碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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NHKの特集ドラマ『お買い物』に座布団1枚!

2009年02月15日 | テレビ・ラジオ・メディア
いいドラマを見た。

昨夜、21時からNHKで放送された『お買い物』である。

1時間13分の単発ドラマ。脚本の前田司郎さんは、確か岸田戯曲賞を受けた30代の劇作家だ。小説も芥川賞候補になったりしている。演出の中島由貴さんのお名前は、今回初めて知った。

ストーリーを書けば、こうなる。

福島の農村に暮らす老夫婦が、東京・渋谷に買い物に行く。夫(久米明)がクラシックカメラの展示即売会を見たくて、妻(渡辺美佐子)がそれに付き合った、という感じだ。

夫は、ずっと欲しいと思っていたカメラを見つけ、手に入れて大喜び。しかし、宿代がなくなってしまった。結局、孫娘(市川実日子)の部屋に泊めてもらう。翌日、二人は帰郷した。

それから何年かが過ぎて、夫は亡くなり、妻は、あのときのカメラで撮った写真と共に暮らしている。おしまい。

大きな事件も、びっくりするような出来事も起こらない。

そこにあるのは、老夫婦のユーモラスで滋味のある会話と、思わず微笑みたくなるような二人の“あり方”だ。きっといろんなことがあっただろう。でも、二人でやってきた。今も二人で生きている。

夫婦って、なかなかいいもんじゃないか。そんなことさえ思わせる。

実は、若い頃に一度、二人で東京に来たことがある。そのときの思い出を、それぞれが大切にしているのだ。でも、そのことだって、大仰でなく、ふわっとした描写で見せてくれる。

そうそう、もう一つ。市川実日子さんはこんなに“いい女優”だったのか、と感心した。渡辺美佐子さんとのカラミも自然で、実にいい場面となっていた。

全体に、上質な短編小説のような味わいだ。

「日曜劇場」ではなく、まだ「東芝日曜劇場」だった頃、単発ドラマの秀作がいくつも放映された。そんなテイストを思い出した。

現代版『東京物語』(もちろん小津監督の)といったら、ホメ過ぎだろうか。

今も昔も、こういうドラマはNHKでしか出来ない。

民放で、久米明と渡辺美佐子と市川実日子の3人だけのドラマを、ゴールデンタイムで放送するなど、あり得ないからだ。NHKならでは。

最近のNHKで気になるのは、いろんなジャンルの番組が、民放っぽくなっていること。NHKは、ヘンに民放寄りになるべきではない。むしろ、堂々と「NHKならでは」で行って欲しい。それがNHKの“生きる道”でもあると思う。

いやあ、いいドラマを見せてもらった。

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