独立記者の挑戦 中国でメディアを語る

27年間の記者生活を土台に、国境を超えた普遍的な価値を追求する

習近平が早速会談した米トップの投資・企業家

2017-10-31 09:59:43 | 日記
昨日の30日、清華大学はうらやましいねぇ、と同僚から教えられたニュースは、習近平総書記が同日、北京の人民大会堂で清華大学関係者と会談したとの内容だった。写真を見ると、習近平をはさんで大臣クラスの経済・金融・外交・教育担当者がずらりと顔をそろえている。



清華大学は習近平、胡錦濤をはじめ歴代指導者を多数輩出しており、政権とも近い。大学幹部が公職を兼ねるケースも多く、莫大な国家予算が流れ込んでくる。国家政策を担う学術研究機関である。

この日、会談したのは同大経済管理学院顧問委員会の外国人顧問だ。公式報道を見る限り、習近平が2期目政権スタート後、最初に会った外国人ということになる。第19回党大会で新たに誕生した新指導部が対米重視の布陣であることはすでに指摘したが、今回の会談に関する公式報道でも、名前が紹介されたのは米国人ばかりだ。

同顧問委員会主席を務めるブレイヤー・キャピタルのジム・ブレイヤーCEO、さらにアップルのティム・クックCEOとフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO、さらには、米投資会社ブラックストーン・グループの創業者、スティーブン・シュワルツマン氏、元米財務長官のヘンリー・ポールソン氏の名もあった。しばしば中国メディアに登場する常連だ。

いずれも中国に密接な利益を持っている。フェイスブックは中国での使用が禁じられているが、今後、どのような形でビジネスチャンスが開拓されるかはわからない。中国は将来に向け、シェアリング経済の莫大な市場を持っている。

習近平は会談で、「商売は成立しなくても、仁義は残る」といつもの俗言で煙に巻いたが、中国が巨大市場を武器に、米国ビジネス界の頭脳を味方につけようと必死なのは明らかだ。大学とは言いながら、国家政策にかかわる重要な経済の場であり、外交の場でもある。

清華大学は米国との深い縁がある。清朝末の1900年に起きた義和団事件では、列強による中国支配に反発した秘密結社・義和団が北京の各国公館エリアや天津の租界を襲撃し、日本や米英露など八か国が連合軍を派遣して鎮圧した。清朝は事後処理として巨額の賠償金を要求された。米国は中国人を米国に留学させるための費用として賠償金を中国に返還し、その資金で設立された留学生養成機関が同大の前身、清華学堂である。

私は著書や寄稿で何度も書いたが、シュワルツマン氏が昨年9月、私財1億ドルを投じて同大に新設した「シュワルツマン学院」に注目している。



バンク・オブ・アメリカ、米ボーイング社、米ゼネラル・エレクトリック(GE)などからも計1億ドルが寄せられた。プログラムの目的は、

「中国を知り、中国に親しみ、中国を理解する教育の場を提供し、広い視野を持ち、全面的な素養を備え、文化の枠を超えた指導力を有する逸材を育てる」(陳吉寧清華大校長)

ことを目的とし、「中国に身を置き、世界に向き合う」をスローガンとしている。同大敷地内には中国風デザインの専用校舎まで完成し、充実した研究環境が提供されている。部外者の学生は容易に立ち入ることができない聖域とされている。



第1期の研究生は世界の有名大学などから30倍の倍率で選考された111人が学び、1年間の学期を終えすでに卒業した。45%は米国、20%は中国、残りは他国からとあらかじめ決められた国別の比率に従い、香港・マカオを含む中国と台湾が23人、米国が49人、その他が39人で、学費は全額が奨学金だ。9月からは2期目の学生127人が学んでいる。

同学院の顧問としてサルコジ元仏大統領、ブレア元英首相やキッシンジャー、パウエル、ライスの歴代米国務長官、さらにポールソン元米財務長官やウォルフェンソン元世界銀行総裁が名を連ねる。同学院プログラムの発足式は2013年4月21日、人民大会堂で盛大に行われたが、習近平とオバマからの祝辞も読み上げられ、ケリー米国務長官のほかキッシンジャー、パウエル、ライスの歴代米国務長官によるビデオレターのメッセージが紹介された。米中最高指導部が顔をそろえた破格のイベントだと、強い印象を受けたのを覚えている。

中国の対外的なソフトパワー宣伝工作は、教育省が主管し、中国語や中国文化を学ぶ孔子学が中心的な役割を担い、米国の110か所を含む世界404か国・地域に512か所が設立されている(2016年12月現在)。だが、中国への体制批判を緩和する政治的意図が隠されているとの疑念から、学問や言論の自由に対する懸念も強い。

この点、シュワルツマン学院は米国サイドが中国の対外文化宣伝に手を貸す点で異色である。ブラックストーンは政府系の中国投資有限責任公司(CIC)からも出資を受けており、シュワルツマンの目的が中国ビジネスへの進出にあるのは明らかだが、中国にとっても大きな利益がある。安全保障や人権問題などで対立を抱えながらも、両国は各種チャンネルで人的交流を拡大させている。

日本での報道が、意図的に避けているのか、あるいは見る余裕もないのか、こうした真相に向いていないのが心もとない。
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習近平政権2期目の「新時代」的人事⑩完

2017-10-30 07:48:48 | 日記
中国における反腐敗キャンペーン、そしてその背景にある政治闘争のメディア論を考えれば、習近平政権1期目の大きな変化を指摘できる。

5年前、習近平政権が発足したばかりのころ、反腐敗キャンペーンの突破口となったのが周永康・元常務委員や令計劃・元党中央弁公庁主任、さらには元中央軍事委副主席の徐才厚、郭伯雄らに対する調査だった。前例のない高位高官の摘発には、当事者たちによる習近平の暗殺計画にはじまり、既得権益勢力によるさまざまな抵抗があった。習近平や温家宝ファミリーの資産が米国の有力メディアに漏れたのも、その抵抗によるものだった。

だから主要人物の汚職調査にあたっては、米国のネットメディアや香港メディアを通じて、犯罪行為の一部をリークする世論工作が行われた。特に、「常務委員には刑が及ばない」との不文律が長年にわたって存在し、かつ党中央政法委書記として公安・安全部門を牛耳っていた周永康の調査には、細心の注意が払われた。周辺関係者への大掛かりな調査、排除が展開され、執拗な批判記事が大量に流れ、正式調査が公表された時点ですでに有罪が確定したかのようだった。

中国メディアは、数行足らずの公式発表や海外メディアの初報を待って、大量の続報を用意した。当時、私は傍らで彼らを見ていて、記者として「特ダネ」を封じ込められた無念さに同情した。国情によるやむを得ない境遇だった。だが総じていえば、反腐敗キャンペーンにおいては、秘密保持よりもむしろ、攻守合い乱れた過剰な情報合戦が際立った。

そして5年がたち、大きく様変わりした。厳格な秘密保持が徹底し、ある日突然、前触れもなく高官が摘発されるケースが目立つようになった。

顕著だったのが、7月15日、前触れもなく、突然の一報で重慶市党委書記を解かれた党中央政治局員、孫政才のケースだ。若くして農業相や吉林省党委書記の要職を歴任し、次世代のホープと目されただけに、全く意外だった。7月24日には、「重大な規律違反」での調査が決定され、9月29日には、巨額の賄賂を受け取るなどの重大な規律違反があったとして、党籍剥奪と公職追放のうえ、司法手続きが始まった。

地方のトップであれば、少なくとも半年は周辺を含め事前調査が必要だ。ましてや重慶市党委書記は政治局員である。驚くほどの秘密保持とスピード処理だ。通常、摘発後は反腐敗の宣伝と見せしめを兼ね、犯罪の詳細がリークされるのだが、本件は完全にかん口令が敷かれ、なぜ彼が標的にされたのか、いまだに不明だ。

もう一例ある。房峰輝・前統合参謀部参謀長と張陽・中央軍事委員会政治工作部主任が8月末、規律違反の疑いで調査を受けていることが、米国や香港メディアの報道で発覚した。房峰輝はその2週間前、北京で、北朝鮮の核・ミサイル問題で訪中した米軍のジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長と会談したばかりだ。中国国防省は同月26日、不意打ちのように、通常ニュースの中で、房峰輝のポストが後任に替わっている事実を発表しただけで、その他の詳細は伏せられていた。

房峰輝は4月にも習近平の訪米に随行し、6月にはワシントンでの米中安全対話でジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長と会談している。重要な軍の業務をこなしながら、何の兆候をもうかがわせない隠密調査だ。

徹底した秘密保持による腐敗調査は、この5年間で習近平がほぼ権力を掌握し、情報管理も手中に収めたことを如実に物語るものである。

だからこそ、19回党大会の最高指導部人事には、多くの党幹部も「習近平に直接聞いてみないと何もわからない。彼がひとりで握っている」と言い続けた。事前にリストを作って回覧し、周辺の意見を聞きながら決めるという“民主的”手法は、習近平のスタイルとは縁遠い。重要事項については、一人一人から意見を聴取するが、すべてを見通しているのは自分だけ、という情報統制を敷いているはずだ。これが最も有効な秘密保持のテクニックなのだ。

第19回党大会後、最初の中央政治局会議が今月の27日開かれ、党中央による「集中統一指導」を党指導の「最高原則」と定めた。総書記への集権化を意味する「集中統一指導」は、これまで「政治規矩(政治の掟)」などと呼ばれてきたが、とうとう「最高原則」にまで高められた。



党大会で改正された党章(党規約)の大綱にも、「二つの100年目標」を達成するため、党が堅持すべき五つの基本要求の一つとして、

「習近平同志を核心とする党中央の集中統一指導を厳格に維持し、全党の団結統一と行動の一致を保証し、党の決定を迅速かつ有効に徹底執行することを保証する」

の一文が挿入された。と定めた。

胡錦濤は2002年の第16回党大会で、江沢民を引き継いで総書記に就任したが、、江沢民が自派勢力の温存を図るため常務委のメンバーを7人から9人に増員したため権力基盤が脆弱だった。同大会では党規約が改正され、「重大な問題に属するものはすべて集団指導、民主集中個別協議、会議決定の原則に従って、党の委員会で集団討論し、決定を下さなければならない」との規定が盛り込まれた。

これは、鄧小平の教えを受け継いだ江沢民の持論だった。党規約は会議の決定について多数決の原則を導入しており、政治局や常務委の会議招集権を持っている総書記も、重要事項の決定については他の常務委同様、一票の権限しか与えられていない。江沢民は「集団指導」の名のもとに、胡錦濤の手足を縛った。

毛沢東時代、過度の権限集中から個人崇拝を招き、国民に深刻な被害を敷いた苦い経験がある。そこで鄧小平は集団指導体制の規範化を進めた。毛沢東ほどのカリスマ性を持たなかった鄧小平が、権力のバランスによって政権を運営する政治力学の結果だったが、経済改革の側面からも、計画経済から市場経済へと権力の分散を進める必要があった。

だが、最高指導者の権威が薄れるにつれ、集団指導体制の中で総書記の権限が弱体化していくのは必然だった。強力な後ろ盾を持たない胡錦濤は、「無作為の10年」との評を得ることになった。権力の弱体化が改革を停滞させ、社会矛盾を放置したとの認識が強まり、党内外で強いリーダーの待望論が浮上した。こうして紅二代の衆望を担う習近平政権が誕生した。

習近平は常務委員を9人から7人に削ったばかりでなく、今回の党大会で、「集団指導」から「集中統一指導」への移行を実現させ、集権化を徹底させた。それが腐敗摘発の手法や人事の進め方に表れている。「新時代」はこうした歴史の反省から生まれた発想だ。それが現実の新時代に合致するかどうか。これからの5年間がその成否を占うことになる。これまで何度も繰り返されてきた中国崩壊論や中国脅威論は、そろそろ卒業した方がいい。

(完)

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習近平政権2期目の「新時代」的人事⑨

2017-10-29 20:12:47 | 日記
新たに選出された政治局員25人のうち、実は、官費留学でハーバード大ケネディスクールで学んだ幹部が二人いる。

一人は習近平が経済・財政政策のブレーンとして重用している劉鶴・中央財経指導グループ弁公室主任(65)。旧国家計画委員会(現・国家発展改革委員会)に在籍中の1992年から1年間、米イースト・ウェスト大学ビジネススクールで学んだ後、1994年から1年間、ハーバード大ケネディスクールで国際金融と貿易を専攻し、公共経営修士(MPA)を取得した。

もう一人は、広東、湖北省などで実績を積んできた李鴻忠・天津市党委書記(61)だ。広東省時代の1999年、地方幹部養成コースとしてハーバード大ケネディスクールで短期研修を受けた。李鴻忠はかなり前から、習近平を「指導の核心」と呼び、忠誠を強調していたことで知られる。

劉鶴は、米国とのパイプ役を果たしており、2013年5月、トム・ドニロン前米大統領補佐官が米中首脳会談を前に北京を訪れた際、習近平が「彼は私にとって極めて重要だ」と同席した劉鶴を紹介している。米中の経済を結ぶ劉鶴の存在は大きい。各種のスキームによって党幹部のハーバード大留学が行われており、今後、米国留学組が要職に就くケースはますます増えるに違いない。幹部の昇進と米中人的交流の強化とが一体化し、両国関係の強力な礎になっている構図がうかがえる。

対米関係において、今回の人事でさらに注目すべきは、駐米大使経験のある米国通の楊潔篪・国務委員(元外相)が政治局入りしたことだ。外交担当の国務委員が政治局員に選ばれるのは銭其琛・元副首相以来20年ぶり。楊潔篪は来春の全国人民代表大会で副首相に昇格の見込みだ。習近平の対米重視を象徴する人事である。習近平は2期目が発足した25日、トランプ米大統領と電話会談し、中米関係の重要性を伝えた。

建国100年を迎える21世紀半ばには世界の強国として台頭しようともくろむ習近平政権にとって、米国は学ぶべき教師であり、乗り越えなければならないライバルである。トランプは、既成概念を打ち破る派手なパフォーマンスで、社会不満を抱える低所得層の支持を集める。その姿は、不文律を打破する高位高官の腐敗摘発と親民スタイルの演出で大衆の人気を得ている習近平と重なる。

中国が取り上げる米国の貧富格差や若者の政治的無関心、金権社会といった「米国病」(『人民日報』)は、中国にも当てはまる課題だ。場合によっては米国以上に深刻である。米中は相互に、国内でヘビー級の難題を抱える。対中包囲網を敷いていた冷戦期、毛沢東は「米帝国主義は張り子のトラだ」と息まいたが、中国自身も今、経済大国の表看板を掲げながら、「世界最大の発展途上国」のお家事情を認めざるを得ない矛盾を抱えている。

だからこそ同じように難局を乗り切る強い指導者の台頭が求められる。トランプが中国を批判し、米国の庶民は留飲を下げ、中国の人民は習近平の反攻に期待する。中国の台頭を強力に引っ張る習近平がトランプを生み、トランプが習近平の権威をさらに高める。こうした反射的関係が生まれるほど米中は接近している。

トランプと習近平を並べて思い浮かぶのはニクソンと毛沢東だ。ニクソンは反共の闘士として名をあげながら、1972年2月、電撃訪中によって20年に及ぶ敵対関係を終結させた。ベトナム戦争やインドへの対応をめぐり、対ソ連包囲網で米中の利害が一致したからだ。国家利益のため融通無碍に重大決断のできる指導者が生んだ歴史的事件だった。

当時、北京でニクソンと1時間以上にわたって話をした毛沢東は、主治医の李志綏に、

「あの男は本音で話をする。持って回った言い方をしない。本音と建前を使い分ける左派の連中とは訳が違うな」(『毛沢東の私生活』)

と漏らした。ニクソンが国益のため反共の立場を一変させ、関係正常化を決断した度量を称賛したのだ。米中間にはイデオロギーを度外視したプラグマティックな発想が横たわっている。毛沢東の教えを忠実に守る習近平は、政治のプラグマティズムも受け継いでいる。台湾など中国が「核心的利益」と呼ぶ原理原則で衝突しなければ、北朝鮮問題や国際貿易ルールなどの問題で利害の一致を見つけるのはそう難しくない。両国の利害が複雑に絡み合うに従い、駆け引きの選択肢も増えている。トランプは組みやすいと考えている中国の党政府幹部は少なくない。

米中の対立や衝突ばかりに目を向けている日本メディアの報道は、国際社会の真実から国民の目をそらしている。最高指導部の人事に明確に表れている米中のホットな接近が、内向き志向によって世界への関心を急速に失速させている日本世論と際立った対照をなすことは、銘記しておいた方がいい。

(続)
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習近平政権2期目の「新時代」的人事⑦

2017-10-29 08:58:50 | 日記
25日の第19期中央委員会第1回全体会議(1中全会)では中央軍事委員会の新指導部も選出された。習近平が主席を続投する一方、副主席には制服組の許其亮と張又侠の2人が留任し、文官の任用はなかった。従来11人だったメンバーも7人に減らされ、権力の集中を図った。18回党大会で常務委員が9人から7人に縮小され、権力の分散による分裂を避けたのと同じ理屈だ。

注目の人事は、中央軍事委入りの不文律だった大将クラスの条件を破り、昨年、中将に昇進したばかりの張昇民(59)を抜擢したことだ。陝西省出身の同郷で、習近平との縁が深いと思われる。習近平は今年1月、張昇民を中央軍事委規律検査委書記に任用し、綱紀の緩んだ軍内を立て直す重責を与えた。

共産党の権力の源泉は軍の掌握にある。党・国家のトップになるためには、あらかじめ中央軍事委副主席として準備をするのが慣例だ。そこが空席になったことは、後継者不在、つまり習近平の長期政権を端的に物語っている。

習近平の経歴からはっきりわかるのは、豊かな軍経験だ。清華大学を1979年に卒業後、国務院弁公庁に入り、当時、副総理兼国防部長だった耿颷(こう・ひょう)の秘書を務めて以来、河北・福建・浙江・上海の各地方を歴任しながら常に現地軍区の肩書も持ち続けた。総書記に就任する2年前の2010年、すでに中央軍事委副主席に就任している。軍の創設に参加し、それを育てた革命世代の二代目、紅二代の強みがある。

習近平の父親、習仲勲は文革後に名誉回復し、広東省のトップとして改革・開放政策をリードした。その際、陝西出身で、南方に全く縁のない習仲勲を支えたのは、広東一帯を牛耳っていた戦友の葉剣英(人民解放軍総参謀長、国防部長などを歴任した軍の重鎮)だった。習仲勲は軍の力を深く知っており、あえて息子に、官途の第一歩として国防部長の秘書をお膳立てしたのである。

軍の要職には紅二代も多い。こうした長い軍との関係があって初めて、習近平は政権掌握後、江沢民が登用した徐才厚、郭伯雄の中央軍事委副主席経験者2人を相次ぎ腐敗問題で摘発できたことは、間違いない。

江沢民は15年にわたって中央軍事委主席を務め、軍内に大きな影響力を温存した。総書記の座を胡錦濤に譲った後も、2年近く中央軍事委主席の椅子に座り続け、胡錦濤を牽制した。権力基盤としていかに軍の存在が大きいかを物語る。しかも、2004年9月、江沢民は完全引退に際し、胡錦濤に対し「重要事項は江沢民に相談する」との密約まで結ばせた。習近平が、江沢民による軍支配を打破した力は並大抵ではない。

今回の最高指導部人事について、私は少し前、ボードに書かれた名簿を見せられたことがある。習近平に「党主席」の肩書がつき、李克強首相に続き、胡春華・前広東省党委書記と陳敏爾・重慶市党委書記が入っていた。首をかしげたのは、栗戦書が規律検査委書記、胡春華が副首相と中央軍事委副主席を兼ねていたことだった。

中央の経験が乏しい栗戦書が、王岐山が残した重責を担うのは荷が重すぎるし、習近平にとっては、恩人にかなりの政治的リスクを背負わせることになる。これは考えにくい。さらに、胡春華を中央軍事委副主席として、後継指名を確定させるかのような人事もあり得ないと思った。私の判断は「偽物」で、少なからずそのリストを見た党関係者も否定的だった。党大会前はさまざまなリストが飛び交うので、注意しなければならない。軍人事は一つの大きな目安になる。

胡春華の中央軍事委副主席説に接し、前回の第18回党大会でのある記憶がよみがえった。胡錦濤が総書記と中央軍事委主席を同時に退く条件として、子飼いの李克強を中央軍事委副主席に就任するよう求めたという伝聞だった。胡錦濤と同じ共青団畑で、軍にまったく足場のない李克強の権力は、軍に幅広い人脈を持つ習近平とは比べ物にならない。せめて副主席の肩書があれば、拮抗することができる。実現はしなかったが、胡錦濤が親心としてそう考えたのだろう、と当時は受け取った。

新たな政治局員の経歴をみても、習近平と軍人を除き、過去にも現在にも軍での肩書を持っている者は見当たらない。憲法で国家主席の三戦は禁じられているので、5年後、習近平が国家主席を退くことは必至だが、それに先立ち、中央軍事委主席の座をいきなり軍経験のまったくない後継者に譲るとは思えない。権力の安定を考えれば、無謀な人事となる。軍人事からも習近平政権の長期傾向が見て取れる。

(続)
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習近平政権2期目の「新時代」的人事⑧

2017-10-29 08:53:08 | 日記
常務委員(7人)の出身地分布は、

陝西2(習近平・趙楽際)、安徽2(李克強・汪洋)、河北(栗戦書)、山東(王滬寧)、浙江(韓正)

政治局員(25人)でみると、

陝西3(習近平・趙楽際・張又侠)、山東省3(王滬寧・李鴻忠・許其亮)、浙江3(韓正・陳敏爾・李強)、福建3(陳希・黄坤明・蔡奇)、河北省3(栗戦書・劉鶴・孫春蘭)、安徽2(李克強・汪洋)、上海2(楊暁渡・楊潔篪)、北京(王晨)、李希(甘粛)、河南(陳全国)、湖北(胡春華)、江西(郭声琨)、江蘇(丁薛祥)

となる。習近平の出身地、赴任地が色濃く反映されているが、204人の中央委員で出身地分布をみると、トップに関係なく現れる全体的な傾向を読み取ることができる。以下は18期中央委員の出身地分布だが、19期もおおむね傾向は似ている。



山東は習近平の赴任地ではないが多い。第19期の中央委員でもやはり山東は31人で全体の15%を占め、最多の省だ。2位の江蘇(22人)、3位の河北(18人)を大きく引き離している。山東省の人口は全国の7%を占め二番目に多いものの、中央委員の15%は突出している。18期も山東人は30人で最も多い。ではなぜなのか。

山東人は何でもはっきり言い、剛直な性格だとみられているので、裏技を要する政治の世界には無縁かとも思える。だが、一般的な解説では、山東は孔子のふるさとで、歴史的に宮仕えの学問を重視するからだとされる。中華文明発祥の地、中原地区である。中原地区は概して人口が多いが、経済は立ち遅れ気味で、競争が激しいということもあるかも知れない。かつてはドイツや日本による侵略の舞台となったため愛国心が強く、軍人を多く輩出していることも関係があるだろう。習近平の妻で人民解放軍所属の歌手、彭麗媛も山東省菏沢市出身だ。

上海に近い江蘇と浙江は江南地方と呼ばれ、豊かな土地だが、それぞれ2位、5位で計32人と多い。唐代以来、中国には科挙の最高位である状元が416人誕生しているが、うち江蘇と浙江が114人を占め、全体の27%を超えているというから、伝統的に宮仕えの意識が高いと言える。単なる金持ちではない。

一方、広東省は全国1のGDPを誇り、人口も最多だが、政治局員はゼロで、中央委員も計2人しかいない。0人だった時代もある。経済には熱心だが、北京からも地理的に離れ、政治への関心は低い土地柄が反映されている。近代初期は、康有為や孫文を生んだが、共産党政権下では軍人の葉剣英などを除き振るわない。かつては政治闘争に敗れ、中原地区を追われた流刑の地だっただけに、実利重視になるのはやむを得ないだろう。

四川も人口が多いが、中央委員は4人しかおらず、最低レベルだ。もともと劉備が治めた蜀の地で、物資が豊かだ。生活にゆとりがあり、茶の文化がなお色濃く残っている。殺伐とした政治の世界とは縁遠いのだ。もちろん、鄧小平は四川出身で、例外もあるが。

中央委員が1人しかいないのはチベット、天津、寧夏、雲南だが、中央から離れ、交通の便が悪いチベット、寧夏、雲南は理解できるが、逆に北京に近接する天津も含まれているのはどういうわけか。大都市に近過ぎても、便利な反面、逆に独自の個性を引き出すことができず、埋没してしまうということなのか。

陝西出身の中央委員は6人しかいないが、中央軍事委員の張昇民を含め、最高指導部に4人が集まっているのは際立った特徴だ。習近平の強い意向がにじみ出ている。少数精鋭というべきか。黄土は伝統的にも皇帝を生んできた土地なのである。

民間の言い伝えでは、「江南の才人に山東の将軍、西北の黄土は帝王を生む」というそうだ。中国は地方を知らなければわかったことにならない。それを痛感する。

(続)
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