「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
北大路魯山人 『魯山人の真髄』
河出文庫 821円
北大路魯山人は陶芸、書など多彩な芸術家であると同時に、料理家、美食家としても知られている。また“美と食の巨匠”と呼ばれる一方で、その人間性を含めた批判も多い人物だ。
本書は、これまで文庫に収録されたことのない文章を集めた一冊。食から交友までを綴った文章を通じて、本人の肉声に触れることができる。
妻や料理屋の「宛てがい食」に甘んじていると、「身も心もおのれ自身から凡俗化して行く」と、食への無関心を嘆く。
また絵画については、「腕が画を描くのではない。人間が画を描くのだ」と、技巧重視を厳しく批判する。自らの審美眼を信じ、何事にも妥協しない強靭な精神がここにある。
手塚治虫、赤塚不二夫ほか 『原水爆漫画コレクション』
平凡社 全4巻各3024円
戦後70年にふさわしい好企画である。1950年代から60年代に発表された、原水爆をテーマとする漫画の代表作が集められた。原子力施設の事故が世界を崩壊させる、手塚治虫「大洪水時代」。第五福竜丸の悲劇を描いた、花乃かおる「ビキニ 死の灰」など必読。
五木寛之、佐藤優 『異端の人間学』
幻冬舎新書 842円
対談ではなく、対論である。メインテーマはロシア、そして宗教だ。長年ロシアと関わってきた2人が、互いの知見をぶつけ合う。世界を動かす問題としての「異端」。また、「イスラム国」が初期のソ連と酷似している、といった鋭い指摘も本書ならではだ。
宮木あや子 『帝国のおんな』
光文社 1404円
この連作小説の舞台は帝国テレビだ。登場する5人は宣伝部員、プロデューサー、脚本家など全て女性。まだまだ男性中心の業界を生き抜く、その仕事ぶりがすこぶるリアルだ。また恋愛も一筋縄ではいかない。格闘と葛藤の本音を、男たちも知っておいたほうがいい。
市川哲夫:編
『70年代と80年代~テレビが輝いていた時代』
毎日新聞出版 2700円
編者はTBS「調査情報」編集長。この放送専門誌での特集を再構成したのが本書だ。70年代と80年代の20年間を戦後史における青年期として捉え、当時の日本人がそれを通じて森羅万象を見聞きした、「テレビ」というメディアを多角的、多面的に考察している。
((週刊新潮 2015.09.24号)