行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

中国でも関心が高まる金継ぎ、すでに北京で教室も開設

2021-07-29 15:58:13 | 日記
今年の夏休みは北京で過ごしている。先日来、多数の犠牲者を出した河南省鄭州の水害が大きな話題となっているが、北京も連日雨続きで、例年にない異常気象だ。それでも毎日、スイミングに通い、来学期に向けた健康づくりに励んでいる。

本日、中国で発行されている日本語雑誌『人民中国』に寄稿した文章がまずはネットにアップされた。同誌は1953年創刊の歴史ある雑誌で、中国国内においては唯一の日本語総合月刊誌である。

修復工芸「金継ぎ」が今、中国で注目されている不思議

7月10日、北京・前門の「MUJI HOTEL BEJING」でコロナ下の国際交流を探求する第2回「こんにちはサロン」を開き、そこで私が金継ぎに関する話をしたことは前回のブログですでに触れた。寄稿文では、それに加え、金継ぎがすでに庶民レベルで受け入れられ始めていることを紹介した。

その一つは、サロン直前の7月4日、私の学生が北京郊外順義区に金継ぎの陶磁器を取り扱う骨董商、その名も「古道具・土氣」を見つけてくれ、早速足を運んだことだ。オーナーは80年代生まれの吉林人、白昀沢氏。日本人の珍客をお茶でもてなしてくれた。

白氏は北京で工芸を学び、柳宗悦らが主導した日本の「民芸運動」に興味を持ち、自分でも金継ぎ作品を創作しながら、コロナ前は一か月のうち日本、韓国、国内にそれぞれ10日間滞在しな、金継ぎや鎹止めなど修復工芸の骨董を集めていたという。書棚には陶芸に関する日本語の雑誌や書籍などがずらりと並んでいた。








自宅のガレージを改造し、店舗兼アトリエの空間は狭いながらも、民芸調の雰囲気を味わうのに十分だった。

また、奇縁なのだが、第2回「こんにちはサロン」の会場に、北京三里屯の外交人員言語文化センターで金継ぎ教室を開いている李哲氏が来ていた。李氏はかつて北京に駐在する日本の新聞社で助手をしていたこともある。中国在名古屋総領事館に勤務時代、由緒ある「幸兵衛窯」(岐阜多治見)第七代加藤幸兵衛氏の従妹、加藤恵子氏に師事して金継ぎを学んだ。

金継ぎ教室の開講は今年6月だが、すでに教え子の生徒は外国人を含め7班計32人に増えている。私は7月24日、李氏に招かれ、同センターでほぼ前回同様の講演を行った。集まったのは愛好者ら約40人。熱心に質問をしてくる若者もいて、中国で金継ぎが静かなブームになっていることを身をもって知ったのである。







驚いたことに、李氏の友人で中国の人気女優、方青卓氏も飛び入り参加し、金継ぎの魅力について、「過去の失敗を埋め合わせ、新たな希望を与えてくれる」と、ユニークな解説をしてくれた。

今夏の北京はあいにく雨続きだが、芭蕉の句、

「霧しぐれ 富士を見ぬ日ぞ おもしろき」

にもあるように、景色を遮るものがあってこそより趣が深まると思えばよい。中国において金継ぎが徐々に受け入れられている現状について、大きな収穫もあった。コロナ下だからこそ、身の回りを改めて見直す貴重な機会なのかも知れない。(完)

北京で第2回「コロナ下の国際交流」ーーー“和”の心を語る夏祭り

2021-07-10 00:18:48 | 昔のコラム(2015年10月~15年5月
 昨日7月10日、北京・前門の「MUJI HOTEL BEIJING」で第2回「こんにちはサロン」が行われ、観客や運営スタッフを含め約100人が参加した。天安門に面した特別な場所で、中国共産党創立100周年記念式典が1日に行われたばかりの特殊な時期に、日中文化交流イベントが、しかも日中青年のボランティアによって実現したことは、極めて大きな意味を持っている。開催に尽力した各方面の方々に深く感謝申し上げたい。


 


 コロナ下で各国の国際交流事業が軒並み影響を受け、さらに事態の長期化が予想される中、直接対面による異文化交流の試みは、今後ますますその意義を深めると考える。初回は3月27日、桜が満開の在中国日本大使館で、日本人教授3人によるコラボとして行った。今回は「夏祭り」をテーマに、ポスターには風鈴を用い、特製団扇を記念品として参加者に配布した。すべてボランティアの学生がデザインしたものだ。次回は秋の「収穫祭」を目指そうと、みなで誓い合った。


 
 今回は、中国の一部若者の間でも関心を集めている日本文化の「癒し」「わびさび」をキーワードに、「和」の心を語るサロンを設定した。参加者は若者から年配者まで各層に渡った。
 講演者は、茶道裏千家淡交会北京同好会講師、北京外国語大学日本語学院講師の松井美幸さん、「MUJI HOTEL BEIJING」総経理の濱岸健一さん、そして私、さらに総括のコメントを作家・翻訳家の劉檸さんにお願いした。


 松井さんは主として「日本の茶道と季節感」について、様々な日本文化を結集し総合芸術ともいわれる「茶の湯」が、中国由来でもある日本の年中行事や季節の移ろいを取り入れている表現について解説した。


 
 濱岸さんは、「誰でもできる日本庭園」と題し、仏教の影響を大きく受けた日本の庭園が、一貫して重んじてきた「自然との共生」の在り方を語った。



 私は、「china(陶磁)とjapan(漆)の出会い」のテーマで、汕頭大学日本取材チーム「新緑」が2019年、京都で取材した金継ぎ(「京都平安堂」)の映像を中心に、中国の若者が体感した日中の修復工芸交流を紹介した。
 【参考映像】壊れ物に命を吹き込む金継ぎ


 
長年の友人である劉檸さんは、自身の日本文化体験を踏まえながら最後の総括をしてくれた。

 実に険しい道のりではあったが、参加者からの温かい言葉がすべての苦労に報いを与えてくれた。中国の若者を中心に、日本の伝統的な文化に対する関心はより深く、広がりをみせていることも痛感した。すこしでもその関心に応えることができればと思う。