碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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書評した本: 『維新の影~近代日本一五〇年、思索の旅』ほか

2018年03月19日 | 書評した本たち



週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。

姜 尚中 
『維新の影~近代日本一五〇年、思索の旅』

集英社 1512円

今年は明治維新から150年に当たる。だが、一般的には「ああ、それでNHK大河ドラマは『西郷(せご)どん』なのか」と思う程度の人が大半ではないだろうか。

しかし、政府は違う。内閣官房に「明治150年」関連施策推進室が置かれ、積極的な広報活動が行われている。キャッチコピーは「明治の歩みをつなぐ、つたえる」。これをきっかけに、明治以降の歩みを次世代に遺すこと、また明治の精神に学び、日本の強みを再認識することを目指すという。いきなり「明治の精神に学ぶ」と言われても困るが、150年の歴史を再構成すると共に、未来も過去の延長線上にあるという認識を提示している。

本書は、政府が語る150年を「正史」とするなら、そこから排除されてきた者たちの視点で近代を捉え直そうという試みだ。そのために著者は全国各地を旅して歩く。たとえば長崎市にある通称「軍艦島」は、かつて炭鉱で栄えた島だ。今は完全な廃墟だが、「発展と成長の夢と苛酷な現実が凝縮された場所」だと著者は書く。そして熊本県荒尾市に残る旧三池炭鉱の施設を経て、福島第一原発へ。「エネルギーは国家なり」という国策の影が見えてくる。

また、秋田県の八郎潟を干拓して生まれた大潟村は、戦後農業の歴史の縮図だ。減反遵守と自主作付けの対立も含め、大規模な協同農業モデルの現在の姿を通して、この国の農政の問題点を浮き彫りにしていく。さらに熊本県水俣市では、あらためて「公害とは何か」と自問する。今年2月に亡くなった作家の石牟礼道子さんや、医師の原田正純さんの言葉にも触れながら、人とその命を軽視する思想に対して静かに憤る。

「黒歴史」とは無かったことにしたい、もしくは無かったことにされている過去の事象を指すネット用語だ。本書に並ぶ事例を決して黒歴史として葬ってはならない。そんな著者の決意が行間から立ち上がってくる。


亀和田武 『黄金のテレビデイズ 2004ー2017』
いそっぷ社 1728円

2004年に始まり現在も続く、週刊誌の連載テレビコラムだ。ドラマからバラエティまでジャンルは問わない。また時には人物にスポットを当てていく。何が面白いのか、どう見れば楽しめるのか。選択基準は著者の興味のみ。放送当日の番組表も貴重な資料だ。


倉本 聰・林原博光 『愚者が訊く その2』
双葉社 1080円

愚者を自認する倉本聰が専門家の話に耳を傾ける対談集の第2弾である。都市と農村の関係に迫る中島正(思想家)。天災と人災に警鐘を鳴らす河田惠昭(防災研究者)。日本人の食と心を探究する小泉武夫(発酵学者)など。本質を語る言葉は深いだけでなく明快だ。


難波功士 『広告で社会学』
弘文堂 2376円

著者は広告業界を経て関西学院大教授。広告というメディア文化を入り口にした社会学入門の書だ。たとえば愛知県や児童虐待ネットワークの広告やコピーを紹介しながら「社会問題としての家族」を語る。講義形式の内容は分かりやすく、社会の見方が変わってくる。

(週刊新潮 2018年3月8日号)

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