goo blog サービス終了のお知らせ 

碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 実相寺昭雄 『ウルトラ怪獣幻画館』ほか

2017年04月17日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

実相寺昭雄 『ウルトラ怪獣幻画館』
ちくま文庫 972円

原画ではなく幻画である。「幻」は「夢」と同じく実相寺監督が好きな言葉の一つだった。文庫オリジナルの本書は、監督自身が「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」に登場する怪獣たちを描いた画文集だ。ジャミラもメトロン星人も美しく、そしてどこか切ない。


柴門ふみ 『結婚の嘘』
中央公論新社 1188円

著者は『東京ラブストーリー』などのヒット作で知られる漫画家。結婚から約40年を経て書かれた、遠慮のない結婚エッセイである。結婚は互助会という諦念と共に「妻の気持ちを逆なでする夫の言動」が披露されるが、その夫は『課長 島耕作』の弘兼憲史氏だ。


小川隆夫 『ジャズメン死亡診断書』
シンコーミュージック 2160円

その死から逆算でたどるジャズメンの人生。音楽ジャーナリストにして現役の医師という著者ならではの一冊だ。ジョン・コルトレーンの麻薬と酒と過度の煙草。慢性肝炎が原因だが、自殺願望の疑いもあるビル・エヴァンス。命を削った名曲の数々が聴こえてくる。


岩本 勉 
『日本一よくわかる北海道日本ハム 強さの理由~なぜ常勝球団になれたのか』

プレジデント社 1404円

元ファイターズ投手の著者は、「ガンちゃん」の愛称で知られる野球解説者だ。かつて他球団の後塵を拝していたチームが、なぜ毎年優勝候補となるほどの変貌を遂げたのか。監督、選手、スタッフ、さらに球団経営の秘密にまで迫る。出色のプロ野球論であり組織論。

(週刊新潮 2017.04.13号)

【気まぐれ写真館】 ”シャア”池田秀一さんと・・・

2017年04月17日 | 気まぐれ写真館
実相寺昭雄監督が使った、ドラマ「あなたを呼ぶ声」(1962年)の台本

16日(日)午後、池田秀一さん(声優・俳優)とのトークショーを行います!

2017年04月16日 | テレビ・ラジオ・メディア
実相寺監督の初演出ドラマ「あなたを呼ぶ声」



ユーロスペースで開催中の「実相寺昭雄監督」特集上映。

16日(日)12時の回で、池田秀一さん(声優・俳優)とのトークショーを行います。

生誕80周年 没後10周年記念
特集上映 実相寺昭雄の光と闇

ホームドラマから怪奇幻想譚まで
ぼくらを育ててくれた映画監督のこと


■4月16日(日)上映作品

12:00『おかあさん1』
  ♯139 あなたを呼ぶ声
  ♯145 生きる
  ♯151 あつまり

 トークショー
  ゲスト:池田秀一さん(声優・俳優)
       碓井広義さん(上智大学文学部新聞学科教授)


14:00『おかあさん2』
  ♯168 鏡の中の鏡
  ♯173 さらばルイジアナ
  ♯197 汗

 トークショー
   ゲスト:原知佐子さん(女優・実相寺昭雄監督夫人)
        樋口尚文さん(映画評論家・映画監督)

16:00『ウルトラセブン』
  ♯9 狙われた街
  ♯43 第四惑星の恐怖
  ♯45 円盤が来た

19:00『劇場版ウルトラマン』


ぜひ、ご参加ください!

言葉の備忘録 56  映画「ハムナプトラ2」

2017年04月15日 | 言葉の備忘録



友よ、
偶然と運命の境目は
微妙だ。



――映画「ハムナプトラ2」2001

週刊朝日で、2019年大河ドラマ「いだてん」についてコメント

2017年04月15日 | メディアでのコメント・論評



“マイナー”人選の異色の大河
“あまちゃん”のクドカンに託す

2019年のNHK大河ドラマのタイトルが「いだてん~東京オリムピック噺~」となり、歌舞伎俳優の中村勘九郎と俳優の阿部サダヲのダブル主演が発表された。脚本は朝ドラ「あまちゃん」の宮藤官九郎。

大河ドラマの舞台としては、戦国時代や幕末が好まれる傾向があるが、「いだてん」は1912年から64年までの、五輪をめぐる近現代を描く。主人公は日本人として五輪に初参加した金栗四三と、64年の東京五輪を招致した田畑政治というなじみのない2人。NHKは“笑いの絶えない”ドラマを目指すという。

「異色の大河になる」と話すのは上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)だ。

「近年の大河はネタ不足からの閉塞(へいそく)状態にありました。人気の戦国時代、幕末の人物はやりつくした感があって、目先を変えて新島襄の妻や吉田松陰の妹を題材にするなどしましたが、評判はイマイチだった。クドカン脚本と昭和の五輪という組み合わせは新鮮で、これまでにない軽快な大河が見られるかもしれません」


芸能評論家の三杉武氏はマイナーな主人公にしたことが奏功するのではないかと見る。

「視聴者があまり知らない名前だからこそ、物語の中にフィクションを盛り込みやすい。満を持して起用したクドカンの遊びのある脚本で、若年層の視聴者が増えそうです。NHKに勝算はあるでしょう」

若者にすり寄ると長年の大河ファンが離れるのではと気をもみたくなるが、制作陣にも大きな期待ができると碓井教授は言う。

「制作統括の訓覇圭さんと演出の井上剛さん、そして脚本クドカンという組み合わせは『あまちゃん』チームなんです。訓覇さんと井上さんは『ハゲタカ』でも一緒にやっていて、硬軟自在。ドラマ制作のエースを投入したと言っていいでしょうね」


三杉氏はこんな予想も。

「制作陣の顔ぶれを見れば、サプライズで『あまちゃん』でブレークしたのんさんの出演もあるかもしれません」

朝ドラのような旋風を、大河でも起こせるか。

(週刊朝日  2017年4月21日号)

コナンくん、拝受です。

2017年04月15日 | テレビ・ラジオ・メディア
実相寺昭雄研究会の定例会で、
「名探偵コナン」松園公(まつぞのひろし)監督より

16日(日)、“シャア”池田秀一さんと「トークライブ」を行います!

2017年04月14日 | テレビ・ラジオ・メディア


今週末の15日(土)から来週21日(金)まで、渋谷のユーロスペースで、実相寺昭雄監督の特集上映が開催されます。

私たち「実相寺昭雄研究会」も、“特別協力”させていただいているイベントです。

16日(日)には、12時からと14時からに分けて、TBS時代に実相寺監督が演出した「おかあさん」シリーズ6本もスクリーン上映。

12時からの回では、幻の名作『あなたを呼ぶ声』(1962年)など3本を連続上映した後、20分ほどのトークライブがあります。

ゲストは『あなたを呼ぶ声』の出演者であり、『機動戦士ガンダム』シャア・アズナブルの声で知られる池田秀一さん。

聞き手を私が務めさせていただきます。

プロデューサー時代の1993年に制作したドキュメンタリードラマ『人間ドキュメント 夏目雅子物語』(テレビマンユニオン/フジテレビ)で、池田さんに大事な役で出演していただきました。

『あなたを呼ぶ声』の撮影時、13歳だった池田少年の目に、実相寺監督はどう映っていたのか。私もお話をうかがうのが楽しみです。











『実相寺昭雄の光と闇』でTVドラマやウルトラマン上映 
トークに樋口真嗣ら

特集上映『生誕80周年 / 没後10周年記念「実相寺昭雄の光と闇」』が、4月15日から東京・渋谷のユーロスペースで開催される。

2006年に逝去した映画監督の実相寺昭雄。特撮から怪奇幻想譚、SMまで様々なジャンルの作品を発表した。

実相寺の没後10周年および生誕80周年を記念した同イベント。TBS入社後に25歳で手掛けた初めての演出作品であるドラマ『おかあさん』の実相寺演出回全6話をはじめ、『ウルトラセブン』から3本、映画監督デビュー作『宵闇せまれば』、『ロカルノ国際映画祭』で金豹賞を受賞した『無常』、『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』などが上映作品にラインナップしている。

会期中には声優の池田秀一、研究者の碓井広義、女優で実相寺の妻・原知佐子、映画監督の樋口尚文、樋口真嗣、俳優の寺田農、ディレクターの油谷岩夫が登壇するトークイベントを開催。イベントや上映作品、スケジュールなどの詳細はユーロスペースのオフィシャルサイトで確認しよう。


『生誕80周年 / 没後10周年記念「実相寺昭雄の光と闇」』
2017年4月15日(土)~4月21日(金)

会場:東京都 渋谷 ユーロスペース
http://www.eurospace.co.jp/

上映作品:
『おかあさん』
『ウルトラセブン』
『宵闇せまれば』
『無常』
『シルバー仮面』
『歴史はここに始まる』
『歌麿 夢と知りせば』
『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』
『青い沼の女』
『アリエッタ』
『ラ・ヴァルス わたし暴行されました』
『ディアローグ[對話]より 堕落 ~ある人妻の追跡調査~』
『D坂の殺人事件』

CINRA.NET
http://www.cinra.net/news/20170411-jissojiakio



有村架純主演の朝ドラ「ひよっこ」が描く家族の姿

2017年04月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、NHK朝ドラ「ひよっこ」について書きました。


NHK朝ドラ「ひよっこ」
当たり前に存在した家族の姿がここにある

NHK朝ドラ「ひよっこ」が始まって1週間。久しぶりで、明るくて気持ちのいい朝ドラを見ている。

何しろ前作の「べっぴんさん」はヒロインの表情が暗かった。「お嬢さまといわれる私も考えることは多いのよ」という表現だったのかもしれないが、いつも悩んでいるような顔をした主人公に付き合うのはシンドイ。その点、「ひよっこ」はいい。まず高校生・みね子(有村架純)の明るさ、家族や故郷への素朴な思いにホッとさせられる。

稲刈りのために出稼ぎから戻った父(沢村一樹、好演)、薄化粧と花柄のブラウスで迎える母(木村佳乃)、息子が不在の家を支えている祖父(古谷一行)といったキャラクターも好ましい。

東京オリンピックで勢いをつけ、「三丁目の夕日」的な昭和30年代から、「大阪万国博覧会」に象徴される経済発展の昭和40年代へと移行する時代。そのちょうど境目である昭和39(1964)年から物語が始まる設定も効いている。あまり足早にならず、じっくりと丁寧に時代背景と登場人物たちを視聴者になじませていったのは、岡田恵和の脚本のお手柄だ。

夜、親たちの会話に入れてもらった、みね子。子供に家の経済の話をきちんと聞かせるのは大人扱いの証拠だ。「私はこの夜のことを忘れません」というみね子もほほ笑ましい。当たり前に存在した家族の姿がここにある。

(日刊ゲンダイ 017年4月12日)




【気まぐれ写真館】 今年の桜 (四谷)

2017年04月14日 | 気まぐれ写真館


日刊ゲンダイで、新生「ニュースウオッチ9」についてコメント

2017年04月14日 | メディアでのコメント・論評



新生「ニュースウオッチ9」
成否のカギ握る桑子アナの「へえ~」「そっかあ」

今や老若男女を問わず大人気の桑子真帆アナ(29)を起用したNHKの看板ニュース番組「ニュースウオッチ9」。

経済部出身のキャスター、有馬嘉男(51)とともに「ニュースチェック11」から2時間前倒しのスライド人事となったが、今月3日の放送初日から3日間の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、3日(10.3%)、4日(7.8%)、5日(10.1%)。前任の鈴木奈穂子&河野憲治コンビでも13%台をマークしていたことを考えれば、やや物足りない船出となった。

もっとも、話題はつきない。新キャスター発表会見で「『ザ・NHK』というシャキッとしたイメージにはならないと思います」(桑子)と宣言した通り、お堅いNHKらしからぬ演出が随所に施されている。

スタジオのセットは、ペンギンのマトリョーシカや土瓶の置物、カメラ、アロマキャンドル、観葉植物などが点在し、SNS上では「誰かの家?」「可愛らしい」「ゴチャゴチャしている」と賛否を呼んでいる。

ちなみに、コンセプトは両キャスターの共通の仕事場で、「2人が思い思いに好きなものを持ち込み、後ろの棚に飾っているイメージ。番組と2人に親しみを感じてもらいながら、ニュースをしっかりと深掘りして伝えていきたい」(NHK広報)。

番組の基本コンセプトに〈わかったふりをしない〉〈そもそもを知りたい〉を掲げ、これまで以上に2人のやりとりを強化。座り方も心なしか密接している気がするが、やはり意図的で「以前より近い距離にしている」(同)という。

■報道解説番組へ舵

専門家はどう見たか。上智大教授の碓井広義氏(メディア文化論)は、「ニュース番組からニュース解説番組への変化を感じさせた」とこう続ける。

「これまでは一日の出来事を次から次へと“総ざらい”で伝えるスタンダードな報道番組でしたが、新生『ニュースウオッチ9』は打って変わって、桑子・有馬コンビが11時台で完成、成功させたスタイルを踏襲し、スタジオ内の会話も解説の要素を強めた印象を持ちました。

丁寧に深く掘り下げるぶん、取り上げるトピックは限られますが、ある日のラインアップは海外のニュースが多く、国内の話がよく分からなかった。初週を振り返ると、全体的に政治の話題も乏しい気がしましたね。

加えて、桑子さんの『へぇ~』『そっかぁ』と言った相づちは、NHKの看板ニュース番組のキャスターとしては気さく過ぎるし、噛み癖もやや気になりました。今後どう改善していくのか、注目したい点のひとつです」


 桑子アナの親しみやすさが受け入れられるかどうかに番組の未来がかかっているようだ。

(日刊ゲンダイ 017年4月11日)

【気まぐれ写真館】 今年の桜 (ご近所)

2017年04月14日 | 気まぐれ写真館


毎日新聞で、「週刊テレビ評」の連載開始

2017年04月13日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


倉本聰脚本『やすらぎの郷』
82歳の果敢な挑戦

倉本聰脚本『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が始まった。放送は平日の昼どき。視聴者としてどこかないがしろにされている高齢者層に向けた、まさに「シルバータイムドラマ」である。

物語の舞台は、テレビに貢献した者だけが入れるという無料の老人ホーム「やすらぎの郷」だ。過去と現在のギャップ、病や死への恐怖など、大物たちはそれぞれに葛藤を抱えている。演じるのは倉本の呼びかけに応じた浅丘ルリ子、有馬稲子、八千草薫など本物の大女優たちであり、虚実皮膜の人間喜劇が期待できそうだ。

主人公はベテラン脚本家の菊村栄(石坂浩二)。第1回では認知症だった妻(風吹ジュン)の死が描かれた。徘徊を繰り返し、夫さえ判らなくなった妻が亡くなったことを介護からの解放と感じ、「ホッとした自分が情けなかった」と菊村が言う。きれい事だけでは済まない人生の断面がそこにある。

また第2回では、東京を離れることを親友であるディレクターの中山(近藤正臣)に打ち明ける。自分も入りたいと言い出す中山。無理だと答える菊村。テレビ局にいた人間を除外するのはホームの創立者の方針だった。理由は「テレビを今のようなくだらないものにしたのはテレビ局そのものだから」。ドラマの台詞とはいえ、この痛烈なテレビ局批判は秀逸だ。

思い浮かぶのは1974年から翌年まで放送された、倉本の『6羽のかもめ』(フジテレビ系)である。最終回の“劇中劇”で、政府はテレビが国民の知的レベルを下げることを理由に「テレビ禁止令」を出す。テレビ局は廃止、家庭のテレビは没収となってしまう。ドラマの終盤、山崎努演じる放送作家が酒に酔った勢いでカメラに向かって憤りをぶつけた。

「(カメラの方を指さす)あんた!テレビの仕事をしていたくせに、本気でテレビを愛さなかったあんた!(別を指さす)あんた!――テレビを金儲けとしてしか考えなかったあんた!〔中略〕 何年たってもあんたたちはテレビを決してなつかしんではいけない。〔中略〕なつかしむ資格のあるものは、あの頃懸命にあの情況の中で、テレビを愛し、闘ったことのある奴。それから視聴者――愉しんでいた人たち」

このドラマから42年、テレビは中身の質より視聴率で評価することを続けてきた。その間、置き去りにされたのがシニア世代の視聴者だ。今回、倉本は彼らの“声なき声”に応えたのだ。『やすらぎの郷』は、生きるとは何かを問う人間ドラマであると同時に、テレビと真剣に向き合ってきた82歳の脚本家の果敢な挑戦でもある。

(毎日新聞夕刊 2017.04.07)

【気まぐれ写真館】 今年の桜 (ご近所)

2017年04月13日 | 気まぐれ写真館

中日新聞で、「直虎」についてコメント

2017年04月12日 | メディアでのコメント・論評



中日新聞で、「おんな城主 直虎」についてコメントしました。

高橋一生さんが演じる政次の人気について・・・

上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は「自分を抑え、相手の幸せのためなら何でもするという生き方は、特に女性視聴者にとってたまらないはず」と分析する。直虎と直親、政次の幼なじみ三人を三角関係として捉える「〝恋愛大河〟ともいうべき楽しみ方で支持されている」という。

碓井教授は高橋さんの人気の要因に、1~3月ににドラマ「カルテット」(TBS)にも出演したことを挙げる。作中では「危うさがあるからひかれるタイプ」の人物を演じ「そのイメージとどこか重ねながら、大河の高橋さんは見られているのでは」と推測する。


SNSと大河ドラマについて・・・

SNSでテレビ談義が盛り上がる背景には、番組のインターネット配信の普及がある。

碓井教授によると、若者を中心に、SNSで友人が話題にした番組はテレビ放送が終了していてもネットで視聴し、自分も感想を投稿するようになっている。

「リアルタイムの視聴率だけでは視聴行動を正確に把握できない。SNSとリンクした『ソーシャル視聴』は若者たちの間でより普通のことになっている」(中略)


「おんな城主直虎」の舞台である浜松は、SNSで作品の魅力に乗っかることができるのだろうか。

「観光誘致と結び付けようとすると、すぐに見抜かれ反発が起きる。発信するならあくまでも草の根的に、ファンとしての『直虎愛』を前面に押し出していくべきです」と碓井教授。(以下略)

(中日新聞 2017.04.02)

読売オンラインで、「テレビドラマ」について解説しました

2017年04月12日 | メディアでのコメント・論評



メディアの多様化は
テレビドラマ本来の姿を取り戻すチャンス


●目をつぶってきた視聴率の矛盾

フジテレビの看板の一つである月曜夜9時のドラマ枠、いわゆる「月9」が、いまや消滅論すらささやかれるようになっています。最近の視聴率の低迷ぶりを見れば、不思議ではないのですが。

ただもちろん、ドラマの良し悪しや価値は、視聴率だけで測れるものではありません。そもそも視聴率は番組の中身の質を表すものではないからです。ある番組が放送された時間帯に、それを受像機でリアルタイムに観ていた世帯の割合を示すものです。

しかし現在は、録画視聴やネット配信の利用など、「タイムシフト視聴」は当たり前。とりわけ、各放送局独自でネット配信も増えてきているドラマの分野においては、それを様々なスタイルで観た人の総数と、発表される視聴率との開きは、かなり大きいものになっていると考えられます。

このような事態は、実は80年代から録画機器の普及とともに徐々に進んでいました。しかし、視聴者に無料で番組を届けて企業から広告収入を得るという、民放開局以来のビジネスモデルの中で、多くの人が現にその広告を目にしていることを示す視聴率は、新聞や雑誌広告に対するテレビCMの優位性を示す根拠でした。約2兆円にのぼる巨大ビジネスを支えてきたこの数字を、業界はおいそれと手放すことができなかったともいえます。

しかし、ネット社会の実現と、ソーシャル・メディアの急速な普及に伴い、若い世代を中心に、メディア全体の中におけるテレビの優先順位は確実に下がっています。そのことを番組制作者もスポンサー企業も、直視せざるをえなくなってきたというのが現状でしょう。

●主演俳優に合うマンガを探せばドラマができる?

とはいえ、「月9」の視聴率の低迷は、視聴スタイルの変化だけで説明できるものではありません。そこには、作り手の“驕り”と“勘違い”による作品の質の低下があり、それが視聴者に見透かされてしまっているのです。

ドラマの良し悪しを決める最大の要素は、何といっても脚本です。まず物語があって、それを表現するのにふさわしい役者をキャスティングする、これが本来のドラマ作りであることは言うまでもありません。

「月9」ドラマも、高視聴率を誇って一世を風靡し始めたころは、たしかに面白い物語をトレンディ俳優と呼ばれる人たちが演じていました。ところが、その成功体験の中で、いつしか発想と手順が逆転してしまった。売れている俳優をキャスティングできれば、ストーリーが多少陳腐でもヒットする。

だからプロデューサーは、まず主演俳優のスケジュールを、ときには1年後、2年後までおさえ、彼・彼女に合う物語を考えればいい。そして多くの場合、それはオリジナルを生み出すのではなく原作探し、しかも主流は小説からマンガへと移っていったのです。

こうした現象は現在、各局のドラマづくりで見られます。その意味では、テレビ界全体として、ドラマ制作における企画力・創作力が落ちているのかもしれません。

一方で、視聴者の目は肥えてきている。一視聴者のSNSへの書き込みがきっかけで、作品の評判が地に堕ちることもあり得る状況になってきました。

反対に、面白い作品に対しては、ネット上の書き込みも高評価で盛り上がる。これは、視聴率だけをにらんでいた時代には得られなかった手応えとやりがいを、作り手に与えてくれることでもあります。

●登場人物の履歴書が生み出すドラマの奥行きとリアリティ

作家の小林信彦さんは、「テレビの黄金時代」は60年代だとおっしゃっていますが、ことテレビドラマについては、その黄金時代は70年代から80年代前半にかけてだったと、私は思います。

それはまさに脚本家の時代でした。倉本聰、山田太一、向田邦子、鎌田敏夫といった人たちが、油の乗り切った状態で、次々と優れた作品を書いていた。映画とは異なる面白さをもつ、テレビドラマという新たなエンターテインメントを彼等が確立したといってもいいでしょう。

私は倉本さんと仕事をご一緒させていただいたことがあるのですが、倉本さんがまずやるのは、登場人物の履歴書づくりでした。どこで生まれ、どのように育ち、どんな学校でだれと出会ったといった、必ずしもドラマの中で活かされるとはかぎらない詳細な「過去」を考えていくのです。

倉本さんは、この作業が一番楽しいし、履歴書が完成したときには、そこにこれから展開されるドラマのすべてが含まれているのだと話していました。本当にその通りだと思います。

こうして練り上げられた人物の奥行きとリアリティがあるからこそ、たとえば倉本さんの代表作『北の国から』を見て、私たちは心から泣き、笑い、感動できた。そして、連ドラ終了後も単発の特別編を通して、約20年にわたり架空の人物たちと一緒に生きることができたのです。

そうした作品を今は作れないのかというと、そんなことはありません。最近でいえばTBSで放送された『カルテット』は、松たか子らが演じた登場人物たちの履歴がしっかり作り込まれていたからこそ、次第に明かされていく過去を含め、視聴者は興味津々で彼らと向き合うことができました。視聴率は9%前後でしたが、タイムシフトではもっと観られていたでしょうし、ネット上での視聴者の評価は高かったのです。

メディアの状況が大きく変化している今だからこそ、制作者は、あらためてドラマ作りの原点に立ち還る必要があります。その上で現出するドラマの未来には大いに期待したいし、期待できると考えています。これからも、もっとドラマを楽しみたいですから。


読売オンライン「ニュースを紐解く」
http://www.yomiuri.co.jp/adv/sophia/?from=ytop_os2&seq=09&pr=true