国民を動員していこうという意図が色濃く出た。習近平の政治思想にかなうよう、宣伝機関を含め文芸界がフル稼働した結果である。過去にない厳しい反腐敗運動で党幹部が委縮し、「我こそは公平無私の革命精神を持っている」と大合唱している舞台裏が透けて見える。庶民感覚とはかけ離れた番組編成になってしまった。

「民衆の娯楽ではなく、党中央に見せる政治ショーだ」とは、ある友人の感想だが、ネットでの反響もほぼ同じだ。「共産党員でなければ見ているのが申し訳なくなるような内容だった」「(重慶で紅歌運動を推進したが腐敗で投獄された)薄熙来が出てくるのではないかと思った」などなど。もっとも最初からこの番組に関心の薄い富裕層や中産階級の中には、海外旅行に出かけてしまった人々も多い。素朴な農民は、ほかの娯楽もないため、文句も言わずテレビをつけていただろうが。

もっとも番組を罵ったネットの声も、春節が終わる事には忘れられているに違いない。庶民の大半は、自分の生活が日々よくなることを望んで暮らしているのだ。今年は上海にディズニーランドもオープンする。映画館は空前の活況を呈し、特定のテレビ番組だけにかかわっているほど暇ではない。人口の多い国を一党独裁で統治する以上、個々人の自由や権利は制約を受ける。その制約の中で、精一杯人生を楽しもうではないか。人々はそう暮らしているように見える。







北京の地壇公園の廟会に出かけた。出店や音楽のアトラクションを楽しむお祭りだ。10元の入場券を買うのも一苦労。ようやく中に入ったが、ただ人の多さに圧倒された。この国ではいかにしてこの人の流れをさばくのかが、農村の過疎化と同時に重要な政治課題である。このスケール感は外部にいるとなかなかわからない。


【日中独創メディア・上海発】物音一つしなかった上海の年越し

2016-02-09 00:14:36 | 日記
上海人は見事と言うべきか、物分かりがよすぎると言うべきか、2016年上海の春節は静寂のうちに始まった。仲間内で要因を議論したが、おおむね三つに集約できる。まず第一は、そもそも花火や爆竹の販売自体が禁じられ、入手が困難であったこと。つまり持っていることそのものが違法行為を問われる可能性があった。次は上海人の順法精神の高さ、民度の高さ。次は倹約令が社会全体に行き渡り、すでに昨年から爆竹花火の習慣が下火になっていたこと。そして最後は、経済を第一に考える上海人がもともと政治の中心である北京からの指示に忠実であること、である。

最後の要因は若干説明が必要だ。上海は工業先進都市として、農民が主導した共産党による建国後、計画経済の台所を支えてきた。一人っ子政策や共通語普及など、北京から打ち出される政策を忠実に実行し、今では少子高齢化が最も進み、方言がますます失われている都市になってしまった。政府の言うことをよく聞く優等生ぶりが、爆竹花火の禁止にも表れたというわけだ。

我慢を強いられた市民だが、口には出さないものの心中は穏やかでないはずだ。そこで春節初日の8日朝、初詣でにぎわう竜華寺に行ってみた。例年にない活況である。入場料は大みそかが600元、初日が100元、それ以後は20元。この日は100元だったわけだが、寺に入るまでに2時間は待たされるという。武装警官が群衆の列を固め、銃を構えている部隊もいる。外灘のカウントダウンで起きたような雑踏事故は断固として防ぐという構えだ。








爆竹で正月の気分を味わうことができなかった分、初詣に殺到したというのであろうか。だが今年の現象だけで、上海人の年越しスタイルが一気に変わったとは思えない。大気汚染による市民の健康に配慮したことを建前にした爆竹花火禁止令だったが、この日は重度汚染の警告が発せられた。少なくとも、花火と大気汚染の因果関係は否定された。物分かりのよい上海人が賽銭を投げ入れながらお願いしたことは、きっと素朴な個人の幸せだったに違いない。爆竹禁止が100パーセントの効果を上げたことに祝杯を挙げている指導者たちには届かないだろうが。

高速鉄道で北京に着いた。夜空に打ちあがる花火、時折聞こえる町中の爆竹が非常にありがたく感じられた。