碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2023】7月前期の書評から 

2023年10月21日 | 書評した本たち

紅葉が進む、庭のもみじ

 

 

【新刊書評2023】

週刊新潮に寄稿した

2023年7月前期の書評から

 

 

笹倉尚子、荒井久美子:編著

『サブカルチャーのこころ~オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』

木立の文庫 2420円

漫画、アニメ、ゲームといったサブカルチャーを、臨床心理士など現役のカウンセラー12名が読み解く。コンテンツに表現されたこころ。それを愛する人たちのこころ。『鬼滅の刃』にみんながハマるのはなぜか。『仮面ライダー』はなぜ長く楽しまれているのか。またアイドルや声優を応援するのはなぜか。33のテーマと268項目が並ぶ。こころの支援のプロとサブカルチャーの組み合わせが絶妙だ。(2023.05.30発行)

 

谷頭和希

『ブックオフから考える~「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』

青弓社 1980円

その出現から30数年が経過したブックオフ。当初は毀誉褒貶の対象だったが、街のインフラとして定着した。本書は久々に登場したブックオフ論だ。これまでどう語られてきたのかを踏まえ、ブックオフを介して都市を眺め、遊び場としての原っぱと重ねていく。キーワードは「なんとなく性」。明確な目的を持たない棚や独特の買い取り基準が、やがて想像もしなかった「公共性」へと繋がっていく。(2023.06.02発行)

 

平川克美『「答えは出さない」という見識』

夜間飛行 1870円

異色の「人生相談」本である。何しろ回答者である著者が「人生は無目的であり、人間は無力であり、無責任である」と断言しているのだから。悩みを解消する唯一の絶対的な解決は、自分がいなくなることだと言う。許せない人の存在を憤る30代女性に「逃げるしかない」と説く。不倫は許されるかと問う50代女性には、性的欲望を解説した上で「ご自分でお考えになってください」。名回答に唸る。(2023.06.12発行)

 

島崎今日子『ジュリーがいた~沢田研二、56年の光芒』

文藝春秋 1980円

今年6月、75歳になった沢田研二は、さいたまスーパーアリーナでライブを行った。ザ・タイガースの前身時代から56年。ヒットチャートから離れて歌い続けて25年。今も現役のアーティストなのだ。本書は69人の証言をベースに、その実像に迫ったノンフィクションである。萩原健一が唯一ライバルと認め、多くのクリエイターに愛され、ジェンダーを越境する存在でもあったジュリーがここにいる。(2023.06.10発行)

 

延江 浩『J』

幻冬舎 1760円

85歳の女流作家が妻子ある37歳の実業家と関係を持つ。作家の名は「J(ジェイ)」とされているが、瀬戸内寂聴であることは明らかだ。いわゆるモデル小説である。深く関わった実在の男たちを、多くの小説で描いてきた瀬戸内。死後に自身の閨事がこういう形で書かれることを予測していたのか、いなかったのか。純愛小説として手に取ることも、性愛小説として読むことも可能な、まさに問題作である。(2023.06.15発行)

 

津田正夫『百姓・町人・芸人の明治革命~自由民権150年』

現代書館 2420円

板垣退助や後藤象二郎たちが「民撰議院設立建白書」を提出したのが1874年。自由民権運動150年の歴史を、庶民の視点から辿り直したのが本書だ。著者は元NHKディレクター。民権運動の実相だけでなく、女優・川上貞奴を梃子に女性の生き方を見つめ、著者の家族史を介して足尾鉱毒事件の本質にも迫っていく。「公議・公論による民主主義」が脅かされている今だからこそ書かれた一冊だ。(2023.06.15発行)

 


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