碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 『「教授」と呼ばれた男~坂本龍一とその時代』ほか

2024年06月10日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

佐々木敦『「教授」と呼ばれた男~坂本龍一とその時代』

筑摩書房 3190円

本書はいわゆる評伝ではない。批評家である著者が、作品論と人物論をリンクさせながら模索する「坂本龍一論」だ。たとえば、坂本における「音楽活動」と「社会運動」は根元のところで一体だったという。そこには大きな問題を解決するために、「今ここ」を変えようとする姿勢が見える。またYMOの商業的成功が、「求められること」と「進みたい方向」との乖離を生んでいく過程も興味深い。

 

中沢新一『構造の奥~レヴィ=ストロース論』

講談社新書メチエ 1980円

構造主義とは、物事の全体構造を注視することで本質を探ろうとする思想である。本書でユニークなのは、構造主義と仏教の関係を指摘していることだ。生と死、真と偽といった「二元論」からの脱却という主題で共通している。そこにあるのは、レヴィ=ストロースが「未開社会」で知ったモノの見方だ。気候変動や食糧危機などに直面する現代、彼の構造主義は再び「革命的科学」と成り得るのか。

 

小川隆夫『決定版 ブルーノート1500シリーズ 完全解説』

シンコーミュージック・エンタテイメント 2970円

「奇跡のレーベル」と呼ばれるブルーノート。その神髄ともいえるのが1500番台だ。全99枚のアルバムを作品概要、メンバー紹介、そして全曲解説で探究したのが本書だ。これまでに『ブルーノート大事典1500番台編』などを上梓してきた著者だが、今回はサブスクリプションとの連動という特色を持たせた。全649曲が聴けるQRコード付き。アルバムを流しながら作品紹介が読めるのだ。

 

長田昭二『貨物列車で行こう!』

文藝春秋 1980円

どこか懐かしい貨物列車をめぐるノンフィクションだ。著者によれば、貨物線の魅力は「一般の旅客が乗れないこと」と「漂う寂寥感」だ。旅客列車は「人」を運ぶが、「暮らし」を運ぶのが貨物列車だという。本書には、入れないはずの貨物駅や車両所の探訪記はもちろん、乗れないはずの貨物列車の添乗記が並ぶ。圧巻は東京から札幌までの大遠征ルポだ。「物流」で動くのはモノだけではない。

(週刊新潮 2024.06.06号)


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