週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
新たな切り口で「1968年」を再構築する一冊
中川右介『1968年』
朝日新書 983円
中川右介『1968年』は、新たな切り口で68年を再構築する試みである。
世界的な「闘争の年」と呼ばれたが、仏の五月革命も日本の学生運動も敗北していく。一方、現在の状況から見て、この頃に勃興したサブカルは「革命」として成就したと著者は言う。
本書では漫画を扱っているが「ガロ」系ではない。演劇も「アングラ」系ではない。多くの人に支持されたヒット作品が中心だ。それは支配的な「68世代史観」に対する反発であり、異議申し立てでもある。
音楽では、ザ・タイガース『君だけに愛を』やザ・フォーク・クルセダーズ『帰って来たヨッパライ』が流れる世間と、佐世保闘争や成田空港反対闘争に揺れる社会を交差させる。
またプロ野球では、現実のペナントレースと、漫画『巨人の星』の主人公・星飛雄馬の活躍が同時進行していったことに注目。1位巨人と2位阪神の死闘が、飛雄馬と花形満の「大リーグボール1号」対決と重ねられていく。
さらに映画でスポットを当てたのが『黒部の太陽』だ。最初の1年で733万人を動員し、配給収入は約8億円。石原裕次郎と三船敏郎は主演俳優であり製作者だったが、完成までの過程は俳優や監督を縛っていた「五社協定」との戦い、旧態依然たる映画界との闘争でもあった。
68年当時の著者は、学生運動とも前衛芸術とも無縁の8歳の少年だ。いや、だからこそ生まれた独自の評価軸が本書を支えている。
(週刊新潮 2018年11月1日号)